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可愛いは正義

作者:夕焼け
 私は戦いに敗れた。

 恋の戦いに。
 敗者はただ去るのみ。
 胸が痛くて涙が零れそうになっけど、人前で泣くなんて矜持(プライド)が許さない。だから天井を見上げた。
 シャンデリアの明かりがいつもよりぼやけて見えるのは気のせい。



 王太子の誕生式典の一番の夜会で大勢の人々の前で婚約破棄を王太子から言い渡された令嬢は何度か瞬きをして視界をはっきりさせたらしく、背筋を伸ばし真っ直ぐ前を見据えて彼女を見る一同に微笑むとその場を去って行った。




 この騒ぎの始まりには予兆があった。
 今から約半年前、とある男爵に平民の隠し子が発覚し、その子を引き取ったこと。そしてその隠し子が愛らしい純真な少女だったこと、少女と王太子が偶然か運命か出会ってしまったこと、それが予兆だった。


 王太子は自分の周りにはいないあまりにも無垢な少女に一目で心惹かれ彼女に夢中になった。

 王太子は自分に婚約者がいるにも関わらず少女に執心し、婚約者を差し置いて少女の為にありとあらゆる事を手配しし尽くした。

 少女の方も右も左も分からない貴族社会の中で親身になってるくれる王太子に婚約者がいると分かっていても惹かれずにはいられなかった。

 一方、婚約者の───リリィローズ・バノス侯爵令嬢も黙ってはおらず、たびたび王太子と少女、シーラ・ルバーノ男爵令嬢に苦言を呈していた。
 周りもぽっと出の元平民の男爵令嬢が王太子と懇意にする事が面白くなく、事あるごとにシーラに嫌味を言ったり地味に嫌がらせをしていた。
 しかし、恋に夢中の二人にはシーラへの嫌がらせやリリィの声は届かず、かえって恋の障害として余計に燃え上がらせてしまっていた。結果、王太子からリリィは疎まれることになってしまった。

 さまざまな(二人にとっての)苦難を乗り越えて王太子はとうとう自分の気持ちに嘘はつけないと婚約破棄を決意。
 そして自らの誕生式典という大舞台で婚約破棄を宣言し、シーラと結婚することを独断で発表した。


 突然の発表に周りは大混乱、国王を始め重鎮達は夜会に集まってる貴族達を一旦は解散させ事態を沈静化。そしてそれとなく圧力を貴族達にかけた。圧力に屈し、未来の国王の言葉に貴族達は異議を唱える事は出来ずそのままシーラが王太子の婚約者となった。

 一方的に婚約破棄をされた侯爵家では王家に苦情を言うが、賠償として侯爵家の要職取り立て、令嬢の嫁ぎ先の確保、領地拡大等であっさりと手のひらを返した。


 リリィは失恋の痛手で婚約破棄騒動から暫く寝込み、寝室から一歩も出なかった。
 寝室からやっと出てこれるようになった時には全てが綺麗に片付けられていた。そう、彼女の次の嫁ぎ先もそしてその時期までも。




「ウルベルク帝国へ行けと」

「そうだ。帝国の第三王子の元へ嫁ぐことになった。時期は半年後、支度は我が侯爵家でやるが持参金などは王家が出してくださる」

「体のいい厄介祓いじゃないですか」

「だが、こちらにもメリットはある」

「侯爵家には、ですね」

 寝室から出れるようになって初めての家族の対面がまさか次の嫁ぎ先の話とは思わず、突然のことに頭がいつていけずにリリィは父からの説明も右から左へと全部聞き流していた。



