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散華の草原

 くすぶる紫電が

 季節外れの雪が

 積もりゆく砂が

 巻き上がる水が

 やわらかな輪郭をなしていく……


 呆然と見つめる十二人の騎士に

 四人の精霊たちは淡く微笑みかけた


 口を開きかけた彼女たちだったが

 鍵を引きずってのこのこと近寄ってきた子狸に遮られる


子狸「そうだ。おれが団長だ」


 だれもそんなことは訊いていない


精霊「ちょっと黙ってろ。な?」


 押しのけようとする精霊の腕を

 子狸が前足でホールドした

 振り返って、騎士たちに叫ぶ


子狸「逃げろ! お前たちの敵う相手じゃない」


精霊「!?」


 逸早く反応したのは魔精霊だった


精霊「しびれるぜ!」


子狸「イズ!」


 攻性魔法の確実な防御法は、同じ属性をぶつけることだ

 四対一の絶望的な戦いに身を投じる子狸さん


子狸「早く……! 長くは保たない!」


特装A「無茶しやがって……!」


 団長の危機だ

 加勢しようとした特装Aを

 大地の精霊が押しとどめる


精霊「待って! 誤解」


子狸「ハイパー!」


 邪魔な鍵を放り捨てた子狸が

 後ろ足を霊気で補強して

 怪鳥のように飛び上がる


 ※ 霊気を一ヶ所に……!?


 特装騎士との戦いで

 殻をひとつ打ち破ったようである 


子狸「うおおおおっ!」


 前足をひろげて跳躍した子狸さんを

 水の精霊が撃墜した


精霊「いまだ!」


 不時着したポンポコを

 四人の精霊が取り囲んで足蹴にする


子狸「おふっ、おふっ」

 

精霊「精霊なめんな!」


精霊「振られ狸め!」


 誠心誠意の説得が功を奏したらしく

 すっかり大人しくなる子狸


 肩で息をしている精霊たちが

 深呼吸してから

 神秘的な笑顔で振り返る


 彼女たちが目にしたのは

 いままさに殲滅魔法を撃とうとしている実働騎士たちの勇姿だった

 迂回した特装騎士たちが子狸の奪取を目論む


精霊「ちぃっ……!」


 舌打ちした精霊たちが一斉に飛び上がる


 騎士Aが片手を上げて部下を制した

 子狸の目が、まだ死んでいなかったからだ


 力場を踏んで宙を駆けたポンポコが

 雪の精霊に背後から組み付いた


精霊「こいつ……! だめだ、話になんねえ!」


 急上昇して子狸を振りきった精霊たちが口々に言う


精霊「とにかく頼んだからな!」


精霊「なんかいいこと言おうとしたけど忘れたわ!」


精霊「魔王を何とかしろ!」


精霊「とりあえず魔都に行け! あとは流れで!」


 かくして精霊たちに祝福されたポンポコ騎士団


 華麗に身をひねって着地した子狸が上空を見上げる

 その眼差しには一点の曇りもない


子狸「お嬢を止めなくては……!」


 長きに渡る争いに終止符を打つべく

 おれたちの子狸さんが

 いま、立ち上がる……!


 ※ 子狸ぃ……

  ※ 子狸ぃ……

   ※ あとで反省文な


 ※ コアラさん、あとを頼みます……



【勇者さん】山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん【ねこみみ覚醒】


 何が正しくて何が間違っているのか

 それを判断するのは、いまという時代を生きる人々だ


 ※ うん、それはいったん置いておこうか

  ※ いったい何ですか、その【】


 ときとして愚かな行動が

 のちに英断として評価されることも、また確かな事実ではないのか


 ※ いやいや……

  ※ なんか、さいきんあれだね、そういう……

    中身のない発言をするね、きみたちは


 騎士団の部隊長は、常に苦しい決断を迫られる


 ネウシスというのは、大隊長に贈られる称号名だ

 称号名が国際的な位階を示すというのは、すでに述べた通りである

 だから帝国と連合国が樹立する以前――

 つまり称号名が制定される以前の話だ……


 かつて王国では、騎士団を率いる将を、エウロアと呼び

 彼らを統括する大将軍を

 ネウシスと呼び、たたえた


 では、指揮系統が成立する以前、最初のネウシスは

 どのようにして強大な力を持つエウロアを従えることが出来たのか

 

