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15。 バカと偽善者
シイナ『ペン?』

 シイナはふと廊下に落ちているペンに気がつきそれを拾い上げる。


シイナ『……ご親切にも名前が書いてある。』

 そこにはアルファベットでWAYAWAと書いてあった。

シイナ『……………。え、名前?メーカー?………でも印刷じゃなくてマジックで書いてあるしなあ。そもそも、わざわざペンに名前なんて書くなよ。』


 元あった場所にペンを戻そうとしたシイナはある事が頭によぎった。



 もし、真山にこれを知られたら……。(マヤマンという呼び名はうわべだけ。)



−シイナの頭の中−


マヤマ『まりなくん、カエデくん。聞いたかい?そこにいるシイノが落ちていたペンを、それも名前の書いてあるペンを持ち主にも交番にも届けようとせず見なかった事にしたんだよ。本性見えたりって感じだよね。』

まりあ『え、嘘。
最低。私がやった、道に迷ってる婆さんに違う道教えたり、ダンボールごと盗んだり………今のは語弊があるわね。あ○ると一緒になっちゃう。無料で配ってたポケットティッシュをダンボールごといただいたり、ペットショップのハムスターのケージに火のついた×××で×××した事なんて、シイナの悪行と比べたら何らかわいいものよね。』


カエデ『本当シイナ見損なっちゃうなあ。人の道、外れてるよ。私は一度たりとも人の道だけは外した事ないよ?モラルのある人間だと自負しているからね。うん。』


マヤマ『それにくらべて』

カエデ『シイナときたら』

まりあ『自分で小橋賢児似とかずうずうしい事言ってるくせに、所詮』



まりあ、カエデ、マヤマ『偽善者なんじゃん。』



まりあ『まだ自転車のほうがマシよね。』





−−−−−

−−−





シイナ『…こ、こんな事になったら……。今まで苦労して作り上げてきたオレのイメージが…ただの偽善者や自転車で終わってしまう……。』


 シイナはもう一度ペンを拾い上げ握りしめる。


シイナ『仕方ない。オレが小橋賢児か、それとも自転、いや偽善者かは全てこれにかかっているんだ。あんなのと知り合ってしまったばっかりに…。待ってろよ。ペンの持ち主。』



シイナ(あ、この行為自体偽善か。)



シイナ『だいたいワヤワって何だよ。ワルシャワなら知ってるけど。ワルシャワっていうのはポーランドの首都で、かつポーランド最大の都市。別名『北のパリ』と呼ばれてるんだよね。ってどうでもいいか。…ワヤワかあ…。こんな名字あるのか?聞いた事ないけど。………ケータイで変換してみるか。』