 何もかもが終わった。
 王太子殿下と歩む未来なら政略の駒でも構わないと思ってたのに。



 リリィは自暴自棄になり今まで抑えてた欲求を全て叶えることにした。

 まずは太るからと今まで食べなかった甘い物を食べたいだけ食べ、常に王太子妃らしく振舞えといつなん時でもきちんとした姿勢でいたのを長椅子に脚を乱雑に乗せ寝そべりお酒を浴びるほど飲んだ。
 それに飽きると今までの我慢の日々の怒りがこみ上げ、護衛騎士を相手に剣術を磨き、相手をサンドバッグにして叩きのめして鬱憤を晴らしていた。最初は侯爵令嬢だからと騎士達も手加減していたが段々と腕を上げるリリィにいつしか本気でやらざるを得なくなり、最後にはガチで負けていた。リリィはその辺の貴族令嬢とは思えないくらい強くなった。
 更に横乗りで淑やかにやっていた乗馬もやめて、一体どこの伝達者かと思わせるくらい馬を速く走らせるくらいになり侯爵家領地を駆け回り怒りの愚痴を叫び続けた。
 後にこの叫び声は「バノスの暴風」と呼ばれ、領民からは風と共に聞こえてくる怪奇現象と「バノス七不思議」の一つとして語り継がれる事となる。
 ちなみにバノス七不思議の七つの内六つは暴走中のリリィが大元である。




 暴飲暴食をしたのに剣術と乗馬を自分の護衛騎士よりも上手くなったリリィは婚約破棄以前よりも身体が引き締まり出る所は出て締まる所は締まる魅惑のワガママボディになっていた。
 しかも鍛錬のために早寝早起きをしていたので以前よりも肌の艶が良くなり、余計な脂肪が落ちて顔がすっきりし目鼻立ちがハッキリして、ぼやけた美人風から健康的な美少女へと変貌していた。

 体形が変わったお陰で服のサイズが変わりドレスを全て新調する事になった。ちなみにリリィの買い物は全て帝国への嫁入り道具として換算され代金は王家持ちという事になっている(慰謝料)。

 なのでリリィは散財してやろうと思ったが、国民の税から成り立ってるのを妃教育でも学んでいたので流石に良心が痛み、服は必要最小限にした。その代わり結婚までの期間を花嫁修業と称して領地に引き篭もり社交界からの誘いを全て断る事にした。勿論、王太子と彼の新しい婚約者の婚約式も欠席した。


 本来真面目なリリィは、いくら厄介払いで帝国に嫁ぐとなっても、そのまま嫁ぐのではなく相手の国の言語、歴史、経済等を学んでからとちゃんと勉強をしていた。

 そこで分かったのは隣国のウルベルク帝国は元はちょっと軍隊が強い小国だった。それが悪天候で作物の不作が続き周辺国に助けを求めたが、小国と馬鹿にされ無視されて当時の王族が怒り、ケンカを売りまくって馬鹿にした周辺国を全て負かして吸収していったという「力こそ正義」という国だった。
 現在でも軍事力はどの国にも劣らない。それは男女関係なく強い者が上に立つというリリィの国では考えられないウルベルク帝国の常識があったからだ。



 力こそ正義、そこに男女は関係ない



 その言葉にリリィは自分の剣術でやっていけるか不安になった。しかし、結婚式までの日数もあとわずか、今更鍛錬しても強くなれるとは思っていない。

 元婚約者の仕打ちに怒りの余り嫁ぎ先の姿絵を見ないでズタズタに引き裂いたのを記憶の彼方へ追いやり、リリィはせめて夫となる人は暴君ではありませんようにと祈った。



 ────────────────────



 結婚式の二週間前、リリィはウルベルク帝国へ出立した。結婚式当日帝国に行ったのでは不測の事態が起きた時に対応出来ない為、前もって帝国入りするためだ。

 リリィは両親と結婚式までの別れの挨拶をし、護衛騎士に守られながら馬車に揺られて帝国へ一人行った。
 一人の侍女も付けることを許されなかったのだ。
 それは帝国側の要望だった。
 何代か前の王族の結婚式で花嫁側の侍女が間者だったという過去の教訓から、他国から嫁いでくるのは花嫁ただ一人と決められたのだ。

 国境まで来るとリリィ達の馬車は止まり、帝国側の騎士に迎えられ、女騎士から身体検査をされて帝国の馬車に乗り換えた。その際、花嫁道具は全て帝国預かりとなる。危険物がないか確認されてから花嫁に戻されるのだ。

