「奇跡の子」part8
一七六、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
魔物とは魔法そのものである
人間たちの肉体が細胞の集合体であるように
魔物たちは細密に連結した魔法があらゆる現象を代行している
だから、究極の領域に突入した魔物と魔物
魔法と魔法の合戦は、ときとして肉弾戦に行き着く
大亡霊「ふああ……」
ぎりぎりと締め上げられて昇天しかける大亡霊であったが
すんでのところで正気に戻る
大亡霊「こんなところでっ……終われるかよ!」
おれミストして脱出した大きな見えるひとが
魔ひよこのふくよかなお腹をじっと見つめる
未練があるようだった
その隙を、空のひとは見逃さない
このひとの突進力は目を見張るものがある
翼で大気を打って加速する
力尽くで抑えこもうとする見えるひとを
壁際まで押しきって、その巨体を床に叩きつけた
大亡霊「くっ、なんてパワーだ……!」
見えるひとを圧倒している……
大亡霊を見下ろしていた巨鳥が
首周りのたてがみをふるわせて雄叫びを上げた
ひよこ「ケェェェエエエッ!」
荒ぶるひよこ
ひよこ「ふうっ、ふうっ……!」
吐く息が白い
空のひとが本気すぎて怖いです……
一七七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
闘志に火がついたんだろ
お前らは、あのトリが穏和なやつだと思ってるかもしれんが
じつは凶暴なんだよ
一七八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
なんとなくわかる気もするよ
羽のひとも意外と優しいところがあるからな
一七九、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
意外とってなんだよ
お前……あんまり舐めたこと言ってると
模様替えのときにとりかえしのつかない感じで手伝ってもらうぞ
一八0、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
待て。庭園のんは色彩が少し薄い
おれじゃだめか?
より良い仕事をできると自負している
一八一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
あ? おい、だれの色が薄いって?
お呼びじゃねーんだよ
水色は黙ってろ
一八二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お前の目は節穴か
どこからどう見てもコバルトブルーだろうが
一八三、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
いや、よく見たらおれのほうがやや濃い色をしている
おれがコバルトブルーだから
つまりお前はコバルトブルーではないということになる
一八三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
だまれ変態ども!
どっちも変わんねーよ!
まったく……存在自体がいかがわしい連中だ……
女の子と見れば、すぐに服を溶かそうとするし……
一八四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ちょっとちょっと
そんなことしてないでしょ
子狸さんが見てる前で誤報をひろめるのはやめてほしい
溶かしたと言っても、ほんのちょっとだよ
タイムリミットを設けるために仕方なくやったことなの
まさか肌を傷つけるわけには行かないでしょ?
むしろ紳士だよね
そのへん誤解しないでほしい
一八五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
さすがはプロだな
プロフェッショナルの言うことは違う
一八六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
べつに服なんてどうでもいいよ
一八七、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん
知ってるんだぞ
お前、たまにお屋形さまの嫁にリボンつけられてるだろ
一八八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
邪法に挑む子狸さん
闇の秘術にあらがうためには、正面から打ち破るしかない
地脈から打ち出される……
打ち出される……
……打ち出される
一八九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
土竜
一九0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
地脈から打ち出される土竜をポンポコハンマーで
一九一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
ちがう。土竜が地脈を走ってるから
土の力を宿した見えるひとを風の力で封じるの
圧縮魔法は本当なら第八の属性におさまる予定だったから
一九二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
面倒くせーな……
そもそも土竜ってなんだよ
いらねーだろ、その設定……
一九三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
お忘れのようですけど……
大陸を海に沈めるとか大々的に宣言して
数々の秘術を生み出したのはお前です
一九四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
なにを言い出すかと思えば……
知らんのか?
