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安堵

 魔法の指南書などでは、以下のことが注意書きとしてある。

『魔法を使う者は、その魔力に身体を蝕まれ、力を奪われていくことがある』

 基本、魔法というのは、詠唱を唱え、自然にあるエネルギーを自分の精神力を触媒にし、魔力に変換して、形にする。
 炎であれ、風であれ、水であれ、全てはその流れだ。
 精神力で全て賄えないような強力な魔法はジェムストーンなどを使う場合もある。
 魔法は強力だ。剣や弓などの武器を必要としないで一瞬で魔物を倒せる力がある。
 その為、使い方を間違えると自身に跳ね返ってくる――。
 指南書などでは魔法使いがこうした力に犯され、命を落とすことがあることが明記され、注意を促している。
 現在では、魔法学校等で正しい使い方等を徹底している為、そうした事故はもう過去のものという認識だ。
 しかし、カトリは正しい魔法を教わって来たわけではない。すべて独学で魔法を使ってきたらしい。
 カトリがそうだと思いたくはない。
 しかし、カトリは魔法の詠唱が短すぎた。あの難しい上級魔法『ユピテルサンダー』もあっという間の詠唱だった。また、やはりというべきか、魔法を使った後で、いつもの量を食べている。食事した後すぐにだ。

 私はここで仮説を立ててみる。
 魔法の使い方を知らない少女の頃のカトリがいた。あるとき、魔法のことを知る。その魔法を面白半分に使ったら、魔物を倒すことが出来た。そのとき、自然のエネルギーを使わず、自身の精神力のみで魔法を唱えてしまった為……、おなかがすくようになった。なぜ、おなかがすくのかということがわからず……魔法を使い続けて。たくさんの食事を取るために。
 この仮説が正しいとしたなら、もうあまりカトリに魔法を使わせるわけにはいかない。もしくば、ちゃんとした魔法のやり方を教えなければならないだろう。そうでないと、カトリは、ずっと無理をしていき……。
 
「……おなかいっぱい。ありがとう」
 食事を終えた頃。カトリのいつもの笑顔が消え、綺麗な細い眉をしかめ、真摯な瞳で私を見つめてきた。
「カトリ。どうかしたか?」
「……先生」
 最初に声をかけられたときのような、か細く、小さな声。
「どうしたんだ?」
 なおも見つめて。カトリに私の心の中まで見つめてられているような、そんな錯覚を覚える。
 そんな目をして、どうしたのだろう。
「……どうして、私の魔法、見たくなったの?」
「えっ?」
 カトリが、今までに無いような饒舌で驚いた。それに声も大きくて。カトリがこんな声を出せるなんて。
「先生、あんな危ない目にあってまで、どうして? もっと違う方法もあったのに」
 怒って、いるのか……?
 そうか。カトリも不安なのかもしれない。
 私があんなことになってまで、カトリの魔法を見せて欲しいと言ったから、私が何を望んでいたか知りたいのだろう。
 すまなかった。何も言わず、試すようなことをして。
「……カトリ、訊いてくれていいか?」
 こくこく。
「私は、カトリの体のことが、心配になったんだ」
「……体が、心配?」
「そうだ。毎日たくさんの料理を食べていて、体に負担にならないかって。それで、理由を知りたくなったんだ」
「……負担?」
「カトリも知っているかも知れないが、魔法を使うとき、使い方を間違えてしまったら、体に負担がかかり、最悪の場合死んでしまうことがあるんだ」
 カトリは私をじっと見て、話を聞いてくれている。私は話を続けた。
「それで、もしかしたら、カトリは、魔法のそうしたことから、体に負担をかけていて、たくさん食べなければならなくなっているのじゃないかって……。心配になった」
「……先生が、私のことを、心配してくれているの?」
「そうだ。カトリは私の大事な女の子だから、心配するに決まっている」
「え……」
「だから、私は、カトリがどのように魔法を使っているのかが知りたかった。それで、少し無茶をしたんだ。心配かけさせて、試すようなことまでして。本当にすまない」
「先生……」
 カトリは俯いて、恥ずかしそうに指をもじもじさせていた。
 変なこと、言っちゃったかな。
 でも、私は真面目に話を続けた。
「カトリ。魔法を使うとき、どんな感覚を感じてる?」
「感覚?」
「例えばだ……。魔法を使ったら、体のどこかの部分が吸い込まれそうに感じたり、急に走ったような息切れや動悸を感じるとか。そんな感覚、ないか?」
 首を横に振る。
「そうか。何か普段とおかしなところ、ないか?」
 こくこくといつものように頷く。
「そうか……」
「……先生には、言わなかったけど」
「え?」
「私、本当は、レベル、92……」
「えええっ! 本当に?!」
 こくこくと小さく恥ずかしそうに頷いた。
 ちょっと待て。カトリのレベルが、92? ということはだ、ということは……、カトリはかなり熟練されたウィザードということになる。魔法アカデミーの先生をしていてもおかしくないほどだ。このくらいのレベルなら、天変地異を起こせる大魔法も使いこなせ、世界のどんな強い魔物とも対等に戦えるはずだ。宮廷の魔法使いでもやっていけるだろう。
 カトリの歳は確か18歳と訊いた。その女の子が、そんな熟練の魔法使いだなんて。なんていう……。
 道理で、あの難しい魔法の詠唱も、あんな短く容易く行っていたわけだ。
「カトリ、本当はすごい女の子だったんだな……」
「……びっくり、した?」
「でも、それなら、私の不安って、気にしなくてもいいんだな」
 こくこくと頷くカトリを見て安堵の気持ちに包まれた。
 よかった……。
 カトリはただ、たくさん食べることが好きなだけな女の子だったんだな。
 でも、そんなにレベルが高くなるまで、ずっと独りだったなんて。
「だけど、ごめんなさい……」
「ん? 何がだ?」
「私、たくさん食べるから、先生に迷惑かけてたかも……」
 俯いて、下を向く。
 気にかけさせてしまったか。
 私はカトリの頭にぽんと手を置いて、優しく撫でてあげた。
「私は、カトリがいつも私の作ってくれた料理をおいしそうに食べていること、見ているの、すごく幸せだ」
「え……?」
「嬉しそうなカトリの姿。すごくかわいくて……。だから、またいつでも食べに来ていいんだぞ。私はもっとおいしく料理を作って、カトリに満足させてやるから」
「先生……」
「だから、カトリ。私に遠慮するな。カトリが幸せなこと、笑顔をみせてくれること。それが私の幸せにもなるからな。遠慮なく頼っていいんだぞ。女の子がしたいおしゃれ、好きなことも私がなんでもしてやるからな。今まで出来なかったこと、全て」
 私を見つめるカトリの瞳から光る粒がこぼれていた。
「先生、先生、先生……」
 私に抱きついてくる。よほど、嬉しかったのだろう。
 私も、ぎゅっと、カトリを抱きしめていた。


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