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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

恋愛物

カッコよくなりたい!

作者:海水
「あー、やっぱりランドルフさんはカッコいいなぁー」
 青色の防具を身に着けた我が国の英雄ランドルフさんが部下と一緒に訓練しているのを、僕はぼんやりと覗いていた。
 背も高くって、顔も良くて、優しい。魔法も使えるのに騎士でもある。ランドルフさんはパーフェクトだ。
「比べて僕は……」
 冴えない灰色のローブ。顔も普通だ。治癒魔法を使えるけど、この国に求められているのは魔物を倒せる力。
 攻撃魔法を使えない僕の肩身は狭い。
「カッコよくなりたいなぁー」
 空にいるらしい神様にお願いしてみる。他力本願もいいところだけど。
「トラン。いつまでさぼっておるのだ?」
 師匠の声が休憩時間の終わりを告げた。お仕事にもどらなきゃね。
「僕もカッコいい攻撃魔法を使えるようになりたいです」
「んなもん治癒魔法を極めてからにしろ」
 師匠は僕がカッコよくなることに反対だ。僕だってカッコよくなって女の子にモテたいのに。正確にいえば、ミリーに振り向いてもらえればいいんだけど。
「治癒魔法は魔物を倒すことはできないがとても役に立つ魔法だ。適応できる人間は稀だ」
「そりゃーわかってますけどー」
 耳にタコができてギーギー痛いくらい聞き飽きたこの言葉。でも僕はカッコよくなりたい。
「治癒魔法使いとして宮廷魔法師団にいるんだ。お前の仕事は怪我や病気の治癒だ」
 そう、僕の仕事は治すこと。
 たまたま生まれつき治癒魔法が使えた僕は、十三歳の時にド田舎の村から出てこの国の首都の城に勤めてる。生まれから考えれば奇跡とも言えるかな。
 その宮廷魔法師団に入ってから五年がたつ。そんなこんなでカッコよくなりたい僕は悶々とした日々を過ごしているってわけ。
 そんな僕にも楽しみにしていることはある。毎晩ミリーに会うことだ。
 ミリーは僕と同じ村の女の子で、一つ年下の子だ。ちょっと前から城に住み込みの下女として働いている。僕がここに来た五年前までは村で仲が良かった女の子さ。ちょっと気が強いけど、笑うと可愛いんだ。
 僕がカッコよくなりたいと思い始めたのは、そんなミリーが原因だ。
 なんでもミリーが城で働こうと思ったのは、カッコいい人がいて、その人を追いかけて来たからだそうだ。あ、本人に聞いた訳じゃなくて廊下を歩いてたらミリーがそんな事を話している声を聞いたからなんだけでどね。
 ともかく、ミリーはカッコいい誰かを追いかけているみたい。村を離れなきゃいけなくてミリーと別れるのは辛かったけど、城で会えて嬉しかった。でも理由が分かってガックリした。
 でも、会いたいって一心でここまで来るなんて凄いと思う。だからこそ、ミリーに振り向いてもらうには僕がカッコよくならなきゃいけないんだ。

