第二章/六頁目
もう九月半ばだというのに、その日は猛暑日だった。
キャミソールにボトムパンツのこの恰好でも十分に過ごせるくらいだ。
私は九時に起床し、部屋の掃除を済まし、彼を迎える準備を終えていた。
三方にはベッドとタンスと本棚が置かれている。
ベッドのカバーには皺一つ寄っておらず、念のためタンスの中もきちんと整えておき、本棚は雑誌類と漫画類で分別して整頓しておいた。
中心のテーブルには、十数冊にも及ぶ絵描きノートとBLの同人誌が置いてある。
言い方を変えれば、それは“私“である。
彼には私を受け入れてもらいたい。この先、漫画を書く事も恋愛を育む事も共にしていきたいから。
だけど、肌の露出が少ない同人誌を上に置いたのは、私なりの逃げだったのかもしれない。
そんなことしても意味のない事は分かっているつもりなのに。
そろそろ待ち合わせの時間だ。私は家を後にした。再びこの部屋に戻ってきた時、私の隣に彼はちゃんといるのだろうか。
駅前には時計が立っており、私はそこで待ち合わせをすることにした。
老若男女問わず大勢の利用者が行き来する駅前。その喧騒さは同人誌の即売会場と似ている。最も似ているだけであって、喧騒さで問えば圧倒的に向こうの方が勝っている。
今頃になって後悔することが一つ。陽射し防止のために帽子を被ってくればよかった。暑い。
ここは陽射しが直で当たるので、入り口前に移動した。
等間隔で設置された柱の一つに背もたれして、私は彼が来るのを待っていた。
「あ、来た」
彼が来た。五分前の到着だ。
ロゴの入ったシャツにジーパンとお洒落とは言えないけれど、体格が良いせいか似合っている。
鋭い目つきは相も変わらず。眼鏡を通して見られると睨まれているような錯覚を感じる。
ワックスで操作された髪は全体的に刺々しい印象がある。彼は外見だけ見ると近寄り難い雰囲気があると思う。
「その目やめなよ」
「しゃあないだろ。生まれつきこうなんだから」
私達は切符売り場に足を運んだ。
「赤ちゃんの頃から?」
「さすがにそれはないと思うぞ。まあ、保育園の頃の写真見た時はもうこんな目だった」
切符を購入して、改札口に向かう。
「昔の写真とかアルバム。今度見せてよ」
「別にいいけど、お前同じ中学だったじゃん」
改札口を通る。その足が一瞬、止まった。
彼の手が離れる。
彼は振り返り、私を見る。
「どした?」
私は、不登校気味だったから彼の事をあまり覚えていない。
今にしてみれば、勿体無いと思う。
彼とは、その時既に出会っていたのだから。
「ううん。何でもない」
彼は私の手を引いた。
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