旧エスクード王、つまるところシャル・デルニエ・エスクードは青年期、王室関係者であるというのに傭兵として過ごした日々があったと言う。
青年期の彼を知る傭兵仲間の話では、ある戦争では英雄と呼ばれ、ある戦争では戦神と呼ばれるほどの人物だったらしい。
武芸に優れているのは二つ名から容易に想像できるものの、また他の参考人からはまるで戦神という言葉からかけ離れている話を聞いた。
彼は戦中に、何人もの『敵』を救ったらしい。エルフと人間が大々的に対立した《グラン聖戦》では、エルフが人間の物量に圧され、撤退を始めた頃にエルフ陣営の最後尾に表れると、たった一人で人間軍の追走戦を退けたという。人間軍も摩耗していた事に変わりはないが、それでも尚、その追走を退ける事が出来たのは、違う事なき戦神の力があってこそ。何より、世界一般的にエルフを狩るべき立場にある人間が、同じ人間の前に立ちはだかるのは並大抵の精神力では出来ない。同じ人間を敵に回す可能性すらあるのだ。
ともかく、不思議な人物であることに変わりはないが、どこか愛着の湧く人物像である。それは勿論、私自身がエルフ支持を主張しているからだが――
彼が正式に王位を継承し、エスクード王となってからもヴァンガード協定連合には加入せず、世界地図の位置からして西方の辺境地で独立国家を守り続けた彼は変わり者と言えるのかもしれない。
周辺各国から独立状態を維持しながらも、繁栄を期していたレザール戦争前のエスクードには何か後ろ盾のようなものがあったのか。
私の推論ではエルフが関係している気がする。根拠は殆どない。しかし、エルフを救ったという噂話がある以上、そう思わざるを得ないのも事実だ。
――確たる証拠もなく論述をするのは些か不格好ではあるが、此処に私は明言して置く。
今ではエスクード王は死に、国すらも崩壊してマズールに取り込まれた状態だ。あの虐殺の中でエスクード陣営の要人が生き延びたとは思えない。エスクード王には一人息子がいたと言われているが、彼も生きてはいないだろう。
レザール戦争下でたった一人生きていたと言うなら息子は修羅になっているかもしれない。
いや、仮定で話を進めるならエルフからなんらかの助力があった可能性も捨てきれないか。
私個人としては、かの英雄の息子が生きていることを切に願っている。
こんなことを言っていればおそらく私もマズールに目を付けられるだろう。
だが、この時代の印が後世に残ることを強く望む。
『エスクード考察記・下』著:グステンシュタイン・マーグ 天歴3307年
◆◆◆
一夜明け。
騎士に切り伏せられた村大工は死んだ。十分な医術が整っていないこの辺境の田舎村ではやりように限りがあった。
そして――村大工と老婆の弔いが、次の日に行われた。
簡易的な墓の前に集まる村人。そこにユーリとリリアーヌの姿もあった。言葉数は少なく、無言に近い中、ただ鎮魂歌を謡う幼い子供たちの声がその場に残響した。
鎮魂歌が止み、一人ずつぽつぽつと村人が去って行く中、何人かの村人だけが残り、同様にその場で立ち竦んでいたユーリとリリアーヌに声を掛けた。
「これから…どうなさるのですか」
ユーリが自らの正体、身分を公表した以上、旧エスクード人である村人たちは敬意を含む言葉で問いかける。それに対してユーリは静かな無表情を湛えたまま、答える。
「リリアーヌと共に村を出ます。俺達がいる以上、この村は狙われ続ける。――いや、もう遅いのかもしれない。多大な迷惑をかけたことをお詫びします」
神妙な顔つきのユーリを見て、村人たちは涙を流した。
村人が二人も居なくなった事、エスクード王国の最後の希望が生きていた事、その王子が、自分を責めている事。諸々を含めて、複雑な涙を流す。
「貴方様がまた流浪の旅へ出なければならないのは心苦しいことです。どうか貴方に竜族の御加護がありますように」
