「勇者さんの“漢”を見たい」part5
一六五、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
さて
到着しましたよ
おれ
勇者さんと子狸を
牢屋に放り込んでくるわ
一六六、王国在住の現実を生きる小人さん
待て待て
お前
わかって言ってるだろ?
その前にさ
やるべきことが
あるんじゃないの?
一六七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
そうだな
不自然な形で
会話が止まっちゃったから
ほら
勇者さんが
純真な眼差しで
お前を見てる
一六八、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おい
まじで期待されてるよ……
無関心で
いてくれたほうが
なんぼか
やりやすいんですけどぉ……
え~……?
まじで?
おれがオトすの?
一六九、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
お前なら
できる
一七0、王国在住の現実を生きる小人さん
否
お前にしか
できないんだ
一七一、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
やめて
そういうの
本当に
やめて
本当……
ちくしょう……
やってやるよ!
やってやりますとも!
見さらせ
おれの
生き様!
おれ「飛んで火に入る夏の虫とは、お前のことだな」
死にたい
一七二、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
勇者「…………」
続きは?
みたいな目で
見られてますけど……
一七三、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
なんなの
この子……
本当に
子狸と同い年なの?
末恐ろしいにも
程があるだろ……
おれが
悪いの?
おれが
悪いんですね……
本当
ごめんなさい
一七四、王国在住の現実を生きる小人さん
いや
お前は
よくやったよ
あれ以上は
ない
少なくとも
おれには
とても無理だ
そう気に病むな
連合の
悪いけど
勇者さんと子狸
連れてってくれる?
洞窟の奥に
牢屋があるから
二人を放り込んで
見張りしといて
んで
適当なタイミングで
居眠りな
一七五、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おう
帝国の
元気
出せよ
王国の
代わりに
お馬さんの世話と
焚き火の準備
しておいてくれ
一七六、王国在住の現実を生きる小人さん
おう
青いひとは
いつも通り
子狸に
ついててくれ
連合のが
居眠りしたところで
子狸を起こして
目覚めた子狸が
魔法で
牢屋の鍵を連合のから
拝借する
っていう手筈で頼む
一七七、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
待て
大丈夫か?
その流れだと
子狸が
一時的とはいえ
完全に
野放しになるぞ?
一七八、王国在住の現実を生きる小人さん
良くはない
が
第一印象っていうのは
大きい
最初から
おれたちが
あれこれと
指示を出すと
子狸のキャラが
ぶれる
という結論に至った
最悪
謎の覆面戦士ルートに突入する
それだけは
覚悟しておいてくれ
一七九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
おう
わかった
問題ない
覚悟なら
とうに決めてる
だが
くれぐれも
油断はするな
お前らも
薄々は察していると思うが
この勇者
子狸とは
役者が違う……
一八0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
それは
おれも思った
鬼のひと
場合によっては
あれも
視野に入れておいてくれ
流派を
特定できれば
だいぶ
絞れるかもしれない
あとのことは
子狸さえいれば
正直
どうとでもなる
一八一、王国在住の現実を生きる小人さん
おう
じゃあ
作戦開始な
ほら
帝国の
薪を集めに行くぞ……
と優しく肩を叩いて促します
一八二、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
お馬さんを
さりげなく
最適と思われる
逃走ルートの線上に配置します
上で寝そべっている
子狸を引きずりおろして
肩に担ぎます
気分は山賊で
おれ「お前らはこっちだ!」
と
威勢良く声を張り上げて
二人を
洞窟の内部に
いざないます
一八三、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
ステルス状態を維持しつつ
あとを追います
雰囲気を
盛り上げるために
触手を先行させて
足元に
そよそよと冷風を送ります
勇者「あったかい飲み物とかないの?」
台無しです
一八四、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おれ「はっ。寝言は寝て言え」
子狸「ん……お茶……」
子狸によって
おれの要求は
即座に果たされました
お前らに再確認します
本当に
このまま進めて
いいんですね?