 夕方になれば勤務時間も終わりで、後は朝まで自由時間。城からは出られないけど。
 僕の治癒魔法は魔物を倒すことはできないけど貴重だ。だから余程でないと城からは出られない。不便だけど仕方ないよね。
 で、その自由時間に、僕は中庭に出かける。中庭の隅っこにミリーがぼんやりと座っているからさ。下女の仕事は楽ではないみたいで、ひとりで考え事とかしてるんだって。
「ミリー、お疲れ様」
 中庭の隅っこで壁に背中を押し当てて足を延ばしてペタンと座ってるミリーに声をかけると、僕に気が付き顔を上げてくる。
「トランもお疲れ様」
 ミリーが広がったスカートを畳んで小さくして、その空いた地面をポンポンと手でたたく。ここ座れってことだね。
「さて今日も手を見せて」
「大丈夫だって」
 ミリーはスッと手を隠すけど、僕はミリーの手を取っちゃう。
 下女として働いてるけど水仕事ばかりで手が赤切れになっちゃうんだ。だから僕は毎日ミリーを治療してるのさ。
 カッコいいところを見せたいけど、僕にはこれくらいしかできる事は無いし。
「ほら、やっぱり」
 ミリーの手は赤切れになってた。血は出てないけど皮膚が切れて痛そうだ。水ばかり触ってるから手も冷たいし荒れてもいる。
 ミリーの右手を僕の両手で挟み込むようにして温めながら魔法を唱えと、ほわんと僕の手が淡い青に光る。手をすりすりすると、僕の手の暖かさをミリーに移せる気がするから一生懸命に撫でる。
 このざらついた皮膚の感じは、ミリーの努力の証だ。僕はこの手が好きだ。
「手、荒れてるから」
 恥ずかしそうにしてるミリーは可愛い。これは正義だ。
「確かに荒れてるけど、ミリーが頑張ってるから荒れるんだよ。ミリーは凄いよね」
 ミリーはなんだか申し訳なさそうな顔をしてる。あれかな、また何か言われたのかな?
「気にしなくていいよ。時間外は僕の自由なんだし。僕がミリーの痛みを和らげたいと思ってるからやってるんだ。他の人が治療して欲しいなら下女長にでも言えば、僕なり師匠なりが行くのに」
「そんな! 気軽に言えるわけないじゃない」
「うーん、でも僕らは怪我とかを治すのが仕事だもん。そりゃー王様とかが優先だけどさ」
 まぁ、ミリーを治すのは僕がしたいからってのが理由だ。だって治療だって言って手を握れるんだもの。あ、ちゃんと治療もするよ?
 でもミリーは納得してないって顔だ。
「だってミリーは頑張ってるじゃないか。僕なんかよりもよっぽど頑張ってるんだよ? これくらいのことはさせてよ、って僕にはこれしかできないんだけどさ」
 頭をぽりぽりと掻きながらもしっかりとミリーの目を見つめる。
 僕は知ってるんだよ? ミリーがこの城にいるカッコいい人を追いかけるために、この城で働くことができるくらい頑張っているのを。
 普通の人が城で働くのは簡単な事じゃない。信用もそうだし、何より役に立つってことが大事だ。
 あー、僕は役に立ってないんだよね……そんなに想われてる男って誰なんだろう? 僕が知らない五年間に出会ったのかな? 
 誰だか聞きたいけど、知ったら絶望しちゃうから聞きたくない。
 もやもやもやもや。
「トラン。あんた、まだカッコよくなりたいとか考えてるの?」
 ミリーは困ったような顔で僕を見てくる。
 僕の考えてる事がバレちゃったのかな? ミリーは察しが良いからなぁ。
 そんな顔も可愛いんだけど、できればそんな顔はして欲しくないんだよ。僕なんかは頑張ってもカッコよくなれないって言われてるみたいでさ。
 でも僕はミリーに見て貰いたいんだ。カッコイイ僕をね。
「そうさ! 僕はカッコよくなりたいんだ」
 君に見て欲しくて、と続けられれば僕にも春が来るのかもしれないけど、残念ながらそんな根性は無い。振られるのが怖くて言えないよ。
「今のままでも良いと思うけど……」
 ミリーはまた困った顔をしてる。
 それじゃダメなんだ。ミリーが追いかけてるカッコいい男よりもカッコよくなってミリーを振り向かせるんだ。
「僕はカッコ良くないから、カッコよくなりたいんだ」
「……あたしのお母さんを助けてくれた時のトランは、カッコよかったよ? すっごいカッコよかったんだよ?」
 ミリーはじっと僕の目を見つめてくる。
 昔、まだ僕が小さかった時、大やけどをしたミリーのお母さんを助けたことがある。沸騰したお湯を入れていた鍋が倒れた時に身体にかかっちゃったんだ。たまたま僕とミリーが近くにいたからすぐに火傷を治したんだ。ミリーのお母さんは笑顔でありがとうって言ってくれた。
 嬉しかったけど、でもそれは僕が治癒魔法を使えたからで、運が良かっただけだ。その力は僕が努力して得たものじゃない。神様からの貰い物だ。そんな事はカッコいいとは思わない。
「だからこそ、僕はカッコよくなりたいんだ。僕自身の力で。貰い物じゃない力で」
 そう言い切る僕を見て、ミリーは悲しそうな顔をする。
 僕、間違ってる?