竜族――旧エスクード王国の紋章である。普段ならば、自分たちがエスクード人である事を知らせる情報を口にするのは憚られる物であった。此処はマズール領なのだ。しかし、眼の前で佇んでいるのは誰もが敬愛した最後のエスクード王の息子。シャル・デルニエ・エスクードの時代をよく知る初老の村人たちは、その最後の王の息子を責める事も、助ける事も出来なかった。唯、遥か昔にエスクード建国に助力したと言われている―――実際に存在するのかどうかも解らぬ竜族に、無言の情けを乞う事しか――
ユーリは考える。昨日の騎士たちが本拠地――つまりマズール王国に戻れば、事の詳細は伝わる。マズールに反逆した旧エスクード人の村。其処に存在した仇国の王子。同じく、忌み嫌われた種族の娘。
もう後戻りは出来ないな、と心の中で呟く。
ユーリは老人の言葉を受け、不意に懐から紙切れを一枚取り出して渡した。
「この地図に記してある場所に我が父の遺産が多少ながら埋められています。それを資金源に貴方達も村を出てください。数日すれば昨今のマズール騎士団が総力を挙げてこの村を潰しに来るでしょう。私の作った火の粉で貴方達まで焼け死ぬことはない。どうか…逃げてください」
悲痛な言葉を紡ぎながら。
「王子殿下がそう言いなさるのでしたら、そう致しましょう。しかし、殿下はどこへ行くおつもりなのですか。此処は辺境地、それも今やマズールの支配下です。近場に栄えた街もなければ…貴方にとって周りは敵だらけでしょう」
「…それを承知でマズールの王都へ向かいます」
村人たちが目を見張った。わざわざ敵国の本土に向かうとはどういう了見なのか。しかし、鋭い決意に満ちたユーリの目を見た上で、詳細を訪ねることは躊躇われた。それを止める事は尚更である。
「今までお世話になりました。いつかまた…出会えることを祈っています」
ユーリは踵を返し、リリアーヌはユーリの服を掴んだままそれに釣られる様に一度村人に頭を下げて背を向けた。
◆◆◆
「ユーリ、村人の皆…大丈夫かな…」
「……」
ユーリの「旅に出る」という言葉を受けて、家の中の物を出来るだけ早く整理し、同時に旅に必要な物だけを選別している最中、リリアーヌがユーリに訊ねた。
ユーリには村人たちに危機が迫ることが明白だと解っていた。今から村人総出で村を発つ準備をしたところで――遅いのだ。騎士は馬という迅速な移動手段を持ち、また、騎士である以上追跡の技術もあるだろう。村人の方は、ユーリの了見の所、おそらく村を発つのに三日は要する。何処に向かうかも定まらず、故に廃墟に迷い込まぬ様に、長い間を生き抜ける様に、荷物は多く、幼子や老人が多い事も相まって移動速度は大したものにならない。
確実に追いつかれる。
「きっと大丈夫だ。心配するな、リリィ」
確信のない薄っぺらな言葉しか返せない自分が恨めしかった。
しかし、同時に、彼らを救う一つの方法も知っていた。唯一の希望―――それはマズール騎士団が追走隊を放つより先に彼らの本拠地、つまりマズール王国王都へ向かい、『手を打つ』こと。そこにしかない。
ユーリは頭の中を廻る思考をそこで一旦切り、旅用のバックパックに残りの旅用品を力づくで押し込んだ。
そして先に支度を終えていたリリアーヌの方を振り向き、彼女にこれ以上の不安は抱かせまいとある限りの理性を総動員して柔和な微笑を浮かべ、短い言葉を紡いだ。
「行こう、リリィ」
リリアーヌは賢かった。故に、その微笑が含む意味に咄嗟に勘付いてしまっていた。それでも、ユーリが逆にその様子に勘付かないようにと、彼女も優しげな微笑を顔に貼り付けて答える。
「うん、行こう、ユーリ」
ユーリは微笑んだリリアーヌの手を取り、彼女の手を掴む手に少し力を込める。この手だけは離すまいと――胸に刻みつけて。そして――全てを取り戻して見せると、決意を込めて。
最小限に抑えた荷物を背負い、風を防ぐ為の大きめのマントを体に巻き付け、リリアーヌと共に家を出た。
さようなら―――
◆◆◆
マズール領―――ヴァンガード協定連合法下、王都キール。
