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前世聖女は手を抜きたい よきよき  作者: 彩戸ゆめ
学園生活を満喫します
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81話 マーカス・レイ・ハミルトン

 マーカス・レイ・ハミルトンは、その名に「王位継承権を持つもの」という意味の「レイ」の称号を持つ。マーカスの母が先代の国王の妹――つまり、現国王の従弟にあたるので、王位継承の資格を持っているのだ。


 エルトリアの王族法では、王位継承権を持つ男子は「レイ」、女子は「ロワ」の称号を持つ。


 王族直系は王家を離れても生涯その称号を持つが、子供には称号が与えられず、王位継承権を持たない。


 だからレナリアの母であるエリザベスはエリザベス・ロワ・シェリダンという名で、末席ではあっても王位継承権を持つが、その子供であるレナリアはレナリア・シェリダン、兄はアーサー・シェリダンと、その名に王族の称号は持たない。


 だが王族のスペアの役目を持つ公爵家の直系男子だけは別だ。

 婚姻するまでは、その名に「レイ」という称号を持つ決まりになっている。


 婚姻後に「レイ」の称号を失うのは、「愚王フィリップ」の時代があったからだ。


 流行病で直系の王族が全て亡くなり、公爵家から王位に就いたフィリップには男爵家出身の妻がいた。当時、高位貴族は政略によって婚姻することがほとんどであったから、フィリップにも釣り合いの取れる婚約者がいた。だがフィリップは学園で知り合った「悪妃マリア」を妻とした。


 公爵夫人になったマリアは贅沢を好んだ。


 そして、突然転がりこんできた王妃の地位に就くと、それまで以上に贅沢三昧の生活を送るようになる。毎夜開かれる王家主催のパーティーに、それに合わせた新しいドレスに宝飾品。豊かだったエルトリア王国の国庫はあっというまに空になった。


 それをたしなめるべきフィリップは女色に溺れ、多数の愛妾とともに王宮の奥に籠り政治を(かえり)みようとしない。


 その間に男爵家の係累が王妃の後ろ盾を得て台頭し、国を我が物顔で牛耳り私腹を肥やした。


 国は、瞬く間に荒れた。


 そこに登場したのが、かつてのフィリップの婚約者であった「解放王エレイン」である。


 「ロワ」の称号を持つエレインは、先王の妹を母に持ち、順位こそ低いが王位継承権を持っていた。当時は王族の子供までは王位継承権が認められていた。


 だが基本的に女子の継承権は男子の次になる。だから先王の王妹を母に持つエレインより、先々王の王姉を祖母に持つフィリップのほうが、継承順位が高かったのだ。


 諸侯は彼女を旗頭に決起し、王位を簒奪した。


 解放王エレインは未婚であったから、王配としてふさわしい男と婚姻し、エルトリアはかつての栄光を取り戻した。


 そして愚王フィリップの過ちを二度と繰り返さないよう、王族法を改正した。


 王族であればその伴侶にはふさわしい地位のものが選ばれる。だが公爵家はそこまで厳しくはなく、それによって王妃の親族の専横を許した。

 そこで公爵家の直系男子が婚姻した後は「レイ」の称号を失うことにしたのだ。


 といってもマーカスの王位継承権は六番目と、それほど高くはない。


 そんな高貴な血筋のマーカスがなぜ学園の教師をやっているかというと、レオナルドとセシルの二人の王子が魔法学園に通うのが決まっていたからである。


 いくら学園では身分は問わないといっても、やはり王族を相手にするのには低位貴族では厳しい。


 そこでマーカスは、何かあった時に抑えの利く存在として、レオナルドとセシルが在籍している間だけ魔法省から教師として派遣されてきているのである。


 だが根っからの魔法好きであるマーカスは、思いのほかこの教師という職業に魅力を感じていた。


 魔法省には高位貴族の出身が多い。彼らは高度な教育を受け、魔法の素養も高い。

 だが魔法学園で教えることになって、平民の中にも優れたものがいるのを知った。


 もちろんマーカスもこの魔法学園に通ったのだから、同級生の中には平民もいる。しかしマーカスの学年で水魔法の属性を持つ平民はいなかったし、一般教養のクラスも別だったから、教師になって初めて平民と接することになったのだ。


 同僚であるポール先生も平民で、エアリアルの守護しか得てはいないが、魔法に対する(ぞう)(けい)が深い。魔法に対する考え方が柔軟でマーカスがハッとする考察をすることもあり、同僚として親しくしている。


 そんなポール先生が、困ったような顔でマーカスを見た。


 今年は誰もが予想しなかったことだが、リッグル選びは風魔法クラスが一番手となった。例年は水魔法クラスが最初だったからみんなが驚いたが、今年の風魔法クラスにはあのシェリダン侯爵家のレナリアがいる。


 ポール先生からエアリアルに名前をつけたというレナリアの発想を聞いていたマーカスは、今年の風魔法クラスは面白いことになるだろうと予想していたので、驚きはしたものの、信じられないとまでは思わなかった。


 特別クラスではそう変わっているという印象はないが、風魔法クラスの中では違うのだろうかとちょっと早めに来てみたら、何やら騒動が起こっている。


 しかも絡まれているのはレナリアで、絡んでいるのは聖女確定であると言われているアンジェ・パーカーだ。


 アンジェは先日のオリエンテーリングで全てのものの傷を癒すという、かつてないほどの強大な聖魔法を駆使してみせたが、普段の授業ではまったく魔法を発動できないと聞いている。


 聖魔法クラスの担任などは、あまりのアンジェの成績の悪さに頭を抱えているそうだが、聖魔法クラスを牽引しているロイド・クラフトによると、アンジェは土壇場でないとその力を発揮できないのだそうだ。


 そんなことがあるのだろうかと思ったが、さりとて肯定する材料も否定する材料もない。


 つまりは様子見をしていたわけだが、騒動を起こすというなら話は別だ。


 アンジェの他に、学園の中でも特殊な立ち位置のロイドと、それに加えて学園付属の教会の司教までいるとなると、平民であるポール先生には荷が重いだろう。


 マーカスは事態の収拾をすべく、一歩を踏み出した。


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【マンガがうがう】にてコミカライズ連載してます
『前世聖女は手を抜きたい よきよき』
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