一八五、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
再検討の
余地ありと認めます
主催は至急
返答をお願いします
一八六、王国在住の現実を生きる小人さん
了解
お前らに
子狸の
早期排除を提案します
一八七、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
具体案を
お願いします
一八八、王国在住の現実を生きる小人さん
具体案を挙げます
寝ている子狸を
先に連れ出して
丸焼きにします
尊い犠牲でしたと
勇者に
ご理解頂きます
一八九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
異議あり
ご理解頂ける
勇者は
嫌です
一九0、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
異議を
認めます
鬼のひとは
気合と
根性で
シナリオを継続して下さい
一九一、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
決議に従い
気合と
根性で
シナリオを継続します
おれ「のんきなもんだぜ。人間ってのはよ」
と
お亡くなりになった
緊張感を
不死鳥のごとく
よみがえらせます
勇者「なんなの? それ」
お前らに報告します
勇者が子狸に
興味を示しました
いえ
誤報でした
よくよく考えてみれば
物扱いです
一九二、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
妥当な線であると
勇者の見解を支持します
ただし
内心はどうあれ
子狸の人権を
尊重して下さい
お前「おいおい。お仲間だろ?」
一九三、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
勇者「そう見えるの?」
言外に拒否されました
お前らに報告します
彼女とは
気が合いそうです
一九四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お前らに
お願いします
気が向いたときで
一向に構いませんから
お屋形さまの存在を
たまには思い出して下さい
一九五、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
訂正します
おれたちの
子狸さんに
なんてことを言うんだと
おれ憤慨します
懇々と
お説教したいところですが
洞窟の最奥部に
到着したため
また次の機会にします
一九六、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
子狸さんの存在は
いつでも
おれたちを勇気づけてくれると
おれ復活します
一九七、王国在住の現実を生きる小人さん
復活したお前と
一緒に
焚き火の前で
踊ります
一九八、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
復活したお前に
歓喜の雄叫びを上げます
おれ「よしっ……! よしっ……! さ、入れ! 大人しくしてろよ! 見張ってるからな!」
小躍りしながら
見張りに立つおれを
勇者が
ひどく残念そうな
眼差しで見ています
が
まったく気になりません
作詞作曲おれたちの
おれたち☆魔物!
を声高らかに披露します
子狸「……いぇい……」
お前が乗るなぁぁぁああああああああ!
もうだめです!
限界です!
これ以上は
子狸の暴走を制御しきれません!
早急にシナリオを進めて下さい!
と
お前らに具申します
一九九、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
お前の
申請を受理します
振り付けの途中で
こん棒を頭上に投げて
景気良く
気絶して下さい
その際
牢屋の鍵を
絶妙な
ポジションに落として下さい
二00、連合国在住の現実を生きる小人さん(出張中
おれの
イメージが心配ですが
実行します
実行しました
勇者「…………」
おれの完璧な仕事を
お前らだけは
理解してくれると信じてます
二0一、王国在住の現実を生きる小人さん
おれたちの間に
言葉はいらない
と惜しみない賛辞を送ります
二0二、帝国在住の現実を生きる小人さん(出張中
次は
おれたちの番だ
と静かなる闘志を燃やします
二0三、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん
おれたちも
負けてはいられないな
と決意を新たにします
二0四、王都在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中
失敗は許されない
と全身に緊張感を
みなぎらせます
そして
とうとう
本日の山場を迎えます
子狸にかけた
睡眠の魔法を
解除します!
注釈
・謎の覆面戦士
勇者の危機に颯爽と現れる謎の戦士。
ときおり真の実力を発揮する、人類の限界を遥かに超越した魔法使い。
その正体は謎に包まれているが、参上と同時に崖下に転がり落ちるなど、お茶目な面もある。
非常に便利な存在であるものの、行動原理が破綻しているため、旅の進行とともに雪だるま式に設定がふくらみ、最終的には魔物たちの手で謀殺されることとなる悲劇の戦士。
壮大な噛ませ犬という心ない意見も……。