 何事にも物々しく緊迫した中でリリィはこの先やっていけるのかと不安になった。

 帝国の騎士達は自国の護衛騎士達よりも縦にも横にも身体が大きく、屈強そうで、皆一様に眉間にシワが寄ってて顔が怖かった。
 それはリリィの傍にいる女騎士と新たにリリィ付きになる帝国の侍女も同じで、同じ女性とは思えないくらい筋肉がついていた。

 その姿を例えるなら服を着たゴリラ。
 突如ゴリラ集団がリリィを迎えに来たのだ。


 服の上からでも筋肉がすごいと分かるのだから、その袖をまくればどれだけのものかとリリィは戦慄した。



 侍女ですらムキムキ……

 力こそ正義って本当なんだわ。
 あんなに腕が太いなんて私の剣術でも斬れそうにない。体術も学んでおくべきだった。
 それに胸も何だか硬そうだわ。
 ……親しくなったら服の上からでいいから揉ませてもらえないかしら。
 出来ればスカートの中も脚がムキムキなのか見てみたい。もしかしてお尻も引き締まってるかもしれない。……気になる。



 余りにも今までの自分の境遇との違いにリリィはセクハラ紛いの現実逃避をした。



 リリィを乗せた馬車は猛スピードで一路帝都の王宮へ向かった。

 国境から帝都までの五日間、道中は至って平和だった。しかし、常に厳つい騎士(ゴリラ)としかめっ面の侍女(ゴリラ)に囲まれリリィの気の休まる時はなかった。


 自分も割と中身はゴリラだということは思わないリリィであった。






「リリィローズ様、帝都に入りました。ここから半刻ほどで王宮に到着いたします」

 馬車に同乗しているのに気配の無いしかめっ面の侍女がリリィに声を掛けた。

「ひゃっ! あ、そ、そう」

 突然話し掛けられてリリィはびくつきながら返事をし、馬車の窓から外を見た。
 そこは人も建物も何もかもが大きく、リリィを驚かせた。
 リリィはまるで巨人の国か文化的なジャングルに入り込んだような錯覚に囚われた。


 騎士や侍女が特別大きいんじゃなくて国民みんなが体格がいいのね……
 って事は私の夫なる人も大きいのかしら……
 潰されたらどうしよう。どうやって倒すか作戦練らなきゃ。



 リリィはまたもやおかしな事を考えてこの先の事を思うのを放棄した。



 王宮に到着するとリリィは自分の終の住処となる離宮へと案内された。

 自分の部屋へ入り侍女にお茶を淹れてもらい、一息つくとどっと疲れが出てきた。

 そしていつの間にか長椅子で寝てしまった。


「リリィローズ様、ギル殿下と顔合わせの時間でございます」

 侍女にそっと声を掛けられリリィは微睡みから覚醒した。

「……ん? ひっ!!」

 リリィは悲鳴を必死に堪えて深呼吸した。
 しかめっ面の侍女が自分を見下ろしていたのである。
 まるで自分を(くび)り殺さんばかりの眼力で見詰められリリィは寿命が縮んだ気がした。
 心なしかその拳は力強く握りこまれてるように見える。

 リリィは慌てて姿勢を正し、侍女を見上げてニッコリ微笑んで身なりを整えるように指示した。
 ふうと息を逃し視線を元に戻すと「ドゴッ」っと近くで衝撃音と振動を感じた。何事かと侍女の方を見ると侍女の足元の床が何故か陥没していた。

「まあ、床が傷んでいたのかしら。転んでお怪我でもしたら大変なので至急修理させます」

 些細な事のようにサラっと侍女は言い、リリィの身支度を始めた。
 その右手が何故か血だらけになっていたのをリリィは恐怖しながらも見逃さなかった。




 今回の対面は、結婚式当時まで顔も見ないというのは流石に酷だろうと帝国側が花婿と花嫁の顔合わせを提案してくれたのだ。


 ウルベルク帝国第三王子ギル。
 リリィの夫となる人は、力こそ正義の帝国で軍事部門の頂点に立ち、国王、兄王子の盾となって支えている。
 歳はリリィより十歳上の二十八。男性の結婚の早い国でも有名なウルベルクでは珍しい、そして唯一の独身王族だ。
 何故今まで独身だったのかは不明だが、ウルベルク最強の男とも言われている。

