第七話:欠席
『ここで。』
画面上の涼が、真剣な顔になる。
『一つ、知ってほしいことがあるんだ。』
『悠太には、辛い思いをさせてしまうけど…。』
『それでも、大切なことだから。』
『ごめんね、悠太。』
「…如月君、如月君…?」
最近ぼぅーっとしてることが多いよ、と真奈美が言う。
「ごめんなさい。」
「本当なら、隣の寺島先生にお任せするべき話なのですが。」
そういって、涼は苦笑する。
「しょうがないよ。寺島先生だし。」
真奈美も、涼の意図する事を察して苦笑する。
「…それで、霜月君は?」
「当分、施設からの登校になると思います。」
「そう。…しょうがないわね。」
あんなことがあった後じゃ、と言って、真奈美は溜め息をつく。
「問題ついでなんだけど。」
真奈美はいつになく真剣な顔で涼を見つめる。
「水無月君とは、多少は仲直りできたの?」
「多少は。」
そう言って、涼は茶を濁す。
「樹も、きっと分かってくれます。」
「あまり、私を冷や冷やさせないでね。」
「分かってます。」
ふう、と溜息をついた真奈美。
『こうしている分には、普通の高校生なのだけど…』
新任として、如月涼の担任になる前のことを真奈美は思い出していた。
『この子が…ね…』
髪と瞳の色が違うことを除けば、優等生。
成績優秀、スポーツ万能、人望や人気もある。
更に容姿端麗。
なのに。
「先生…石川先生?」
「あ、ごめん。」
考え事をしていたから、といって、真奈美も茶を濁す。
涼は、先程児童保護施設に送り届けてきた悠太のことが、気がかりでならなかった。
「…悠太、今日も休みなんだ。」
忍が、深刻な顔で涼に告げる。
「寺島先生はどうしてるの?」
「…あのジジイは役に立たない。」
涼は苦笑するしかない。
忍と悠太の担任、寺島裕輔。
今年で定年。
社会科担当で、歴史を主に教えている。
その授業は分かり難いと評判である。
忍は、そんな寺島のことが嫌いだった。
「それで、忍はどうしたいの?」
「…悪いけど。」
一緒に悠太の家まで来てくれないか、と涼に頼む。
「僕だけじゃいけないから、龍一と樹にも来てもらうけど、それでいいかな?」
「…別にいいけど。」
『龍一と樹』という呼び方に、忍は違和感を覚えた。
『樹と龍一』でなければいけないのに。
やはり、涼も引き摺っているのかな…。
忍は、そんな涼の横顔を眺めていた。
「どうしたの?」
「…いや、何でも。」
「それじゃ、生徒会終わってから、いつものファミレスに。」
「了解。」
そういって、涼は立ち去る。
『…あのムッツリ、どうにかならないかな…』
忍は涼の背中を見ながら、そう思った。
昼休み。
真琴のクラスには、樹の姿があった。
たまには一緒にご飯を、と言って、樹を招いたのだった。
樹と真琴が付き合っているのは、校内の殆どの人間が知っている。
真琴には、羨望と嫉妬が入り混じった眼差しが向けられていた。
「はい。樹。」
あーんして、と言われて、樹は顔が真っ赤になった。
「…真琴、恥ずかしいのだが…」
「私の料理は嫌?」
「嫌な訳がない。」
だったら、といって、真琴は樹に『あーん』をさせる。
『これは…何の羞恥だ?』
樹の思考は完全に混乱していた。
周囲の女子生徒が、
『水無月先輩、押しに弱いね…』とか、『完全に尻に敷かれている』と言い出す。
樹は、
『こんなとき龍一だったら…』
と、親友のことを思うが、
『いけない。今は冷戦中だ。』
と、思い返す。
涼との一件があってから、涼や龍一だけでなく、忍や他のクラスメイトとも、何となくだが話し辛くなっていた。
もちろん、表面上の挨拶や雑務などはできるのだが。
前と変わらずに接してくるのは、悠太だけだ。
しかし、その悠太は、最近学校を休んでいる。
「…どうしたの、樹。考え事?」
真琴が樹の顔を覗き込んでくる。
「いや、何でもない。かわ…真琴。」
まだ、『真琴』と言う呼び名に慣れない。
17年の人生で、一人しか付き合ったことがないからか。
龍一みたいに、手当たり次第というわけにもいかないが。
「だって、眉間に皺寄ってた。」
「これは。」
「言い訳しないの。」
「ごめんね、ラブラブなところ邪魔して。」
クラス内が色めきたつ。
樹の後ろには、申し訳なさそうな顔をした涼が立っていた。
「ここだって聞いたから。」
涼は影が射した微笑で樹を見つめながら、
「ごめん、ちょっと悠太のことで話があるんだ。」
「…そうか。」
それは深刻だ、と樹は思った。
無断欠席が続いているにも関わらず、寺島は何もしていないらしい。
忍からそう聞かされた樹は、
「何かあるんじゃないのか? 例えば、病気とか…」
「病気にしたって何にしたって、連絡が一切無いのはおかしい。」
忍がそう断じる。
「だな。」
「寺島の奴、悠太の家には行くな、って言ってるらしいぜ。」
隣のクラスのくせに、よくそこまで知ってるね、と涼が言い、下世話だね、と忍が突き放す。
「とりあえず、今日僕が行ってみるよ。」
涼が言う。
「生徒会のことで伺いました、と言うし、そうそう邪魔はさせないよ。」
「分かった、涼、無理はするな。」
樹は自然と零れた自分の言葉にはっとする。
龍一は、そんな二人を見ながら、羨ましいと思った。
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