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ワタシは桜

作者:キュウ
 彼等の目の前を、ふんわり輝く桜がちらりと横切った。
 時節は冬を凌いだ大地が誇りだかく温もる、憩いの春。とある町の一角、整然と並んだ桜の、その花をいっぱいに咲かせた並木路を、十人十色の人々が賑やかに歩いている。溌剌とした言葉は人から人へ、誰かの笑みは風のように渡り、桜の存在にも圧し負けないほどの快活さで、その桜並木の道を彩っている。
 ……ある少年少女は、今日から始まる何もかもが新しい小さな世界に、その小さな胸を大きく弾ませて、身の丈をも凌駕する大幅な一歩一歩で、手を取り合い駆け合っていた。
 後ろに背負ったランドセルの上、そして林檎みたいなほっぺの輝く真ん丸の頭上に、数枚桜の花びらを乗せて、それらを払っては見せ合い、払っては笑い合い、彼等は桜並木の下を、桜に見つめられながら、一期一会の光たちがさざめき輝く道の先へ、揺るぎない足取りでまっすぐ進んで行った。
 ……ある二人の若者は、これからも続いていく新たな生活と想いをそれぞれが抱き、時にはぶつかるかのもと危惧しながらも、それら全てを共有しているという喜びを思い出すようにと祈りつつ、互いに笑い合っていた。
 頭に数枚の桜を乗せて、それらを指差し払い合い、また乗れば一枚掴んで見せ合い、彼等も桜並木の下を、桜に微笑まれながら、天衣無縫の白雪みたく輝く道の先へ、迷いない足取りで進んで行った。
 ……ある家族は、皆が今も隣に居てくれていることに安堵しつつ、ひょっとしたら何か起こってしまうかもしれないという不安もわずかに孕ませて、互いの絆を確かめるために笑い、声を出し、手を取った。
 優しくも堅く繋いだ手に数枚の桜を乗せて、たわわのように手を揺らしては落とし、揺らしては落としを繰り返し、彼等もまた桜並木の下を、桜の声援に負けぬ呼応の笑顔で、春先に輝く日の光のような道の先へ、陽気に進んで行った。
 数えきれないほどの人々が、その数だけ異なった心持ちで、そこを歩いていた。彼等のほとんどが、未来にゆらめく新鮮な景色に胸を躍らせ、気持ちを高揚させていたものだが、中には、今すぐ嘆きたいのを必死に抑え込み、桜の煌々としたさまに素直に気持ちが温められず、皮肉なんて感じてしまい、余計な痛手を負う者もまた居た。
 それら全ての者達を、桜は穏やかに見守っていた。
 たとえどんな時だろうと笑みを絶やさず、感情的にもならず、ただ、見守っていた。

 ――ある少年が桜の下を走る。友人と待ち合わせをしているが、あと少しで遅刻となってしまうため、息を切らせながら、脚に来る痛みなど気にせずにとにかく走っていた。
 彼の中の焦りは足を進ませれば進ませるほど膨らんでいく。その友人には一刻も早く会わなければならなかった。……こんなに美しい春の季節だろいうのに、これで「最後」になってしまうだろうから、今日はなんとしても会う必要があった。
 その友人の笑みを眼前に思い浮かべると、抑えていたたくさんの情景が栓を抜いたように溢れ出し、少年は少し涙する。そしてしばらくすると、少しだったはずの涙は、今にもどっと流れ出しそうになってしまうくらい、だんだんと悲痛に重いものになっていった。
 ――それでもワタシは、いつでも見守っています……。
 不意に、そう声をかけられた気がして、少年は立ち止まって振り返る。そこに広がるのは、ここまで辿ってきた石畳の道。桜並木の間をぬって、黄金に輝く過去の景色。声のしたものの誰も居ないことに首を傾げ、なんだかホッとするような声だったなぁなんてだけ思い、また前を向き直って、その路を走り抜けて行った。
 ――春の間だけですけど、ほんの、一瞬のことですけど、それでもワタシは、いつでも見守っています……。
 今度はもう、その温かな声には気が付かず、眼前に広がる光を寄せた前だけを向いて、知らず知らず笑みを浮かべながら、他の人々と同じように、その道を、先へ先へと進んで行った。不思議と湧き上がる安堵と期待に背を押されて、彼はよどみない足取りで、脇目も振らずに駆けて行った、
 ……やがて時は流れて、春が終わり、夏が過ぎ去り、秋が訪れて、少年は、もう無理だと思われた友人との再会を、その日もまた果たすことができた。
 枯れた桜のざわつく枝が風を切る下で、多くの人々に、祝福されていた。
 ――それでもワタシは、いつでも見守っています……。
 今度も少年は、その声を耳にしたが、やはり今度もその正体には気も散らさないままだった。
気が早いかもですが、もうすぐ春ですね。
きっとみなさんそれぞれが違った想いを抱いていることでしょう。
今から胸の踊ることしきりですが、
ぜひとも、色んな想いが至るところに在る、というのを意識してみましょうね♪

HP(→http://kyunote.blog.fc2.com/)にて
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