黄昏ゆく街で(15/23)縦書き表示RDF


涼に秘められた秘密が明らかになったとき。
全てが、動き出す…。
黄昏ゆく街で
作:光野ワタル



第十二話:暗転


涼が目を覚ますと、左腕にチューブが生えていた。
それが点滴であると認識するまで、少し時間がかかった。
「お気づきなられましたか。」
涼の視界に、あまり見たくない顔が入る。
こんな状態じゃなければぶっ飛ばしているのに。
涼は、心のの中で深くため息をついた。


バスの中で卒倒した涼は、樹と龍一の通報で、近くの公立病院に搬送された。
しかし、直ぐにまた、ヘリコプターで国立の病院に搬送され、特別室に入院することになったのだ。

涼の目覚めを確認して、レールが話しかけてくる。
「丸一日、お眠りになっておられました。」
「お加減は如何でしょうか。」
レールがそう尋ねても、涼は不機嫌な顔をしたまま沈黙を貫いた。

やがて、食事が運ばれてくる。
牛乳、ヨーグルト、赤味噌の味噌汁、サラダ。
無言で食物を口にし、立ち上がって、歯を磨きに行こうとする。
そういえば。
「…ねえ。」
嫌そうな顔で、レールに尋ねる。
「ここ…どこなの?」
しかし、今度はレールが黙して答えなかった。
涼は重い溜め息を零し、点滴を引き摺って、洗面台の方へ向かおうとした。



ばたり。




レールが自分の下に駆け寄ってくる足音だけが、涼の耳に微かに聞こえた。














『…生きて…』
『…私…の…分も…生き…て…』


『嫌だ…何で君が…』
『逝かなければいけないのは、血塗られた僕のほうなのに…』






『…逝かないで!!!』





涼が布団から身体を起こす。
寝具は大量の汗で濡れている。
「…」
涼は、暫く、病院の上にあるだろう空を眺めていた。
朝陽か夕陽か知れないが、光が涼の身体を茜色に染め上げた。













「みんな、おはよう。」
「はよー。」
樹と龍一が、連れ立って教室に入る。

「おはよう、水無月君、龍ちゃん。」
「おっす、水無月、龍!」

如月涼が病欠してから二日目。
樹も龍一も、敢えて涼の話題には触れなかった。
何かが、壊れそうな気がして。

龍一が、最近人気のお笑い「ひがしたによどこ」のモノマネをしている。
クラス内は龍一の寒いギャグと、セクハラ発言のせいで、殆どいつも通りだ。
『何かが足りないのは、事実なのだが…』
樹が物思いに耽っていると、始業の鐘が鳴り響いた。

真奈美が教室に入ってくる。
真奈美の表情も、何時もと変わらない。
「朝のHRを始めます。水無月君。」
真奈美が樹のほうを見やる。
「はい。」
本来、ホームルームの司会は、涼の役目だが、涼がいない今は、樹が代行している。
樹が教壇に立とうとしたその瞬間。

がらがら。
教室のドアが開き、姿を見せたのは。
如月涼、その人だった。

「遅刻しちゃった。」
「後で、反省文書いておくね。」
いつもの微笑み。
いつもの声。
クラス内がどよめく。

「みんな、静かにして。」
涼が、いつもの口調で喋りだす。
「今回は、突然倒れてしまって、迷惑をかけて申し訳ないと思っています。」
「ちゃんと元気になって戻ってきたので。」
樹、悪いけど交代ね、と言って、涼は教壇に登る。
「はい。」
「今日の朝のHRを始めます。」
石川先生お願いします、と言って、真奈美に話題を振る。
「石川先生?」
涼が真奈美の顔を覗き込む。
「え、はい。」
真奈美が、いつにもなく狼狽しているのを見た龍一は、
「そんなややドジっ娘属性な真奈美たん萌え〜」
と、最近話題のドラマ『海男』の真似をする。

ごすっ。

いつものように、涼と樹の鉄拳が、龍一の体に吸い込まれるのを見ながら、真奈美は朝自宅を訪ねてきた男のことを心底恨んだ。
『しばらく入院だって聞いていたのに…』
役人の言うことは当てにならない、と思い返して、真奈美は生徒たちの前で喋りはじめた。
















「如月先輩、お加減は如何ですか?」
ほうじ茶を淹れながら、真琴が心配そうな表情で涼を見つめる。

「大丈夫だよ。」
そう言って、涼はいつものように微笑む。

「河本、僕がいない間、何か変わったことはあった?」
「いえ、特に何もありませんでした。」
本当は些細なことがあったのだが、病み上がりの涼に心配をかけまいと、真琴は涼に負けないようににっこりと微笑んだ。

「それで…」
涼の顔が暗い影を帯びる。
「…やっぱり、今年も着なきゃダメなのかな…」
諦めを含んだ口調で、涼が呟く。
「はい。」
悪魔のような笑顔で、手にした資料を片手に真琴は微笑む。

