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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
名探偵くん、やってくれたな……! by怪盗アル
130/240

「奇跡の子」part9

二0五、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ハイパーはひとを大胆にする


 霊気をまとった子狸が、逆立ちしようとして失敗した

 むくりと起き上がって、びしっとトトくんを指差す


子狸「トト」


中トロ「にーちゃん」


 びしっとマヌさんを指差す


子狸「マヌ」


奇跡「先生」


 びしっと狐娘を指差す


子狸「コニタ」


狐娘「指差すな」


 不快そうに口元をひん曲げた狐娘を無視して

 子狸は三人の子供たちに言った


子狸「コロッケは揚げたてがおいしい」


 いつになく好戦的である



二0六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 攻めの姿勢は買う

 買うが、しかし……


 いつも不思議に思うんだが

 どうして好戦的になると指差すんだ?



二0七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 そんなこと知るか


 ポンポコハンマーを頭上で旋回させた子狸が

 取り落としたハンマーを拾って戻ってくる

 そして、見えるひとたちをびしっと指差した


子狸「おれの魂は、もう」


 九人もいるので、ひと苦労だった


子狸「負けを認めろ」


 指差している間に自分の台詞を忘れたらしい


 自らの魂に降伏をすすめるポンポコに

 マヌさんが訂正を要求した


奇跡「先生、負けちゃだめ!」


中トロ「いや、たぶん途中で忘れたんだ」


 トトくんは子狸の生態を理解しつつある


 しかし狐娘はそうではないのだと言う

 

狐娘「語彙が少ないんだ。圧倒的に」


 おれの解釈すら間違いだったというのか


 覚えてはいた……

 かろうじて覚えてはいたが

 路線変更したというのが真相であるらしい


 穴のふちにしがみついて子狸を観察していた見えるひとたちが

 一斉にせせら笑った

 彼らを代表して見えるひとZが言う


亡霊Z「ふっ、第二ラウンドというわけか。先ほどよりは楽しめそうだな……いいだろう」


子狸「後悔するぜ?」


亡霊Z「後悔だと?」


子狸「……後悔だと?」


 後悔。あとになって失敗だったと悔やむさま。残念



二0八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 残念なハイパーポンポコ

 一方その頃、いい歳をした大人たちも負けじと残念だった


 強さを追い求める人間は最終的に敗北する

 たんじゅんな力比べで都市級に敵う人間はいないからだ

 人間は“弱さ”で勝負しなければならない

 その答えがチェンジリング☆ハイパーであり、あるいは連弾であり……

 ひょっとしたら“勇者”でもある


 その答えを否定したとき

 はじめてひとは

 過度(ハイパー)魔法の“扉”の前に立つ資格を得る


 扉は道に通ずる


 正道を逸した騎士を

 ひとは外法騎士と呼ぶ


 正道騎士と外法騎士の道が交わることはない


騎士A「グレイル!」


 つながりを絶たれた光に

 騎士Aが示したのも、また道だ


 聖剣の外観を魔法で再現するのは、さして難しくない

 槍ではなく

 矢でもなく

 剣でなくてはならなかった


 まるで夢の残滓のようだった……


 突き込んだ光剣は、しかし騎士Bにあっさりと受け止められる

 騎士Aは問うた。問わずにはいられなかった


騎士A「何故だっ……!」


 頬を伝う熱だけが現実であれば良かった

 

