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小説家になろう物語
作:俺とキルマシーン



第一章/十二頁目


 空っぽの教室は見ていて気持ちが悪い。まるで教室の抜け殻を見ているようだから。
 でも、それだけ賑やかな教室の印象が強く焼き付いているのだろう。
 初秋の黄昏は遅く、茜色の空に変わる頃には既に夕御飯にありついている家庭もあるだろう。
 グランドでは運動系の部活の連中が青春を堪能している。
 俺は、教室の窓からそれを見下ろしていた。
 普段ならもうとっくに帰宅している時間だが、今日は訳あって居残っている。
 絵理香にノートを読んだ感想を聞くためだ。
 当の本人は今、俺の後ろでノートを読み返している。
 ノートを読むことに没頭してくれるのは嬉しいのだが、正直、かなり息苦しい。
 重役会議に参加しているわけでもないのに、異常なくらい重苦しい。
 絵理香を動物で例えるなら、絶対に狼だ。己の恐さ故に人を寄せ付けないから。
 近寄りがたい存在だから。
 パタッ、と、ノートを閉じた音が聞こえた。読み終わったのだろうか。実はかれこれもう五回も同じ音を聴いている。

「帰ろうか」

 思わず、後ろを振り向いた。
 ノートとカバンを片手に、絵理香がこっちを見ていた。
 教室には誰もない。どうやら、俺を誘っているようだ。

 最寄りの駅まで続く下り坂。緑に挟まれた帰路。もうすぐこの緑も黄金色に変わるのだろうか。
 絵理香とこうして肩を並べて歩くことなんて無いと思っていた。
 手はつながなかった。が、手をつなげる距離ではあった。
 今までは近くても遠い存在だったから、余計に進展を感じる。

「武内君って、字、下手なんだね」

 いきなり突拍子もない感想を口にされた。

「読みづらかったか?」

「うん」

 だから五回も読み直していたのか。
 だけど、それだけ熱心になって読んでくれるだけで嬉しいことだ。

「私が書きたい作品はなかった」

 仕方ない、と、内心思っていた。
 感性の相違は必ず生じるものだと、先輩も言っていたから、その程度の感想で済んだのだろう。
 でも――、と言い、絵理香は立ち止まった。
 こちらを振り向き、含み笑いを浮かべながら言った。

「二人で書きたい作品なら、一杯あった」

 初めて見る。その顔。
 初めて聞く。その声。
 ああ、これが絵理香なんだ。
 幼い少女のようなその笑顔に、心が揺らいだ。
 俺は、優しく微笑んだ。

「じゃあ、これからが大変だな」

 手がぶつかり、一瞬、離れて、またぶつかる。

「うん。でも、二人でならやれるよ」

 指が絡み合う。繋いだ手は、まるで蕾のような形をしていた。

「そうだな」

 ――もう、俺達は一人じゃないもんな。












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