 ケータイを開き“ワヤワ”と入力をする。



『輪やわ』



シイナ『関西人か!!!』



 ペンに記された意味不明なアルファベットにもう一度目を向けてみる事にした。



WAYAWA



 下から見ても横から見ても斜めから見てもさっぱり分からない。解読不能だ。これはやはりワヤワと読んで正しいのだろう。



シイナ『……うーん。……名前の頭文字とか……?』



渡辺アンドレーヤムアンチワンステップ杏里



シイナ『………いるかも。』



 シイナはさっそく職員室へと向かう。


シイナ『失礼します。』


「おっ。椎名か。どうした?あれ?今日はいつもの2人は一緒じゃないのか?」


シイナ『何か女同士話したい事があるらしく、のけ者にされました。』


「はっはっは。いつの時代もオナゴは強いのぉ。」


シイナ『……………。』


「………で、何か?」


シイナ『実は…』



−−−−−

−−−





「先生、“渡辺アンドレーヤムアンチワンステップ杏里”なんて生徒知ってますか?」

「…………間に入ってるのも名前なんですか?」

「さあ。」

「さあって。」

「いや、まりあエリザベスって生徒もいるぐらいですからもしかしたらと思いまして…。わかりませんよね。お忙しいところすみません。」

「いないこともないですよ。」

「あらー…。世も末ですね。で、どこのクラスに?」

「うちの生徒です。」

「……………。」






 しばらくしてシイナの元に先ほどの教師が戻ってきた。


シイナ『もういつまで待たせんですか。応接室でコーヒー23杯も飲んじゃいましたよ。』

「いや、君の探している渡辺アンドレーヤムア、アンカ………。」

シイナ『渡辺アンドレーヤムアンチワンステップ杏里です。』

「……まあいる事はいるようなんだが……。」

シイナ『いるんだ。世も末ですね。……ん?いる事はいるってどういう事ですか?』


「まあ普通に渡辺杏里という生徒が。」


シイナ『…………。』

「それより君の探しているその生徒に一体どんな用があるんだい?」

シイナ『いや…用というか、ただ……ペンが落ちていたんです。』

「…ペンが?」

シイナ『…ええ。だから届けてあげようと思いまして。それで、一応彼女のクラスは?』

「………。」

シイナ『…先生?』

「えっ?ああ、ごめんごめん。1年A組だと言っていたよ。」

シイナ『わかりました。行ってみますね。ありがとうございます。』


 シイナは頭を下げると1年A組へ向けて歩き出す。


「たかがペンぐらいでこんなにも一生懸命になって……。

……世も末か……。

ふっ。彼がいるならまだまだ大丈夫だな。」






−1年A組−


シイナ『あー君、君。そこの夏帆みたいに幸薄そうな顔してる女の子。』

「いきなり失礼ね。でもかっこいいから許す。何でしたら放課後、特に予定はありませんけど?」

シイナ『間に合ってるから大丈夫だよ。ねーこのクラスにさ渡辺杏里って子いないかな?』

「また杏里?もう!今日で何人目よ。杏里!またお客さんだよ!」

シイナ『…お客さん?』


 シイナの前に栗山千明のような髪型をした(たぶん意識している)手にわら人形を持っている見るからに怪しい変な女が現れた。


「私はタロット占いの才能に長けている美少女高校生ANNRI(本名、渡辺杏里)」


シイナ『自分で言っちゃった。色々と。』



「あなたの人生………狂わせてみせましょう………!!!」



シイナ『けっこうです。何ちゅう決めゼリフだ。』

「では、こちらへどうぞ。」

 案内に従いシイナが席に着く。

「今日はどのような事を占いましょうか?」

シイナ『いや…そういうのじゃなくて……。』

「……。では、どのようなご用件で?」

シイナ『……実は…このペンの持ち主を探してるんだけど、君の物じゃないのかな?』

 シイナがペンをANNRIに手渡す。

「(……これは……。)……残念ですがこのペンは私の物ではございません。」

シイナ『…やっぱりそうですよね…。』


「しかし。」


シイナ『………。』

「私にはこのペンの持ち主が分かります。そう。もちろんこのタロットで。」

シイナ『えっ!じゃあ占ってください!お願いします!』

 ANNRIはさっと手を差し出す。シイナは疑う事なく握手を交わした。


「そうじゃねえだろうが!…あ、いえ…申し訳ないのですが占いは有料になってしまうのです。」


シイナ『え…。困ったな…。今サイフ持ってないんですよね。(持ってても出すか。)』

「でしたら…何か耳寄りの情報でもお持ちでしたら、、そちらでもかまいませんが。」

シイナ『耳寄りの情報ねえ……。』

 シイナは考え込んでいる。


シイナ『親子丼は実は親子丼ではない。』


「は?」

シイナ『だって親子っていうのは自分が産んだ子供とその親の事だろ?親子丼で使われる卵が、使われる鶏肉から産まれた確率なんて、皆無に等しいよ。』

