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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
名探偵くん、やってくれたな……! by怪盗アル
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「奇跡の子」part6

一二一、海底洞窟在住の現実を生きる不定形生物さん


 迫る、戦慄……!



一二二、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 見えるひと、やってくれるのか!



一二三、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 ひとを動かすのは利益ではなく

 まして善悪でもない……


 ――誠意だ



一二四、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 空のひと……

 お前が、おれたちの翼だ……


 胴上げだ!



一二五、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 わっしょいわっしょい!



一二六、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 わっしょーい!



一二七、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 こらこら、お前ら……

 はっはっは、よさないか



一二八、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 うざってえ……



一二九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 過日の街道封鎖事件のおり

 早々と見えるひとが退場したのは

 勇者一行にとって幸運だった


 あるいは勇者さんは知っていたのかもしれない


 レベル2のひとたち、怨霊種とも呼ばれる彼らは

 魔王軍の主戦力だ


 騎士たちと互角に戦えるから

 勝っても負けても不思議ではなく

 戦況のコントロールに適している


 技の骨のひと

 力の歩くひと

 見えるひとは……怨霊種の術師だ

 

 堅牢に積み上げた石の隙間から

 するりと

 いともたやすく亡霊たちは家屋に侵入してくる


亡霊A「ここか」


亡霊B「眉唾ものだがな」


亡霊C「どのみち捨て置けん」


亡霊D「おとりではないのか?」


亡霊E「同じことだ」


亡霊F「そうさな。首謀者を締め上げればいい……」


亡霊G「重要なのは」


亡霊H「そう、重要なのは」


亡霊I「白アリどもの巣を叩くことだ」


亡霊J「そして聖☆木の回収……」


亡霊K「簡単なお仕事です」


 風雨の中を歩いてきたためだろう

 ひたひた

 ひたひたと

 一歩ごとに湿った足跡が残る


 身を乗り出した護衛の人が叫んだ


護衛「ばかな! 魔物どもの侵入を許したのか!?」


 魔物たちがあざ笑った


亡霊L「おいおい。二年前に何も学ばなかったのか?」


亡霊M「学習能力がないな。しょせん人間か」


亡霊N「そう言うな。哀れだろう。いいか、人間……教えてやる。学べ」


亡霊O「おれたちの侵攻を、あんなちゃちな壁で防ぐことは出来ない」


亡霊P「あれは鳥かごだ。人間が人間を囲うための、なぁ……」


 はったりである

 たしかに街壁は万全とは言えないが

 じゅうぶん機能している


 魔物は、言葉で人間たちの動揺を誘う

 疑心を植え付け、結束を内側から腐らせる


亡霊Q「簡単なお仕事です」


 子狸が悲鳴を上げた


子狸「囲まれてる……! お嬢!」


 いい仕事ぶりだ


 勇者さんが頷いた

 彼女は、見えるひとたちが包囲を狭めるのを待っていた

 一網打尽にするためだ


勇者「撃ちなさい!」


 正確無比な射撃が、見えるひとたちを貫く

 実働騎士たちの狙撃だ


 しかし甘い

 さすがに中隊長や大隊長のようには行かないか……


 勇者さん……

 まだわからないのか?


