ハイリスク・ハイリターン
一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
反省会である
二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
である
三、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
であーる
四、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
えー……まず骨のひと
骨のひと? いる?
五、樹海在住の今をときめく亡霊さん
いません
伝言を預かってます
ええと……
反省会には参加できない。すまない。牛が
ここで文が途切れてます
六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ダイイングメッセージじゃないですか。カンベンしてくださいよ
七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
……では、見えるひと。あとで伝えておいてください
骨のひとへ
とっさの無茶ぶりによく対応してくれました
やや独断専行のきらいはありましたが
まず問題はありません
1ポイント進呈
八、樹海在住の今をときめく亡霊さん
メルシー
九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
お前が元凶か
一0、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
続いて、見えるひと
多少はりきりすぎた感はありますが
とつぜんのことでしたから無理もないでしょう
おおむね良し
何より子狸を隔離した点は素晴らしい
3ポイント進呈
一一、樹海在住の今をときめく亡霊さん
ごっつぁんです!
一二、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
どきどき……
一三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
空のひとはビジュアルでトクしてるところがあるよなぁ……
1ポイント進呈
一四、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
わーい!
一五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
おい。えこひいきするな
こら。トリ
お前、ステルスしてれば何をしても許されるってわけじゃねーぞ
なに暴走してんだ
一六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
おれ、閃いたんだよね
勇者さんが魔都に来るじゃん?
そしたら、登場したおれがこう言うの
おれ「大きくなったな。我が娘よ」
どう? これ
生き別れになった母娘、感動の再会ですよ
盛り上がるでしょ
一七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
うーん……50点だな
アリアママ、ふつうに家にいるし
一八、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
そうか。だが、最後に選ぶのは勇者さんだ……
一九、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
勝算は? 勝算はあるのか?
二0、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
ああ。エプロンをつけて母性をアピールすれば……あるいは
二一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
なるほど、たしかに……
空のひとには、ポンポコ母を演じきった実績があるからな
二二、海底都市在住のごく平凡な人魚さん
え、どこが?
演じるっていうか……
空のひと、素だったよね
台所が狭すぎて魔力で料理してたし
二三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
細かいことはいいんだよ
子狸のイメージだと
ポンポコ母はふわふわしててあたたかいっていう感じなの
イメージカラーは黄色
はらはらする場面もあったが
子狸を誤魔化しきった手腕は評価に値する
勇者さんも何とかいけるかもしれん
一考の余地はあるな
二四、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
……まとめると
石像に扮した空のひと(エプロン着用)が
まんまと近づいてきた勇者一行に襲いかかって
じつは勇者さんの母親であることを打ち明けるのか?
二五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
詰め込みすぎかな?
二六、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
詰め込みすぎって言うか……
なんかさいきん麻痺してきた
案外いけるのか?
多少サイズが違っても……
二七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
体格が本質じゃないことは確かだな
ようは気持ちの問題だと思う
どこまで真に迫れるか
見た目じゃないんだ……
二八、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
そうなんだよ
結果が全てじゃない
大事なのは過程なんだ
子狸さんはがんばったと思います
二九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
なに夢みたいなこと言ってんだ
結果が全てだろ
三0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
……火口の、いまの持って行き方はないだろ
三一、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
強引すぎる
お前は昔からそうだ
ここぞというときにポカをする
どうしてなんだよ……
三二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
……いまのが、おれにとって自分のタイミングなんだよ
そういうの、本当に苦手……
逆に訊きたいんだけど、お前らはどうやってるんだ……?
たとえば、そうだな……
緑とでっかいのが将棋を差しているとしよう
その対局の様子を、巫女一味が観戦しているとする
天下分け目の決戦だ
ところが、ルールも知らないくせに
生贄さんがああだこうだと口出ししてくる
そうなると、必然的に解説役はおれだ
でも、おれ魔物じゃん?
どのタイミングで「ばかめ!」とか「まんまと騙されたな!」とか放り込めばいいんだ……?
もう、なにもかもがわからなくなってきた
なんでこいつら将棋を差してるんだよ……
三三、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
だから、殴り合っても決着がつかねーんだよ
というか、あんまり気にしたことなかったけど
おれの輪っか、本当に耳障りだな。気が散る
ちょっと音量下げるわ
三四、海底都市在住のごく平凡な人魚さん
え、お前はそれでいいの?
三五、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中
え、なにが?