 魔法だけではない、べつの力を持っていたからだ


 トンちゃんは、騎士団の黎明期にエウロアたちを従えた大将軍と

 同じ力を持っている

 

 興味がないわけがない

 彼の妹たちは全員が異能持ちだ


 念力が回復するまで、いま少しの時間を要するという動機もあった

 それでも、これ以上は待てないという決断を下した


 手綱を握る手に力をこめて

 騎馬に突進を命じる


 特装騎士たちが治癒を施したのだろう

 戦列に復帰した実働騎士たちが

 一丸となってトンちゃんに続く


 ぎりぎりのタイミングだった

 遅すぎたのか、それとも先んじることが出来たのか


 魔王軍の老獪なる軍師が喚声を上げた


軍師「ロコ!」


トカゲ「え?」


 空のひとと一緒に原っぱで

 ぼーっとしていた鱗のひとが名前を呼ばれてきょとんとした


ひよこ「…………」


 魔ひよこは依然としてぼーっとしている


 仕方のないことではある

 グランドさんの近くにいると、なんだかおちつくのだ

 あまり責めないでやってほしい


 ※ おい! ぼーっとしてんじゃねえ!

  ※ 出番ですよ! 共闘するっていう約束だったでしょ 


トカゲ「え~……?」


 鱗のひとは面倒くさそうである

 もはや立ち上がるのも億劫なのか

 空のひとの肩に手をかけて

 よっこらしょと重い腰を持ち上げる


 少し身体を屈めて

 ぺたりと

 片目に傷跡のようなものを貼りつけた


 ※ なにそれ

  ※ 勇者さんに斬られたあとだよ


 ※ ……要るか? いや、聖剣でやられたからってのはわかるんだけど

   空のひととか、ふつうに変化魔法で修復してただろ


 ※ こういうのは気分の問題なんだよ

   プライドを傷つけられたから、あえて傷跡を残したとか

   なんか、そういう感じ?


 ※ あるある

  ※ いいね。宿敵っぽい


 お前らも大絶賛の手負いの獣人

 いったん退場してから、ステルスを解除して戻ってくる


 まごまごしていたせいで先手を取られた


うさぎ「しっかりと掴まっていろ」

 

 肩の賢人にひとこと忠告してから、跳ねるひとが小刻みにステップを踏む

 小刻みと言っても、歩幅が違う

 上体を揺さぶって後退する跳ねるひとを

 直線的な軌道をとる光槍では捉えきれなかった


 騎士団の本命は次撃

 視界を埋め尽くすほどの炎弾だ


 これを跳ねるひとは

 予期していたかのように

 飛び上がって回避した


 大きな影が落ちる

 逆光をとった獣人のシルエットが

 空中で交差した


 視認できる範囲なら人間たちの魔法でも届く

 跳ねるひとが回避するなら、自慢の跳躍力に頼るであろうと

 騎士たちは読んでいた


 渦を巻くように跳ね上がってきた無数の炎弾を

 しかし落下してきた巨人が打ち砕いた


 その表皮は強靭で

 開放レベル3の殲滅魔法ですら

 貫くことは難しい


トカゲ「おおおおおおっ!」


 雄々しく吠えた鱗のひとの標的は

 たった一人……

 勇者さんだ


妖精「ロコ!」


 羽のひとの飛翔を遮る雨は

 今日はない


 一筋の光が直上に伸び上がる

 二対の羽が生み出す爆発的な推進力は

 他の追随を許さない


 至近距離から放たれた光の散弾が

 鱗のひとの着地点をわずかにずらした


 反射的に振り上げた巨腕が

 羽のひとを捉えるよりも早く

 光の宝剣が閃いた


 聖性の解放にともない

 さらなる進化を遂げた死霊魔哭斬が

 唯一と言っていいだろう鱗のひとの誤算だった


 だが、身体をねじって緊急回避した巨獣は

 着地と同時に飛び退き

 そして笑った


トカゲ「そうこなくては」


 光の妖精を肩にとめた勇者さんが

 光の剣尖を、遠く隔てた隻眼の巨獣に突きつける


勇者「今度は、その首をもらうわ」


 黒雲号を降りて、踏み出す


 聖剣を突き出したまま

 ぞろりと騎士剣を鞘から抜いた勇者さんのとなりを

 反転した騎馬たちが駆けていく

 先頭に立つのは王国最強の騎士だ

 

