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16。 心を持たないマシーンになりたい
キーンクーンケーンコーン。



「では今日の授業はここまでです。今日の復讐は忘れないで下さい。」

「誰に復讐する?」

「…………。とりあえずこの前借りたお金返すね。」





シイナ『あー。疲れた。なあ、まりあ…』

 シイナが後ろへ振り返るとそこには既にまりあの姿はなかった。

シイナ『あれ?なあカエデ…』

 案の定、隣の席のカエデも姿を消していた。



シイナ(…ほんと忍者かよ…)


 シイナは頬杖をつきながら、まるで自分の心の中を映しているような何とも冴えない曇り空を眺める。



シイナ『………まーた…オレ1人のけ者ですか………。』



「あれ?シイナ、カエデどこ行ったか知らないかー?」


シイナ『…知らねえよ。』


 彼はいつもとは違うシイナの様子に気づき少々戸惑いを見せる。

「…わ、悪い………。」





ボソボソ。

「えー何何?いったいどうしちゃったの?」

「……どうしたんだろう。ケンカでもしたのかなあ…?」

「……何だかやっぱり…3人一緒じゃないとやだね…。」





シイナ(何であいつら最近オレの事避けんだよ…。何なんだよ…オレ何かしたのか………?…せっかく……今日は…………)


 シイナは空を見上げ、一度だけ浅くため息をついた。


−数分後−

「あ、まりあ。カエデも。」

 どこかへと姿を消していた、まりあとカエデがいつもと変わらない様子で会話をしながら教室へ戻ってきた。


 2人に気付いたシイナは立ち上がりいつもより少し低いトーンでしゃべりかける。

シイナ『おい、2人ともどこ行ってたんだよ。』

カエデ『……あ、ごめん、シイナ。ちょっと……。』


 まりあがシイナの元へ近づいて来る。


シイナ『今度からは何かオレにも一言言ってくれよ。じゃないと……』


まりあ『……………。』


 しかしまりあはシイナの事が、さも見えていないかのように目も合わせる事なく脇をすり抜けて自分の席に着いた。





シイナ『……………。』



 シイナは何が起こったのか理解できていないのだろう。呆然としたまま、ただその場に立ち尽くしている。
 そんなシイナをカエデは複雑な表情で眺めていた。



 シイナは我に返ったのか慌ててまりあの元へ駆け寄り再び話しかける。


シイナ『…な、なあ、まりあ今日帰りにミスドでも寄ってかないか?おごるからさ。』


 しかしまりあは答える様子さえ見せないどころかシイナと目を合わせようともしない。


シイナ『…なあ、まりあ……。』


 まりあは相変わらずシイナの事を無視している。


 しびれを切らしたカエデがまりあの元へ歩みよっていく。



カエデ『まりあ、やりすぎだよ!!もういいじゃない!!』


 その瞬間まりあは冷酷な眼でカエデをにらみつけた。まりあの、今まで見せた事もない表情にカエデは恐怖を覚える。


まりあ『何よ?あんたも同じにされたいの?』


カエデ『………まりあ…。』





「…一体どうしたの…?」

「…まりあちゃんが小沢真珠に見えてきた…。」





キーンコーンカーンコーン。

 チャイムと同時に扉が開き、教師が入ってくる。

「ほらほら授業始めますよ。席に着く着く!!……………ん?……どうしたの?椎名くん。そんな所に突っ立っちゃって。早く席に着きなさい。それともお前はフラミンゴか?フラミンゴなのか?フラミンゴは立ったまま寝るっていうからなぁ!!お前も立ったまま寝るのか!?立ったまま勉強するのか!?それとお前は椎名フラミンゴか!?それとも椎名フラミンゴ明人か!?いっちょ前にミドルネームか!?ミドルネームなのか!?それともお前はトーテムポールか!?」


「……先生もうやめてください。」


 シイナは教師の声が耳に届かないのか、うなだれたまま立ち尽くし従う様子を見せない。


カエデ『……シイナ……。』


 まりあはまったく動じる事なくただ前だけ一点を見ている。


 シイナがそっと口を開いた。


シイナ『……なあ…カエデ……。何か…オレやっちゃったか……?何か怒らせるような事しちゃったのか……?…オレ…どうすればいい……?…ごめん……本当に……ごめん……。』



カエデ『ううん。シイナが悪いんじゃ…』



まりあ『早く席についてください!!』



 クラス全員、驚いた様子で戸惑いを見せながらまりあに注目をする。


カエデ『………まりあ。あんたこんな事して本当に楽しいの…?』


まりあ『それどういう意味よ。』


 まりあのカエデを見る眼は明らかにいつもとは違う。笑っていなかった。


カエデ『………ごめん…。何でもない。』


 カエデがシイナへと顔を向ける。


カエデ『…シイナ……。とりあえず今は席について。』


 シイナは無言のままカエデの顔を見返す。


カエデ『大丈夫。時間が解決してくれるから…。』


シイナ『……時間が……?』






「早く座れ言うとろーが!!!お前はトーテムポールか!?トーテムポールなのか!?」

「先生もういいですから…。」

「トーテムポールって懐かしいね。」






キーンコーンカーン。


−昼休み−

まりあ『さっ。カエデ、お昼食べましょ。』

カエデ『うん。シイナ、お昼食べよ。』

シイナ『………え……オレもいいの……?』

カエデ『いいよね。まりあ。』


 カエデとシイナのみならずクラス全員がまりあに注目をする。



まりあ『……か、勝手にすれば。』



シイナ『まりあ…。』


まりあ『…私はあっちで食べるから。』



 そう言うとまりあは超熟6枚切り一袋とピーナツバターを持ってどこかへ向かう。



「欧米かっ!!」

「欧米とかいう問題じゃない……」



シイナ『……。』

カエデ『勘違いしないで…。シイナが悪いんじゃないから……。』

シイナ『ほんとに…?じゃあ何で急にあんな態度とるんだよ!何で最近オレを避けるんだよ!』

カエデ『……それは…言えない…。でも…今は耐えて…。』

シイナ『……。』





−文芸部−


マヤマ『で、何でここに来たの?何かこれじゃ僕はいつもここにいるみたいじゃないか。僕は保健室のおばはんじゃないんだよ。』

まりあ『じゃあ何でいんのよ。』

マヤマ『…………。』

まりあ『とりあえずお茶でも入れていただけますか?』

 まりあは持ってきた超熟6枚切り一袋とピーナツバターを机に並べる。

マヤマ『なんでピーナツバターのサンドにお茶なの…。』

 まりあは超熟6枚切り一袋の中から1枚取り出し、そのままかじりついている。

マヤマ『……。』



 数分後、マヤマが入れ立てのお茶を持ってまりあの元へ戻ってきた時には既に食パンの袋は空になっていた。ピーナツバターには手をつけられた形跡のないまま。



マヤマ『ピーナツはどうした!!!』

まりあ『最近の部室には給湯器も完備されてるんですね。』





 その時、部室の外で何やら物音が聞こえた。


まりあ『…………。』



−部室前−


ボソボソ。

カエデ『まりあはこの中にいるわ。発信機も反応してるし間違いない。(第一、他に行くとこもないだろうし。)』

シイナ『発信機って…。』

カエデ『マヤマさん相手ならきっとまりあも本音で話すと思うの。』

シイナ『………。』

カエデ『まりあには悪いけどね……。』

シイナ『………。』

カエデ『何躊躇ってるのよ。ほら。』

シイナ『……分かったよ。』



ぴとっ。


 シイナが扉に耳をくっつける。そしてカエデがシイナに耳をくっつける。


シイナ『ちょっ!何?』

カエデ『え、いや…。シイナを通じて音が聞こえるのかなと思って。』

シイナ『電気じゃないんだから…。』

 気を取り直してシイナが扉に耳をくっつける。気を取り直してカエデもシイナに耳をくっつける。



シイナ『またかよ!!』



カエデ(と言うか私こんな事しなくても盗聴器とかしかけてあるんだった……。)





−部室室内−

まりあ(あいつら、やっぱり聞いてるな。)


マヤマ『ん?どうしたの?まりなくん。』


まりあ『……いえ。』

マヤマ『………。そう。』



まりあ『……あの、マヤマさん……。』



マヤマ『………何だい?』


 まりあが一度ため息をついてから言葉を発する。


まりあ『……人間という生き物は本当に愚かですよね……。』

 まりあの表情は先ほどとは打って変わって、どこか寂しげで憂いを感じさせていた。


マヤマ『………どうしたんだい、急に?……まあ、確かに君の言うとおりかもしれないな……。』



まりあ『知らず知らずのうちに人間は人間を傷つける。傷つけた事を詫びる人間もいれば詫びない人間もいる。
しかし中には、傷つけたという事実さえ気づいていない人間もいる。』



シイナ『…………。』



まりあ『………あるグループが歌う歌詞の一節にこういう詞があるんです。

“時々感情持って生まれてきた事、憂鬱にさえ思ってしまう”』



マヤマ『GARNET CROWだね。』


まりあ『……私は、この曲を初めて聴いた時…本当に驚いて何だか涙が出てきたんです……。だって私も以前に同じ事を思っていたから……。』



マヤマ(この子、確か最近魔法の国から来たんじゃ…)



まりあ『………あの頃の私は“楽しい”とか“喜び”とかの感情よりも毎日が“悲しみ”の連続だった……。……嫌な事ばかりで浮かない毎日…。…私は生きているのか…。それとも生かされているのか……。感情なんてめんどくさい。いちいち悩んだり涙したりしなくてもいいのなら。

私は笑ったり喜んだりする感情と引き換えに悪魔と契約したっていい、


心を持たない、マシーンになりたい。』



 マヤマは沈痛な面持ちでただまりあを見ている。





まりあ『………そして私は今、あの頃と同じ気持ちなんです。』


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