第一章/三頁目
駅まで自転車で十五分。途中の乗り換えを含めて三十分。更に下りた駅から徒歩十分。計四十分もかけて通学している。
俺が通う高校は、田舎町の一画にある農業高校だ。集まるのは、頭の悪い連中ばかりだ。
もちろん、俺も他人の事は言えない。わざわざ遠出しているのも、好きで選んだわけではなく選ばざるを得なかったからだ。
最寄りの駅に着く。眼前に広がる光景は黄金色に輝く麦畑だ。流れ込む音は、都会の喧騒ではなく麦穂が風に揺れる音。麦畑が一斉に微笑んでいるように聴こえた。
高校まで続く道は、ちょっとした坂道になっている。
通い慣れた道であることは確か。だけど、夏休み明けの学生達の背は自然と前屈みになっていた。
崖側にはガードレールがある。反対側には密林と化した樹木が構えている。
角を左折する。眼前には自転車通学でやってきた連中が愉快にお喋りをしながら歩いてきていた。
間に位置する階段を上がって、昇降口まで足を進める。
三階建ての校舎が目に入る。農業高校であるため、校舎とは別に農業用に設けられた建物がある。むろん畑もそこだ。
最寄りの駅の前にあった麦畑は、うちの高校のではなく近辺住民の者だ。
俺は玄関を通り、靴からシューズへと履き換えてから教室のある三階まで行った。
今でもたまに思う時があるが、最初の頃はこれから三年間もこんな面倒くさい事を続けなければならないのかと溜め息をついていたものだ。
だが、さすがに三年間も通い続けたので体が嫌でも慣れてしまったのかもしれない。
三階に着いた。自分の教室に入って席に座る。俺は扉側の列の最後尾に座っている。
その隣に座るのは、山本絵理香という奥手な女子生徒。
背は低くて体は痩せている、髪はセミロングで意思主張が感じられない静かな目をしている。
俺は今、山本と付き合っている。
高校入って半年くらい経った頃、何の行事もない平日の終わりに、山本から告白された。
だけど、その時は保留にした。
顔は良いし、性格も悪くはない。だけど、いざ付き合うとなると話は別だ。
バイト帰りの夜道を歩きながら、俺は、明日、どう断わろうかと考えていた。
ひぐらしが鳴き蛙も鳴き、夏の夜の二重奏が俺に焦りと苛立ちを感じさせた。
その時、夏の夜は三重奏に変わった。加わった音は携帯の着信音。画面に表示される相手の名前は、山本理香。
山本妹の姉だ。
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