 リリィは今までの侍女や騎士、国民を見てギルもかなりの大男(ゴリラ)なのだろうと覚悟した。


 別にゴリラは嫌いじゃない。ただ、みんな睨んできて少し、ほんの少しだけ怖いのだ。


 ウルベルク帝国国境で身体検査をされたので、いざという時の短剣を取り上げられてリリィは無意識に武器になる物はないか探した。


 こうなったら最後の手段、襲ってきたら鼻フックしようとリリィは決意した。

 自分が生き残るためなら手段は選ばない、それが彼女のモットーだ。




 畏まった謁見の間ではなく、あくまでも軽い顔合わせということでリリィは離宮の談話室に案内された。
 扉を開けてもらい中に入るとそこには一人の男性が立っていた。


「リリィローズ・バノスでごさいます。末永くよろしくお願いいたします」

 リリィは頭を下げ淑女の礼を取った。

「っ!!」

 息を飲むような音がして、そちらを見ると想像した大男(ゴリラ)ではなく、まるでお伽話から出てきたような金髪碧眼の美丈夫がリリィをじっと見詰めていた。


 ───鼻フックはなしの方向で。


 リリィが一番に頭に浮かんだのは、そんなどうでもいい事だった。


 やはり外見は大事。
 ゴリラでなく人なら特に。

 頭の中では失礼な事しか考えないリリィであった(自分は棚上げ)。


 かなり長く見詰められるので、リリィは自分の格好がどこかおかしいのではと思い、こっそり自分の姿を見下ろした。

 どこもおかしくない、はず。

 リリィは再び金髪の美丈夫へ目を向けた。
 彼はリリィを見詰めたまま未だ動く気配がない。
 リリィは意を決して人形のように動かない未来の夫であろう金髪男に近付いた。


「あの、ギル殿下……ですよ……ね?」

 リリィは恐る恐る聞くとハッと今、目が覚めたかのように金髪美形がリリィに視線を合わせた。

「あっ、あっ、すまない。俺はギル。貴女が姿絵よりもきっ、綺麗で……つい見惚れて」

「!!」

 美形(イケメン)からの素直な賛辞に普段から言われなれてるはずのリリィは自分の顔が赤くなるのを感じた。

 目の前の好感度急上昇中の美形は身長もリリィより頭一つ分くらい高いだけで今まで出会ってきたウルベルク帝国の人達とはまるで別人種のように見えた。

「あの……ギル殿下、殿下はその……普通(ひと)なんですね」

 リリィがギルにギリギリアウトな話をしようとした時


「可愛いぃぃぃぃぃぃ!!」

「ちっさ!! かわっ!!」

「可憐だ……」

「おい、押すなよ」

「ヴァル兄こそ、どいてください」

「誰だよ! 今、俺の足踏んだの!!」

「バナナは好きだろうか」

 ギルの後ろの扉から何やら騒がしい。リリィは興味を引かれ扉の方を見た瞬間、ミシミシと扉が何らかの圧力に押される音がしてバン! と弾けた。

「きゃっ!!」

 リリィが驚いて身をすくませると同時にギルがリリィを扉の破片が当たらないように庇った。
 リリィが薄目を開けて元扉の方を見ると奥から次々とゴリラ……もとい、大男達がなだれ込んで来て素早くギルとリリィを囲んだ。



「初めまして俺はギルの兄のヴァル」

「初めまして俺は二番目の兄のビルさ」

「初めまして僕は弟のアル」

「バナナは食べれるかい?」

「「「よろしく」」」

 一気に三匹のゴリ……王族に紹介されてリリィは驚いた。
 ギルは人なのに兄弟はゴリラ。しかも三人ともそっくりで誰が誰やらリリィにはこの一回では見分けがつかなかった。


 本当にこの三匹と兄弟なの!?
 絶対、ギル殿下だけどこかの橋の下から拾って育てた人の子供だったんじゃない?