 そんなある日、魔物の討伐の話があがってきた。討伐する魔物がかなり強いらしくて僕も同行するらしい。魔物退治についていくなんて初めての事だ。
 師匠は危険だと言って反対したけど、ランドルフさんがどうしても治癒魔法を使えるヤツが欲しいって言ってるらしく、師匠もしぶしぶ認めたんだとか。
 やった! これで僕もカッコよくなれるのかも!
 この事をミリーに話したら目に涙を一杯ためて反対された。危険すぎて生きて帰ってこれるか分らないっていうんだ。
「大丈夫だよ。僕、戦えないから。僕の役目は怪我をした人を治療する事。戦う事は無いから」
「魔物はヒュドラだって聞いたよ。頭が沢山ある大きな蛇だって! 戦えないんだったら尚更危ないじゃない!」
 ミリーが今にも泣きだしそうな顔を僕に向けてくる。なんだか僕も悲しくなってくる。僕弱いからね……
「……心配してくれるのは嬉しいけど、決まっちゃったことだし。ほら、ランドルフさんも行くんだから、ぱぱっと退治しちゃうよ」
 安心させようとした僕の言葉にも、ミリーが笑う事は無かった。

 それから数日後、僕が城の廊下を歩いてたら、窓の外からミリーの声が聞こえてきた。誰かと話をしているみたいだ。窓からこっそりと覗くと中庭でランドルフさんに詰め寄るミリーの姿が目に入った。遠くて内容までは聞こえない……でもミリーは必死な顔してる。
 あれかな、ミリーが追いかけてるカッコイイ人ってランドフルさんなのかな? ミリーはランドルフさんの心配してるのかなぁ……
 ランドルフさんはカッコいいから。仕方ないよね。僕じゃ勝てないや。
「そっか」
 なんかやる気がどっかにいっちゃったな。仕事に戻ろ。
 やる気に反発したみたいに重くなっちゃった足をなんとか動かして、ずるずると僕は部屋に戻った。

 とうとう魔物討伐の日が来た。僕は師匠から貰った杖を持ち、白いローブを着て城門の前に立っている。今回は危険な魔物だと言う事で軍は来にないで、ランドルフさんを筆頭に騎士四人の少数精鋭で行くんだとかで僕を含めて六人しかいない。むっちゃ不安だ。
「やぁ、君がトラン君だね。よろしく頼むよ」
 ランドルフさんが陽気に話しかけてきた。
 さわやかな笑顔ときらめく白い歯。僕が太刀打ちできる要因は無いな。
「討伐は初めてなんで、足手まといにならない様に頑張ります」
「ははっ。大丈夫さ。今回は確かに手強い相手だけど、君が回復役としていてくれれば楽勝さ!」
 ランドルフさんが歯を光らせて、軽い口調で言ってくる。でも一緒に行く騎士さん達は「緊張してます」って顔してる。
 僕なんかが同行したって戦力にならないもんね。
 でもミリーの為にも、ランドルフさんは無事に城に戻さないとね。
「はいっ! 頑張ります!」
 ぎゅっと拳を握る。怖いけど。怖いけど、やるしかないんだ。ミリーの悲しむ顔なんて見たくないからね。
「頼もしいな! みんなで帰って来ような!」
 笑顔のランドルフさんは痛いくらいにバシバシと僕の肩を叩いてくる。正直痛い。でもランドルフさんは緊張してる騎士さん達にも話しかけて笑顔を引き出してる。
 こんな気配りもできるんだな。カッコいい人は、色々と違うなぁ。
 僕も頑張らないと!
「トラン!」
 握りしめた拳を見つめていると、僕を呼ぶ声が聞こえた。この声はミリーだ。顔を上げれば、やっぱりミリーだ。
「行ってくるよ!」
 ミリーにひらひらと手を振る。不安げな顔のミリーを見て、ランドルフさんは絶対に帰すと、心に誓った。