千年以上前のことはノーカウントなんだよ
一九五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
王都ルール発動
一九六、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
よもや、おれたちの起源がなかったことにされるとは……
一九七、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おれは賛成だぜ
第一次討伐戦争は、なにもかも手探りで細部があいまいすぎる
一九八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
六魔天はなかったことにはならねーけどな
さて、順々に飛び上がる見えるひとたち
子狸のポンポコハンマーがうなる
超人的な勘が、先見のごとし動きを可能にした
亡霊Z「やるな……!」
子狸「なんの! まだまだぁ!」
善戦する子狸だが、この儀式がもっとも邪悪とされるゆえん……
それは、勝利条件が想定されていないということだ
終わりのない戦いである
どんどん加速する見えるひとたちに
子狸は徐々に追いつめられていく……
子狸「くっ、なんてスピードだ……!」
常人離れしたスタミナを持っているとはいえ
決して無尽蔵ではない
亡霊AE「そらそらっ、最初の威勢はどうした!?」
亡霊AF「もうバテたか? こんなものではないぞ!」
亡霊AG「いまのは危なかったなぁ……!」
亡霊AH「おいおい、もっと真剣にやれよ! 限界まで行こうぜ!」
肩で息をしはじめる子狸に、魔物たちの罵声が飛ぶ
一方的に殴られているのは魔物たちなのに
より激しく消耗しているのは子狸のほうだった
秘術の負荷に耐えかねたか
空間がゆがみはじめる
静電気を帯びた大気がぴんと張り詰め
弛緩したのち、ふるえる
懐かしい匂いが魔物たちの鼻をくすぐった
瘴気だ
一九九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸が勝ち目のない戦いに身を投じた頃
二人の剣士は怒涛の会進撃を続けていた
勇者さんに自分の剣を預けた箱姫が
懐から取り出した布で勇者さんの手元を覆い隠す
箱姫「はい!」
掛け声とともに勢いよく布を取り下げると
箱姫の剣が消失していた
勇者「…………」
勇者さんはアシスタントに徹している
亡霊BG「おちょくってんのか!?」
突進する見えるひとに、箱姫が片腕を突き出す
その手に咲いているのは一輪の花だ
亡霊BG「!?」
てっきり剣が出てくると思っていたのだろう
硬直した見えるひとを、花びらがなぞる
亡霊BG「これは……剣術なのか?」
両断された見えるひとが、疑問を胸に冥府へと下る
箱姫「剣術なんてものは、この世に存在しないわ」
きっぱりと断言した箱姫が、胸元に引き寄せた一輪ざしの花をくるりと回す
次の瞬間、彼女は剣を手にしていた
箱姫「あるのは、勝者と敗者……」
剣術とは、これすなわち欺道なり
ピエトロ家に代々伝わる謳い文句だ
ようは勝てばいい
御前試合では常に最下位に甘んじてきたピエトロ家だが
おそらく彼らが本気なら優勝できるだろう
ただし対戦者が全員不戦敗という不本意な結果に終わる
それがピエトロ家の剣だ
二人の剣士を取り囲んでいた見えるひとたちは
一人を残して全滅してしまった
仲間たちを失った見えるひとが歯噛みする
亡霊BH「認めんぞ……! こんな結末を認めるものか!」
気炎を上げて突進する
表情を引き締めた箱姫が剣を大上段に構える
おごそかに宣言した
箱姫「奥義、百鏡千花」
亡霊BH「はったりだ!」
構わず前進する見えるひとだが
そう言って彼の仲間たちは散っていったのだ
振り下ろされた剣を、見えるひとは大きく後退して避けた
数々の妙技で幻惑してきたから、正道が生きる
そう。はったりだった
必要以上に警戒して飛び退いた見えるひとを
護衛さんの光槍が貫いた
わざわざ宣言したのは護衛さんへの合図だ
箱姫はくすくすと笑っている
箱姫「どうしてはったりじゃないと思うの?」
幼なじみの危機に立ち上がったことで殻をひとつ打ち破ったようだ
すっかり立派になって……
いや、勘違いだったわ
周囲の魔物を一掃するなり、箱姫は勇者さんの背中にぴったりと張り付いた
勇者「……ココ」
箱姫「うるさい。がんばったから休憩」
安らぐ箱姫だったが、一息つくひまもなく
飛んできた妖精さんが危急を告げた
妖精「リシアさん! ノロくんが……」
秘術に囚われたポンポコゾーンは
遠目にもわかるほど、あきらかな異常が進行しつつあった
空間が悲鳴を上げるたびに
かすかに放電した大気が紫色に発光している
勇者「…………」
眉をしかめた勇者さんが、タマさんを振り返る
タマさんが頷いた
口喧嘩している狐娘とマヌさんの頭にゲンコツを一つずつ落とす
タマ「おら、行くぞ。ガキども」
中トロ「? どこに……」
中央階段を背に拠点を築き上げてきたから