 9割くらい「橋の下、捨て子」説を本気に考えたリリィ。



 とりあえず右の大きいゴリラから順番に兄ゴリラ、兄ゴリラ2、弟ゴリラと心の中であだ名を付けることにした。

「兄さん達が、なんで、ここに、居るのかな?」


 青筋を立てたギルがリリィを背に庇いながら兄弟達に聞いた。


「兄弟で唯一独身だった弟が結婚となれば」

「今まで国のどんな女にも興味を示さなかったギル兄が」

「恋人も作らずいきなり嫁とは」

「童貞が暴走しないかと」

「俺達はお前を心配してだな」

「バナナ食べる?」

「要は俺の花嫁がどんな人なのか見たかったんでしょ」


「「「アタリ!!」」」

「アタリじゃねーーー!! 失せろ!ゴリラ共!!」



 リリィは「美形は怒っても綺麗だな〜。あ、やっぱり彼らはゴリラなんだ」とギルの横顔をここぞとばかりに呑気に眺めた。
 鼻フックだの倒すだのということは頭からすっぽり抜けている。
 ゴリラだったら誰が上か知らしめるために戦わなければと思っていたが、人、しかもイケメンなら話せばなんとかなるとリリィは割とひどい事を考えていた。



「しっかし、ちっさいな〜」

「こんなんじゃ触ったら壊しちゃう」

「バナナ好き?」

「兄さん達、他国の女性は繊細なんだから丁重に扱ってくださいよ」

「分かってるって」

「バナナ好きか?」

「こりゃ、暫くは可愛いがる権利争奪戦だな」

「バナナは好きか?」

「道理で皆、そわそわする訳だ」

「人形みたいに綺麗だもんな〜」

「バナナ美味しいよ」

 各々好き勝手に喋り話し掛けてくるゴリラ達。

 リリィが返事をしなくても元々聞いてないのかポンポン話は飛んでいく。
 三匹のキングコングはリリィの様子を見ては可愛い可愛いと褒めそやす。

 リリィはなんだかキングコングに懐かれた気になってきていた。




「もう、やめてくれ! 彼女は俺の花嫁だぞ!! みんなのマスコットじゃない!! 折角ゴリラファイトと玩具扱いから解放されたと思ったのに!!」

 ギルがイライラと兄弟達に食ってかかってる。見た目は三匹のキングコングに立ち向かうイケメンだ。

「いいじゃないか、ちょっとくらい」

「そうだよ! ギル兄は奥さんにするんだから僕らにも癒しを少しくらい分けてよ」

「ギル、独占欲はよくないぞ」

「バナナあげるよ」


「絶対に嫌だ!!」



 癒し? ゴリラファイト……?
 意味が分からない。
 とりあえず私は好意的に受け入れられてるって事でいいのかな?
 あ、バナナは今は食べないです。はい、お気持ちだけでありがとうございます。


 リリィはよく分からないながらも心の中で安堵の息を吐いた。

 リリィは周りの勢いに圧倒されてされてギルに庇われたままだった。その間も人とゴリラ兄弟達はウホウホと言い争いをしていた。


 ギルがもう我慢ならないとリリィの手を掴み兄弟の隙を突いてその場を走り出した。

「きゃっ!」

 突然引っ張られつんのめりながらもリリィはギルに引っ張られたまま走りついて行くことになっとた。

「あっ! ギル、待ちなさい!!」

「ギル、ずるいぞ!」

「もうちょいリリィローズちゃんと俺だって触れ合いたい!!」

「バナナあげるから!!」


 それぞれ言いたい放題の兄弟達を後ろにギルとリリィは走り続けた。


 入り組んだ廊下を駆け抜け小さな中庭の四阿(あずまや)に二人は入った。

 ゼイゼイはあはあと息を切らせながらリリィは周りを見た。


 談話室でギル達と会ったのが昼過ぎ。今は辺りは茜色に染まっていた。
 ギルの輝く黄金の髪もオレンジ色になり色が濃くなった碧の瞳は真っ直ぐリリィを見ていた。

 リリィはその真っ直ぐさに鼓動が早くなるのを感じ、息が整ったのにまた息苦しくなった。

「こんな所まで連れて来て悪いと思ってる。でもこうでもしないと話がきちんと出来ないから」

 ギルはリリィを四阿の長椅子に勧めながら自分もすぐ隣に腰掛けた。
 流石というかゴリラの兄弟だけあって全く息が切れてない余裕だ。

 リリィはギルがまだ彼女の手を握ったままなのに気付き、鼓動が大きく跳ねた。


「その……驚いただろう。これには色々理由があって……。はあ、何から説明すればいいのか」

 ギルは少し困ったように首を傾げる。手はまだ握ったままだ。

 リリィはさっき聞いた話の中で気になった事をギルに尋ねることにした。

「殿下」

「これから夫婦になるんだ、殿下はやめてくれ。名前で呼んでほしい。その、俺も名前で呼ぶから。リ、リリィローズ」

「家族はリリィと呼んでいますのでリリィと呼んでください、ギル様」

「あ、ああ。分かった、リリィ」

「ギル様、先ほどのお話の中で気になった言葉を聞いたんですが、ゴリラファイトとは……あとマスコットがどうとか」

「それは……俺の容姿に関わってくる事なんだ」

 ギルは真剣な顔になって話始めた。

「俺達兄弟は俺以外は、みんな母親似なんだ。もちろん全員同じ母だ。どうやら俺だけ先祖返りというか外国から嫁いできた曾祖母に激似らしい。あ、母はちゃんと人間だから。ゴリラとかじゃないから。うん、今、口に出さなくてもそう思ったよね? 顔に出てる。そんな顔も可愛い……ゴホン。えっと、さて、そんなゴリラ顔に囲まれて俺が育てられるとどうなるか」

「もしかして、仲間外れにされたんですか?群れから放り出されたとか」

「仲間とか群れとか、あんな顔してる兄弟だけど人間だからね! 何気にキツい事を言うね」

「てへぺろ♪」

「くっ……!! 可愛い……!! そんな顔されると何でも許してしまいそうだよ」

 ギルはチョロかった。

 そんなギルをリリィは面白くてちょっと可愛いと思った。

「えー、コホン。外国から嫁いできた曾祖母は大層美しい人だったらしく当時からゴリラ、もとい暑苦しい筋肉だらけのむさい連中には清涼剤、天から舞い降りた女神のようで目の保養になり、皆から好かれていた。そんな曾祖母にそっくりの俺は、それはもう皆に可愛がられた」

「可愛がられた」

「そう。赤ん坊の頃から抱っこするのは誰だと日々奪い合いが親兄弟で。それだけじゃなく侍従侍女、近衛騎士と身の回りの世話をするのは自分達だ、御身を守るのは自分達だと乳母を無視して隙あらば抱っこしようと争いが起きて最終的に力で俺を抱っこする権利を決める争奪戦が。大きくなれば大きくなったで着せ替え人形のように衣装をとっかえひっかえさせられた。更に構い倒したいのか、やれ勉強だマナーだダンスだ剣術だ体術だサバイバルだブートキャンプだゲリラ戦だとありとあらゆる教師や専門家がやって来て引っ張りだこで結局最後は力で誰が優先的に教えるか決めようとトーナメントになった」

「途中からおかしくなってましたよね」

「教える方も「やっと人類に教えられる」とか言ってやたら感動するから、つい素直に何でも教わってしまって」

「ついなんですか」

「つい、ね。それが最近まで行われてたんだ。(マスコット)の争奪戦をゴリラファイトと呼んでいるんだ。俺だってもういい歳した大人なのにみんなして可愛い可愛いと構ってくるからウンザリなんだよ。しかも俺を可愛い可愛いと構い倒しながら兄弟達はちゃっかり恋人作ったり結婚したりしてさ、俺なんて血走った目の侍女(ゴリラ)女騎士(ゴリラ)から毎日逃げるのに精一杯だったのに。俺だって華奢で可憐でふわふわした可愛い女の子とお近付きになりたいのに、俺の周りにいる女の子と言えば、子供の頃から筋肉ムキムキなのに囲まれてるとか本当つらい。だからゴリラファイトに俺自身も参加して勝利して、このくだらない戦いをやめる事にしたんだ」

