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しいていうならお前の横を歩いてるのが魔王  作者: たぴ岡
この戦いが終わったら、故郷で小さな店でも持とうと思ってるんだ……by山腹のひと
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「開戦」part2

 登場人物紹介


・大将


 王国騎士団が誇る大隊長の一人。

 お名前は、ジョン・ネウシス・ジョンコネリ。ネウシスは「将軍」の意であり、大隊長に贈られる称号名である。  

 厳格な人物で、規律を重んじる大騎士。

 魔物たちが開催しているリアクション大賞において、おだやかリアクションと呼ばれる芸風で天下を取る。

 子狸を抑えての堂々のディフェンディングチャンピオンである。


 出撃回数三千回以上というのは、あくまでも大隊長に選ばれるための最低ラインであるため、じっさいの出撃回数は四千回を越えている。

 これは大隊長に共通して言えることだが、戦場にいるだけで騎士たちの士気が上がる便利な人である。

 なんだか知将のイメージがもれなくついてくるものの、参謀たちの働きによるものが大きいようだ。

 周囲の人間たちが優秀で、まじめにがんばっていたら、気付けば出禁を食らっていた。

 大隊長あるところ事件ありを地で行くおじいちゃんである。

八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 魔弾だ――


 おそろしく精密な魔法コントロールだった


 具体的な原理は検証してみないと断言できないが

 おそらく弾丸を高重力環境から撃ち出したのだろう


 凶弾に倒れた将軍が、液状化して水たまりみたいになる……

 致命傷だった


 いったい何が起こったのか

 現場に居合わせた四人の軍団長たちには理解できなかった

 あまりにも一瞬の出来事だ


軍団長A~D「しょ、将軍――!?」



九、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 くっ、間に合わなかったか……


 山腹の~!



一0、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 え、なに?


 どうしたの、そんなに慌てて



一一、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 ですよね


 安心の魔物クォリティだった……


 ごめん、なんか雰囲気だったわ



一二、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ちょっと~やめてよね


 なんか、おれ本気でやばいのかと思ったじゃん



一三、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 ご歓談中すまないが


 ……まずいんじゃないか、いまのは?


 あきらかに治癒魔法でカバーできる範囲を逸脱してるぞ



一四、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 そのへんは、大将たちも理解してるみたいだな


 一定の間隔で特装騎士を配置すれば、連絡を取り合うのは簡単だ

 狙撃手からの報告を聞いて、大将が頷いた


 参謀たちは懐疑的だ


老騎士A「……やったか?」


老騎士B「気に入らんな、おれは」


 特装騎士の新技は賛否両論のようである


 老騎士Bが、大将に近寄って真意を問い質す


老騎士B「……ジョン、なぜあの男の案を呑んだ? わかっているだろう。あれは“死”そのものだ。取り返しのつかない災厄を撒き散らしかねんぞ」


 連結魔法が普及して以来、人間たちの戦争を牽引してきたのは魔法だった

 魔法なら治癒魔法でなかったことにできる

 最低限の保証がある戦争だった

 それは秩序だ


 将軍を撃ったのは

 その秩序に風穴を空ける一打だった


老騎士B「ジョン」


 ふたたび詰め寄られて、大将はゆっくりと口を開いた


大将「……豊穣の巫女というのがいるだろう」


老騎士B「魔女か」


大将「そうだ。お前の孫と同じ年頃だったな……。おれは一度だけ会ったことがある。あれは、まあ……天才というやつだな。ずば抜けている」


 思想はどうあれ、彼女はれっきとした犯罪者だ

 騎士団は巫女さんを追っている


大将「彼女の論文を読んだことはあるか? おれは、ほとんど理解できなかった。だから、それはいいんだ」


 巫女さんが学会に送りつけた論文は

 はっきり言って犯行声明のようなものだ


 自分の手口を堂々と明かしたのだから

 ひどく挑戦的で

 対処できるものしてみろという内容だった


 それはいいのだと大将は言う


大将「だが、連弾は違う」


 連弾。それが正式名称なのか


大将「誰が思いついても不思議じゃねえ……。そう思った」


 ちっ、やっぱりそういう……?


