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夜の子シリーズ

誰も邪魔してはならぬ 後編

作者:そら
眠くて次の日にも書こうと思ったのに今日仕事帰ってから、です。
ごめんなさい。
 それなり以上の成績を上げて、これといった問題もおこしていない私はクラスの女子たちから「何あれ感じ悪い」と聞こえがしに言われても、彼女らは受験もあり人に構っている暇もなく願った通りほっておかれていた。

 ただ、進路指導の冴えない眼鏡とヨレヨレのスーツがトレードマークの英語教師の岡島だけが私に声をかけ続け、大学受験をするようにと必ず私の顔をみるといってきたし、暇さえあれば面談を希望してきた。

 ほとんど大学に行くのが当たり前のこの高校で、難関国公立に模擬の段階であれA判定をたたき出している私をこの岡島だけがあきらめきれてないようだ。

 私はミユキさんが死んだあと、それまでの希望だったそこそこ名の通った大学への受験希望を変更し、専門学校にいくと伝えていた。

 ミユキさんの残した美容室はそのままに残してあり、その後を私が継ごうと思ったからだ。

 病院に入院してもミユキさんは何ひとつ弱音をはく事もなく、いつもニコニコ笑って看護士さんがいい加減な様子を、自分に対するお洒落とまではいかなくても「朝おきてそのまま来ました」なんて感じでいるとすかさずその人を捕まえて、

「もう~、あなたダメじゃない。せっかく女に生まれてきたのに女捨ててどうするの?忙しい?そりゃあ見てりゃわかるわよ。だけどね、ちゃんと自分の手入れはしなきゃ。自分の顔や手に眠る前でいいからクリームのひとつでも塗りたくってみなさいって。そうやって自分をいたわってやれば、少しずつ少しずつ気持ちも落ち着いてね、ちょっとした疲れも疲れと思わなくなるわよ。たった一人の自分さえいたわれない人は他人様なんて仕事とはいえ、なおのこと無理がでるわよ。本当にいつのまにか大ざっぱな仕事しか出来なくなるの」

 そう言って仕事の合間に彼女らの手をマッサージしたりお説教をしたりして、初めは面倒な、というのを隠しもしなかった看護士さんたちが、ひと月もするうちには自身の休憩の時間にはベテランさんから若い人までミユキさんのところに少しずつ顔を出すようになった。

 私はミユキさんから店にあるあのクリーム持ってこいだとか、せっかく顔を見にいけるのを楽しみにしてるのに、ちょこちょこ用事をついでに頼まれて伝書鳩のように病院に行っていた。

 そうしていつの間にかその病室である個室はちょっとしたサロンみたいになっていた。

 余命宣告受けてもミユキさんはミユキさんだった。

 私はと言えば病室に行けるのは習い事がない日しか許されず、そういう日も頼まれた化粧品やらを持ってくる伝書鳩で終わってしまうので、すごくすごく子供のように「何で私じゃなく看護師さん達を私より優先するの」と拗ねてみせたり、「もっと一緒にいたい」と駄々をこねた。

 私が子供みたいに感情を爆発させた時、怒る私とは反対にミユキさんはそれはそれは嬉しそうに私を見て「やっと心がちゃんと動き出したのね、いっちょ前にやっとね」そう言ってケラケラ笑い地団駄踏んでいる私を更に笑い飛ばした。

「ネコはやる事だけ今までのようにやってなさい、沢山金メッキかぶさなきゃ。安いメッキもきっちりかけりゃ立派な芸術品にもなる時だってあるの。あんたはそれになるのよ、わかった?」

