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妖精の里へ行こう

 一説によれば、妖精とは花の化身であるという


 彼女たちが暮らす隠れ里では、ありとあらゆる花が季節を問わず咲き乱れ

 女王のもと、その氏族に連なる妖精たちが小さな集落を築き上げている


 争いを好まない妖精たちは、隠れ里で一生を過ごすものも多い

 ときおり人里で見掛ける個体は、何らかの理由で里を追われたものであり

 イメージの問題から

 高値で取り引きされる妖精の秘薬で生計を立てることとなる


 それが妖精屋だ


 秘薬の効能は素晴らしく

 人類社会に混乱を招くおそれがあることから

 妖精屋に足を踏み入れることができるのは

 店主と縁を持つものに限られる


 もちろん秘薬の販売は女王の許可を得たものではない


 そのこととの因果関係は不明だが

 一度、里を出奔した妖精は

 里帰りの習慣を持たないケースがほとんどだ


 つまり――


 ※ …………


 幻想的な光景ですね。ぽよよん


 ※ わかっているならいいんだ


 御意


 ※ お兄ちゃん、だめ! 圧力に屈さないで!


 真の勇気とは蛮勇ではない

 ときとして信念を曲げることも

 また勇気ある行いと言えるのではないか


 ※ そんな王都さんは見たくなかった……

  ※ 王都さんだけは違うと思っていたのに……


 争いは無益だよ

 この王都さんはね

 お前らが醜く争い合う姿なんて見たくないのです

 わかってほしい。この真心


 ※ 魚心あれば水心

  ※ 透き通る保身

   ※ 清らかなる偽善


 ※ おれは王都のひとを支持するぜ

  ※ その薄っぺらい発言……子狸だな?

   ※ 王都&子狸連合


 ※ おれも支持するぜ

  ※ 王都&子狸&古狸連合

   ※ 勝ち目はないぞ、王都の……


 さて、妖精の里にやってきたポンポコ騎士団

 子狸の肩には黒妖精さんがとまっている


 数々の因縁を乗り越え特装部隊と和解したことで

 念願の実働小隊を形成したポンポコ騎士団

 意気揚々と出発しようとする彼らに

 妖精の姫君は、こう告げたのだ


コアラ「いまから追いかけても間に合わないわ。あなたたち、なにか考えでもあるの?」


 ポンポコ騎士団は、じつに三日ぶんにおよぶ先行を

 突入部隊に許している

 それは仕方のないことだった

 彼らは、騎士団の尾が伸びきる瞬間を待たねばならなかったからだ


 騎士Aは言った

 小隊長の彼は、実質的にポンポコ騎士団のリーダーだった


騎士A「突入部隊は最前線にいる。消耗は激しい。スピードなら、少人数で動けるぶん私たちのほうに分がある」


 小回りがきくことは確かだ

 地形によっては迂回する必要がなくなるだろうし

 雑用に割かれる時間も自ずと減る


 それでも三日の遅れを取り戻せるかどうかは微妙だが……


 騎士Aの希望的観測を、闇の妖精は切り捨てる


コアラ「無理ね。状況から見て、彼らは強行軍を続けるわ。もしも獣人たちによる足止めを期待しているなら……わかるでしょう?」


 魔法の撃ち合いは

 たいていの場合、短期で勝敗が決する


 同格、同性質の魔法は打ち消し合うという原則があるから

 対処法のない魔法は存在しないし

 ましてアニマル三人衆の開放レベルは3……

 等級が同じなら、主導権の奪い合いになるのは目に見えている


 長期戦になることは、まず考えられない


子狸「…………」


 子狸さんは計算中。がんばれ


 ※ がんばれ!

  ※ お前ならやれる!

   ※ これまでのつらかった日々を思い出すんだ!


 ※ 無駄じゃないぞ!

  ※ ああ、絶対に無駄なんかじゃ……!


子狸「……カレーはひと晩寝かせたほうが」


 ※ だめだ!

  ※ 王都さん、ヒントを!

   ※ ヒントをお願いします!


 ポンポコ騎士団の目的が魔王との対話にあるというなら

 彼らは突入部隊よりも先に魔都に辿りつかねばならない


 ※ もっとわかりやすく!

  ※ 絵本を読み聞かせるように!



 悪い例


    魔王(暫定)

 

   勇者(殺意) 子狸(説得)

 騎士  騎士

 


 良い例


    魔王(暫定)


    子狸(説得)



 ※ すごくわかりやすい!

  ※ これは、わかるなというほうが無理な相談ッ……

   ※ とうとうここまで来たか……


 

【夏の新作】管理人だよ【ストライダー】


     秘書

  お前ら  お前ら

     おれ 


     トン

   勇者  魔王 

 騎士  妖精  騎士



 ※ いやいや……

  ※ いやいや……

   ※ お前はどこを目指してるの……? 


 ※ まず魔王と敵対してるおれらは何者なの?