マズール王城内謁見の間―――
壮大な天使の絵が天井に描かれている謁見の間で、マズール王は耳を疑う報告を部下から聞いていた。少し灰色掛かった山羊髭と、同じ色の長い巻き毛を揺らす初老の男である。淡い緑の瞳はそれとなく狡猾さと隙の無さを見る者に窺わせ、彼が頭上に冠むる金で彩られた小さな王冠にはグリフォンの肖像。その頂を得る者が、確かにマズールの王である事を如実に報せていた。
「頭を上げよ。下を向いていては報告するのにも難い。そして申せ、何があったのかを――」
謁見の間の玉座に座るマズール王の前、三段の階段の下側で、片膝をついて報告をしているのはマズール王国独自の防衛力にして、最大戦力である《マズール騎士団》を率いる長―――《ケーネ・ヴァスカンド》であった。短く切り整えられた灰色の短髪、マズール王の言葉に従い、階段状のマズール王を見るその双眸には僅かに青み掛かる強い意志の籠った水色の瞳。切れ長の眉は上に傾いており、一層彼の瞳に宿る意志の強さを強調させる。騎士団を受け持つには些か若さが残っているようにも見えるが、くっきりとした顔立ちと無駄の無い立ち振る舞いには、清廉という言葉が似合う。重装の鎧に身を包み、腰にはマズール紋章の刻まれた幅広の剣の鞘。ケーネ・ヴァスカンドはマズール王の許しを得、直ぐに言葉を並べていった。
「はっ。昨夜、旧エスクード領の土地管理に遣わせた部下が王都キールに戻りました。彼らには旧エスクード領東部の辺境を宛がっておりましたが、予定よりも早くに王都へ帰還した部下に理由を問い詰めた所、虚言とも妄言ともつかぬ弁が返って来たのでお知らせに参った次第です」
「虚言とも妄言ともつかぬ言葉を――か?」
「はい、私個人の判断で有耶無耶にしてしまうべきではないと判断致しました。此処に部下の言葉を述べさせて頂きます」
ふむ、とマズール王は少し首を傾げた。少なくとも、マズール騎士団の末端の騎士の虚言を態々王に伝える訳もなかろうと思い、少々の疑問こそあれど、とりあえずはケーネの言葉に耳を傾ける。
「旧エスクード領東部辺境にて、旧エスクード人の隠れ蓑となっていた田舎村を発見。同東部に於いて最近発掘された鉱山の労働資源として活用しようとした所―――この点に尽きましては別に私の言葉で述べさせて頂きますが、今は割愛致します―――その村で不意の戦闘状況に陥ったようです。然し、同村にて戦闘状況を継続している最中、ある一人の青年が状況に介入。誠に申し上げるに難き事ですが、そのたった一人に青年に派遣されていた騎士の大半が壊滅させられました」
「エスクード人…か。奴らの持つ『血』は争い事に向いているからな…多少の犠牲は止むをえまい。それで、報告はそれだけか?」
「いえ、肝心の所が御座います。騎士達は撤退際に、その青年がある伝言を我らが王へと伝えるようにと言葉を紡いだようなのです。その内容が問題とする所で―――彼はこう宣言したのです、我が王―――」
我が名は《ユーリ・ロード・エスクード》。マズール王国に滅ぼされしエスクード王国の末裔である、と。
「《ユーリ・ロード・エスクード》―――」
マズール王の表情が一瞬にして曇った。
忘れもしない、とマズール王は心の中で同時に毒づく。第三次レザール戦争において、唯一生死を確かめる事が出来なかったエスクード王国要人。そして、最も生死を確認しなければならなかった者である。エスクード王国の王子は一人だった。シャル・デルニエ・エスクードの妃が子を産むという事に関して、あまり恵まれていなかったからである。そしてその妃はレザール戦争にて没した。この眼で見たからには違う筈が無い。とはいえ、シャル・デルニエ・エスクードが没した状態なら、この際妃の生死など些細な問題だった。問題なのはシャル・デルニエ・エスクードがその身に宿すエスクード王の血の系譜であり―――そして、最も重要なのは、その時点でエスクード王国を継ぐ可能性のある存在の生死である。
「それは真か、ケーネ」