 そう言って習い事を休んでまで病室にいるのは許さなかった。

 少しずつ弱っているのが目に見えていたのに。 



 やがて眠っている事の方が多くなったある日、枕元で私がミユキさんの体をマッサージしていたら、ふっとミユキさんが目をさました。

 ミユキさんは私がいるのに気がつくと困ったように笑った。

「やぁね、大人の女の寝顔を見るなんて反則よ。特に私の寝顔は高いのよ」とふざけて、一度疲れたように目をつぶり、次にはしっかりと私を見た。

 ミユキさんはマッサージする私の手を止めさせると、私の顔にそっと手をあてると優しくそれは優しく笑いながら、何度も何度も私の頬をさすってくれた。

 ちょっとかすれている声で「いい女になりなさい、私がやっぱり女と付き合うのも良かったかしら?と後悔するくらいの女に。私が本気で悔しがるくらいの女に。わかった?」 

「あんたは悲しいくらい一人よ。子供時代をとっとと終えて、ね。そんな子供たちって特に人と馴れ合えないもんよ。一人でキチッと生きるてくしかないの。あんたのそばに寄り添ってくれる人ができたとしても、悲しいくらい人は一人だと早くから気づいちゃったからどこか構えちゃうのね。いろいろな理屈をつけて人は誰かに寄り添おうとするけど、寄り添ってくれる人もいるけど、あんたはちゃんと一人で立つ事も忘れちゃダメよ、あんたの懐は人より狭いんだから。守って上げられなくてごめんね」

 それがミユキさんと最後にかわした会話になった。



 いろんな事が全て終わってから、ミユキさんがいなくなったその店を眺めながら、なんだかんだと入院する前にあらかた片付けられていたその店の静かさの中で私はようやく泣く事ができた。

 その静かな寂しさの中ここにいたい、ここにミユキさんのように立てる人間になりたい、ただそう思った。

 着々とまずは美容師の専門学校に入学するために私は動いた。

 いろいろな資料を取り寄せたり専門学校の見学をして過ごしていたある日、繁華街を少し外れたその道でひどく目立つ集団とすれ違った。

 派手な容姿のいかにもな迫力のある八人くらいの集団で、その中でも特に髪をオールバックにした男は見事に出来上がった肉体をぴっちりとした皮ジャンで身に包み、その存在自体がその派手な集団から抜きん出ていて、特に目を引く男だった。

 彼らは注目を浴びるのを当り前のように踊るようにそこの通りを流れていた。

 周囲の人だかりは足を止め思わず見惚れていたが、私はそのまま彼らとは少し離れて通りすぎた。

 通りすぎた時強い視線を感じはしたが、ミユキさんの教えの一つである「見られる事を楽しむ」を実践している私は何も気にせずにそのまま振り返りはしなかった。

 あの通りにはミユキさんの親友で、ミユキさんのお葬式やミユキさんが私に残したあれこれの手続きをしてくれた知る人ぞ知る大手美容グループのトップ萩野悦子さんからの紹介で知り合った一人、自称アクセサリー作家のゴンちゃんのねぐらの一つがあった。

 悦子さんに連れられて、私と彼が出会った時、彼はどこか異次元に心が遊びにいっていたらしく軽く頭をゴンゴン壁にぶつけていたので、私が思わず「あのゴンちゃん大丈夫ですか?」って聞いたのがはじまりだ。

 その場にいた人間にそれが大受けし皆がその本人を含めて「ゴンちゃん」呼びをしだした。

 知り合ってから何故か気が合うゴンちゃんには、何だかんだと時間が空いていれば呼び出されるようになり、自称どころかプロ作家並みの出来映えのレジンやシルバーで作ったアクセサリーを合うたびに私にくれるようになった。

 この悦子さんに連れられて知り合った人たちは、そばにいて心地よく時間があいさえすれば、呼ばれた時には足しげく通うようになっていた。

 何もよけいな事を言わず聞かず、ただ一緒にいるような優しい時間はミユキさんを失った私の避難先になっていた。

 けれどあの撫でてくれる優しい手の喪失は、初めてあの何も怖い事のなかった子供時代以来の与えられた愛情の喪失は、私の中にいいようのない感情を深く残していた。


 いつものようにゴンちゃんの所から帰る時、ゴンちゃんもちょうど出かけるというのでいつもの道をその日は一緒に歩いていた。

 その日もらった少しごつめのシルバーリングは私の細い指につけるとそのデザインとは反対にとても繊細に見えて、私はその指輪をついつい見てしまって、そんな私をゴンちゃんがニヤニヤしながら見ていた。

