第二章/七頁目
買い物を終えた頃には、もう午後四時の鐘が鳴り響いていた。この鐘は夕方のこの時間になると毎日鳴っている。
電車が私の肩を揺らし、傍で居眠りをする彼の肩に触れた。
せっかくのデートなのに居眠りをされたのは嫌な気分だけど、彼はバイトのない貴重な休日を割いて付き合ってくれてるのだから、今日だけは我慢することにした。
駅に着き、彼を起こす。少し意地悪しよう。
「彼女の横で寝るのは気持よかった?」
「あ、わり。つい眠くなっちまって」
「次からは気をつけてよね」
電車を下りて、駅を出る。
駅前を行き来するバス。それに乗る。
私ん家の近くバス停で下りて、家まで歩く。
もう少しだ。もう少しで彼に私を見せるんだ。
家族の皆が帰ってくるのは、夜十時過ぎになる。
現刻は四時半を回ったところ。もし、彼に受け入れてもらえた時は、私は彼にカラダをあげる。
初めてだから、絶対に痛い思いはするだろうけど、彼となら気持ち良くやれる気がした。
家に到着。玄関の鍵を開ける。
「何か金持ちの臭いがする」
「しないしない。さっ、早く上がって」
一階は誰もいないから、暗かった。
電気も着いていないし、部屋も閉めっ放しだ。
階段を上がっていきながら、彼に念入りにこう告げた。
「軽蔑しないでね」
彼は気楽にこう答えた。
「軽蔑? 何で絵見ただけで軽蔑するんだよ? するわけないだろ」
それが本当なら嬉しい。
そして、到頭その時は目の前までやって来た。
扉を開けたその先には、誰にも見せることのなかった本当の私が座っているんだ。
私は、ゆっくりと扉を開けた。頭の中で色々な感情や思考が駆け巡る。
テーブルの上に置かれた。数冊の同人誌と絵描きノート。
私は恐る恐るテーブルの横に座った。彼とは対面上に座る。
彼は同人誌に気づいてないのか、まだ反応を示してない。
あっ、手に取った。中身を開いてる……。
猛烈な勢いで体が熱くなった。
「これ、絵理香が書いたやつ?」
「違う。それは、買った」
「いくら?」
「五百円」
「こんな薄いのに五百円もすんのかよ」
駄目だ。もう耐えられない。
私の中の全てを吐き出したい。
「――軽蔑した?」
私は彼を信じれてなくて、BLを見たら絶対に引かれると思っていたから、何もかもをマイナスに考えてしまっていた。
彼は絵描きノートを見ていた。
「別に」
別に?
今、彼はそう答えた?
「別にって……?」
不思議と全てのことに疑問を感じてしまう。
彼は絵描きノートを置き、私の方を向いた。
「だから、俺は別に軽蔑も何もしないって」
嘘だ。男の人がBLを読んで、こんな反応するわけがない。
何かある。そうだ。私には言えないけれど、本当は軽蔑してる……はず。
「中学ん頃にさ、クラスの女ん家に遊びに行った時に見たことあるからさ、今さらって感じ」
「えっ、そうなの……?」
私の友達以外にも読んでたんだ。
「つか、そいつ以外にも結構読んでるやつ多かったぞ? まぁこんなに過激じゃないけど」
「これは年齢制限ついてるからね……」
嬉しくて、心が熱くなっていた。
彼に受け入れてもらったことだけじゃなくて、私以外にも疑似BL本を読んでいたことに。
これなら彼にカラダをあげられ……、
「――でも、もう少し“万人受けするデザイン“にできればいいな」
万人受けするデザインって。
彼の言葉に耳を疑った。
「武内君は何も分かってない……」
「何が?」
「私は、自分の書いたキャラクターを愛しているの」
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