この場を動くのは得策ではない
その程度のことはトトくんならわかるだろう
しかし騎士志望の少年は、すぐに考えを改めた
中トロ「にーちゃん……!」
目に映る紫電が、容易に子狸を連想させる
大きく頷いたトトくんが、マヌさんの手を握る
中トロ「行こう!」
自分たちが行ったところで何ができるというのか
マヌさんはそう考えたようだが、すぐに頷く
奇跡「うん!」
狐娘「世話の焼けるやつだ」
仕方なさそうに応じた狐娘が
ちいさな唇をとがらせてマヌさんを見る
狐娘「…………」
奇跡「……なに?」
つい先ほどまで言い争いをしていた相手だ
彼女の肩をぽんと軽く叩いて、狐娘は言う
狐娘「お前、なかなかの美人さんだな」
狐娘なりに仲直りしようとしているのだろう
奇跡「……それ、嫌味?」
真心が伝わることはなかった
二00、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
タマさんの側近は特殊なチェンジリングを使う
騎士ではないから、都市級よりも人間を倒す手段を優先したのだろう
そして、その技術は見えるひとに対しても有効だった
振り下ろした手刀が、見えるひとの下顎をかすめる
盾魔法をチェンジリングできるから、変幻自在の魔物を実体としてとらえることが出来た
余裕があるときは、わざと盾魔法のスペルを唱えるから
得体の知れない攻撃を見えるひとたちは警戒している
限りなく特装騎士に近い腕前の戦士だ
彼に背中を預けることが出来る幸運を、みょっつさんは喜んでいる
いくぶん気安さを交えた声で問うた
みょ「いいのか?」
彼の護衛対象であるタマさんは
子供たちを引き連れて戦火に飛び込もうとしている
側近は頷いた
側近「ここを突破されたら終わりだ」
即席の特装部隊がかろうじて機能しているから
現在の均衡は危ういところで保たれている
側近さんの戦術眼は確かだった
側近「そもそも、あの人に護衛は必要ない。おれが勝手に付いて回っているだけだ」
チェンジリングは連発できない
機会が許すなら喋って補充しておく必要がある
側近さんは笑った。快活な笑顔だった
側近「弱いだって? とんでもない。怪物だよ」
ごく一部の強力な異能持ちは、怪物と評されることもある
タマさんは、そのひとりだ
二0一、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
子狸のことも気付いてたみたいだしなぁ……
九死に一生スペシャルした人間の異能が変質することはよくある
タマさんの場合、お屋形さまと子狸の影響もあるんだろう
すっかり立派になって……
二0二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ああ。胸に迫ってくるものがあるよな
子供たちを率いて子狸の救出に立ち上がるタマさん
もちろん見えるひとたちが黙っていない
亡霊CC「子供たちを連れて散歩か?」
タマ「おう。ちょいと通しちゃくれねえか?」
亡霊CD「通すとでも?」
びくりとふるえるマヌさんに、タマさんは肩越しに微笑む
タマ「……合図をしたら行け。三人ともだ。できるな?」
三者三様に頷く子供たちに破顔する
タマ「よし、いい子だ。いつも素直だったら可愛いのにな」
そう言って眼帯を指で抑える
見えるひとに向き直って言う
タマ「通してもらうぜ。ああ見えて、いちおうおれのご主人さまなんでね」
子狸のことだろう
半死半生だったタマさんを拾ってきたのはお屋形さまだが
せっせと食事を運んでいたのは子狸である
親鳥がひなにそうするように
冗談めかして言ったタマさんが
見えるひとたちの威嚇を無視して前に出る
ひょいと首を傾げた
見えるひとCCが手刀を繰り出す
タマさんが頭を下げる
見えるひとCDの腕が空をきった
あからさまなパフォーマンスだった
見えるひとたちが慄然とする
亡霊CC「きさまっ……未来が見えているのか?」
亡霊CD「予知能力者……!」
タマ「そんな大層なもんじゃないがね。……行けっ」
容易ならざる敵であることは確かだ
もしも未来が見えているというなら
どうあっても子狸と合流させるわけには行かない
駆け出した子供たちの追跡を
見えるひとたちは断念せざるを得なかった
亡霊CC「……いかに未来が見えていようとも、しょせんは人間だ」
亡霊CD「勝ち目はないぞ」
はったりだ
通常であれば、受信系の異能は直接戦闘には適さない
もしも相手の心が読めたとしても、タイムラグが発生するからだ
本を読みながら戦うようなものである
しかしタマさんは例外であるらしい
タマ「予知じゃねえっつってんのに」
このように本人は申しておりますが……
二0三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
いや、予知だろ
もはや勘が鋭いっていうレベルの問題じゃねーぞ……
タマさんの異能は、たぶん死にかけたときに一度、壊れてる
ていうか、そうでも解釈しないと納得できない
子狸「くっ……!」