 だから私は気がつかなかった。

 あの派手な集団の男達が近づくのも、あの突出した男が私の方に向かってくるのも。

 いきなり私は手をひかれ、何ごとかと見ればあのオールバックの男が目の前にたっていた。

 私が突然の事に驚ろいていると「こいつと何やってる!こいつが誰だかわかってんのか!」と怒鳴ってきた。

 初めは私も突然の事に絶句して、見ず知らずの人間に突然腕を捕まれ、しまいには大声で怒鳴られては当たり前だと思うけど、呆然としてやけどすぐに我に返ってキッと睨みつけてやった。

「ふざけないでよ!あんたこそ見ず知らずの赤の他人に何やってくれてんの!痛いんですけど!有り得ないんですけど!その掴んでる手を離してくれない?通報するわよ」

 そう言って言いかえしてやった。

 睨みつける私に、男は胸ポケットから眼鏡をとり出し頭をぐちゃぐちゃといじりながら私をみてきた。

「いい加減、大学受験をしろ」と言いながら。

 祖母に初めて髪をつかまれ手の平を踏まれた、あの時と同じくらい私は驚愕した。

 この派手な取り巻きを連れたカリスマ男はあのいけすかない進路指導の教師、岡島だった。

 何これ、何の詐欺?

 あのダサ眼鏡ヨレスーツ男、生徒に馬鹿にされ、あの授業中のボソボソとしたやる気のない、皆が皆他の勉強の時間にあけくれ、その生徒の内職を咎めないという、ただ一点のみが取り得だと言われている、あの岡島が、このカリスマ男だったなんて、私はボケっとバカみたいに岡島を見た。

 マイペース型のゴンちゃんがさすがに怪訝に思ったのかやっと動き出した。

「どうしたの?」と声をかけながら揉める私達のとこにやってきた。

 ゴンちゃん、あんたのノホホン振り相変わらずだね、その春の日差しを浴びて日なたぼっこしているような声音に反対に私は我にかえったよ。

 それに合わせたようにあの派手な取りまき達が「オメェら終わったな。ここいらで俺らに逆らうなんて、どこの田舎もんだァ」そうドスのある声で叫びながらわらわらとやってきた。

 あっ、まずいかも。

 この派手派手集団の男達、見た目はいいけどオツムはとても残念みたい。

 私もゴンちやんもロも手もへなちょこだもの、どうしようか?

 そう考えるのと同時に、私たちの元に寄ってきた男の一人がゴンちゃんのシャツを鷲掴みにして顔を近づけてゴンちゃんを脅そうとした。

 しかしそうした男はみるみる内に顔色を青くして、火傷をしたかのように慌ててすぐにその手を離した。

 男は私と見つめあってる、色っぽいそっちの方向じゃなく、お互いようすをうかがっていただけだけど、その岡島に向かって悲鳴のような声を出した。

「まずいっすよ、まずいっすよ。俺、俺、どうなんすか?手を出しちまいましたよ。岡島さん!早く謝りましょう、謝りましょうよ」

 そう大声で叫び他の寄ってきた男達もその場をすごい勢いで後ずさった。

 岡島と言えばそれに何の反応も返さずに、私にまた「わかってんのかと聞いてんだ」と声を荒げた。

 ゴンちゃんがそんな状況の私に「おチビいくよ」とまたまたホンワカモードで何もなかったように話しかけるものだから、ちょっと混乱してしまう。

 いつもゴンちゃんは他の人達もだけど、花の女子高生、それもミユキさんに手をかけられて、十人中七・八人くらいは振り向いてくれるんじゃないかと思うくらい清楚な正統派の美少女ぶりを発揮する、まあ悲しい事にほとんど金メッキをかけてでき上がってるんだけど、その私の名前など一向に覚える気なんてこれっぽっちもなく、そこらのノラのように「チビ」と呼ぶのだ。

