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心と想い
7月15日

 それから、カトリの食事は少しだけ、少なくなった。
 カトリは前にもましてうちに来ることが多くなった。
 それは、嬉しいことだけど、本当に幸せなんだけど、不安に思うことが無いことはない。

 私もカトリと同じような境遇にいた。
 物心付いたときには両親はもう居なくて。近くにあった本だけが私の先生であり、友人だった。
 幼い私にとって、いつもおなかをすかせていても、おなか一杯食べられることが出来なくて。
 やりたいこと、望んだこと、思うようにいかなくて切なくて。
 そんな日々を過ごしていた。
 そんな頃の私とカトリを重ね合わせてしまって……。そんな思いをさせたくない。

 いつしかカトリのことを想うようになっている私がいる。
 どんなときでもカトリの笑顔が心に浮かぶ。カトリを探してる。
 姿が見えないときは寂しくて。そばに居てくれるときは安心して。笑顔を見せてくれたら、たまらなく嬉しくて幸せな気持ちに包まれる。彼女の為なら、どんなことでもできる気がしてくる。
 ずっとそばに居て欲しい。彼女の為ならなんでもしてあげたい。
 暖かくてふんわりとしたあの女の子をまた優しく抱きしめたい……。
 そんな、初めて私の心の中に宿る暖かな気持ち。
 とても、不思議だ。
 私自身のことなのに、私自身でも、わからない。私が私でなくなっていくような。
 いつから、そう想うようになったのだろう。
 いつのまにか、気がついたら、私の心の中に彼女がいる。
 でも、それが、ずっと前からの約束事だったようで。決まっていた運命と思えるようで。ああ、上手い言葉が見つからない。
 研究者としての私でも、わからないことはあるみたいだ。
 カトリと言う魔法使いの女の子が、私を魔法にかけてしまったみたいだな。

 でも。
 カトリは、私のことをどう思ってくれているのだろう。
 女の子の心の中の気持ちが知りたい。
 いつものこんな毎日で、これでいいのかって、不安になる。
 私の、何かしてあげたい、そばに居て欲しいって想うこと。もっともっと、カトリに幸せを感じて欲しいと想うこと。カトリにとって、迷惑だと感じたりはしないだろうか。
 私の容姿は自信がないし、性格もかなりのんきだし。女の子が好意に思ってくれるような要素がない。
 今まで、女の子と話すことだってまれであった私に、女の子が考えていることなんてわかるはずもない、が……。
 ああ、そうか。だから、言葉にできないのか。
 すごく、怖い。不安でたまらない。
 伝えたいけれど、伝えてしまったらどうなってしまうのか、怖い。
 ああ。私はどうしたらいいんだ。

 ふと、この日記に、『追憶のしおり』が最初のページにはさんであるのを見つけた。これは、あのときカトリにあげたしおり。
 ということは、カトリは私の日記を読んでいたってことになる。
 確かに、いろんな本の中にあえて隠さず一緒にまとめておいたのだが、日記、見られていたんだ。いつから、見られていたんだろう。
 それにしても、日記にしおりを挟んでおくなんて。見ましたって、言ってるみたいだな。
 ふと、しおりのはさんであったページの隅に、何か書かれているのをみつけた。

『先生、日記を読んでしまってごめんなさい。日記、私のことばかりで恥かしいです。でも、いつも私に優しくしてくれてありがとう。私、先生といつも一緒に居られて、先生がたくさんたくさん優しくしてくれて。私幸せです。ずっとずっと、先生と一緒にいたいです。私、先生のこと好きです。大好きです。カトリーヌ=ケイロン』

 小さく、かわいい丸い字で、そうあった。
 カトリの声が、聞こえたような気がした。

――――

「……なぁ、カトリ。一つ思うことがあるのだが」
「?」
「うちで、一緒に住まないか? カトリは一人で住んでいるのだろう?」
「……一緒に、住む?」
 サンドイッチを右手にかわいく持って私の方をじっと見つめてきた。
「まぁ……。その、なんだ。この家でさ、私と一緒に生活していくんだ。毎日、私がご飯を作ってもいい。カトリがゆっくり休める部屋もある。でも、それ以上に……。ああ、上手い言葉が出てこない。まあ、その、なんだ……」
 またしどろもどろだ。自分で言ってしまったことに恥ずかしさを憶えて、もうどうしたら良いか頭の中が混乱する。顔が火照ってるのを感じる。耳まで赤くなっているだろう。
 カトリは笑顔になって、こくこくと、いつものように頷いた。
「えっ?」
「……先生の家に住む」
「えっ。い、いいのか?」
 こくこく。笑顔のまま、頷いた。
「カトリはほんとかわいい女の子で……。私は男、だぞ? 同じ家にいたら襲われるとか、思ったりしないのか?」
 くすっと笑って、私の方を見る。
「……大丈夫」
「えっ?」
「……セイフティウォール」
「あはは。そうだな。そうだ」
「……でも」
 すこし、真面目そうな瞳で私を見つめる。
「先生なら、いい。襲われても。私、先生に……」
 じっと緑色の瞳で私を見つめて。カトリの頬が赤くなっていた。
 心臓が飛び出しそうなくらいどきりとした。
「……こら、カトリ。言って良いことと悪いことがあるぞ」
 でも、カトリがそんなことを言ってくれるなんて。
 本当に……。
「……。でも、先生なのに」
「え?」
「先生なのに、私を誘って。学校のこととか。大丈夫?」
「カトリ……」
 そうか。この歳でこんなレベルの高いウィザードの彼女のことだ。今まで、きっと、私の立場とか慮っていてくれたんだ。
 本当、聡明な女の子なんだな……。
「カトリは、みんなわかっているのかな。私の気持ち」
 ふるふる。
 頭を横に振る。
「……わからないけど、私の気持ちはわかるよ」
「カトリの、気持ち?」
「先生のそばに居たい」
「カトリ……」
「……だから、一緒に住む」



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