真琴から資料を渡された涼。
「…去年より、増えてない?」
「僕だけじゃなくて、悠太、忍、…樹に龍一までか…」
涼は軽い眩暈がした。

「如月先輩は、どのような服も着こなすと、大変人気ですよ?」
「…わかったよ。」
涼は諦めた顔で、
「ただし、期日だけはちゃんと守ってよ。」
「はい。…一部の生徒には、堪らない日ですから。」
この可愛い後輩の後ろに、意地悪の神様がついているのを感じて、涼はまた気が遠くなった。



「みんな、揃ったね。」
涼は、副会長席の樹を見やる。
「これより、生徒会会議、及び、学祭実行委員会を開会します。」
「生徒会長より、開会にあたっての挨拶です。」
樹が涼を見やる。

「みんな、忙しいのにありがとう。」
「僕たち三年生にとっては最後の、一年生にとっては初めての、二年生にとっては二回目の学祭です。」
「今年も、よりよい学校祭を目指して、みんなの力を僕に貸してください。以上です。」
涼がいつもの台詞で、挨拶をする。

「それでは。」
樹は今度は龍一を見やる。
「会計から報告。」
「今年度の…」














学術の1日目が終わり。
文化の2日目。
朝陽ヶ丘高校の講堂は、学校伝統の服飾展示会が行われていた。
『一年生、…冬椰君』
場内アナウンスが、生徒の名前を呼び上げていく。
『二年生、河本真琴さん』
真琴は、中世ルネッサンス期を思わせる服装で、ステージに上がる。
…男物の服で。

『続きまして、朝陽ヶ丘高校が誇る、5人の変わり衣装〜』

一年生は何のことか分からない顔をしているが。
上級生は既に何が行われるかわかった顔で、特に一部の生徒が異常な盛り上がりを見せ始める。

『トップバッター、3年A組、神無月龍一先輩w』
紫色の髪をした、龍一がステージに上がる。
唇には、遠目から分かる鮮やかなピンクのルージュ。
本人の好みと、要望と容貌で選ばれた、バストシャツに、脇が見えるシャツ。
所々破れたパンツに、巻きつけられたラメ入りのベルト。
『黙っていれば』格好いい龍一が、セクシーな姿で歩き回った後。

『続いては、同じく3年A組、水無月樹先輩。』
龍一で盛り上がったボルテージを沈めるかのような。
会場からはため息しか聞こえてこない。
髪型は漆黒のポニーテール。
腰まである髪は、全てエクステである。
恥ずかしさで俯いた樹の顔に、男女ともに『萌えて』いるようだ。
長身で、腰の細さを活かした、樹の服には、薄いピンクのフリルがふんだんに散りばめられている。
ぎこちない笑顔で、樹が一礼した後。

『続いては、3年B組。皐月忍先輩!』
忍が投げやり気味に登場したとき、会場内が色めきたつ。
頭にはリボンつきのカチューシャ。
純白のアンダーシャツに、首もとの大きな赤いリボン。
胸から下は、淡い水色のエプロンをかけて。
右手には丸い盆を下げて。
そんな忍は、もうどうにでもなれという気持ちで、
『おかえりなさいませ、ご主人様。お嬢様。』
恭しく頭を下げて一礼する。
この日のために恥を忍んで練習してきたのだ。
完璧なメイド姿に会場内が『ピンクの』空気に包まれる。

『更に、3年B組、ゆーたくん!』
はぁ〜い、と飛び出した悠太の姿に、男子は息を呑み、女子は騒ぎ出す。
右の頭には黄色いリボン。
赤いランドセルを背負って、ホットパンツが見えそうなスカートで、くるくる回りだす。
どう見ても、高校生には見えない。
現役の小学生で十分通用する。

悠太がひとしきりステージで『遊び終わった』後。

『最後になりました。』
『我らが朝陽ヶ丘高校生徒会長!』
『3年A組。如月涼先輩です!』

ちなみに彼女はいないから、みんな今年が最後のチャンスだよというアナウンスが流れ。

会場内が暗くなる。
スポットライトの中、姿を現した涼は。
純白のヴェール。
頭には花冠。
白いドレスに負けない、涼の色の白さに、会場内から溜息がこぼれる。
ステージの中央に立った、ウェディングドレス姿の涼に、誰もが未来を予想した。
一年生側に向かって、手にしたブーケを放り投げ。
涼は、ドレスの両裾をつかんで、恭しく一礼した。






どくん。



『嫌だ!』
『逝かないで、逝かないで!』



頭を上げた涼の目から、急速に力が消える。




『逝かないで! …な…』
『…い…な…』



涼の口元が微かに『れ・い・な』と形を作ったとき。




どさっ。

全ての人間の前で、涼の姿は暗転した。



お読みいただいてありがとうございます。
いかがでしょうか。
 
 
物語が大きく進みました。
これからの五人、よろしくお願いします。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう