表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
名探偵くん、やってくれたな……! by怪盗アル
126/240

「奇跡の子」part5

八0、住所不定の(略


 どけ、ヒュペス



八一、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 まあまあ……

 いったんおちつこう、な?


 お前の気持ちはよくわかる

 よくわかるけど、ほら、あんまり……

 治癒魔法とか……

 な? わかるだろ?



八二、


 そうだな

 おれが悪かった

 だから、どいてくれ



八三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 だめだな。拘束しろ



八四、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 よし。かまくらの、がんばれ



八五、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 悪い。いまオーロラの観察で忙しい


 庭園の、頼む。お前が最強だ



八六、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 いや、おれなんてとるにたらない不定形生物に過ぎないから


 ここは王種の出番じゃないか

 緑とか

 なんと言っても最高位だからな



八七、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 いえ、僕はごく平凡な存在ですから

 探せば、そこらへん歩いてますよ


 その点、巨人兵さんはレアですよね



八八、古代遺跡在住のごく平凡な巨人兵さん(出張中


 え? なに? 聞こえない

 あれ、こきゅーとすの調子がちょっと……



八九、管理人だよ


 羽のひと



九0、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 なんだよ



九一、管理人だよ


 問題を

 問題を出してくれ


 いまのおれなら、きっと……

 見える気がするんだ



九二、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 ……ノロくんは八百屋さんでりんごを二つ買いました

 一つはおれが食べました

 もう一つもおれが食べました


 残ったりんごはいくつでしょうか?



九三、管理人だよ


 羽のひと、手出ししないでくれ

 やつは……おれが倒す



九四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 答えろよ。いくつなんだよ



九五、管理人だよ


挿絵(By みてみん)


 男には、やらなくちゃならないときがあるんだ

 いまが、そのときなんだよ!



九六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


子狸「みょーっつ!」


 復活した子狸が吠えた

 

 男は無視した

 勇者さんに視線を固定したまま、盾剣を破棄した

 よどみのない足運びで左右に行き来する

 発光魔法で作り出した分身も同様だ

 三つの人影が重なり合うたびに、男はスペルを追加していく

 声の発生源を特定されないための技術だ


 ふたたび三人に分かれた男が口を開く


みょ「なるほど、あなたは都市級を打ち倒せるかもしれない」


 その声は三重に響いて聞こえた

 変化と伝播を組み合わせれば、分身からも同じ音声を出力することは難しくない

 

みょ「だから私を圧倒できると思っているなら、その考えは改めるべきだ」


 勇者さんの視線が素早く走った

 剣士である彼女が、本体と分身を見分けることは困難だ

 

 男の忠告に、勇者さんは小さく首を横に振った


勇者「いいえ、その必要はないわ」


 確率は三分の一……

 勇者さんは、真ん中の男に標的を定めたようだ

 光の剣尖を、ぴたりと固定する



九七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 勇者さんの聖☆剣は、先々代のそれに近しい形状をしている


 グランドクロス

 初代勇者が使っていた剣をモデルにしたもので

 とくにこれといった特徴がない


 まぶしすぎるとお前らに不評だったため

 光量をおさえた目に優しい聖☆剣である


 凝視しても安心だ


箱姫「…………」


 階段を登りきった先、二階の廊下へと続く扉の陰に

 彼女は隠れひそんでいた


狐娘「ココさま、離して」


 捕獲した狐娘を抱きかかえている

 お気に入りらしい


箱姫「……ねえ、コニタ。シアの剣って、前からあんな感じだったかしら……」

 

 彼女の主張によると、十代目の勇者はすでに誕生しているらしい


 ピエトロ家は、アリア家をライバル視している

 箱姫もまた、幼い頃から勇者さんを生涯の好敵手と見定めて生きてきたのだろう

 つっかかるたびに、冷淡にあしらわれてきたに違いない

 

 その彼女が、ついに聖☆木を勇者に手渡すという大任を手にした

 先々、教科書に載ってもおかしくないイベントである

 わくわくして眠れない夜もあっただろう


 ふとしたきっかけから勇者と一緒に旅立つことになり

 あまたの苦難を乗り越え、やがて芽生える恋

 卑劣な罠によって引き裂かれる二人……

 再会とともに、きずなを確かめ合う恋人たち

 月明かりの下でドラマチックな求婚……

 年頃の少女なら、そんなことを妄想したかもしれない


箱姫「そっくりね。……聖剣と」


護衛「……っ」


 背後に控える護衛が、口元を片手で覆った

 あるじの道化ぶりに、嗚咽をこらえきれなかったのだ


 箱姫の発言が、なけなしの矜持から来るものだと察するには

 狐娘は幼すぎた


狐娘「? あれ本物。勇者だから、アレイシアンさま」


箱姫「……そう」


 しずかに納得する箱姫に、護衛が豪華な箱を差し出す


護衛「ココニエドさま、こちらを」


箱姫「ありがとう。気が利くわね。かぶらせて?」


 in箱を所望する令嬢だったが、どう見ても人間がかぶれるサイズの箱ではない

 きっと聖☆木がおさまっているのだろう

 

 聖☆剣を見るまでもなく、護衛の人は十代目勇者の正体に勘付いていたのだろう

 アリア家の令嬢が、わざわざ国境付近の街に立ち寄る理由など

 まして、このタイミングだ

 気付かないほうがおかしい


 気落ちしている箱姫を、狐娘が励ましていた


狐娘「アレイシアンさまはココさまのこと、いちばん信頼できる貴族だと思ってる」


箱姫「え、本当? くわしく聞きたい」


狐娘「ただでは言えない」


箱姫「ええ、もちろん。情報料は弾むわ。あと、あの……魔どんぐりを抱えている平民はなんなの?」


狐娘「マフマフか。あれは、わたしの手下。さいきん、また料理の腕を上げた」


 不規則な生活を送っている狐娘たちに

 子狸さんは夜食を差し入れしている

 カロリー控えめのポンポコ定食は、彼女たちの好評を勝ち得ていた

 

 三時のおやつを吟味している子狸さんに死角はない――

 


九八、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 もしも勇者さんが本気なら、最初から死霊魔哭斬を撃っている

 彼女に交戦の意思はなかった

 猛然と階段を駆け下りてくる子狸を一瞥して、声を張り上げる


勇者「聞きなさい!」


 いっときでも場を膠着するために聖☆剣を起こした

 しかし子供たちの目に映るのは、特装騎士に刃を向ける勇者さんの姿だ

 

中トロ「待って! 待ってくれ! そいつは……!」


 トトくんのひっ迫した声に、マヌさんが過剰反応した

 彼女は、大人たちの争いに耐えられなかった


奇跡「先生! 先生、みんなを止めて!」


 子狸の目が見開かれた


子狸「……ドミニオン!」


 突き出した前足には、いつしか魔どんぐりが握られていた

 土魔法で……再構築したのか……


 跳ぶ気だ

 前のめりになった子狸の身体が、がくりと揺れた

 首から下が硬直している

 羽のひとの念動力だ


妖精「大人しくしてろ」


子狸「リン……!」

 

 ひとつ頷いた勇者さんが、特装騎士に言う


勇者「わたしは、ココニエド・ピエトロと協定を結んだの。奇跡の子の身柄は、彼女に預ける。その代わりに」


 箱姫に協力する見返りとして、勇者さんは条件をひとつ付けると言っていた

 その内容がこれだ


勇者「研究成果は共有することになるわ。事がうまく進めば、拘束期間を減らせるかもしれない。これが最後の妥協よ」


 勇者さんは、緑の島でじっさいに巫女さんと会っている

 そして、爆破術の核になるものが何であったかを知っている


子狸「お嬢……」


 子狸の表情はしぶい

 ピエトロ家に預けること自体が気に入らないのかもしれない


子狸「事情はわかった。その件については、あとで話そう」


 子狸さんは悪くない

 思うに、三行以上の文章は人類の限界を超越しているのではないか


 おれが勇者さんに期待するのは一つだ

 子狸さんと話すときは、幼児に語りかけるくらいの優しい気持ちでお願いしたい


勇者「……マヌ・タリアは、ピエトロ家で勉強する。たまにわたしも一緒に勉強を見てあげるから、卒業は早くなるの。わかった?」


 おそろしくわかりやすい


子狸「……?」


 でもだめだった


 

九九、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 勇者さん以上に、うまく説明する自信がないんだが……



一00、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 なにがわからないのか、わからないんだ……



一0一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 うーん……


 つまり、勇者さんの言うことを聞いてれば間違いないということだ

 ポンポコたん、わかりまちたか?



一0二、管理人だよ


 ……二つに一つということか



一0三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 その言い回しをどこで覚えた



一0四、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 さいきん語彙が増えてきたな

 おれは満足している



一0五、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 ハードル低いぞ。どんどん低くなってる



一0六、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 勇者さんの提案は、現状を見据えた上で最善に思える

 だが、男は納得しなかった


みょ「……アレイシアンさま、あなたは賢しすぎる」


 心から残念そうに言う


みょ「実働の連中はどこに? 私を狙撃させるために待機させている。そうですね?」


勇者「…………」


 勇者さんは答えなかった。図星なのだろう

 この館に配置されていた実働騎士たちは、勇者さんの条件をのんだ

 特装騎士に対する不審が、彼らの決断を後押しした

 

 協力者と思しき影使いが

 おそらく本物の

 ピエトロ家の刺客だったからだ


 男は続けた


みょ「それが悪いとは言わない。常に一手先、二手先を読んでいる」


 入れ替わる筈だった二人

 彼らの間で、どういったやりとりがあったのかはわからない

 しかし……


みょ「だから、あなたは必要とあらば彼女を裏切る。おれは、もう……あなたたちを、貴族を信じることはできない」


 ……港町の一件で、マヌさんの実家には報奨金が贈られた筈だ

 それがまずい


 勇者さんは、マヌさんの家族が人質にとられていると言っていた

 その通りだろう

 王国の法律において、平民は報奨金を受け取る“権利”がない

 だから、預けたお金を返して欲しいと言われたら全額を返却しなければならないのだ


 そして大部分の平民は、そんな法律の存在を知らないだろう


勇者「余計な真似を……」


 勇者さんが毒づいた

 

 交渉は決裂した

 男は、大貴族に一矢報いるつもりだ

 とうに命は捨てている


 一触即発の空気だ


子狸「……よくわからないが」


 お前に法律の話をしても無駄だということはわかっている


子狸「おれが身替わりになる。それでどうだ?」


 うん?


 うん……。あ~……



一0七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 あ~……

 そうだね。ぜんぶ解決しちゃうね

 おれたち以外だれも困らない完璧な案だわ



一0八、空中庭園在住のとるにたらない不定形生物さん


 そうか。研究成果もなにも、答えがそこにあるもんな

 バウマフさんちのひとって、たまにそういうこと言うよね

 おれたちの苦労を一瞬で水の泡にするようなことを平気でしてくれる



一0九、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 さしもの勇者さんもびっくりだよ


勇者「…………」


 完璧すぎて反論の余地がないんだな



一一0、火口付近在住のとるにたらない不定形生物さん


 見えるひとさぁ……

 何か欲しいものある?



一一一、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 嫌だよ



一一二、かまくら在住のとるにたらない不定形生物さん


 ははっ


 そういえば、そろそろ誕生日だよね



一一三、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 絶対に嫌です


 誕生日でも何でもねーし

 第一、ゲストで招かれたのに斬られるとか斬新すぎるだろ



一一四、魔都在住の特筆すべき点もないライオンさん(出張中


 まあまあ……

 見えるひと、ちょっとこっちへ……



一一五、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 なんだよ

 ちっ、仕方ねーな……

 手短にしてくれ



一一六、住所不定のどこにでもいるようなてふてふさん


 手招きされて、のこのことついてきた見えるひとを

 ひよこが羽毛でくすぐる

 くすぐったそうに身をよじる見えるひとの肩を

 ひよこがぽんぽんと叩いた


 ……説得でもするのかと思って見てたら、なにしてんだ

 おい。きゃっきゃしてんじゃねえ



一一七、樹海在住の今をときめく亡霊さん(出張中


 ふん。まあ……いいだろ



一一八、火山在住のごく平凡な火トカゲさん


 お?



一一九、海底都市在住のごく平凡な人魚さん


 え? なに? どういうこと?



一二0、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 何やら納得した様子の見えるひとが

 館の壁を突き抜けて、いったん外に出た

 便利な身体だ


 そして戻ってくる

 ステルスは解除していた


 最初に気付いたのはタマさんだった

 ばっと振り返ると、目が合った


タマ「! メノゥパル……!」


 一人や二人じゃないぜ


 総勢で十……いや二十。どんどん増える

 人間の輪郭のようなものが

 次々と壁を透過して大広間へと踏み込んでくる


 タマさんの声に、マヌさんが背後を振り返った

 見えるひとの一人と目が合う


亡霊「……(にこっ)」


 にこっとスマイル


 少女の悲鳴が館内に響き渡った……



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] てっふぃーが元々人間嫌いだったという話とか普段の絡みを考えると超エモい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