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前世聖女は手を抜きたい よきよき  作者: 彩戸ゆめ
学園生活を満喫します
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64話 パンをこねよう

 ポール先生を先頭に食堂へ向かうと、まだ昼食には早いからか閑散としていた。

 生徒たちはにぎわっている食堂しか見たことがないので、物珍しそうに見回している。


 食堂の二階にある、専用の階段でしか行けない王族専用の個室に入ったことがあるものの、レナリアは普段の食事も自室にある厨房で専用の料理人が作ってくれているので、こうして一般の生徒が使う食堂を見るのは初めてだ。


 食堂の中央にはいくつか長いテーブルが置かれていて、一定の間隔で花が飾られている。壁際には四人掛けのテーブルもあるが、数は少ない。


 大きな窓は開放されていて、テラスには四人掛けの丸いテーブルが置かれている。

 その先は四季の花の咲く花壇があって、生け垣で目隠しをされていて外は見えない。


 厨房との境には大きなカウンターがあって、そこで生徒たちは日替わりのランチを頼むことができるようだった。


 カウンターの手前には大きな黒板が置いてあって、そこに提供できるランチの種類が書かれている。


 食堂での食事は、朝食は二種類、昼食は三種類、夕食は五種類の料理の中から選ぶことができ、あらかじめ申請しておけば、トレイごと自室に持って帰って食べることもできる。


 今日のランチは白身魚のフリッター、鶏肉のソテー、卵とベーコンのサンドイッチの三種類だ。


 今まで食堂にきたことがなかったレナリアには、何もかもが新鮮に見える。

 たまには食堂で食べるのも楽しいかもしれないとレナリアは思った。


「さて、こちらの一角を貸してもらったので、まずは手を洗ってから座ってください」


 食堂の隅にある洗面台で手を洗った生徒たちは、トレイを持って席についた。


 トレイの上には深いお皿に入った小麦粉と、コップに入った水と、小皿には小さく切ったバターと塩が載っている。


「小麦粉と水はその分量で。少しだけ塩を入れましょう。こんな風に」


 袖をまくったポール先生は手慣れた様子でパンをこねていく。


「バターを入れると手がベタベタするので、髪などを触らないように注意してくださいね」


 小麦粉と水をざっくりと混ぜたポール先生は、バターをまばらに載せて、パン生地で包みこむようにこねていく。


 途中で何度か、少しだけ生地を持ち上げ、ペタンと落とす。

 そうしているうちに、パンの生地がどんどん固まってなめらかになっていった。


「魔法の発動ができても思い通りの大きさに調整できないというのは、魔力を十分に練っていないからなのかもしれませんね。その練習として、パン作りは分かりやすい。うん。僕もまた新しい発見ができました」


 そう言ってポール先生はパン生地を持ち上げてじっくりと眺め、柔らかく微笑む。


「じゃあみんなもやってみてください」


 ポール先生の合図で生徒たちは一斉にパンをこねはじめる。

 レナリアも初めての挑戦で、とても楽しい。


「あたしの作るパンはおいしいわよ」


 実家でも母の手伝いをしていたエルマが自慢げに言う。確かにパンのこね方が手慣れている。


「同じ材料で、おいしいもまずいもあるか」


 元々の器用さですぐにコツをつかんだエリックが、呆れたように言った。

 だがエルマはそんなエリックを鼻で笑った。


「馬鹿ね。こねる時に、おいしくなあれ、って思いながらこねないと、おいしくならないのよ。知らないの?」

「はあ? そんなことがあるかよ」

「ふふーん。だったらあたしとエリックで、焼きあがったパンを食べ比べてみればいいじゃない」

「エルマは作り慣れてるんだから、俺の方が不利だろ」

「それもそうね。だったらローズさんとランスさんで勝負っていうのはどうかしら」

「いや、いきなり他人に振るなよ……」


 ローズはともかく、ランスはいかにも貴族然とした貴族だ。だからなのか、風魔法クラスでは二人きりの男子だが、平民であるエリックとランスの間に交流はない。


 もちろんエルマとランスにも交流はないはずだが、女子の間では誰よりも血筋の良いレナリアが身分を笠に着たりしないため、エルマもいつの間にかかしこまった言動をしなくなっていた。


「でも練習になるし、いいんじゃない? 勝負ってことになったら本気出すでしょ」


 一応、エルマもこの二人がまだロウソクの炎を消すことができないのを心配しているのだ。


 貴族の二人はパンをこねるのをあまり真剣にやっていないようなので、人助けをしているつもりでいる。


「でも誰が勝敗を決めるんだよ」

「そりゃあ……」


 ポール先生でしょ、と続けようとしたエルマだったが、とても楽しそうにパン生地をこねているレナリアを見て、これだと思った。


「レナリアさんに決めてもらいましょう!」

「え……。私?」


 名前を呼ばれて顔を上げたレナリアは、きょとんとして首を傾げた。




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