ああ、だいじょうぶだよ
こんなこともあろうかと、輪っかの横につまみを用意してあるんだ
サイバーギミックのひとつだな
三六、火山在住のごく平凡な火トカゲさん
いいなぁ……
おれも、そういう隠し機能ほしいわ
ふと思いついたんだけど、つのが回るとかどう?
ぎゅいーん
あ、巫女さんたちがぎょっとした
三七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
おれ「アイオのつのは回る」
巫女「まじか……」
生贄「いったいなんの意味が……?」
知らねーよ……
緑「おれドリル・カラーグリーン」
大「ふっ、お前らは知らないだろうが……おれの主題歌は輪っかから流れている」
永遠に知りたくなかった……
緑「緑は目に優しい」
大「おれは、ありとあらゆる粗大ゴミをリサイクルできる」
…………
おれ「ばかめ!」
三八、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
とつじょとして牙を剥いた火口のんであったが
あえなく巫女さんに投げ飛ばされるのであった……
三九、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん
いまのタイミングは、あきらかにおかしかったな
四0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん
タイミングって、いったい何なんだろう……
四一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
あ~……スランプだな
元気を出せよ、火口の
参考になるかどうかはわからないけど
おれなんかは、理屈をつけるようにしてるよ
おれんちに来るような人間は、百戦錬磨の戦士が多いからさ
タイミングって言うより、有効かどうかなのね
詰むや詰まざるや、って感じだな
四二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
かくして魔物たちは去っていった……
騎士A「逃げるのか」
騎士Aの枯れた喉をふるわせたのは、戦士としてのプライドだった
あるいは計算か?
近隣の住民が異変を察知して通報したのだろう
別小隊が領主の館へと向けて急行しつつあった
あと二分もあれば逆転の目はあったかもしれない
しかし、もちろん魔物たちは騎士団の増援を計算に入れた上で動いているのだ
見えるひとたちはゲートの順番待ちをしている
列の整理をしている見えるひとが
整理券を配りながら言った
亡霊Z「古いんだよ。いい加減、気付け。おれたちは次のステージに進んだぞ」
騎士A「なに……?」
亡霊Z「遅い。遅すぎる。千年か……けっきょく気付いたのはバウマフ家の人間だけだった」
管理人さんへのフォローも忘れない
子狸「…………」
子狸はぼんやりとしていたが……
見えるひとは自らの職務に忠実であろうとした
亡霊Z「世界は魔法に満ちている。もう少しだ……」
その真意を問い詰める時間はなかった
最後のひとりが魔口に沈んだのを確認してから
騎士たちは疲弊した身体に鞭を打ってゲートを取り囲んだ
勇者「どいて」
騎士たちに守られていた勇者さんは、珍しく余力がある
ゲートの端に聖剣を突き立てると、瘴気の流入が止まった
歩くひとに教えられたことだ
光の宝剣にはゲートを閉ざす機能が備わっている
こうして事件は終息を迎えた
四三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
その後の話を少ししよう
騎士A「…………」
騎士B「…………」
騎士たちは、もう喋る気力がなかった
外法騎士は軍規に反する存在だが
積極的に処罰される対象ではない
彼らを有効活用したいと、国の上層部は考えているからだ
後日、騎士Aには部下を更正するよう正式に通達されるだろう
側近さんは、タマさんの力を他言しないよう狐娘に言い含めていた
側近「ああいう手合いは、バレると効果が半減する。対策を打てるからだ。わかるな?」
狐娘「わざわざ言わなくてもいい」
側近「だから、そういうことを口にするなと言っている」
苦い顔をしたタマさんが、側近さんの肩を軽く叩いた
ちょいちょいと指で招く
腰を屈めた側近さんの肩に、タマさんが腕を回して耳打ちした
タマ「おれらみたいなのは、どっかでまわりを見返してやろうっていう気持ちがある。まあ、意地だな。そいつにとっては、アレイシアンさまがそうなのさ」
多くの異能持ちは平凡な人生、平穏な暮らしを標榜しているのに
ちょっとしたことで自らの能力に頼ろうとする
心の底から本気で秘匿したいとは思っていないからだ
生まれ持った能力を
言ってみれば自分の一部だ……
そうと知った上で受け入れてほしいという願望があるのだろう
受信系の異能持ちは、とくにそうした傾向が強い
一方、影さんは護衛さんに自白を強要されていた
少し目を離した隙に、みょっつさんの側についていた件だ
柳眉を逆立てて詰め寄ってくる護衛さんに、影さんは白旗をあげた
影「あいつは、他の騎士とは違う。そう思ったんだよ。兆しはあったからな……」