 彼らにとって、鱗のひとの参戦は想定内の出来事だった

 だから有効な対策が打てる、というものではない

 もはや賭けに出るしかなかったのだろう


どるふぃん「寄れ!」


 帝国騎士団は、魔軍元帥に対して戦歌の発展……その可能性を示した

 ひと目で術理を看破するのは難しいが

 おそらくあれは中隊長を軸とした技だ

 

 イメージと詠唱の規格を統一するだけではなく

 状況までしぼって、ようやく辿りつける境地なのだろう


 何かを得るためには、何かを捨てねばならない


 王国騎士団にも何かしらの切り札がある筈だ


 しかし、それはあとのお楽しみだろう

 意地悪く口元をひん曲げた鱗のひとが

 大きく跳躍して、騎士団の矛先をかわす


 あとを追うように飛び上がった跳ねるひとが

 鱗のひとの尾を掴んだ

 空中で旋回したトカゲさんが

 うさぎさんを跳ね上げる


 左右に分断した巨人が

 大きな円を描くように地を駆ける

 一周、二周……


どるふぃん「お嬢さま」


 トンちゃんが勇者さんに声を掛けた


どるふぃん「しんがりは、私がつとめます」


 勝ち目はないと、彼は判断したのだ


勇者「……そう」


 勇者さんは肯いた


 前もって合意に達していた事柄だ

 仮に鱗のひとと跳ねるひとが共闘した場合

 たんじゅんに戦力が二倍になるだけならいい


 そうでなかった場合……

 つまり鱗のひとが跳ねるひとを守る盾として機能したなら

 王国騎士団は一時撤退すると決めていた


 周回していた二人の巨獣が

 合流して胡蝶の構えをとった


 ※ まず片足立ちになります

  ※ それから両腕を曲げて筋力を誇示します

   ※ 最後に限界まで身体を倒して片足に全てを託します


 ※ ひざの角度がポイント


トカゲ&うさぎ「おれたち、集結!」


妖精「ばかなの?」


勇者「…………」


 あまりにも隙だらけだったので、つい死霊魔哭斬を撃った


 二人の獣人は、悠々と巨躯を屈めて回避する

 憎らしいことこの上ない身体能力だ


 縦に並んだ二人が、矮小な人間たちをあざ笑うかのように

 ぐるんぐるんと上半身を旋回させる


 ……そう、トンちゃんは見誤っていた

 ふだん一人でいるお前らは

 寄り集まるとテンションがおかしくなるのだ


 そのとき、おれたちの軍師がついに動き出した

 不気味な含み笑いを漏らし、鱗のひとを流し見る


軍師「よく来てくれたのぅ、ロコや」


トカゲ「……ほう。なにか考えがあるようだな」


 人の知恵と

 魔物の力が組み合わさったとき

 はたして何が起こるのか……


 ※ 組み合わせちゃだめだろ

  ※ 混ぜるな危険

   ※ いや、こんな筈では……トカゲさん?


 ※ お前ら、グランドさんを見くびってはならんぞ 

  ※ いや、見くびってはいないよ。だから言ってるの

   ※ ここは壊滅した王国騎士団が再起する流れだろ


 ※ グランドさん、思いとどまって! ほら、カンペ! カンペ見て!


 そして……魔王軍きっての賢者は言い放ったのである


軍師「おお、あるとも。とっておきの秘策がのぅ……」


 ※ 終わった……

  ※ 終わった……

   ※ ポンポコ劇場はじまるよ~!


 秘策とは、はたして!?

 次回へ続く……!



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