 おい、どうする? 罠だぞ



一五、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 ……海底の、お前が来たってことは

 勇者さんは緑のひとに会ったんだな



一六、海底洞窟在住のとるにたらない不定形生物さん


 おう。やっぱり宰相なのか……?



一七、山腹巣穴在住のとるにたらない不定形生物さん(出張中


 だろうな。おれを撃った特装騎士は、あきらかに特殊な訓練を受けてる

 しかも一夕一朝じゃない

 あの距離から当てるんだから、相当なもんだ

  

 ……いいだろう。乗ってやるよ

 海底の、すまんが通達してくれ


 新ルールの追加だ



一八、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 予兆――


 最初に異変に気が付いたのは、北方方面の軍団長だった


軍団長D「将、軍……?」


 水たまりの底で

 小さな光たちが踊っていた


軍団長C「! これは……!」


 軍団長Cが、Dを押しのけて水たまりを覗きこむ


軍団長C「覚醒の、前兆だ! 目覚めるというのか? いったい、なぜ……」


軍団長A「っ……将軍!」


軍団長B「将軍! われわれはここです!」


 将軍のなれの果てを取り囲む軍団長たちは

 狙撃手にとって絶好の的だった


 大気を切り裂いて飛翔した弾丸を

 水たまりから伸びた触手が掴み取った


 ――天の川のようだった


 星くずを散りばめたような

 きらめく触手に

 軍団長たちが感嘆の声を上げた


 じゅうぶん弾丸の感触を確かめてから

 ぴくりと震えた触手が

 はるか遠方にいる狙撃手へと矛先を向ける

 