 目標のヒュドラがいる場所まで歩いて一週間ほどかかるらしい。僕にとっては長旅だ。馬も一緒にいるけど、荷物を載せた荷車を引くためのものだ。行く先は森の奥の沼地みたいで馬車じゃ身動きとれないんだって。
 討伐の道中でも魔物には出くわした。猪みたいな魔物とか、でっかいカマキリとか。でもランドフルさんは涼しい顔で魔物を倒していくんだ。
 剣で切り裂いて魔法の炎で焼き尽くしてる。一緒にいる騎士さん達も皆強い。バッタバッタと魔物を斬り捨ててる。
 僕だけ戦えずに木の陰に隠れて、戦闘が終わって怪我をしている人がいれば治療する。僕、役に立ってるのかなぁ?
「よっ、トラン君。怪我は無いか?」
 ランドフルさんは戦闘が終わると必ず僕に聞いてくる。
 僕、戦ってないから怪我なんかしてないし、自分で治せちゃうし。
「大丈夫です。それよりも皆さんの方が心配ですよ! 怪我してたら教えてくださいね!」
 なんか僕だけお豆さんみたいで情けない。騎士さんも強いから全然怪我しないし。
 僕って必要だった?
「それならよし! 君に何かあったら怒られちゃうどころじゃすまないからな」
「そうなんですか?」
 ランドルフさんが苦笑いをした。なんだ、師匠に脅されでもしたんだろうか? 
 相当渋ってたらしいし。本当なら自分が行きたいけど、王様の傍にいなきゃいけないからお前をいかせるしかないって、グチグチ言ってたもんなぁ。
「無事に帰ってのお楽しみだ」
 ランドルフさんはそう言うと僕から離れていった。ランドルフさんの言葉を噛みしめながら、歩いていく背中をじっと見つめる。
 よく意味が分からないや。何なんだろう?

 一週間経った所で目的の沼についた。なんだかもやってて遠くまで見えない。腐った野菜みたいな嫌な臭いもプンプンだ。
「さっそくお出ましだ!」
 ランドルフさんが叫んだ。
「トラン君は物陰に!」
 ボケっとしてる僕に隠れてろと指示が来る。
 どこに?なんて思ってたら突然真っ黒な沼の水が盛り上がった。
「え……」
 ギシャーと耳が壊れそうな声が響くと、盛り上がった沼の水からデカい蛇の顔がドバンと出てきた。しかも沢山! 
 大きな蛇の胴体に首が沢山。そんなヒュドラが沼から出てきた。
「ははっ! やるぞおめーら!」
「サー!」
 ランドルフさんの指示で騎士さん達が剣を構える。僕は沼地の畔にある大きな木に身を隠し、顔だけ出して成り行きを見守ることに。
「俺が気を引くから横からぶった切れ!」
 ランドルフさんが剣を掲げ、叫びながら突っ込んでいく。うにょっと動くデカい蛇の頭はランドルフさんに釘づけだ。その間に横から騎士さん達が剣でザクザクと蛇の頭を跳ね飛ばしていく。
「おせぇ!」
 ランドルフさんに噛みつこうと蛇が口を大きく開けて襲い掛かるけど、ひらりと躱して逆に襲ってきた首をスパンと跳ねちゃった。
 僕の目から見ても、この戦いは楽勝に見える。ランドルフさんが囮になっている間に、四人の騎士さん達が蛇の首を斬りおとしていく。凄いチームワークだ。
「最後だっ!」
 最後の一番太い蛇の頭を、ランドルフさんは一振りで斬りおとした。カッコいいなぁ。
 でもその直後、沼からもう一つの黒い水の塊が現れてランドルフさんに襲い掛かったんだ。
「危ない!」
 僕の叫びに気が付いたランドルフさんが振り向いたけど、遅かった。
「くそっ。もう一匹かよ!」
 ランドルフさんはそう叫びながらヒュドラに弾き飛ばされた。他の騎士さん達も応戦してるけど、不意を突かれたからか分が悪そうだ。剣を振ってなんとかしてるけど、じりじり後退してる。やっぱりランドルフさんの指揮がないとチームワークが乱れちゃうんだ。
「から、だが……」
 ランドルフさんが地面に横たわったまま唸ってる。えっと、ヒュドラって毒があったんだっけ。あ、毒を喰らって動けないのか!
 解毒すればまた動けるようになるはず。
 そう思った僕は杖をギュッと握った。ヒュドラは大暴れしながら動けないランドルフさんに近付いていく。このままだとやられちゃう!
「い、いかなきゃ……」
 怖くて震える足をガンガンと叩く。あんな化け物に襲われたら僕なんかイチコロだ。でもランドルフさんに何かあったらミリーが悲しむ。怖いけど、怖いけど、助けに行かなきゃ!
「う、うわぁぁぁ!」
 もうカッコいいとか悪いとか関係ない。僕は情けない叫び声をあげながらランドルフさんに向かって駆ける。
「イデっ」
 足がもたついて派手に転んで顔をしこたま打った。痛いけど、今は走るんだ。
 杖を投げ捨て、僕は起き上がり、駆ける。僕に気が付いたのかヒュドラの蛇の首が迫るけど、負けてられないんだ! ミリーの悲しむ顔なんか見たくないんだ!
 そう思った瞬間、左腕が燃えるように熱くなった。あるべきはずの腕が無くて、代わりに吹き出す真っ赤な血が見えた。
 あと少しなんだ。あと少しでランドルフさんの所につくんだ!
「あああああ!」
 転げながらもどうにかランドルフさんの足元に来れた。解毒、回復の魔法をかけまくる。左腕から血がどんどん流れていくけど、ランドルフさんの方が先だ。この人さえ助ければ、ヒュドラなんてぱぱっと倒してくれる。
「治れ治れ治れ!!」
 やたらめったら魔法をかけてたら背中が凄い力で殴られた。僕の視界が空しか見えなくなって、どすんと何かにぶつかった。
「がはっ」
 口から勝手に血が溢れていく。
 あはは、やられちゃった。
 でも僕は見た。ランドルフさんが立ちあがったその背中を。やっぱりカッコいいなぁ。
 直後、僕の視界は真っ黒になった。
 ミリーごめんよ。もう赤切れを治してあげられないや。でもランドルフさんはちゃんと帰したからね。