 本気で魔物たちに勝とうとするなら

 勝ちたいなら

 おれたちが納得できる状況を作らなければだめなんだ


 飛来した光槍を、見えるひとたちは一歩も動かずにいなした

 霧を槍で突いても無意味だ

 いったんひろがった穴がふさがる……


 変幻自在は王種の専売特許ではない

 見えるひとは霧状の身体を

 自在に操ることができる


 その程度のことは知っていたのだろう

 勇者さんは、成果を見届ける前に追加の指示を出した


勇者「集まって! 実働小隊を組織なさい! ぼーっとしないの! 現役の特装騎士でしょ。あなたが指揮をとるの」


 そう言って、敵味方を判じかねている特装騎士を叱りつけた


みょ「おれは……!」


 実質的に勇者さんの指揮下に入れということだ

 聖騎士には、その権限がある

 反駁しようとする男を、勇者さんは激しく叱責した


勇者「うるさい! わたしに従いなさい」


 魔物の襲撃を想定していなかった

 これは勇者さんのミスだ


 いつまでも構ってられないと聖☆剣を一度、二度と振る

 勇者さんの必殺技その一、死霊魔哭斬だ


亡霊A&B「きゃあ」


 虚空に連続して灯った光が、見えるひとAとBを消し飛ばした


 勇者の所業とは思えない禍々しさである

 唖然としている特装騎士に、勇者さんがつぶやいた


勇者「……次はあなたの番ではないことを祈るわ」


 男は屈した

 第一、人間同士で争っている場合ではない

 信念など二の次だ


みょ「実働を補佐しようとはするな! 連中の攻防はハイスピードすぎて邪魔になる。環境の維持と回復に専念しろ」


 この場には特装と互角とは言わないが

 それに近しい術者が三人いる


 相棒の影使いと、タマさんの側近。そして箱姫の護衛だ

 本職の特装騎士と合わせれば、ちょうど四人ということになる


 騎士団の最低単位は実働部隊の八人だが

 そこに特装部隊の四人が加わったとき

 彼らは最大の力を発揮できる


 実働小隊と呼ばれる決戦隊形だ


 二階に隠れひそんでいたのだろう

 実働騎士たちが続々と飛び降りてきて、勇者さんの周囲を固める


 いまこうしている間にも、見えるひとたちはどんどん増えている


亡霊R「ほう、面妖な技を使う」


亡霊S「さしずめ死霊魔哭斬といったところか」


亡霊T「……つーか、勇者じゃね?」


亡霊U「……まじで? 元帥にころすなって言われてるんだけど」


亡霊V「とらえろ。と言いたいところだが……」


亡霊W「ああ」


 頷き合い、一斉に駆け出す見えるひと


 身構えた勇者さんが、タマさんに命を下した


勇者「子供たちを守りなさい! コニタ、あなたも!」


 聖☆剣がきらきらと輝いている

 

 

一三0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 実働騎士たちは守勢に回ることを避け

 開放レベル3の殲滅魔法を連発している


 たしかにチェンジリング☆ハイパーは強力な手札だが

 その代償は大きい


 人間の持ち点が100とすれば

 チェンジリングは50点ほど消費する

 チェンジリング☆ハイパーでさらに30点マイナスだ


 50点あれば、魔法の用途を戦闘に限定すればたいていのことは出来る

 しかし20点では、攻性魔法の種類を限定するしかない


亡霊C「アルダ!」


側近「パル!」


 遮光魔法で視界を閉ざそうとする見えるひとに

 すかさず側近が発光魔法を返した


亡霊D「いまだ! 突破しろ!」


 密集陣形をとった見えるひとたちが突進してくる

 一人、また一人と殲滅魔法の前で脱落していくが

 彼らの勢いはまったく衰えなかった


騎士A「しまった!」


勇者「数を減らすことに専念なさい!」


 討ち漏らした見えるひとを、勇者さんが次々と斬り伏せていく


亡霊D「甘い!」


 飛び上がって回避した見えるひとが、タマさんの眼前に降り立った


タマ「! こいつ……!」


 にやりと笑った見えるひとが、再度の跳躍

 タマさんと子供たちを飛び越えて、中央階段に到達した


 魔物たちの士気はとどまるところを知らない

 そこに目指すものがあるからだ


亡霊D「ポンポコぉー!」


 バウマフ家の人間を目の前にすると、他のことがどうでもよくなるという

 悲しい習性が魔物たちにはある


子狸「見えるひとぉー!」


 大蛇の構えをとる見えるひとに、子狸は猛虎の構えで応じる


妖精「どうしてお前らはいつもそうなんだ……」


 肩の上で羽のひとが嘆いていた



一三一、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 まったくだよ

 誤魔化すほうの身にもなってほしい


 あ!



一三二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 なんだ? どうし……


 あ~……



一三三、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 おれたちのステルスは個人によって形式が異なる

 減速魔法をベースにしたものもあれば、心理操作をベースをしたものもある


 心理操作に絶大な信頼を寄せている庭園のんであったが

 ふつうに邪魔だったのだろう

 勇者さんに手で押しのけられる


 胴上げされていた空のひとが

 床で腰を痛打した


ひよこ「ッ……!」


 悶絶する魔ひよこに、勇者さんがよじ登る

 負けじと見えるひとたちもよじ登ってくる

 殲滅魔法の余波で、猫耳が揺れた

 彼女がお腹の上で聖☆剣を振るうたびに、空のひとがびくりとふるえる


ひよこ「おふっ。おふっ」


 認識できなくなるというのは、こういうことだ

 最初からステルスしているので、さしもの勇者さんも疑問に思わない


 ……こうして改めて見ると、親子みたいだな



一三四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 勇者さんは卵生じゃない



一三五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 おれも卵から生まれた覚えはないんだがっ


 お、親子とかやめろよ

 母性本能が刺激されちゃうだろ……


 ぬぬぬっ……!



