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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

武将王女と常勝将軍の恋

作者:樹 泉

「ねえ! 聞こえているのでしょう!? いい加減返事なさい!」

 ある日私は会社の帰り道、偉そうな子供の声を聞いた。
 周りを見渡しても子供の姿などない。
 では、この声はなんだろうか。

「貴女にわたくしの声が聞こえているのは分かっている事なのよ。貴女にはわたくしの代わりを務めてもらいます。わたくしに代わって戦場に出なさい」

 これは幽霊の声だろうか。
 成人してから幽霊の声を聞くとは思わなかった。
 それとも精神が参って幻聴を聞いているのだろうか。

「わたくし、シュライア・イナニアの名において命じます。汝、わたくしの代わりを務めなさい」

 さっきから自分勝手な事ばかり。いくら子供でもいい加減にしてもらいたい。

「もお! いい加減にしてよ!」

「王女殿下いったいどうなさいました!?」

 え!? さっきから聞こえる幽霊の声になってる!? それに王女ってどうゆう事!?
 周りを見回してみると、粗末な木製の部屋に剣を持った図体の大きな男の人達がいた。身長は私の倍以上大きい。
 ……子供になってる!?

「王女殿下お疲れになられましたか?」

「えっと、私の事ですか?」

「王女殿下もう少しの辛抱で御座います。軍議ももう少しで終わりますれば」

 王女と言うのはどうやら私の様だ。
 いや、この身体の持ち主。さっき私に語りかけて来た幽霊が、王女様だったのだろう。
 それにしても代わりに戦場に出ろとか言ってなかっただろうか。軍議って戦争の時の会議の事だよね。

「それにしても人だけが居りませんな。食糧と備品もそのまま、放棄したのでしょうか?」

「うむ。武器は置いていない様だな」

「この街は迷路のようになって居りますからな。食糧を持って行くのが大変だったのでしょう」

 男の人。恐らくどこぞの兵士だろう者達が、現状の把握に努めている。

 私は周りを見渡し、家の作りが未熟なのが分かった。薄い木の板を張っただけの作りの部屋は、木目に空いた穴から隣の部屋が見える。
 そして私の服。ヒラヒラしたレースのあしらわれたフンワリとしたドレス。現代では感じない服の重みを感じる。
 まるで中世ヨーロッパにタイムスリップしたようだ。
 これは夢だろうか。
 あの男の人達は持っている剣で人を殺すのだろうか。

 それにしても……。

「武器だけがないだなんて、まるで戻って来るための様ね」

 私は食糧を置いて行ったって言葉に違和感を覚えた。持って行けないなら燃やしてしまえばいい。食糧をむざむざ敵に渡す事はないのだから。

「言われてみれば……。この街は古い、街の者だけが知る抜け道があっても不思議じゃない」

「斥候と探索、夜間の見張りは厳しくした方がいいな」

「御手柄ですぞ、王女殿下」

「いいえ、思い付いただけですから」

 その夜、宛がわれた寝台に潜り込んで私は考えに耽っていた。
 あの声の主、彼らが言う王女に乗り移った様だ。
 これは現なのだろうか。
 私が現状をウツラウツラ考えていると、何処か遠くで怒声が聞こえた。瞬く間に金属の音も響きだす。

 ドンッ

 私の寝ている部屋の戸が外側から強引に開かれた。

「いたぞ! イナニアの王女だ!」

 怒声と共に剣を掲げた男たちがなだれ込んで来た。

「ヒッ」

 血走った目、野獣の様な雰囲気に私は悲鳴を洩らした。

「イナニアの王もまさか年端もいかぬ小娘を戦場に出すとはな。祖国の為、死んでもらう!」

 なんだこれは、夢ではなかったのか。喉が引きつり冷や汗が出る。

「王女殿下御無事ですか!? 皆、急いで王女殿下をお助けしろ!」

 剣戟の音が響き、辺りに血の鉄臭いが立ちこめる。
 ザシュっと音が響き、襲撃者の首が半場から切り離される。その首からおびただしい血が溢れだし、壁と床を汚す。
 喉が引きつり、息が漏れる。
 人が目の前で殺されたのだ。