 実働部隊の小隊メンバーは

 とくべつな事情でもなければ同じ学校の出身者で構成される


 てのひらの皮ほどの厚みしかない霊気が

 ふたりの騎士を隔てている


騎士B「力だ」


 騎士Bの“答え”は端的だった


騎士B「戦えば戦うほど……。問えば問うほど……。力こそが」


騎士A「ちがう!」


騎士B「それだ」


 外法騎士がひとつの到達点であることは間違いない

 彼らは迷わない


 騎士Bは気だるそうに言う


騎士B「力こそ正義。いや違う。……何百年、同じことを繰り返すんだ? うんざりなんだよっ」


 霊気が光剣を絡めとろうとする

 ふたりの騎士は、同時に叫んだ


騎士A&B「ドロー!」


 騎士Bは目を見張った

 輝きを増した光剣が、じりじりと霊気に食い込もうとしている


騎士B「……さすがです、隊長」


 道を外れた騎士が、最後に敬意を表した


騎士B「だが、それも“力”だ」


 弱さは罪なのだと告げる騎士Bの言葉を証明するように

 他方で霊気の柱が立ち昇る

 新たな同胞の誕生を、騎士Bは喜ばなかった


騎士B「またひとり堕ちた。こんなざまで……どう信じろというんだ?」


 息を吹き返した霊気が光剣を圧倒しつつある


騎士D「隊長!」


騎士E「隊長……!」


 部下たちの声援が飛んでいる

 己を叱咤した騎士Aは、仰け反りながらも諦めようとしない

 苦しい体勢から、両腕に万力をこめる


 冷めた目で見ていた勇者さんが、見えるひとを叩き斬りながら言った


勇者「……そういうの、あとにしてくれない?」


 すると騎士Bは、あっさりと矛をおさめた


 片ひざをついて床に突っ伏した騎士Aに、騎士DとEが駆け寄る


 息ひとつ切らしていない騎士Bを

 部下たちに支えられながら立ち上がった騎士Aが睨みつける


騎士A「……情けをかけるつもりか」


 騎士Bは肩をすくめた


騎士B「盟主の命とあらば致し方あるまい」


勇者「盟主?」


 騎士Cが、かつての隊長を見る目は冷淡そのものだ


騎士C「命拾いしたな。マスターに感謝することだ」


勇者「マスター?」 


 いつの間にか勇者さんは外法騎士たちの頂点に君臨していたらしい


 きょとんとしている勇者さんに忍び寄る見えるひとを

 覚醒したみょっつさんが霊気で叩きのめした


みょ「ご無事ですか、盟主よ」


勇者「……ありがとう」


 ハイパー魔法は、どこか剣士の退魔力と似ている

 どこがどうというわけではないが……

 なんとなく似ている


 変わってしまった幼なじみを

 箱姫が信じられないという面持ちで見ていた


箱姫「シア、あなた……」


勇者「…………」


 勇者さんは答えなかった



二0九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんが身に覚えのない忠誠を誓われている頃

 おれたちの子狸さんは見えるひとたちの邪法を打ち破ろうとしていた


亡霊AA「これが第八の属性か……!」


亡霊AD「すばらしい」


亡霊AE「負ける……? このおれたちが……?」


亡霊AH「人間が秘術を……」


 子狸が舞う

 ポンポコオーラが青くきらめいた

 

奇跡「最初からそうすれば良かったんじゃ……?」


狐娘「たまにこっちを指差すのがむかつく」


 女の子たちは辛らつだが

 トトくんは子狸の活躍を喜んでいた


中トロ「にーちゃん! にーちゃんは、やっぱり人間だよ! ハイパー魔法は魔物には使えないんだ……!」


 残念ながら誤った認識である

 派手な逆転劇を期待できる場合、おれたちはハイパー魔法を使うことがある

 演出上、魔☆力ということになっているので赤いオーラだったりするが

 あれらは、たんに詠唱破棄したハイパーである

 


二一0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 タマさんは?

 タマさんはどうなんだ?

 本当に受信系で間違いないのか?



二一一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 おう。間違いないぞ

 ただ、念波が乱反射してるな……

 王都のひとが言うように壊れてるからなのか


 経験則によるものなんだろうが

 よくこんなものを制御できるな……


 そう、経験則……


 決着をつけよう



二一二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おお

 収拾がつかなくなってきたから

 どうするのかと思って見ていたが……

 なにか考えがあるのか?



