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カトリと魔法
7月3日

 また、何日か過ぎてしまっていた。
 それに、前回とかに日付を入れるのを忘れていた。
 もう日記じゃないな。私の手記だな。でも、日記みたいにがんばって書こう。
 だけど、多分、今までのように書くのはカトリのことばかりになるだろうけど。

 さて、今日は何のことを書こうか。
 そうだな。忘れないようにカトリの食べられる量について書いておこう。

 カトリが一食で食べられる量は、大体、私の3日分の食料が目安だ。
 なるべく献立は同じにしないでおくことを考えているが、色々考えるのって難しい。毎日同じようなのでは飽きるだろうし、いろんな美味しいものをカトリに食べさせてあげたい。
 カトリは好き嫌いがほとんど無い。野菜も良く食べているし、肉や魚も大好きだ。でもやはり女の子なのか、甘いものが好きなようだ。食後のデザートを欠かさずつけるようにしている。最大の問題は私の料理の腕前だけだな。
 最近では、行きつけの八百屋さんとか魚屋さんとかと顔なじみになってしまった。毎日たくさん買ってるおかげで、おまけもたくさんつけてもらえるようになった。でも、いつもこれだけのものをカトリ一人で食べているって信じられないだろうな。

 そういえば、カトリはどうしてこんなによく食べられるのだろう。
 身長は私の胸くらいで低くて、とても華奢で、腕や足は細い。腰なんか抱いたら折れてしまいそうなほどだ。
 出ているところ……胸は、こぼれそうなくらい大きい。服もカトリの胸では苦しそうだ。正直スタイルは抜群だろう。女性の体のこれほどまでの見事なプロポーションを私は見たことが無い。
 かわいくて、スタイル抜群で。豊満な胸……ってどこを見ているんだ私は。いいんだ。私も男だ!
 しかし、この娘は一日で自分の体重くらい食べているんじゃないだろうか。
 朝昼晩の三食だけじゃなく、間食もしているくらいだし……。
 人によっては胃腸の調子がよくて、たくさん食べられる人もいるそうだが、研究者としての悪い癖か、何か理由を知りたくなる性というか、好奇心というものが出てきてしまう。
 人の体についてはあまり詳しくないが、たくさん食べられる人は、たくさん食べた後でも『おなかがすいた』とは言わないはずだ。どんな人にも許容量があるはずだし、それを超えそうになるまで食べたら消化する為に時間が必要になるはず。
 つまり、おなかいっぱいになったら、割と次の食事まで我慢できるはずだ。人間の身体とはそういうように出来ていると思う。私がそうだし。
 しかし、カトリの場合、おなかがすいたと言い、食事を取った後でも間食をすることがある。さすがに少し減るが食事で食べた量くらいな量をだ。おなかがすいたとき、食べないと元気が出てこなくて、動けなくなるらしい。だるくなるとか、そんなことを言っていた。
 まるで、他の何かに体のエネルギーを使ってしまった為に、無理にでも食べなければならなくなっている。そんな感じさえ受ける。
 何か他のエネルギー?
 もし、そうだとしたら、彼女の体にはかなりの無理がかかっているかもしれない。無理に大量の食べ物を消化し、エネルギーを無理に作り出す。だから、こんなに食べてもカトリは華奢なのかもしれない。もし、これだけ食べなかったら、カトリは……。

 私の心の中に、不安が広がっていく。
 確かめなければ。

―――

 今日もまた、食事時になるとうちに食べに来てくれてるカトリ。
 幸せそうに、おいしそうに、私の作った鮭のムニエルを小さな口でもぐもぐと咥えていた。
 こうしているカトリを見るだけで私も幸せな気持ちになるけれど、不安が、私の脳裏を横切っていく。
「……おなかいっぱい」
 綺麗になったお皿を前に満足そうな顔で私を見つめてくる。
「そうか、おいしかったか?」
 ぶんぶんと音がするくらい頭を上下にさせて。
「そうか、それはよかった」
 そんなカトリの仕草を見て、居ても立ってもいられなくなる。
 そうだ。

