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23。 踏み込む
「ユカ!!」


「…パパ……。」


 目の前に現れた、スーツ姿の30代前半と思われる男性をユカはパパと呼んだ。



カエデ『…お父さん…?』



「どこ行ってたんだ!!心配しただろう!!」



「……ごめんなさい……。」



 ユカの父がカエデに目を向ける。目が合い、カエデが急いで頭を下げた。……が、特に彼は何の反応もしない。それどころか彼の様子がおかしい。瞬き1つせず、固まったままカエデの事をじっと見ていた。
 あの時のユカと同じ眼をして。



カエデ『…ちっ、違うんです!わ、私は誘拐犯なんかじゃなくてですね!!第一こんなかわいい誘拐犯なんて……やだ…かわいいだなんて……照れる……盗むのはマヤマさんのハートだけで充分です……ってそれじゃ窃盗犯じゃないですかぁ!!ルパンザサ〜♪』



「………ナナコ……。」



 彼の口から発せられたその言葉は、またしてもカエデを悩ませるのであった。



カエデ『………………?』



 ユカが父親の心情を察し、声をかける。我に返った父親は少し動揺しながら口を開いた。


「あ……ど、どうもすいません………知人に……よく似ていたもので……。」



 カエデは少し躊躇いながらも言葉を返す。



カエデ『……奥さん……ですか……?』



 ユカの父親は少し驚いた表情を見せ、多くは語らずに『場所を変えよう』と提案してきた。

 その提案に対しどこか戸惑いを見せるカエデに、彼はようやく気がついた。





「…いったい…どうされたんですか…?その制服は……。」


−−−−−

−−−




−ゼントアクパーク−


「本当に申し訳ありませんでした。」

 ユカの父親が深々と頭を下げた。ユカも父親に次いで慌てて頭を下げる。

「制服のクリーニング代はもちろんお支払いいたします。でも……明日も学校がありますよね……?」

「…ごめんなさい、パパ…。ユカのせいで……。」

 ユカの不安な気持ちを払拭しようとカエデが笑顔で声をかける。

カエデ『ユカちゃんのせいなんかじゃないよ。大丈夫だから。あとクリーニング代の方も結構です…。明日の学校も、もうすぐ6月ですから夏服を着ていく事も可能なので…、どうかお気になさらないでください。(カエデは制服を夏服、冬服合わせて67着持っている。何のためかは不明。)』


「いえ、そういう訳には…。」


 困った表情を見せるカエデ。しかし次にはひらめいた様子で再び喋り出した。


カエデ『……実は家、クリーニング店なんですよ。ウチのパパにかかればこんな泥汚れ、明日の朝にはきれいに無くなってますから大丈夫です。ですから…。』

 自分に向けられるカエデの暖かい眼差し。目を背けるようにユカの父親は俯き黙り込んだ。


カエデ『…………。』


「…………。そうですか…。本当に申し訳ございません………。」


 カエデは顔を上げ空を眺める。気が付けば既に日も暮れようとしていた。木々の間から覗かせる夕日はカエデをノスタルジックな気持ちにさせる。

 こんな気持ちも、初めてだった。



「……あの…。」


 カエデがユカの父親へと目を戻した。



「……怪我などはされていませんか…?」



カエデ『…大丈夫です。ありがとうございます。』


 気遣いを嬉しく思いカエデは微笑み頭を下げる。



「……そうですか…。良かった…。本当に良かった……。」



 カエデは少しぼやけた瞳で彼を捉える。彼は夕日に背を向け逆光という状況の中だったが、カエデは彼の表情を読み取る事ができた。
 彼は、“良かった”と言うのに笑っていない。


笑ってほしい。



「…こんな狭い日本で……、まして東京で……いったいなぜ生き急ぐ必要があるのでしょうか………。」


 カエデは口を開こうとはせず、沈んだ表情で語る彼の横顔をただ眺めていた。


カエデ(とても子持ちには見えないなあ…。(←聞いてない。))


 顔を上げたユカの父親と目があった。2人は数秒間、目を合わせていたがどちらからともなく視線をそらした。そしてカエデは言葉を探す。


カエデ『私もユカちゃんも怪我はしていませんし…“罪を憎んで人を憎まず”ですよ。(←でも爆破した)』


 ユカの父親が初めて笑顔を見せた。でもそれはどこかぎこちなく悲しげな笑顔だった。


「おっしゃる通りですね。しかし…今は子供も安心して外になんて………………………。」


カエデ『……………?どうかされました……?』



「あっ!!!」


カエデ『えっ?えっ?』


「す、すいません…!一番、大事な事を…。本当に娘がご迷惑をおかけしてありがとうございました!!」



カエデ『………………。』



「……パパ……。」



「…………………。」


−−−
−−



「……本当にすみません。そして申し遅れました。私はこの子の父親で遠藤タカシといいます。改めてこの子は娘のユカです。ほら、ちゃんと挨拶しなさい。」

「遠藤ユカです。」


カエデ『私は楓藍といいます。』


「(…カエデアイ…。)…素敵なお名前ですね…。」



 しばらくしてからタカシは遠い目をして、話を切り出した。


「……ナナコというのは私の妻です…。去年、亡くなりましたが……。」


カエデ『………そうだったんですか……。』



「事故だったんです…。前方不注意の……車に跳ねられて……。」



カエデ『…………え…………。』



 カエデが言葉を失う。先ほどの自分のシチュエーション。なぜだかただの偶然ではない気がした。数秒後、視線を感じ顔を上げると、タカシがじっとカエデの事をみつめていた。



カエデ『………私…ナナコさんにそんなに似ていますか……?』



 タカシはカエデから目を放す事無く、言葉を返した。


「……とても……。」


 カエデは少し黙り込んだ。しばらく色々と考えてからタカシにある事を提案する。


カエデ『……では、制服の代わりと言っては何ですが、私から1つお願いを…』


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