マズール王はケーネに対して真偽を問うが、まず以て、ケーネ自身が部下の言葉を虚言妄言の類と称している限り、彼自身に真偽を決定する材料はない。
「明くまで、で御座います。真実をこの眼で見極めるまでは、私個人では判断のしようがありません」
「いや、構わぬ。私の方こそ下らぬ事を言ったな」
マズール王は少し苛立った様子で自分の頭を掻いた。虚言であればいい。むしろ、虚言であってくれ、と思う。マズール王はエスクード王族にある種の畏怖を感じていた。そして脳裏に過る最終的な疑問。その青年は本当にエスクードの末裔なのか。
「その者の特徴を部下らは見ていたか? 特徴について何か言っていたか?」
「御意に御座います。それ故に、私は此処に参りました」
ケーネはマズール王の言葉を予測していたかのように、即座に言葉を紡いだ。
「部下にその人物の外見的特徴を述べさせたところ――」
その者は『銀の髪』と『真紅の瞳』を宿していたと、とケーネは発した。
言葉を聞き、マズール王は疲れ果てたように「嗚呼…」と短い声を上げた。ケーネはマズール王の様子を見て、個人的な確信を得る。
「虚言ではなかった、と言う事でしょうか――」
「……正に。あの忌々しいシャル・デルニエ・エスクードと同じだ。『銀の髪』と『真紅の瞳』はエスクード直系王族の最たる特徴。…間違いないだろう―――」
最後の言葉はまるで自分に言い聞かせるように呟かれた。マズール王の意気が消沈していく様を
ケーネは傍らで見ていた。マズール王はエスクード人を恐れている、という事実が眼の前の光景から伝わり、これ以上王を苦しめる事もないだろうと、ケーネは咄嗟にせめてもの慰めの情報を声に出した。
「――恐れながら陛下、私自身部下の話で奇妙に思う節がありまして…」
ケーネは畏まって言った。その表情には微塵の動きもない。
「部下達の話によると、その青年は《魔術》を行使したようなのです。さらにその時、右の真紅の瞳が黄金色に変色していたと――」
「魔術…だと?」
誠に御座います、とケーネは端的な返事をする。
マズール王は思案するように顎元の髭を何度か指で摩り、声を発した。
「その一点に於いては何かがおかしいと言わざるを得えないな。エスクード人は古来より『魔術の資質』に恵まれていなかった。自然出産で生まれたエスクード人にはまず魔力が宿ることはない…。それに――金色に染まる瞳か…。―――ベルマール、何か心当たりはあるか?」
そこでマズール王は思いだしたかのようにふと謁見の間の玉座側から、真横に向かって声を投げかけた。謁見の間の上部から玉座の左右を覆い隠す様に垂れ下がった紅色のカーテンの裏から、一人の男が姿を表す。
「いいえ、陛下、私には心当たりは御座いません」
白い肌に整った顔立ち。齢は二十代半ばぐらいか。老獪さを湛える紫の瞳の光と、落ち着き払った雰囲気とは裏腹に、その男はひどく若く見えた。長い金髪は肩を優に覆い、紫の双眸は言葉を発した後も穏やかな光を灯している。
「ふむ…『旧エスクード人のお前なら』何か知っていると思ったのだが…」
再び思索に耽るマズール王。ふとその後に続いた言葉があった。
「シャル・デルニエ・エスクードの下で『王国宰相』をしていたお前にも解らぬか」
「えぇ―――心当たりは御座いません」
紫の双眸は表情の変化を湛えない。全く動じない微笑を湛えたまま、ベルマールは答えた。
マズール王は、心の中で何も知らぬ筈があるまい、と思っていたが、何にしても、この妙に老獪染みた男が情報を口走る事はないだろうと思い、一旦彼に対する尋問を取りやめた。
「まぁよい。―――ケーネ、土地管理については継続して行うよう伝えよ。やり方はお前に任せる。同時に、エスクードの末裔を語るその者の正体を更に正確に調査するよう別働隊を派遣するのだ。その者を捕縛出来た場合は―――私の前に連れてこい」
「はっ、御意のままに」
