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使わなかった魔法

10月10日

 また、カトリが熱を出した。
 なんだか、熱を出す期間が短くなっているような気がする。
 先日病院で医者に診てもらったが、過労が原因の風邪だろうといったような診断しか貰えなかった。
 心配だ。
 カトリに言わせたら、「……すぐ治るから心配しないで」と辛そうな表情で私を見るだけだ。

 やはり、調べた方が良いのか。
 私の家には本だけではなく、生物の研究に使う道具もある。

 それからカトリの髪を少し頂いて、いろんなことを調べてみた。
 成分、DNA、血液型、その他……。
 大きな病気の前触れには、体のどこかに異変が起きているはずだ。
 それを知れば、病気も治せる方法が見つかるはず。

 そして、わかったことに、私は酷く驚いた。背筋に悪寒が走り、鳥肌が立ってくる。

 まさか。
 まさか、そんなことが。

 でも、今、答えが、それを物語っていた。
 何度もやり直してみた。
 間違いなかった。
 間違いじゃなかった……。

 そんなこと、あるはずはない。いや、あってはならないのだ。この世界では。
 でも。
 カトリの出生、今までの生活……。符合することが多すぎる。

 病気とは全く違ったことで、カトリについて、判ったことが出来た。

 カトリは……。いや、でも、そんなことあるはず無い。

 ふと、私の脳裏に、ある出来事がよぎった。

 カトリに魔法を見せてくれと言ったときのことだ。

 あのとき……。
 通常、魔法使いが使う攻撃にもなる防御の、あの魔法を使わず、あえて『ジェムストーン』を使う『セイフティウォール』を使っていた。セイフティウォールはマジシャンやウィザードはあまり使わない。守りと癒しの法術を使うプリーストが主に使う魔法だ。
 それにあの魔法を使える場所もあったはずだ。私も魔術師だったら最初にあの魔法を使う。カトリが知らないはずはない。

 使わなかったのは、やはり“使えなかった”からなんだ。
 きっとそれは、私がいたから。
 あの魔法は、カトリが使うと、私にも効いてしまうから。

 このことは、日記には書かないでおこうかと思ったが、書き記しておくことにした――。

―――

「魔法使いは、武器を使わない。体力が無いからあまり重い武器を振り回したり出来ないからだな。また、その為、防具も重いものは装備できない。しかし、魔法には詠唱がある。では、魔物が襲ってきたとき、魔法使いはどのようにして詠唱をする時間を稼げば良いか?」

「ファイヤーウォールなどを使って、足止めします!」

「そうだ。さすがにゲフェンのウィザード志望生だ。その通り」

『ファイヤーウォール』
 炎の壁を出し、魔物を足止めできる魔法。

 魔法は精神力を触媒にするので、その効果の対象を決められる。
 単体に攻撃したりするのであれば、それのみを対象にすればいいのだが、こうした範囲魔法や設置魔法と呼ばれる魔法の中で対象が複数に渡る、味方にも影響の出てしまいそうな魔法は少し違う。

 基本、人間が出した魔法に、人間は影響を受けない。

 例を挙げると、人間が出したファイヤーウォールは人が通っても熱くもないし、普通にすり抜けられる。
 でも、魔物にはしっかりと効く。本物の炎と同じように効く。
 魔物の方もそうだ。魔物が出した魔法は、何事も無かったようにすり抜けてくる。

 すなわち、魔法は、人間と魔物に、自動的に区別されているのだ。
 多分、そのため、人間と魔物が戦う世界になっているのだ。この世界では。
 それなのに、何故、あのときカトリはファイヤーウォールを使わなかったのか。
 私とカトリの間にファイヤーウォールを出し、私をくぐらせれば、魔物であるライドワードだけをはじくことが出来たのに。
 あえて、対象を選ぶセイフティウォールを使っていた。
 確かに、そのほうが安全かも知れない。私が転んだりしてファイヤーウォールの向こう側に行けなかったら、もっと危なくなる。
 そうであって欲しい。
 たとえ、そうでなくても。

 カトリは、カトリだ。

 私の愛する女性。
 私の世界で一番大切にしたい女性。

 私の、妻だ。



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