一九、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 事態の推移を見守っていた観測担当は戦慄した


観測担当「本部、聞こえますか。“原種”です。原種が現れた……いや、原種に、なりました」


 それでも職務を果たそうというのか

 懸命に報告を繰り返す


観測担当「繰り返します。原種です! 目標は原種になりました! 指示を!」



二0、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 観測担当の報告に本部は騒然となった


老騎士C「原種だと!?」


老騎士D「原種になった? “なった”と言ったんだな?」 


老騎士E「……撤退しろ! 急げ! まだ完全ではないかもしれん」


大将「…………」


 大将は動じない。正面を見据えたまま、きつく眉をしかめていた


 老騎士Gが小さく舌打ちしてから、大将の肩を揺さぶった


老騎士G「おい、ジョン。どうする? 厄介なことになったぞ」


 振り返った大将は、ふてぶてしく笑った


 ジョン・ネウシス・ジョンコネリは、厳格な闘将として知られている

 よく配下の騎士たちを怒鳴りつける。よく殴る。よく蹴る。とにかく乱暴だ

 しかし不思議と多くの部下に慕われ、あとをついてくる者が絶えない

 確固たる信念がそうさせるのだと、ふだんの彼を見ていればわかるからだ


 国王は、彼を評して騎士団の正義は彼とともにあると絶賛した――


 その大将が言う



大将「プリン食いてえ」



 正義はプリンとともにあった


 ……必ずしも知略に優れた人間が大隊長になるとは限らないのだ


 ため息をついた老騎士Gが、近くにいる特装騎士に言う


老騎士G「現時刻を以って連弾を破棄する。破棄だ! 即刻、手持ちの弾丸を焼却するよう伝えろ」


 慌ただしく奔走する特装騎士たちをよそに

 老騎士Fはひそかに大将と話し合っていた


老騎士F「……ジョン。太っちょが包囲を突破した」


 太っちょとな


老騎士F「しかし原種とはな……あれは使えんぞ。どうする?」


 なにか奥の手を隠し持っているようである


 大将は言った


大将「どうするも何もねーだろ。勇者に託すさ」


老騎士F「……アリア家の娘か。なぜあの子なんだ?」


大将「ああ。なんか引っかかるな。勇者はべつにいるのかもしれねえ……」


 勇者さんにいちゃもんを付けるとは……

 罰当たりなプリンである



二一、山腹巣穴在住の現実を生きる不定形生物さん(出張中


 プリンをご所望の大将はともかく

 即座に現場を放棄した観測担当と狙撃手は

 いっさいの未練を振りきって樹上から飛び降りた


 さすがは特装騎士といったところか

 減速魔法ひとつ取っても無駄がない


 一瞬でも遅れればレクイエム毒針の餌食だった


 ぐるりと木の幹に巻きついた触手が

 ぼこりと

 いびつに膨れ上がるのを二人は見た


 触手の届く範囲なら

 どこでも本体を移動できる


 これが原種だ


 よみがえった将軍が、まがまがしく笑った


将軍「なにをした……人間……」


 逃げきれないと悟った二人の騎士が

 互いに目配せをして瞬時に臨戦態勢へと移る


 詠唱しながら左右に散って

 低い体勢から照準を合わせた


 特装騎士は単独でも戦えるよう訓練された人間だ

 個人としては人類トップクラスの戦闘能力を持っている


 しかし原種は……


 頭上から雨あられと降りそそいできた触手の

 その全てが本体の避難所になる


 飛び退いた狙撃手を

 原種が追うと読んだ観測担当が圧縮弾を撃つ

 質、量ともに申し分ない攻撃だった

 

 直撃する――


将軍「レイ」


 原種の固有スペルだ

 飛翔する圧縮弾を、硬質の触手が余さず串刺しにした


狙撃手「逃げろ!」


 盾魔法で作った力場を空中にばら撒きながら、狙撃手が突進する

 ほとんど瞬間移動できるような相手から逃げきれるわけがない

 原種の注意を惹きつけるのが狙いだ


 なにか大技を用意しているのだろう


 だが、そんなものを意に介さずとも

 正面から叩きつぶせるだけの速さが原種には備わっている


将軍「エリア」


 変化魔法の真髄は形状操作にある

 元来、人間たちに使いこなせる魔法ではないのだ


 液状化した将軍が地表にひろがり、二人を体内に引きずりこむ

 小細工すら許さない圧倒的な実力差だった


 気絶した観測担当を放り出し、巨腕と化した触手で狙撃手を締め上げる


将軍「さあ、話してもらおう。なにをした?」


 もしも十億の兵士が等しく原種になれるなら

 衝動的にそう考えた将軍だったが、すぐに考えを改めた


将軍「……いや、その必要はない、か」


 そうつぶやいて、将軍は狙撃手を放り捨てる


 薄れ行く意識の中で、狙撃手は魔物の哄笑を聞いた……


将軍「力とは貴重なものでなければならん……。そうだ……。あの、つの付きですら成し遂げられなかった……」


 それは野心だった


将軍「王都を陥とす……。次の元帥は、このおれだ……」


 じつのところ、鬼のひとたちはとうにアリア家を発っている

 目的を見失いつつあった山腹軍団は

 いつしか引っこみがつかなくなっていたのであった……


 どこに行ったの、鬼のひとたち……



 注釈


・原種


 空中回廊に出没するとされる強力な魔物たちの総称。

 つまり、ちょっと本気を出した魔物たちである。

 都市級の魔物たちは単純に「色違い」と呼んでいるようだ。

 なんとなく気分で見た目も少し変えてみたらしい。

 魔王の設定を流用しているため、地上に適応した種ということになっている。


 今回、登場した不定形生物さんの原種バージョンは「エルメノゥポーラ」と呼ばれていて、身体の中が満天の星空みたいになっている。

 触手に体幹を移すことができるらしく、ほとんど瞬間移動に近いことが可能。

 また、ある程度までなら魔法を使えるようだ。触手に頼った戦い方をするので、開放レベルは不明。

 固有スペルの「レイ」は「力」の意。触手を強化できる。

 固有スペルというよりは、自分自身が「ポーラ」なので、その部分は省略しても構わないだろうという謎の理屈で成り立っている。


 新ルールにより、銃弾を受けるとふつうの青いひとも原種に進化するという設定が追加された。

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