子狸が、がくりと片ひざをついた
ハンマーの柄でかろうじて体重を支えている
苦しそうなうめき声
服の上から、心臓のあたりを前足で押さえている
限界だった
魔物たちのあざ笑う声が聞こえた
亡霊Z「これが末路だ。お前は、たった一人でしんでいく。だれに看取られることもなく」
子狸は笑った。自嘲だ
子狸「いいんだ。おれは、いいんだ。いつかこうなるんじゃないかと思ってた。おれは、ばかだから……」
子供たちの悲鳴が聞こえた
牙を剥く紫電に構わず、子狸のもとに駆けつける
子狸「お前たち……」
いまにも倒れそうなポンポコさん
再会を喜んでいる場合ではないのは一目瞭然だった
狐娘がポンポコハンマーを見て頷く
狐娘「そのとんかちみたいなので叩けばいいのか」
マヌさんは子狸の惨状に涙を浮かべている
奇跡「無理だよ! そんな魔法、習ったことない……」
トトくんは知恵をしぼっている
中トロ「なんとか、なんとかしなくちゃ……!」
しかし、その必要はなかった
ふたたび立ち上がった子狸が、こう言ったのだ
子狸「思い出したよ。おれは、一人なんかじゃなかった」
タマさんが見ていたのは、この構図なのだろう
ついに訪れたのだ。覚醒のときが……
二0四、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
魔ひよこが大きな見えるひとを打破したことで
騎士たちは勝勢に傾きつつある
いつしか魔物たちの増援も底をつき
ここを乗り切れば、まず勝ちは揺るがないだろう
決定打となるだろう渾身のチェンジリング☆ハイパーが
いま炸裂しようとしていた
騎士A「パル!」B「ハイパー!」C「ロッド!」D「!?」E「!?」
いま何かおかしなのが混ざってたね
騎士Bの身体から、青白い霊気が放たれた
突風のような闘気に、同僚たちがあとずさる
騎士A「きさま……外法騎士っ!」
騎士団の軍規にはハイパー禁止の項目が存在する
そして、このハイパーに魂を売り渡した騎士を、外法騎士と呼ぶのだ
連携の綻びを見えるひとたちは見逃さなかった
瞬時に騎士Aへと肉薄し、掌底を繰り出す
その腕を、騎士Bがつかんだ
亡霊CS「なにっ……!?」
騎士B「ふっ、遅い」
外法騎士が扱うハイパー属性は、おそろしく強力な魔法だ
身体能力を底上げするだけでなく、攻防一体のオーラにもなる
霊気に焼かれた見えるひとが、断末魔の叫びとともに倒れる
これほど強力な魔法であるにも拘わらず、騎士団がハイパー属性を推奨しないのは何故か
人格が歪むからだ
同僚の堕落を、騎士たちは信じることができなかった
騎士D「う、嘘だろ? お前が外法騎士だなんて……」
騎士E「嘘だと言ってくれよ! おい、お前も何か……!」
そう言って騎士Cの肩を小突くも、騎士Cはうんともすんとも言わなかった
騎士E「お前……まさか……」
騎士C「…………」
無言である
彼は、騎士Bに歩み寄ると、そのままとなりに並んだ
同僚たちに向き直る。その目には一片の情も通っていなかった
騎士C「ハイパー!」
外法騎士は一人ではなかったのだ
霊気をまとった二人の外道が、口々に言う
騎士B「すばらしい力だぞ……下らない固定観念に縛られていては手に入らない快楽だ……」
騎士C「お前たちもこちらへ来たらどうなんだ? 自分を解き放て。我慢する必要なんてないんだ」
騎士Aが反駁した
騎士A「ふざけるな! 力に溺れた人間を待っているのは破滅だけだというのが、なぜわからん!? それは魔へと至る道だ!」
騎士BとCは顔を見合わせて苦笑した
善悪、聖邪、そうした視座を彼らは脱却しているのだ
騎士B「だが、そうは思っていないものもいるようだな」
そう言って騎士Bが手を差し出したのは、一人の男だった
みょ「ばかな」
特装騎士は鼻で笑う
そして自分の声がふるえていることにぎょっとした
みょ「ばかな……」
騎士Cが深遠から手招きをする
騎士C「悩むことはないんだ。一歩でいい。ひょいと飛び越えてこちらへ来るんだ……簡単だろ?」
その声は親しげですらあった
騎士C「お前は、もう気付いているはずだ。徹底的に自分を否定されて、それで何が残った? 見えているはずだ……」
みょ「おれは……」
遠くで、何かが崩れる音がした
魂を解放した鳴き声が轟いた
子狸「ハイパぁーっ!」
第八の属性に目覚めた子狸の叫び声だ
ひどく羨ましいと思った
だから男は
騎士D「よせ!」
騎士E「戻れなくなるぞ!」
それでもいいと思った
勇者「…………」
勇者さんの視線が、おそろしく冷たい
注釈
・外法騎士
ハイパー属性に魂を売り渡した騎士のこと。
ハイパー属性とはハイパー魔法のことであり、第八の属性とも呼ばれる。
この世でもっとも新しい魔法である。
不明瞭な点が多く、身体能力が跳ね上がる他、全身を覆う青白いオーラは攻防一体の武器にもなるようだ。
力に溺れた騎士がハイパー属性に目覚めるとされているものの、覚醒条件の詳細は解明されていない。
ただ、人格が著しく歪む。好戦的になる、他者を見下す発言が目立つなどである。