 もちろんその都度きちんと反論させて貰うので、いつものように反射的に「チビじゃない!」とゴンちゃんに向かって反論した。

 ・・・そこで私が見たゴンちゃんは、いつものノホホンとした口調のままに、その表情は見たものを氷点下に固まらせるようなひどく酷薄なもので、その眼差しは恐ろしいくらいの暗い強さで岡島を見据えていた。

 それを見て再び声を出せずに固まってしまった私をよそに。

「すいませんが、こいつはど素人のただのガキなんです。今度また改めてご挨拶にいかせていただきますんで、すいませんがその手、離してやって下さい。お願いします」

 そう言って岡島はゴンちゃんに頭をきちっと下げた。

 ゴけれどンちゃんはそれに何も返さず「おチビいくよ」の一言で私と歩きだそうとした。

 頭の中はあまりの衝撃で、だってダサ眼鏡詐欺教師と、春一番ノホホン詐欺男が一気にきたんだもの、仕方ないよね。

 私は一つゆっくりと息を吸い込むと2人を無視してちゃっちゃと歩き出した。

 2人が「おい」「あれ?」と呼び止める声を知らんふりした。

「私、忙しいので学芸会の練習には付き合ってられないの。それじゃあね」

 そう言ってそのまま自分の怒りにまかせて、その場を退散した。

 すぐに後悔したけれど・・・。

 まぁ、ゴンちゃんはいいとしても、教師の岡島とは学校が始まれば嫌でも会う事になる。

 あれだけ自分のみてくれを隠してるんだから、夏休みが終わってもわざわざ学校で私に関わってくる事はないだろう、と私はふんでいたけど、どうしたら無害アピールできるだろう。

 そんな考えが甘いと知ったのは、稽古をおえて家に帰った私をあのダサ仕様の岡島が待っていたからだ。

 ご丁寧に我が家までって、怒鳴りたいのをぐっと抑えて、先生を送りながら話しをするからと、そのまま家を出た。

 車できているというので、自宅近くの公園にきて、私は開口一番弁解した。

「私は何も言うつもりもないし誰かにも言わないよ。わざわざ来ることないのに」

 そう言って岡島を睨んだ。

 岡島は「お前の家族のようにか」と言って私をじっと見た。

「俺がお前の事で話しがあると言っても、一瞬お前の父親も他の家族も誰の事だって顔をして、その後とりつくったように、俺に謝ってきた。お父さんが思うような、そんな問題をおこしたわけじゃなく、成績も非常に良い生徒なので、ぜひ大学受験を進めてほしいと言ったら、わかりました、言っときますって、今どきの悪さしたガキが謝るより全然気持ちが入ってねぇ返事をくれたよ。お前が何かしでかしたと勘違いした時は、よくもまあ、実の子に対してそこまで言うかってくらい、ペラペラしゃべってくれたのになあ」

 そう言って煙草を取り出して面白がるように私を見た。

「お前は帰ってきてもあの家族に対して、とても綺麗に自然体でいやがる。可愛くねぇなぁ。俺と俺のグループとすれ違っても目も向けやしねえ。お前知らねぇだろう?何度も俺たちとすれ違ってたんだぜ。しまいには意地でもお前を振り向かせてやろうと思っていたのに、あの松田さんといるのを見て、考えるより先に手が出てた」