「……………。」

シイナ『何か?』

「…ま、まあいいでしょう。もう一度そのペンをよく見せていただけますか?」

シイナ『どうぞ。』

 ANNRIはペンを手に取り眺めると少し怪しい笑みを浮かべた。

シイナ『…………?』

「……では、始めます。」

 彼女はカードを机の上に広げシャッフルするとその中から一枚だけ抜き出し確認をする。


「こ、これは……!!!」


シイナ『えっ……!?』


「トランプでした。やり直しますね。」


シイナ『なんだそれ!!』


「何でしたら7ならべでもしましょうか?」

シイナ『やらねえよ!!』



 気を取り直し今度こそは本物のタロットカードで占いを始めるANNRI。



 シャッフルされたカードの中から1枚を抜き出しめくる。



シイナ『犬?』


「いえ。このカードは“月”です。」


シイナ『意味は?』



「正位置ならば“不安定”“現実逃避”“親友の裏切り”を意味します。しかしこれは逆位置なので……」



シイナ『……………。』



「“軽微なミス”という意味です。」



シイナ『“軽微なミス”……。』



「B棟。」



シイナ『え?』


「今、B棟にそのペンの持ち主がいます。」


シイナ『えっ?じゃあさっそく行ってみるよ!ありがとう!』


 シイナはペンを握りしめ1年A組を飛び出して行った。



「ねえ、杏里。あんた占いなんかしなくても最初からわかってたんでしょう?」

「ふふ。まあね。前にあのペンの持ち主とちょっと色々あってね。」

「あんた、もはや新キャラになっちゃうじゃん。」

「それはどうだろうね。鍵かっこ違うし。人気があればなれるとは思うけど。まあ果報は寝て待てって事かな?」






−B棟−

 B棟はあまり人の出入りが無くいつも静かで今日も例外ではなかった。シイナの走る足音が校内にこだまする。


シイナ(一体どこにいるんだよ。ペンの持ち主は。まず人の気配ないし。あっちの方にも行ってみるか。)



 走るスピードを緩めず廊下を曲がろうとした時だった。


ドンっ!!


シイナ『わっ!』

??『うぎゃっ!!』


 向こうからも廊下を曲がろうとしていた誰かとぶつかってしまった。その上ぶつかった衝撃で“その誰か”が持っていたノートや参考書、レポート用紙などもぶちまけられてしまっている。


シイナ『す、すいません。…………て、マヤマン。』


マヤマ『…痛ってえ…。え?あれ。シイノくん。』


シイナ『椎名です!もうー!気をつけてくださいよ!』

マヤマ『僕かよ!!』



 シイナは立ち上がり散らばったノートなどを拾い始める。


シイナ『……英語でレポートを書いているんですか?立派ですね。』

 シイナは拾い上げたレポートのタイトルに目を向ける。

 そこには“Concerning Morld Mar ||”と記してあった。



シイナ『…………どういう意味ですか?』

マヤマ『ん?君も勉強不足だなあ。“Concerning”というのは“〜について”という意味だよ。』

シイナ『それは知ってますよ。じゃなくて後ろ。』

マヤマ『後ろ?第2次世界大戦の事かい?』



シイナ(第2次世界大戦……。……World War ||……。)



 シイナはもう一度レポートに目を向ける。



“Concerning Morld Mar ||”



シイナ(……WとMを書き間違えている……。…………ん?………WとM?………あっ!?!?)


 シイナはペンを取り出しアルファベットを確認する。



WAYAWA





「これは逆位置なので“軽微なミス”という意味です。」





シイナ(………!!……WAYAWAじゃなくてMAYAMA………!。…………こ、こいつWとMの区別もつかないくせに英語でレポートを書くのか………。)



マヤマ『一体どうしたんだい?』


シイナ『マヤマン……。』


マヤマ『ん?』



シイナ『あんたバカだろ。』



マヤマ『…………。』



カエデ『失礼な事言わないでよ!ちょっとだけですよね。』


マヤマ『……………。』


まりあ『ちょっとバカだって思ってるんだ。』

シイナ『一体いつの間に…。』

カエデ『ちょっとマヤマさんの事バカバカ言うのやめなさいよ!』

マヤマ『…………。』

シイナ『別にもう言ってないだろ。それにほんとの事じゃんか。』

カエデ『ええ!たしかにほんとよ!ほんとのことよ!MとWの区別もついてないし、文芸部なのに自分の名前漢字で書けないし』

まりあ『自分の名前漢字で書けないんだ…。』

カエデ『そもそも文芸部のくせに文芸部らしいことなんてしたことないし。でもバカも魅力の1つなんだよ!!』

マヤマ『…………。』





まりあ『どうでもいいけど否定しないんだね。この人。』


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