「なぁ、カトリ。魔法ってどうやって使ってる?」
 食器を片付けて、食後の紅茶をのんびり飲んでいるカトリにそう切り出してみた。
 カトリはウィザードだが、魔法を使っている姿を今まで見たことが無い。機会がなかったということもあるが、この魔法というキーワードが私のこの不安を解かすカギになるかもしれない。
「?」
「そうだな。ちょっと私に魔法を見せてくれないか?」
「……どうやって?」
「えっと、たしかここに……」
 本棚の下の引き出しを探してみる。前、プロンテラの露店で売っていたものを研究材料として買ったものがあったはずだ。
「あったあった。『古木の枝』。これを使って魔物を出してみるから、倒してみてくれ」
『古木の枝』とは、使うと魔物を呼び出すという少し危険な道具だ。どんな魔物が出てくるまでは使ったときにしかわからない。これで魔物を出して、カトリに魔法で仕留めてもらえれば。
「……危ない」
「そうだな。強い魔物が出てしまうと私も危ないかもだが。でも見てみたくてな。カトリが魔法を使っている姿」
 ちょっと不安そうな表情のカトリだったが、こくこくと頭が縦に動いた。
「そうか、やってくれるか」
 私の、この不安をなくして欲しい。

 ゲフェンの北から街を出て、あたりに誰もいないことを確認する。
 誰かがいて、古木の枝からの魔物に襲われたら大変だ。
「ここなら、誰の迷惑にもならないな。それじゃ、カトリ、頼むぞ」
 なおも不安そうにしていたカトリだが、こくこくと頷いてくれた。
 カトリが言うように危ないのだが、カトリへの不安には代えられない。
 持っていた枝を真ん中からぽきりと折った。
 枝から紫色の煙が出て、折ったところが青く輝く。

 キシャー!

 大きな本のような形のものが、何か不気味な声を出しながら私の頭に飛んできた。
 魔物『ライドワード』だ。
 私の頭にまとわりつき、本が開いたり閉じたりするように、本のページに生えている牙のようなとげとげで、がぶがぶと私をかじってくる。
 というか、痛い。めっさ痛い。
「……、カトリ、頼む」
 カトリはそんな私を見て首を横にかしげていた。
 冷静にしてるけど、頭に牙が刺さっているから! 死んじゃうくらい痛いから! そんな不思議そうな顔して見ていないで!

 カトリは腰のポケットから何か取り出して、私の足元に転がした。
 ブルージェムストーン?
「……セイフティウォール」
 カトリは両手を広げ、魔法の詠唱をする。
 私の足元に転がったジェムストーンが光り、地面に立つように四角い光の結界ができた。
「……こっち」
 カトリに言われるように、結界内に飛び込む。
 ライドワードは私にまたかじりつこうとするが、結界が私を守って、ライドワードを弾いている。
 カトリを見ると、何か詠唱しているようだ。しかし、それも一瞬。
「……ユピテルサンダー」
 カトリの指先から稲妻のような光が出てライドワードに当たる。
 ばちばちと火花を散らし、吹き飛んでいく。
 街壁にぶつかり、ばちばち輝いて、燃えて、落ちた。

「……いくら本が好きだからって言ってもだ。本に食べられて死ぬなんてまっぴらだ」
 顔まで血が流れてる……。いたた。私はポーションを取り出し、傷口に塗る。死ななくて良かった。
「大丈夫?」
「カトリ、すまないな。やっぱりやるんじゃなかったかな」
 心配げな表情で私を見てこくこくと頷く。

 ライドワードが燃えて消えたところに、追憶のしおりが落ちていた。
 私はそれを拾い、カトリに渡す。
「お礼だ。やっぱりカトリの魔法はすごいな。見せてくれてありがとう」
「しおり」
「また、本を読むとき、それを使うといいぞ。私もカトリが読んでる本がわかっていい」
「……ありがとう」
「さて、それじゃ、帰ろう。そうだ、何か作ってあげるか。魔法を使っておなかすいただろう?」
 こくこく。
 いつものように、カトリは頭を動かして。
 私達は、いつもの私の家に、帰って。
 またいつものように、私は料理を作ってあげるんだろう。


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