 そう言って私を強い眼差しで見た。

 そして私の前にくると私の手を取り、自分の頭をかがめてそこに押し付けた。

「初めてなんだ。女はこのみてくれと体に勝手に寄ってくる。男も同じだ。自分からこんなに欲しいと思うのはお前が初めてなんだ。俺があんなクソみたいな家族より可愛いがってやる。誰よりもお前の事を大事にしてやる。だから俺を選んでくれ」

 そのまま私の体を強く抱き寄せ、初めて異性に、しかも大人の男に告白をされ、私は気がつけばなぜか「はい」と答えていた。

 初めは警戒をしていた私も、お互い空いている時間をともに二人で過ごすうち、隠しもしない岡島の愛情表現にいつのまにか私も溺れていった。

 私の髪をとても大切に優しくすくその指が好き。

 私を暇さえあればいつも抱きしめるその腕が好き。

 私の体を覆い尽くし、そのくせ壊れもののように私を抱くその体が好き。

 夏休みが終わって学校が始まると、岡島の授業は、そっとその眼鏡の奥からお前が好きだと私と目線が合うと訴えかける甘い時間になった。




 秋も深まったある日、ゴンちゃんに岡島の為に作ってもらったお揃いのペンダントを持って、サプライズをする為彼のよくいる喫茶店、夜はバーになるその店に向かった。

 その時同じ方向に向かうキャピキャビした女の子の集団が私の前にいた。

 聞くとはなしに耳に入るその言葉に私は固まった。

「凄いね、頑張ったかいがあるね。売り上げ連続ナンバーワンだよ。ナオ、今日カイさんに抱いてもらえるんでしょ。いいなあ。半年間ナンバーワンを張って売り上げ目標も達成すればオーナーのカイさんが抱いてくれるんだもの。私もガンガン同伴しなきゃ、本当にいいなあ」

 ・・・カイさん、それはここ界隈での岡島のよび名だ。

 私はまさかまさかと青い顔をしてその後をついて行き、しかしやっぱり彼女達が私の行こうとしていた店に騒ぎながら入るのをみた。

 やがてさっそうと岡島が店から現れ、あの水商売らしい女の子を1人連れ、そのままタクシーに乗るのを見た。

 岡島はつまらなそうに煙草を咥えて、自分の後ろに続く女の子には目もくれずさっさとタクシーに先に乗り込んだ。

 私は隠れて彼らを見ていた場所をはなれ、気がつくといつのまにかミユキさんの店まできていた。

 店のドアを閉めて鍵をかけてから、思いきりはじめて声をあげて泣き、ひどく気分が悪くなりトイレに吐いた。

 どのくらいそうしていただろう。

 あの言葉も愛情もあんな簡単に安売りされていたんだ。 

 そう思うと、岡島に触れられたそこここが、まるでそこから悪臭のする気持ち悪いものが入りこんでくるようで私は耐えられなかった。

 それらをかきむしり、もはや血だらけになりながらフラフラする足どりで、もっとかき出すものはないかとナイフはないかと美容室の中を探し回り、美容室で使っていた大きな鏡の前を偶然通りかかった。

 何げに視線をその暗闇のなか鏡にやれば、鏡特有のかすかな明るさの中、そこに映る姿に私はひどく愕然とした。

 そこに幽霊のように白く、ところどころ血にまみれ写っているのは、あの事務所で苜をつる前の母に似た誰かだった。

 目が血走り目のつり上がっているそのぐちゃぐちゃな女は鏡に写る紛れもない自分だった。

 それを見てその事実を知った私は狂うほど笑った。

 馬鹿馬鹿しいほど、愚かな私を自分で狂ったように笑ってやった。

「あんたは誰?あんたはこのまま愚かしい無様な女になりはてるの?それがあなた?」

「いいえ!いいえ!違うでしょ!最後の最後でどんぞこでもわずかなメッキは残っているはずよ。ミユキさんがかけてくれた金メッキよ。簡単に剥がれやしないわ。ほらね、そのおかげで、ずっとずっと母のように長い間苦しむ事はなかった。そうよ、そうでしょ?しっかりなさい!さあ、綺麗に笑って。もう一度上手にメッキをかぶせていかなきゃ。何だったかしら?確か植物でも着物の反物でも踏めば踏むほど、丈夫に美しくなるのがあったはず。さあ、笑って、笑うのよ!」

