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30。 シイナのおいしいレストラン(開店準備中)
5月27日

カエデ『次の時間、調理実習だよね?』

シイナ『何作るんだっけ?』

まりあ『穂積ロンチーノに牛ゼリー』

シイナ『………!?』

カエデ『…穂積ロンチーノ…?』

まりあ『昨日イタリアから独立したウタマリアって国の古くから親しまれている郷土料理らしいわ』

カエデ『…昨日独立したんじゃないの?』


シイナ(穂積ロンチーノ?…ぺぺ…?)


 まりあとカエデは話をしながら教室を出て行く。

シイナ『オレは牛ゼリーの方が気になるけど…』


ー家庭科室ー

「肉江ヤモリのプリプリキッチ〜ン♪ヒャッホーイ」

まりあ『………』

シイナ『………』

カエデ『………』

「肉江先生レシピを教えてください」

まりあ『何あれ?』

シイナ『家庭科の肉江ヤモリ先生』

まりあ『………』

「皆さ〜ん、日本刀の扱いには充分注意してくださいね〜」


「んなもんで切らせんなよ」


まりあ『穂積ぺぺはどこかしら』

シイナ『………』

カエデ『………』

「え〜では、穂積ロンチーノから作っていきましょう」

「はーい」

「本来は材料にぺぺ肉を使用するのですが、さばく直前で逃げられたので魚肉を使います」

シイナ『………』

「ちなみに鮎です。でも長瀬と別れた方の鮎ではありません。居場所が無かった鮎ではありません。未来には期待できるのか分からなかった鮎ではあ」

「進めてください」

「まず鮎を乱切りにします」

シイナ『ええ…。ちょっ、内臓は…?』

「目玉は飾りに使いますので最初に取り除いてください。しかし目玉のきれいさはうらら学園の園長には叶いません」

シイナ(…シカトされた…)

「次にいちょう切りにしたニジマスにごめんなさいと言いましょう」


ぼそぼそ

まりあ『…これ鮎じゃなかったっけ?あと乱切りって言ってなかった?』

ぼそぼそ

シイナ『何でもいいんじゃん?他の班、しらすを短冊切りにしてたし』

カエデ『(魚に向かって)ごめんなさい』

まりあ『………』

シイナ『………』

「そして原型を留めていない今はただの魚肉の塊にミキプルーンで下味をつけます。その際、頭の中で中井貴一を思い浮かべながら行うとよく味が染み込むようです。中井貴一が言ってました」

カエデ『誰?』

まりあ『中山美穂の妹さん』

シイナ『いや、違うでしょ』

「次にフライパンに、ごま油とオリーブオイルを3:4:6で混ぜ合わせたものを薄く引きます」

まりあ『……えっ?』

シイナ『大丈夫。言わんとしてる事は分かるよ』

カエデ『3:4:6ね…』

シイナ『………』

まりあ(もう1つ何を入れるつもりだろう…)

 カエデが調味料を手に取り混ぜ合わせていく。しかしその中にはごま油もオリーブオイルも含まれてはいなかった。

まりあ『………』

シイナ『………これ愛のエプロンよりひどいんじゃないか?レシピ自体が』

「は〜い!では油を薄くひいたフライパンを一度洗いましょう」

まりあ『………』

シイナ『………』

カエデ『………』


 ゴシゴッシ♪すすいだ瞬間ギュギュッと落ちてる♪


「洗いましたか〜?それでは別のフライパンを出してくださ〜い」

まりあ『え?今、洗い終わったフライパンは…?』

「しまって結構ですよ〜」

まりあ『………』

 肉江がにこりと微笑む。この女は天使の顔をした楽太郎だ。

「それでは新しいフライパンにマーマレードを……あら、そこの君…」

シイナ『…え、オレですか?』

「見た所、甘そうね?」

シイナ『…え?まあ優しいとは言われますよ』

「でも、ちょっぴり苦そう」

シイナ『…はい?』

「甘いんだけど、ちょっぴり苦い…だから…そうね、マーマレードボーイ…なんてどう?」

シイナ『………』

 まりあが割って入る。

まりあ『それはマンガになってるしアニメにもなりました!!いいから料理の指示をしてください!!!』

「…分かったわ。小石川さん。あなたはマスタードガールね」

まりあ『私は小石川じゃない!ついでにマスタードガールでもない!』

「それではフライパンにマーマレードを入れて煮詰めてください。その間少し時間があるので先生のいい所を1人2つずつ言ってみましょう」

まりあ『嫌です』

シイナ(しかも2つずつって…)

