メグ 2012 冬
寒い寒い、冬の夜。
彼の自転車の後ろに乗って、背中に寄り掛かり、冷たい風を感じていた。
寒い…な。
彼は、無言のままペダルを一生懸命漕いでいる。
そんな彼の背中に身を寄せていると、荒い息遣いを感じた。
こんなにも一生懸命になって、私を何処に連れて行こうというのだろう…
彼は、イケメンだ…優しくて、気遣いもできる男の子だ。
だから、クラスの女子の人気も高かった。
告白された時は、私も捨てたもんじゃないなと舞い上がり、ちょっとした優越感に浸りながら、
告白を受け入れた。
惚れた弱み…なのかな、彼は私に尽くしてくれた。
彼に、意地悪な事をして困らせても、許してくれたし、
デートには必ず私より先に、待ち合わせ場所に居てくれたし、
自転車での、学校への送り迎えも毎日してくれた。
バイトを一生懸命やり、私の欲しいものは何でも買ってくれた。
私が言う事は、何でも聞いてくれた…
でも、今日は違った…
彼は私を、殴った。
何度も何度も、私が気を失うまで殴った。
いや彼は、私を殺したつもりなんだろう…
現に私は彼のお腹の前に、両手を回して縛られていた。
彼は、私を自分に括り付けて運んでいるのだ…
途中悪路で、ガタンッと揺れたが、私は唸る事も動く事も出来なかった。
意識があるだけで、体に全く力が入らない。
景色が、どんどん人気のない場所になっていく…これは、裏山への道だなと思い、
理解した。
彼は、私を…私の死体を捨てに行っているのだ。
ああ、なんでこんな事に…私が一体何をした…
したな、いっぱいした…皆の人生を引っかき回した。
これは、罰なんだね…ナオ。
やがて、目的地に着いたのか自転車は止まり、
彼は、私を固定していたロープを外し、抱き抱え近くの草むらにソッと寝かして、
私の頭を優しく撫でた。
前カゴに載せていた、折り畳みのスコップを組み立て、林の中に歩いて行った…
やがて、スコップで穴を掘る音が聞こえてきた…
その音を聞きながら、私は心の中で謝っていた。
ヒナに、ナオに、アキに、ミウに、レンに、タクに…
そして、大好きな彼に…
ごめんなさい。ごめんなさい。
私が居なければ、きっとこんな事にならなかったね。
学校という、小さな世界に復讐の種を撒いた…
復讐…
今ならなんとなく分かるかな…アキもレンも、ナオの復讐で殺されたんだろうなと。
やがて、泥だらけの彼が帰ってきた。
私の墓穴を掘り終えたのだろう…
彼はまた、私の頭を優しく撫で、抱き抱えた。
墓穴に続く道のりを、お姫様だっこしながら、歩いて行く。
私はお姫様だっこなんて、初めてしてもらったなと訳の分からない感慨にふけっていた。
彼は、私を墓穴に仰向けに寝かせると、
「ごめん、メグ。」
そう謝って、土をかけ始めた。
…なんて、惨めな最後なんだろう。
アキ、アンタはどんな最後だった?お腹割かれたんだもんね、苦しかったよね…
レン、アンタは頭を殴られた、どう思った?
ナオ、アンタはあんな仕打ちを受けて、私達の事憎かったよね?
私の最後は、大好きな彼に殺されて、山に捨てられる惨めな最後だよ…
様無いよね。