 鏡に写るその微笑みはいまだに涙をほろほろと零してとても歪な笑顔でだけど、ちゃんとそこに一人立つ私を写していた。




 それから私はすぐに悦子さんに連絡をとり「ミユキさんのくれた金メッキを馬鹿で愚かな自分が剥がしてしまった。もう一度金メッキを上手に重ねたい、それを手伝ってくれないか?」と真摯にお願いした。

「いいわよ、いらっしゃい」その言葉に卒業をまたずに翌日には悦子さんの元に弟子入りと同時に引っ越しした。

 卒業の単位はすでに足りていたので、高校もいく必要はなかった。

 いつかミユキさんのあの店を継ぐにふさわしい自分になるために。



 引っ越しの慌ただしさの中、携帯がなり、悦子さんかなと確かめもせず出た。

 電話は岡島からだった。

 聞いた事もない悲鳴のような声に思わず何事かと思い切らずに耳をそばだてた。

「俺に何も言わずに何してるんだ、どこにいる、迎えにいく、すぐにいくから早く教えてくれ」

 の言葉に、私は関係ないとそっけなく返し、会いに行くと叫ぶ言葉に、また「何で?」と冷たく返した。

「恋人に関係ないなんておかしいだろ!早く教えろ!」と大声で耳元で騒ぐので、私はチラッと時計をみて、まぁいいかと理路整然と説明をしてあげた。

「私は2度と個人的に会うつもりはないの、どうやら私は他の不特定多数の女と関係を持っているような男の顔を見るのは無理みたい。自分まで汚れるように思うので付き合いは終わりだし電話ももうかけてこないで」と頼んだ。

 岡島はそれにはっと息を飲み、

「どこで何を聞いたか知らないが、あんなの、顔も知らないし覚えちゃいない。ただ機械的にやってやるだけのお遊びだ。いつのまにかはじまった悪ふざけだ。ただ惰性で続けてきただけなんだ。あまりにも何とも思ってなかったから気にしてなかった。あんなのお前がいやならもう二度としない。お前だけなんだ、お前がいなきゃ息をするのもできやしない。お前以外何も見ないし、触らない。二度と外に出るなと言うなら、外にも出ない、だから・・・」

 私はそのまままだ何か言ってる電話を切り、その携帯をすぐに捨てた。

 だからそれきり私は岡島の事は知らない。



 悦子さんに連れられてそのままフランスに渡り、その後イタリアに渡り、しまいには研修と称して一人で各国の美容の最先端を自分で経験してこいと、これって優雅な休日だとそれを満喫し、エステ三昧の日々を過ごし、様々なパーティーに悦子さんの名代で参加もするようになった。

 高校の頃の私がミユキさんいわく金メッキなら、今の私はさしずめ悦子さん特製の宝飾画だ。

 悦子さんは当り前だと笑う。

 ミユキさんが種をまき芽を出させ、それをこの自分が育てたのだからと。

 もうじき21歳を迎える私は悦子さんの養女になり荻野性になる。

 本当に自分の変遷を不思議に思うけど、久々に踏む日本の大地に思いをはせながら、やっとオープンできるミユキさんのあの店を思いちょっと自分をほめてやった。

 同時期にあった私の黒歴史もつい思い出しすかさずそれにはフタをした。

 黒歴史なんて忘れるためにあるの、だって本当に思い出すだけで恥ずかしいもの。

 これからも私はどんどん行くわ。

 誰にも私は邪魔はさせないし、前にも立たせる気はないの。

 邪魔するものは私の全てで潰してみせる、本当よ。













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