 目の前がぼんやりと明るくなった。ぼんやり過ぎて良く見えない。天国ってこんなにぼやけてるんだね、知らなかったよ。あはは、知ってる人なんていないか。
「……みんなは無事に帰れたのかな」
 ランドルフさんが戦えるなら大丈夫だよね。やっぱりカッコいい人は違うな。僕なんかカッコ悪かったもん。
「で、僕はどうすれば?」
 どうも寝っ転がってるみたいだ。結構ふかふかの感触、ベッドにでもいるのかな?
「あれ、腕がある?」
 左腕に感触がある。ふと見れば見慣れた腕がくっ付いている。
「うーん、死んだら元通り?」
 左腕をにぎにぎしても違和感なし。ボスボスとベッドを叩いても違和感なし。うん、これ僕の腕だね。
 生きてたら本にでも書いておきたい。天国では失った体も元通りなんだよって。
「トラン!」
 ん? 誰か呼んだ?
 声のした方に顔を向ければ、そこには泣きそうな顔のミリーが。
 あれ、ミリーも死んじゃったの? ランドルフさんはちゃんと城に帰ったでしょ?
「トラン!」
 いつの間にかミリーは僕の眼の前にいる。零れそうな涙をいっぱい目に溜めて。
「ミリーは何で泣くの? ランドルフさんは無事に帰ったでしょ?」
 僕の言葉にミリーの体がビクッと震えた。口がワナワナと波打ってる。あれ、怒ってる?
「こ、このバカトラーーン!!」
「んぎゃ!」
 ミリーのダイブに僕は押しつぶされた。色々と柔らかいのが当たって気持ちいいんだけどちょっと待って!
「ばかーー!!」
 僕に抱き付きながら、ミリーがわんわん泣いてるんだけど。
 ねぇちょっと。訳が分からない僕に、誰か説明して?

 どうやら僕は死んでないみたい。ベッドに腰掛けたぼくの膝の上には泣きべそのミリー。僕はミリーを抱きしめてる。抱き締めてないとミリーが怒るんだ。
「あんた何無茶してんのよ!」
 ぽろぽろ涙を零しながらミリーが僕を責めるんだ。
「無茶って、ランドルフさんを助けなきゃ、みんなやられちゃってたかもしれないし。それにランドルフさんが帰ってきた方が良かったでしょ?」
「あんたが帰ってきた方が、あたしは嬉しいの!」
「え? だってミリーってランドルフさんにあこがれて城にまで来たんでしょ?」
 ミリーがガバっと僕から体を離し、睨みつけてきた。
「あんたバカじゃないの!」
「だってこの前中庭でランドルフさんに迫ってたじゃん」
 僕は見たんだもん。ミリーがランドルフさんに詰め寄ってるのを。
「覗き見なんてサイテー! あれはあんたを守ってほしいってお願いしてたのよ!」
「ほぇ?」
「あんたは戦えないんだから。狙われたらやられちゃうでしょ?」
「いやまぁそうだけどさ」
「だから守ってってお願いしたの! なんであんたは昔からバカなのよ!」
「なんだよ、さっきからバカバカって。そりゃ僕はバカかもしれないけど、はっきりと言われれば傷ついたりもするんだよ?」
「あんた大バカよ!」
 ミリーの目からはボロボロと涙が零れてる。なんでなんで?
「あたしはあんたを追い掛けてきたの! そんなのも分らないの?」
「えぇーーだってミリーはカッコいい人を追い掛けてきたって……」
「……やっぱりあんたは大バカだわ」
 文句を言う僕の唇は、ミリーの柔らかい唇に塞がれ、そのまま押し倒された。
 ひ弱って、言わないで。