二一三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ああ

 まあ見ていろ……



二一四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


亡霊Z「……時間だ」


 そうつぶやいたのは、子狸を構ってあげていた見えるひとだ

 その言葉をきっかけに

 儀式に参加していたメンバーが

 一斉に穴を飛び出して子狸を包囲する


 時を同じくして、残存勢力の動きが変わった

 肉弾戦から魔法戦へとシフトする


 雨あられと降りそそぐ圧縮弾を

 とっさに前へ出た外法騎士たちの霊気がなぎはらう


子狸「! 下がれ!」


 子狸が叫ぶよりも早く

 見えるひとたちの包囲網を突破してきたタマさんが

 マヌさんの首根っこを掴んで引っ張った


奇跡「わっ!?」


 目を白黒させる彼女に構わず

 ちいさな身体を小脇に抱えて後退する

 タマさんは端的に告げた


タマ「信じてやれ」


 子供たちが下がらないことには子狸は動けない


 子狸とタマさんが子供たちの前後を固めて後退する


 床に輝線が走った


 見えるひとたちの秘術は二段構えだった


 騎士たちが悲鳴を上げた


騎士A「ゲートか!?」


騎士B「召喚術……! あれがそうなのか!?」


騎士C「……まずい! とめろ!」


 しかし、なにもかもが遅すぎた


 ゲートは自然発生するものではない

 二つの世界から同時に干渉することで

 はじめて世界と世界をつなげる“扉”は開く


 ゲートが開く現場を

 かつて目撃した人間は歴代の勇者だけである


 その前提が崩れようとしていた


 生ぬるく

 湿った空気が

 大広間に流れ込む


勇者「!」


 駆け出した勇者さんが片手を閃かせる

 手中で踊る光の剣は王種が作り出した魔界の至宝

 人類と魔物の千年に及ぶ戦いを決定づけた“鍵”だ

 

 立ちふさがる見えるひとに切りかかるが

 すでに手遅れだった


 先ほどまで子狸が立っていた場所に穿たれたのは

 深い

 深い闇だ


 暗澹たる魔口に一点

 白い何かが灯って見えた


 召喚された骨のひとが

 両腕をひろげたままのポーズで硬直していた


骸骨「えっ」


 やはりお前か



二一五、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 やはりお前か



二一六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おい。あきらかに状況を把握してない



二一七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 それでも骨っちなら……

 骨っちなら、きっとやってくれる



二一八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ぶっつけ本番かよ



二一九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 しかし骨のひとのシナリオ管理能力には定評がある


骸骨「……ふっ」


 姿勢を正した骨のひとが不敵に笑った


骸骨「退くぞ。もう全てが終わった」


 なにが終わったというのか

 おそらく言った本人もわかっていない


妖精「まだっ……!」


 高速で飛んできた羽のひとが光弾を放つ

 これは骨の周囲を固める見えるひとに阻まれる


 だが射線は通った

 騎士剣を放り捨てた勇者さんが聖剣を振るう


 眼前で閃いた光の牙を

 骨のひとは片手で受けとめた


骸骨「無駄だ」


 紅蓮の華が咲いた


 死霊魔哭斬を打ち払った骨のひとの手から

 剣尖も鋭く伸びる魔火……


 一部始終を目撃していた羽のひとが悲鳴を上げた


妖精「火の宝剣!? そんなっ……」


 人間たちが息をのんだ


 歴代勇者が授かった聖剣はレプリカに過ぎない

 その事実を、勇者さんはもっと深刻に考えるべきだった


 火の宝剣の所持者たる魔軍元帥は

 魔王軍最高の魔法使いだ


 手元にオリジナルがあるのだから

 レプリカを作り出すことも出来る


 勇者一行の敵は、史上かつてない高みへと到達しようとしていた……


 魔剣を手にした骨のひとと

 聖剣を手にした勇者さんの目が合う


骸骨「そう焦るな。この場でカイルの……愚弟の無念を晴らすというのも悪くないが……」


 余計な設定をねじ込んできた


 しばし見つめ合ってから

 骨のひとは不意に苦笑してきびすを返した


骸骨「ふっ、退くぞ」


子狸「っ……待て!」


 子狸が余計なことを口走る前に

 骨のひとが手を打つ


骸骨「おい。例のものを」


亡霊Z「えっ。あ、うん……。おい、例のものを」


亡霊AA「えっ。あ、うん……」


 協議の結果、骨のひとに手渡されたのは

 そこらへんから拾ってきたと思しき

 木の枝だった



二二0、墓地在住の今をときめく骸骨さん(出張中


 これはひどい……



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