「王女殿下御無事ですか?」

「無事です」

 私の前にひざまづく兵に、私の口から他人が発した様な声が出る。

 
 部屋に他国の兵が押し寄せてから暫く、私は戦場を転々としていた。
 分かっている事と言えば、この身体の持ち主はイナニアの第一王女という事。イナニアは大陸一の国土を誇る軍事国家という事だ。
 この身体の持ち主、これからは私と呼ぼう。には、両親、年の離れた兄が一人いる事が分かった。
 年の離れた兄は、イナニアの王太子だ。しかし病弱で寝込む事も度々ある。
 その為王である父は、一計を案じた。
 娘に軍人、それも指揮官の教育をする事をだ。
 私がシュライアになった年、十二歳になった娘を戦場に放り出したのだ。

 それから三年、私は様々な戦場に顔を出した。


「暗部の者を呼びなさい」

「およびでしょうか?」

「此処から先の街に噂を流しなさい。この国の軍は戦う為とはいえ、家や田畑を焼き払う人非人だと。軍が次の街に着くまでに広めなさい」

「はっ」

 この世界の戦争は未だ武器と武器のぶつかり合いが主流だ。策を練り打って出る事は格下がする事、そういう風習がある。
 イナニアに攻められている国はどこも中小国で、明らかに格下だ。ただの合戦に勝てる訳がない。
 その為様々な策を弄して抗って来る。
 今いる街。否更地は、元は穀物地帯だった。イナニアが攻めて来ると分かったその国は、焦土作戦を開始した。
 もしや歴史的瞬間に立ち会ったのだろうか。

「伝令! 伝令です!」

「何事です」

「王太子殿下ご逝去。王太子殿下ご逝去に御座います」

「全軍に告ぐ。国に帰還する」

 長生きできなさそうとは思ったが、まさか王太子殿下が亡くなるなんて。




「シュライア、そなたに婿を取ってもらう」

 父王の言葉に私は是と答えるしかなかった。


 トントントントン

「入りなさい」

 失礼します。と、入って来たのは朱色の髪に鷹の様な灰色の瞳の美丈夫だった。

「貴方はイグシス・マールセスで間違いないわね」

「相違御座いません」

「私のお婿様、触れる事を許します」

 この三年で王女業も板に着いた。
 イグシス・マールセスはイナニアの公爵家の人間で軍に所属している。指揮官としての腕は良く、常勝将軍と呼ばれている。
 武将王女と呼ばれる私と同じく、若手のホープだ。
 巷では無敗の将の初めての敗北はどちらか、と賭けをしている者もいるのだとか。恋に溺れるのはどちらか、という事らしい。

「失礼します。……キスをされたら目を瞑るのが宜しいかと」

「次がらは気を着けます」

(は!? 何コイツ! 何でいきなりキスするわけ!? 平常心、平常心よ。動揺している時こそ優雅に振舞うのよ。指揮官の嗜みよ)

「いきなりね、イグシス」

「御気に召しませんでしたでしょうか」

 イグシスは口の端を釣り上げる様な笑みを見せると、いけしゃあしゃあとのたまった。

(いきなりキスしておいて、お気に召しませんでしたでしょうかはないでしょう!)

「王配として振る舞いに気をつけなさい」

 扇を緩く開き口元に持って来る。

「以後気を着けます。本日は此方の品をお持ちいたしました」

 そう言ってイグシスは懐から小さな箱を取り出した。

「指輪ね」

「王女殿下にと思い持って参りました」

「ありがとう。いただくわ」

「挨拶も済みましたし、私はこれにて」

 そう言うとイグシスは部屋を出て行った。

(き、キスが挨拶。西洋では確かに挨拶だったけど……)



 それからイグシスは度々私の部屋にやって来るようになった。その度王女の仮面を被り、対応して行く。微笑みというポーカーフェイスで。
 イグシスは会う度、段々と気安くなって来る。

「殿下、キスをしても?」

「宜しくてよ」

(こいつキス魔だ。なんで毎回キスするの!?)

 定常心、微笑みのポーカーフェイスと呪文を唱えイグシスのキスに対応する。

「……きゃっ」

「ははは、殿下は可愛らしいですね」

 イグシスは何時もの不敵な笑みで私を見降ろして来る。

(こ、こいつ。私の首を舐めた!?)