一三六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


ひよこ「どかーん!」


 おい。ひよこが寝返ったぞ……


 大きく翼をひろげた空のひとが、見えるひとを弾き飛ばした

 勇者さんのことは丁重に地面に下ろしたのに……扱いが違いすぎる


亡霊J「とりつけ!」


 見えるひとたちが群れをなして空のひとによじ登る


 筆舌に尽くしがたい光景である



一三七、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 暴れ回るひよこ。見えるひとたちが木の葉のように舞う


 一方その頃、箱姫は動けずにいた


護衛「ココニエドさま! ここも決して安全とは言いきれません。早急に合流を……!」


 館内に侵入した魔物たちが大広間に集結しているとは限らない

 しかし箱姫は、狐娘を抱きかかえたまま立ち上がろうともしない


箱姫「む、無理……」


 極度の人見知りなのだ

 

 王国は生まれ変わろうとしている


 義務教育制度が施行され

 平民は学校で同世代の友人たちとともに学び

 ともに笑い、ともに泣く


 だから貴族の中には、自分が損をしているような気分になるものもいる

 徒党を組んだ平民に、いつか駆逐されるのではないかとおびえている

 たんなる被害妄想とは言いきれない


 貴族政治を快く思わない平民は、増加の一途を辿っている

 ファミリーはその最たるものだし、豊穣の巫女は反政府の象徴的な存在になりつつある


 当然、自分たちの在り方に疑問を覚える貴族もいるのだ


狐娘「ココさま……」


 ちいさな子供のようにふるえる箱姫を、狐娘が気遣っている


 階下で、一筋の光が走った

 聖☆剣を掲げた勇者さんが、見えるひとと相対している

 早くも動きに精彩を欠きつつあった

 体力を節約しているのか?

 しかし苦しそうだ


箱姫「シア」


 ふらりと立ち上がった箱姫が、駆け出した

 護衛の人と狐娘もあとに続く


亡霊Z「おっと、ここは通さんよ。聖☆木を寄越してもらおう……」


 立ちふさがる見えるひとに、子狸が体当たりをした


子狸「行けっ!」


 背後から襲いかかってくる見えるひとを、羽のひとがかく乱する


亡霊D「くっ、ちょろちょろと……!」


妖精「マジカル☆ミサイル!」


 羽のひとの光弾に合わせて、子狸が前足を突き出した


子狸「アイリン!」


 !? 特赦で減衰を……


 コンビネーションだと? 王都の、お前か!?



一三八、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ど、どうかな……

 そんな気もするし……


 羽のひとと子狸のコンビネーションが炸裂した


亡霊D「ぐあ~!」


 子狸は、おれたちの魔法に自分の魔法を連結することができる

 本来なら減衰の対象となる妖精魔法に

 特赦を重ねることも可能なのだ


 ペナルティが解除されたことで

 レベル4の投射魔法に……

 見えるひとはひとたまりもない



一三九、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 とりあえず退場しておくけど……

 いいのか?


 なんか、だんだん人間離れしてきてるぞ



一四0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 だいじょうぶだ

 むしろレベル3のひとたちと戦う前に判明して良かった

 礼を言うぜ、見えるひと



一四一、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 階段を駆け下りてきた箱姫が、箱のふたを開けて中身を取り出した

 勇者さんに届けと両手で投げる


箱姫「シア!」


 声に反応して振り返った勇者さんが、かすかに目を見張る

 片手で器用に受け取り、鞘を口でくわえた

 見えるひとに聖☆剣を突きつけたまま、もう片方の手で柄を握る


 箱姫が両手で頬を包み込むようにして声を張り上げた


箱姫「伝言! 1ポイントは貸しにしておくって! なんのことかわからないけど!」

 

 箱姫が運んできたものは、聖☆木ではなかった


 鯉口を切る

 鞘走る

 

 柄尻にはアリア家の家紋が刻まれていた

 細身の長剣だった


 刀身に刻まれているのは銘か? 古代言語だ


勇者「連なり……自分?」


 やりやがった……



一四二、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 だから、あのひとたちを野放しにするのは反対だったんだよ……



一四三、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 可哀相だろ……

 なんてことするんだ……



一四四、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 ツッコミ役が……いなかったのか



一四五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 騎士剣むしろおれ


 伝説の幕開けである……



 注釈


・騎士剣むしろおれ


 勇者さんの新しい剣。

 港町で壊された剣を鍛え直したものであるが、原形をとどめないほど破壊されていたため大幅なモデルチェンジを行った。

 完全に対魔物戦を想定した作りになっており、たとえば剣同士での打ち合いには向かない。

 刀身に「ジェステ・メロ」と刻まれている。旧古代言語で「となり(連なり)・わたし(自分)」を意味し、肯定的に捉えれば「自分の一部」と読みとることもできるが、文法的に正しい解釈は「むしろおれ」である。ツッコミ役が不在だった。

 

 魔物と人間の共同製作であるためか、静謐さと妖しさの間を行き来する二面性を持っているようだ。

 銘から「騎士剣」と呼ばれる(「ジェステ」は近古代言語で「守護者」を意味し、のちに「騎士」へと転じた)が、「妖剣」とも称されることになる。



(作者より)

バニラ様より素敵なイラストを頂きました。

ななな、なんと畏れ多くも二枚目であります。ありがてえ、ありがてえ……!

さっそく「奇跡の子」part5に挿絵inしておきました~。どーん!

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