「あーー、邪魔したな。うん、ゴメン」
 凄いナイスタイミングでランドルフさんが部屋のドアを開けた。ちょうど僕らがキスをしてる真っ最中に。ノックくらいして欲しかった。
「あーゴホンゴホン。うん、まだ面会謝絶だな。重傷だ、うん。いかんいかん。じゃ、ごゆっくり」
 ランドルフさんは申し訳なさそうな顔でドアを閉めて出て行った。僕とミリーは顔を見合わせた。顔が燃えちゃうみたいに熱いんだけど。
「あー二時間、いや三時間は中に入っちゃだめだ。うん、面会謝絶な。いいなお前ら。取り込み中ってドアにも書いとけよ」
「うぇーい」
 ドアの向こうでランドルフさんが大きな声を上げている。
 なにその微妙な時間は。それにすっごい誤解されそうな文面はやめて。
「……見られちゃった……」
 ミリーが耳を真っ赤にして俯いてる。僕も恥ずかしい。窓から飛び出したいくらい恥ずかしい。あ、ここって?
「あのー、今更だけど、ここ何処?」
「バカね、あんたの部屋でしょよ」
 恥ずかしいのかミリーは目を逸らしてる。やばい、ミリーがすっごい可愛い。
「そ、そうなんだ」
 確かに見慣れたぼくの部屋だ。
「ランドルフさんが血だらけで左腕が無くなってるあんたを馬に乗せて城に運んで来てくれたの。血まみれのあんたを見て、心臓がとまるかと思ったわ」
 ミリーが両手で僕の左手を包み込んでくる。やっぱり赤切れてるけど、凄い暖かい。
「宮廷魔法師団の団長様からあんたの看護をお願いされたの。治癒魔法で怪我は治ったけど、あんた三日も意識が無かったんだからね? その間あたしはずっと傍で看病してたんだからね?」
 ミリーの目がまた潤んできた。
「あの、ゴメン。でもありがとう」
 三日も意識が無かったんだ。ミリーはその間ずっと世話してくれてたんだと思うと、嬉しいよりも申し訳なくなってくる。
「あ、あんたの世話するのに水は口移しで飲ませたし、裸にして体を拭いたり、おしっこだって出てきちゃうからシーツも変えなきゃいけなかったし、あんたもうお婿には行けないわよ!」
 ミリーは顔を真っ赤にして僕を責めてくる。そして言われた僕の顔も真っ赤だろう。だって火が出ちゃうくらい熱いもの。
 でも顔がにやけるのを止められない。ミリーにだったら情けない姿を見られてもいいや。
「僕、ミリーが好き。大好き」
「だだだ、だからどうしたのよ」
 ミリーは真っ赤になりつつも、ちゃんと僕を見てくれてる。可愛いなぁ。
「恋人になって」
 ミリーの頬に手を添え、そのままキスした。ゆっくり顔を離すと、ミリーが口を開いた。
「あんた、これ以上カッコよくなっちゃダメ。あたしじゃ釣り合わなくなっちゃう。今のままで十分カッコいいから、これ以上はダメよ!」
 ミリーが口をとがらす。そんな顔も可愛い。ミリーの表情はみんな可愛いんだ。
「僕のお嫁さんになってくれたら、考えるよ」
「もう、なるから。あんたのお嫁さんになるから、もうカッコよくなりたいなんて言わないでよね!」
「ホント?」
「恥ずかしいんだから何度も言わせないでよ!」
 照れるミリーを抱きしめながら、カッコ悪いままでもいいや、と僕は思った。

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