 顔が赤くなっている事が分かる。

「わ、私は行く所があるので失礼するわ」

「御一緒しても」

「一人で行きたいの」

 イグシスの横を通り抜け、王城の一室に向かう。

 辿り着いた部屋には幾つもの大きな石碑が立っていた。
この石碑は死んで行った兵士の名が刻まれている。
 自分の状況に一区切りが経った頃、父王に我儘を言い作ってもらった物だ。私の指揮で死んで行った者達の名だ。

「……、うっ。私の至らなさで、感謝しているわ……」

 私は石碑の前に立ち静かに涙を流す。

「……こち……禁止……」

 部屋の前から口論が聞こえた。
 私は涙を拭き、部屋から出る。

「イグシス、何故貴方が……」

「……殿下?」

「何を驚いているのです?」

「いえ」

 石碑の部屋を出るとイグシスが、警備の兵と言い争いをしていた。
 そして、私を見ると呆けたように固まる。

「此方の部屋はなんなのです?」

「貴方には関係のない事です」

「……そうですか。殿下、今度城下に遊びに行きませんか」

「え、ええ。宜しくってよ」

 何時もの不敵な笑みが消え、何故か温和な笑みを浮かべるイグシスに私はとっさに返事をする。

 イグシスと城下にお忍びで出かけると、王太子殿下の喪に服しているのか閑散としていた。
 そんな事より怖い事がある。
 イグシスだ。迎えに来た時から、そわそわして落ち着かない。本当にイグシスだろうか。

「で、殿下、あそこの花屋に参りましょう」

「え、ええ」

 本物のイグシスですか?
 何処かソワソワしたイグシスに私もペースを崩される。
 イグシスと入った花屋は王室御用達の花屋だ。
 喪に服していようとも王城では花を使う。その為、営業を許可されているのだ。

「あ、赤い薔薇の花束を頼む」

「畏まりました」

 イグシスは頬を赤く染め、店員に赤い薔薇の花束を頼む。

 イグシスは薔薇の花束を受け取ると、私の前にひざまづき、私の手を取る。

「殿下。私は殿下をお慕いしております。どうか私の妻になって下さい」

「な、な、こ、こんな所でいったいどうしたのです。私と貴方は結婚するのですよ!?」

 余りのシチュエーションに私の方が慌てる。

「私は一人の女性としての殿下をお慕いしております。義務とかでなく、殿下と結婚できる事は光栄に思っております」

 そう言うとイグシスは私の手の甲に唇を押しつける。
 私の顔に血が上るのを感じた。
 イグシスとの結婚は政略結婚だ。そこに、恋愛感情を着けて良いのだろうか。

「わ、私は……」

 何を言っていいか分からなくなり、取り合えず口を開く。
 そうすると、立ちあがったイグシスに包み込まれた。抱きしめられたのだ。

「今は良いのです。私が殿下を好きな事を分かっていただければ」

 包まれた大きな胸板は、私の知らぬ男性の物だった。
 武将王女と呼ばれ戦場に出ても、私が女である事を痛感する。
 私は頭がショートし、その後の事は覚えていない。気付いたら王城の自室で放心していた。
 それでも慕っていると言ってくれた事は嬉しかった。


 その後、私達の恋愛模様がイナニアの王都で上演されるようになる。


◆◇◆

 「イグシス・マールセスそなたをシュライアの婿に迎える」

 ある日陛下に呼び出され、御前に参じると王女殿下との婚姻が言い渡された。
 滝の様な淡い金髪に青い瞳の王女殿下は、幼少のころから陛下の命で軍と共に動いている。指揮は的確で、敵国の策をことごとく見破る。着いたあだ名が武将王女だ。

「後で挨拶に行くように」

「はっ」

 陛下の御前を辞し、準備を整え王女殿下の元に向かう。

 トントントントン

「入りなさい」

 部屋の中から王女殿下許しが出て私は王女殿下の部屋に入った。


「貴方はイグシス・マールセスで間違いないわね」

「相違御座いません」

「私のお婿様、触れる事を許します」

 王女殿下は少し茶化すように笑いながら告げた。
 王女殿下は知っているのだろうか、兵士からの信頼と忠誠を。
 私は常勝将軍と呼ばれ、兵士からの信頼もある。しかし、王女殿下に心酔した兵に此処最近殺気を向けられる。

