告白
それから、少し奇妙な生活が始まった。
私の元の寝室をカトリが使うようにして、私は書斎……、まあ、倉庫みたいなところだが、に寝るようになって。
朝は、結構早くから、カトリの「……おなかすいた」という言葉で起きるようになって。
学校に一緒に行き、一緒に帰ってくる。
カトリ専用の寮みたいになっているな。
ただ、休みの日には、露店街に出かけ、カトリと一緒に買い物したり、いろんなことを話して。
かわいいリボンをつけたカトリとゲフェンの西にある展望台とか、東にある海岸とか、見に行ったりも、した。
……なにもなかったぞ。本当に! ああ、でも、これからなにかあるかも……ってカトリが見るかもしれない日記に何を書いているんだ。
心配していた学校のことは、カトリの身の回りのことから、私が養子として迎えたというような形になって、特別なお咎めもなしだった。
クラスのみんなには、カトリと結婚したのだというようなうわさにもなってしまったが。
私のそばに、いつもカトリという女の子が居てくれるということが、私は本当に幸せだった。
ほんとかわいくて、スタイルも良くて。そんな女の子といつも同じ屋根の下で一緒にいるのだから、理性が保てるかが私の今の心配ごとになってしまっているが。
そんな、カトリがそばに居てくれるということが、日常に溶け込んできたある日のことだった。
その日の朝。
いつものように朝食をせがみに来るカトリの声が無かった。
「カトリ? まだ寝ているのか? もう朝ごはんできたぞ」
お玉を持ったままカトリの寝室をノックした。しかし、返事が無かった。
「カトリ?」
「……せんせい」
扉の向こうから、消え入りそうな声で、答えた。
「入るぞ?」
扉を開け、ベッドに寝ているカトリのそばに行く。
「どうしたんだ?」
「……先生。体が……」
顔は赤くて苦しそうな表情で、はぁはぁと息をかけて、額に汗を滲ませて、私にそう答えた。
カトリの額をそっと掌で触る。
熱い。
「カトリ、すごい熱が。大丈夫か?」
こくこく。
思いっきり大丈夫に見えない。
風邪でもひいたのか?
「ちょっと待ってろ。薬とか、氷とか用意してくる。寒くはないか?」
「……ちょっと、寒い」
「わかった。他におかしいところがあったら、言うんだぞ」
こくこく。
カトリの体に、無理がかかったのだろうか。
昨日まで、いつも変わらず元気だったのに。
でも、薬を飲んでも、一日二日経っても、カトリの様態は良くならなかった。
あんなにたくさん食べていた食事もほとんど取らず、クリームのスープとか、お粥くらいしか食べてくれなかった。
私は心配で、講義にも行かず、ずっとカトリのそばに居た。
病院に、連れて行ったほうがいいのだろうか。
「……せんせい。私は大丈夫だから」
私を見て、辛そうな表情から無理に笑顔を作ってそんなことを言う。
代われるものなら、代わってやりたい。
胸が締め付けられる。
「馬鹿。私に頼れと言っただろう。カトリの為なら、私は何でも出来るぞ。かわいい女の子なんだから、甘えるんだ」
カトリの額に滲む汗を拭いてあげながら。
「でも、私、先生に迷惑をかけたくない……」
差し出した私の右手を両手でぎゅっと握り、今にも泣き出しそうな瞳で私を見つめる。
カトリ……。
カトリも、私と、気持ち、同じだったのか。
そういえば、私は、カトリに私の気持ちを打ち明けたことが無かった。
大切にしたい。
優しくしてあげたい。
幸せを感させてあげたい。
だから、そばにいて欲しい。
彼女の姿を見るたび。私の心の中が暖かく、穏やかな気持ちに包まれる。
好きになるという気持ち。
私は、この女の子、『カトリーヌ=ケイロン』のことを、本当に、愛している。心の底から、彼女のことを。
それは、ずっと想っていた。
言葉にするのが怖かった。
でも、カトリも同じなら。
「カトリ。私は、君が好きだ」
「えっ……?」
「私は、カトリーヌ=ケイロンという女の子のことを、心の底から愛している。愛しくて恋しくて、たまらない気持ちになる。大切にしたくて、優しくしてあげたくて。幸せを感じて欲しいと思う。だから、こんなことで私は迷惑だと思ったりしないし、気持ちは変わらない。安心して良いぞ。私はいつもカトリのそばに居る。カトリが嫌だって言うまでな。約束する」
「先生……」
「だからな、早く元気になって、私の愛する女の子のかわいい笑顔、見せてくれな。おいしいご飯もたくさん用意しておくからな」
「ぐすっ……。うん」
嬉しそうに、私の手をぎゅっと握って。甘えるように私の手を頬に引き寄せた。
そのうち、すーすーとカトリの寝息が聞こえてきた。
次の朝には、いつもの、「……おなかすいた」という声で、私も目を覚ますようになっていた。
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