「なぜですか?アリアさん」

まりあ『G線上じゃねえよ!!』

ー5分後ー

「なぜですか?角野さん」

まりあ『角野卓造じゃねえよ!!』

シイナ『………』

カエデ『先生。もう充分煮詰まってますよ』

「それではその中にミキプルーンで下味をつけた今はただの魚肉の塊を入れて再び煮詰めます。そうしたら“鮎と貴一の出会い、長瀬は添えず”の出来上がりです」

「穂積ロンチーノじゃなくなってるし…」

「では、煮詰めている間に主食の牛ゼリーを作っていきます」

まりあ『えっ?今作ってる生臭い甘ったるい煮物が主食じゃないんですか?』

「これはデザートですよ」

シイナ『デザート…』

「材料ですが、近くの農業高校から仔牛を一匹お借りしてきました」

カエデ『…返せるの?』


−−−−−


「モォーッ!」

 じたばたしているかわいそうな仔牛。しかし売られては行かない

「こらっ!神妙にしやがれっ!」

ペシッ!

「モォーッッッ!!」

「このオッペケペーがっ!」

ペシッ!

まりあ『………』

カエデ『……誰か止めたほうが…』

シイナ『……無理だよ…目がイっちゃってる』

「この豚野郎っ!!」


「牛です」


ー5分後ー


まりあ『…牛おとなしくなった…』

カエデ『…き、きっと眠ってるだけよ…』


 その時シイナの横を小さい何かが通り過ぎていった。

シイナ(…ネズミ…)

 目で追っていくとそのネズミは調味料を手に取り、おもむろに鍋の中に入れていく。その瞬間シイナと目が合う。

かたまる2人。いや1人と1匹。


シイナ『………』

「………」


 とっさにシイナは他のみんなにバレてはまずいと思いネズミをどこかに隠そうとする。


しかし

「キャーっ!先生ネズミよっ!」



「なぁんだとぉぉっ!!オイ!マーマレードボーイ!そのネズミを殺しやがれっ!でもここでじゃない!家庭科室にネズミが出たなんてバレたら大問題だからなぁ!!遠くだ!遠くへ行って殺してこいっ!!!」

 シイナが慌ててネズミを近くにあったビンへと入れる。

 肉江の怒号と共にシイナは家庭科室を飛び出した。

−−−−−

−−−




シイナ『…はぁっはぁっ…』

 学園の近くを流れる川へとやってきたシイナ。ビンの中のネズミへ目を向ける。少し怯えているようだ。

シイナ『怯えなくていいよ。…君は料理ができるのかい?』

 ネズミは黙ってコクリと頷く。

シイナ『人間の言葉が分かるんだね、すごいや』

 シイナはしばらく無言でネズミを眺めている。

シイナ『…ここを出たいかい?』

 ネズミは何度も何度も頷いた。

シイナ『じゃあオレと一緒に料理をしよう。そしてオレと君でパリ一番のシェフを目指そう。それならここを出してあげる』


 ネズミは首を横に振る。


 同時にシイナはビンを川へ投げ捨てた。



まりあ『ちょっ。あんた何やってんのよ』

カエデ『物語終わっちゃったじゃない』

 案の定着いてきていた2人が物影から出てくる。

シイナ『…大丈夫だよ。ビンのフタは緩めといたし、マシンガンぶっ放すババアもいないし、ここの下流は浅瀬だし岩か何かにでも引っかかるだろ…』

 どこか寂しげなシイナの横顔。まりあとカエデは黙って見ている。

シイナ『がんばれよ!リトルシェフ!!応援してるぞ!お前の門出を祝ってやる!』

 シイナは流れ行くビンにずっと手を降り続けた。ずっとずっと


−−−−

「皆さ〜ん、よく噛んで食べましょうね〜?言いましたよ〜?言いましたからね〜?喉に詰まらせて死んでも知ったこっちゃありませんよ〜?なんなら、こんにゃく畑でも出してやろうか?クックック…」

(鬼だ…)

まりあ『まずっ』

カエデ『しっ』


−教室−

 シイナが浮かない表情で頬杖をつきながら窓の外を眺めている。

カエデ(…気になるならじゃあどうして投げ捨てたのよ…)

まりあ(…シイナ…)

 その時まりあが何か気配を感じ足元に目を落とす。

まりあ『……ちょっ!シイナ…!』

 シイナは上の空で耳に入っていないようだ。

 カエデも気づきシイナに呼びかける。

カエデ『ねえシイナ!』

シイナ『…え?』

まりあ『下!ほら!』

 シイナが足元に目を落とす。

シイナ『……お前……』


「ちゅー」


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