 そっと王女殿下の頬に触れ、顔を上に向かせ唇を着ける。

「失礼します。……キスをされたら目を瞑るのが宜しいかと」

「次がらは気を着けます」

 王女殿下は一瞬だけ動揺を見せたが、直ぐに真顔になる。しかし、頬に上った朱は隠しきれない。
 何とも可愛らしい事だ。

「いきなりね、イグシス」

 私への直視を避け、少し斜めに向きながら照れ隠しにそう告げる。

「御気に召しませんでしたでしょうか」

 余りの可愛らしさに少し意地悪をしたくなり。意地悪く告げてしまった。

「王配として振る舞いに気をつけなさい」

 王女殿下は扇を緩く開き口元に持っていく。
 いくつ戦場に出てもその優雅さには、品の良さを感じる。

「以後気を着けます。本日は此方の品をお持ちいたしました」

 そう言って私は懐から小さな箱を取り出した。
 急ぎ作った指輪だ。

「指輪ね」

「王女殿下にと思い持って参りました」

「ありがとう。いただくわ」

「挨拶も済みましたし、私はこれにて」

 そうして私は王女殿下の私室を辞した。


 それから度々私は王女殿下の部屋に挨拶に行った。
 そして私は、王女殿下を殿下と呼ぶようになった。
 殿下はキスをすると真っ赤になり、うろたえる。
 私はそれが可愛らしくてたまらない。

「殿下、キスをしても?」

「宜しくてよ」

 王女殿下に宣言し唇を奪う。
 殿下は今十五歳。普通の令嬢なら茶会や舞踏会の心配だけしていればいい。しかし、戦場に行く事を義務付けられた殿下はそうはいかない。
 思考の波を亘りつつ唇を離すと、殿下の項が見えた。
 白く細い。
 つい吸い寄せられ、気付いたら舐めていた。

「……きゃっ」

「ははは、殿下は可愛らしいですね」

 私は心が温かくなり笑う。
 吃驚した殿下は、赤くなって項を掌で覆う。
 殿下は顔を引き締めると早口で言葉を紡ぐ。

「わ、私は行く所があるので失礼するわ」

「御一緒しても」

「一人で行きたいの」
 少しやり過ぎただろうか。
 此処は大人しく引き下がるべきだろうか。
 だが、気になる。

 殿下の後を着けると、とある部屋に着いた。

「此方はただいま侵入禁止になっております」

 殿下付きの兵が私を止める。

「殿下に様がある。通してくれ」

「なりませぬ」

 兵と口論していると、部屋から殿下が出て来た。

「イグシス、何故貴方が……」

「……殿下?」

「何を驚いているのです?」

「いえ」

 殿下の目は泣き腫らした様に赤く腫れていた。
 何時も毅然とした殿下の弱さを見た気分だ。

「此方の部屋はなんなのです?」

「貴方には関係のない事です」

 私の質問に殿下は少し躊躇った気がした。

「……そうですか。殿下、今度城下に遊びに行きませんか」

「え、ええ。宜しくってよ」

 気付いたら殿下を城下に誘っていた。
 どうにか殿下を元気づけたかったのだ。 

 殿下の部屋に迎えに行き城下に出る。
 殿下の服は何時ものドレスではなく簡素はワンピースになっていた。
 城下に着くと、王太子殿下の喪に服していて閑散としている。

「で、殿下、あそこの花屋に参りましょう」

「え、ええ」

 王室御用達の花屋に殿下を誘導する。
 私は殿下の婿という立場に胡坐をかいていまいか。殿下を慕う気持ちを素直に言う事にした。

「あ、赤い薔薇の花束を頼む」

「畏まりました」

「ゴホン」

 赤い薔薇の花束を受け取ると、私は殿下の前にひざまづき掌を取る。

「殿下。私は殿下をお慕いしております。どうか私の妻になって下さい」

「な、な、こ、こんな所でいったいどうしたのです。私と貴方は結婚するのですよ!?」

 私の告白に殿下は激しく動揺し、頬を染める。

「私は一人の女性としての殿下をお慕いしております。義務とかでなく、殿下と結婚できる事は光栄に思っております」

 これは私の素直な気持ちだ。
 そうして殿下の手の甲に唇を落とす。

「わ、私は……」

 赤くなり、慌てふためく殿下はまさに月の精の様だった。
 私は素早く立ちあがると、殿下を抱きしめていた。

「今は良いのです。私が殿下を好きな事を分かっていただければ」

 私の腕にすっぽり収まる殿下を逃がすまいと更に抱きしめる。
 それにしても見られている様な……。
 辺りを見回すと花屋の店員が赤い顔をして見ていた。
 そう言えばこの花屋は王室御用達。殿下の顔を知っているのでは?
 私は急に恥ずかしくなり、腕に力が入った。

「きゃっ」

「申し訳ありません」

 強くでき閉めたせいか殿下が悲鳴を上げた。

「殿下今日は帰りましょう」

 私はとっくに殿下に溺れているのだから。



お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字等ございましたらご連絡下さい。

風邪引きました。
皆様も温かくして風邪にご注意を。

では、よいお年を。

評価や感想は作者の原動力となります。
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