もしかしたら、それはハイパー属性に目覚める前兆だったのかもしれない
軍規に下ることをよしとしない人間なら
説得の余地はあると睨んだのだろう
護衛「…………」
護衛さんは、少し悩んでから言った
護衛「それとこれとは話がべつだ」
影「べつじゃない。アレイシアンさまは計画に反対したか? そして外法騎士たちは、彼女に忠誠を誓っている」
そこがわからない
ハイパー騎士どもは、なぜ勇者さんを盟主と呼ぶのだろう
四四、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
同士で連絡を取り合っていると見るのが妥当か
勇者一行が立ち寄った街のいずれかに、外法騎士が潜んでいたんだろう
というか、あれだな……
BとCのハイパー率は異常
呪われているんじゃないかとすら思う
四五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
個人的にBとCは応援している
四六、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
庭園のひとは弱者の味方だよね
四七、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
おれも呪われる側だからな
四八、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん
……すまない
四九、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん
いいんだ
五0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
そして……
子狸の健闘もむなしく
マヌさんはピエトロ家で暮らすことになった
これは勇者さんの説得によるものだ
後ろでもじもじしている幼なじみに代わって
勇者さんはマヌさんにこう言った
勇者「中途半端がいちばん良くないわ。ピエトロ家なら、他の貴族たちは手出しできない」
奇跡「……わたしが決めていいんですか?」
自分で判断しろと勇者さんは言っていた
勇者「いいえ、これは命令よ」
しかし彼女は前言を撤回した
勇者「わたしが間違っていたわ。あなたは、まだ幼い。たくさん学んで、それから判断しなさい。そのための時間をあげる。つらいこともあるでしょうけど、わたしを恨みなさい」
奇跡「そんなこと言われて……恨めるわけないじゃないですか」
マヌさんは拗ねていた
自分の意思をおざなりにされて喜ぶ人間はいないだろう
奇跡「でも、いいです。なんかすっきりしました。勇者さまでも間違うんですね」
子供に判断を預けるのは間違っている
そう意見したのは子狸だ
結果的に勇者さんは子狸に屈したことになる
ところが子狸さんは
なにもわかっていなかった
子狸「見ろ、トト。生き別れの姉妹が、いま感動の再会を……」
中トロ「似てない姉妹だね」
子狸「そういうこともある。おれに兄弟はいないが……もしも弟がいたらと考えたことはある。……行くあてがないなら、うちに来るといい。どうだ?」
中トロ「どうだじゃないよ。父さんと母さんに何て言えばいいんだ」
子狸「そうか……」
残念そうな子狸に、羽のひとが微笑みかける
妖精「ノロくんにはわたしがいるじゃないですか」
子狸「え~……?」
妖精「あ? なにが不満なんだよ」
不服そうな子狸に、羽のひとがドスの利いた声で提案した
妖精「光栄ですって言え」
子狸「……リンさんは、おれをどこに連れて行こうとしてるの?」
妖精「お前を一流の戦士にしてやると言ってるんだよ」
子狸「もっと安定した暮らしがほしい……」
せつなそうに鳴くポンポコを、箱姫が見つめている
箱姫「シア。シア」
勇者「……なに?」
箱姫「もしかして、あの子が豊穣の巫女なの?」
ポンポコ風味の爆破術は、しっかりと目撃されていた
結果はともかく、同じ手順を踏んでいたから、誤解しても仕方ないだろう
ついでに言うと、土魔法の術者はめったに現れない
勇者さんは明言を避けた
勇者「ちがうと思うけど……豊穣の巫女とは仲が良いみたい。とても」
箱姫「会ったの?」
勇者「……あなたは、いつからわたしのことを知っていたの?」
情報交換を求める勇者さんに
箱姫は思い出したかのように言った
箱姫「知らなかったよ。どうして言ってくれないの? と、ともだちなんだから、少しくらい教えてくれても……」
勇者「……そうね。ごめんなさい。宰相に口止めされていたの」
勇者さんは宰相にすべての罪を着せた
ふたりの大貴族が友好条約を締結した、そのとき……
おさない恋人たちが再会を誓っていた
マヌさんに抱きつかれて、トトくんは真っ赤な顔をしている
ひゅーひゅー
一方その頃、人生の敗残兵こと負け狸は……
子狸「ハイパぁーっ!」
大広間に雪崩れ込んできた別小隊に
単身、突撃を敢行するのであった……
五一、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん
おれたちの戦いは、これからだ……!
じゃじゃーん