マズール王の王命に対し、ケーネは短い返事の声を上げると、徐に無駄のない動きで立ち上がり、一度マズール王に向かって頭を垂れ、即座に踵を返した。
そこで、マズール王が思い出したように一人ごちて呟いた。
「ユーリ・《ロード》・エスクードか―――大層な名だな」
◆◆◆
ベルマールにとっては、いつもの見慣れた謁見の光景だった。しかし、彼は今、歓喜に満ち、そして震えていた。その感情を愚かにも表には出すまいと、ベルマールは理性を総動員して柔和な微笑を浮かべ続ける。変化を悟られてはいけない。横で玉座に座り、思案気な顔をしているマズール王に―――
「陛下、私めはまだ執務が残っております故、先に失礼させて頂いても宜しいでしょうか」
声は震えていないだろうか。ベルマールは内心に若干の不安を抱きつつ、言葉を並べたてた。
マズール王はベルマールの内心に気付いている様子もなく、ベルマールを尋問すると言うよりも、どちらかと言えば未だに自分の思考に区切りをつけて置きたいようで、少しの間を置いてベルマールの言葉に返答した。
「良い、下がれ。末裔について何か解れば逐一知らせよ」
「御意のままに―――」
ベルマールはいつものようにゆっくりと足を動かし、足早になってはいないだろうか、等の些細な不安を再び抱いて、しかし、ようやく王座側にあるマズール王城の廊下への扉を潜り、同じようにゆったりとした動作で扉を閉めたところで、声を出さずに、それでも―――大きく深呼吸をした。
◆◆◆
《ユーリ》。《ユーリ・ロード・エスクード》。なんと聞きなれた名か。
ベルマールにはマズールにおいて最大の『穢れ』とも見なされる過去があった。それはベルマール自身の行いから来る物ではなく、正確にはマズール王によって身に刻まれた後天的な穢れである。
旧エスクード王の側近にして―――エスクード王国の宰相。それがベルマールの過去の身分である。
そんな彼が何故、今ではマズール王の側近をしているのか。
理由は単純で、解りやすい物だった。ベルマールは王の側近として最上級の力を持ち合わせていたからである。政治力、戦略力、そして―――個人としての武力。全てを高次元で持ち合わせていた。その脅威性を誰よりも知っていたのは、敵国の元首であるマズール王その人。一たび反抗すれば、ベルマールの畏怖にすら値する多彩な能力を自分の身に刻まれかねないという状況にある中、それでも、故に、使えるものはどんなものでも活用しようとする意気の強い現マズール王は、ベルマールを第三次レザール戦争終結後に捕虜として確保した際、誓約系魔術で、とある誓約と制約を彼の体の内に刻み込み、同じく一国の王である自分の片腕として使用することを決めたのだ。
「嗚呼、しかし、何ということだろう」とベルマールは自室で誰にも聞こえないように呟いていた。
ユーリが生きていた。これ程までに歓喜を覚えたことがこれまでにあっただろうか。
仇敵の王に仕えなければならないという絶望に近い暗闇の中で見つけた光。銀の髪に真紅の瞳、そして―――『魔術を行使するエスクード人』。ベルマールは知っていた。シャル・デルニエ・エスクードの一人息子であるユーリ・ロード・エスクードが、エスクード人として生を受けながらも、ある特異な理由の所為で魔術の資本である《魔力》を体に宿している事を。
どう考えてもユーリだ、と何度も確かめるように頭の中で反芻する。愛する友の息子。あるいは、自分の息子のように可愛がったエスクードの第一王子。
そして―――ベルマールの胸にはマズール王に仕え始めてから心の奥底に沈殿していた光と決意が浮き上がっていた。
「これで、私にもやらねばならぬ仕事が増えたようです」
全うしましょう、最後の君の命…否、願いを―――
ベルマールはほんの一瞬だけ決意の籠った鋭い視線を自室の窓から外に見える空へと投げかけ、しかし、次の瞬間には直ぐにいつも通りの微笑を浮かべた。
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