  ※ これは完全に負け戦

   ※ ありえそうなのが怖いんだよぉぉぉっ……


 ※ あと、当たり前のように自分をワントップに置いてるのがイラッとくる

  ※ 騎士の存在感が半端ないな……



【純血の】王都在住のとるにたらない不定形生物さん【ストライカー】


 おれと子狸さんがポンポコ将棋でしのぎを削っている間にも

 黒妖精さんは果敢に敵陣へと深く切り込む

 さすがは魔軍元帥のパートナーといったところか

 素晴らしいタレントだ


 ひざを抱えて、空中で逆さまになる

 ささやくように言った


コアラ「あなたたちと、わたしたちの利害は一致している……。そうは思わない?」

 

 彼女がここにいるのは何故か

 魔軍元帥は、当然“その可能性”を視野に入れていたからだ


 虚言を用いる必要すらない

 正直に打ち明けるだけで良かった


コアラ「わたしたちは、勇者に宝剣を渡したくない。あなたたちは、勇者よりも先に魔王と会いたい」


騎士A「それは……」


 騎士Aが、気圧されたように一歩さがった

 彼女の言葉を拒否する材料がないことに

 はじめて気がついたからだ


 いびつな歯車が噛み合うように

 彼らの利害は一致していた


 代わって進み出たのは特装Aだ


特装A「信用しろというのか? 無理だろう、それは」


 黒衣の妖精は、二対の羽をたくみに操って

 ゆっくりと子狸の眼前を横切る


 まるで彼女だけが

 罪からさえも自由であるかのようだ


コアラ「わたしは、最初から勇者には期待していなかったの。バウマフ家だけが」


 勇者さんは、子狸に宝剣を集めろと言った

 もしも六つの宝剣に認められる人間がいるとすれば

 それは六つの属性に許された人間に違いないからだ


コアラ「バウマフ家の人間なら、きっと宝剣を集めてくれると思った。……港町で起こったことを、あなたたちは知っているのでしょう?」


 あの港町で

 魔軍元帥は、万全を期すなら、魔人に火の宝剣を預けるべきだった

 不調を押してまで自身が赴いたのは

 魔王に忠誠を誓う都市級が他にいなかったからだ


 手のひらほどしかない小さな少女が

 首を傾げて優しく問う


コアラ「ね? 魔獣たちは信用ならない。あのひとは、きっとあなたたちを守るわ――」


 もちろん最後までは保証しないけど――と

 嘘を言う必要がなかったから

 誠実であれば良かった


 そうでしょう? と、彼女はきれいに笑う


コアラ「あなたたちは、話し合いに行くのだから。あのひとを素通りできるなんて……思うほうが間違っているわ」


 彼女の言うことはもっともだった


 腑に落ちない点があるとすれば

 それは彼女を信用しきれていないからだ


 だが、そもそも信用の有無は問題ではなかった筈だ

 彼らは、魔物たちとの対話の場を求めていたのだから


 返答に窮した騎士たちが子狸を見る

 子狸が肯いたなら、きっと自分たちも納得できると思ったのだろう


 ポンポコ騎士団の団長は迷わなかった

 正面から黒妖精さんを見据える

 その眼差しには知性の輝きがあった


 夜の帳をまとった妖精さんは

 魔軍元帥をあのひとと呼ぶ


 おれたちの管理人さんが吠えた


子狸「一度、うちに来てもらってはどうかね!?」


 どこの馬の骨とも知れない鎧シリーズに

 子狸さんは正しく怒っていたのである


コアラ「せいやっ!」


子狸「おふっ」


 お姫さまの地獄突きが子狸に炸裂した


コアラ「正直に言いなさい! どこから理解できてなかったの」


子狸「……リーダーはおれだろ」


 嘘を言う必要がなかったから

 誠実であれば良かった


騎士A「待ってくれ」


 騎士Aが団長をかばった


騎士A「君の説明は長い。長すぎる。三行以上は……酷だ」


 他の騎士たちも同調した


騎士E「三行でも怪しいんだ。頼む」


騎士F「時間を……時間をくれ!」


 黒妖精さんはヒステリックに叫んだ


コアラ「お前らがそうやって甘やかすからだめなんだ!」


騎士H「まだ子供だ」


コアラ「大人になったらもっとひどくなるんだよ!」


子狸「そんなことないだろ」


騎士G「お前の親父さんはまともだもんな」


 ポンポコ騎士団のメンバーはお屋形さまと面識がある


子狸「おれ、自分で言うのも何だけど、なんていうの、あれ……大器……大器ぃ~……まあいいや」


特装B「諦めんな。大器晩成な」


子狸「そう、それ。どういう意味なんだ?」


特装B「わからないのに言うなよ」


 大器晩成。一見、未熟でも大成するかもしれないから長い目で見守りましょうということだな


 大器晩成型の子狸さんは秘密兵器として温存しておくべきだ

 そう思ったのか、気を取り直した特装Aが黒妖精さんに尋ねる


特装A「具体案はあるのか?」


 乗り気になったらしい

 魔軍元帥のパートナーだからと、なんとなく反対したものの

 よく考えたら彼女の提案は渡りに船だ


 魔軍元帥に宝剣を奪われる可能性はあるだろうが

 どのみち目的地は魔都なのだから遅かれ早かれの問題でしかない


 むしろ深刻なのは、突入部隊に追いつけそうにないという点だった


 黒妖精さんは次代の女王候補だ

 エリート中のエリートなのである

 その佇まいには隠しきれない気品がある

 

コアラ「ちっ。だりぃな……。光栄に思いなさい。あなたたちを、わたしたちの隠れ里に招待します」


子狸「めっじゅ~」


 子狸が鳴いた


コアラ「そうね。女王を説得できれば……あるいは」


 会話が成立した



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