「それで勝利したんですね」

「ああ。かなり苦戦して卑怯な手を使ったけど勝つためだし、何より俺自身の尊厳が賭けられてるからな。そうしてゴリラ達の頂点に立って軍事部門の長に任命されたんだ」

「まるでボス猿の交代劇みたいですね」

「人だけどね」

 息ぴったりでまるで長年連れ添った夫婦漫才師みたいなやり取りになっているのに気付かない二人。

「やっと心休まる時が訪れて俺に政略でも(ムキムキじゃない)花嫁が決まり、これから楽しい楽しい新婚生活が始まると思ったのに!! 今度はリリィを狙うなんて!! またもや兄弟(ゴリラ)達に邪魔されるのかと思うと腹立つ!!」

 ギルは苛立ちを隠さず目の前のテーブルを叩こうとして片手が未だにリリィの手を握ってることに気付いた。

「っ! いつまでも握ってすまなかった!」

 真っ赤になったギルが慌てて手を離すと今度はリリィが両手でギルの手を包んだ。

「リ、リリィ!?」

「ギル様、ギル様は私の事を可愛いと、好ましいと思っているのですか?」

 リリィは両手で包んだギルの手を自分の胸の所まで引き寄せ上目遣いで見た。

「ももももももちろん! 姿絵を見た時から可愛いと、お、思っていた」

 熟れたトマトのように真っ赤になりながらこくこくと頷くギル。自分よりもか弱く可憐な女の子にこんなに近づいた事がなかったのでかなりテンパっている。

 一方、リリィはモーレツに感動していた。

 自国では王太子の婚約者ということで表面上は綺麗だの麗しいなど言われていたが影ではボロクソ言われていたのを知っていたし、隙を見せてはならないと常に澄ました顔をしていたので王太子からは「可愛げのない女」と言われていた。それでも夫なる王太子のために色々頑張ったのに「笑顔が可愛い」からと平民出の女に婚約者という立場を取られリリィは傷付いていた。
 そんなリリィをギルは何も知らないのに可愛いという。
 顔から湯気が出そうなくらい真っ赤になっているので本心からだというのも分かってリリィは一気にギルの事が好きなった。


「安心してください、ギル様。私、剣術なら少しですが嗜んでます。多少の荒事なら攻撃は出来なくても躱すことは出来ます。それにこの国最強のギル様が私を守ってくださるんでしょう?」

 リリィは目を潤ませてギルを見上げた。
 ギルは首振り人形みたいにブンブンと音が出そうなくらい縦に振っている。そのうち首がもげるんじゃないだろうか。時間の問題だ。

「それなら私は大丈夫です。ギル様が守ってくださるなら。守られるだけじゃなく私も何か協力します。一人より二人、これから私達は夫婦になるのだからお互い協力し合いましょう。私も勝つためなら手段は選ばない主義なんで!! 卑怯上等!! そしてこの新たなゴリラファイトの頂点に立つのです! 」


 色々物騒な事を含みつつリリィは熱血教師のようにギルに言った。

 ギルはリリィに片手を握られ見詰められるだけで舞い上がり、頷くだけになってる自分に気付いていた。いつの間にかゴリラファイトに参加する事になってるが、リリィが可愛いからいいかと思った。

 こんなに可愛い花嫁が自分の所に来てくれるなら、あのむさ苦しいゴリラファイトも耐えられる。
 ギルは一生懸命作戦を考えるリリィを見ながら胸の中が温かくなり、幸せってこういうのなんだと噛み締めた。



 こうして二人は軽い顔合わせから、まだ結婚式も挙げてないのに今後の戦いの作戦を練るのだった(ギルはリリィの顔を見て惚けるだけで話は聞いてない)。


 新たなゴリラファイトが起きるとしても新婚生活がある程度安定してからだと二人は思っていた。

 結婚式当日、披露宴の新郎新婦のファーストダンスの後、誰が新婦と踊るかでゴリラ達との新たな戦いの火蓋が切って落とされるのを、二人はまだ知らない。



「結婚初日からかよ!!!!」









帝都まで一緒だった騎士達、リリィ付きの侍女はリリィのあまりの可愛さに悶え、顔が緩むのを我慢した結果、リリィから怖がられていたという

騎士達「「「リリィローズ様可愛いぃぃぃ〜!!」」」
侍女「リリィローズ様の笑顔テラかわゆす」

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