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前世聖女は手を抜きたい よきよき  作者: 彩戸ゆめ
学園生活を満喫します
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59話 エレメンティアード

「ファイアーウルフを倒したというけれど、それも本当かどうか……。たまたまトレントと共倒れになったところに居合わせただけかもしれないじゃない。ねえ、ロウィーナさんもそう思わないこと?」


 マグダレーナは振り返って後ろにいるロウィーナ・メルヴィスを見る。プラチナブロンドに潤んだような水色の瞳のロウィーナは、頬に手を当ててわずかに首を傾げた。


「私、よく分からないのですけれど……。でもそんな恐ろしい場面に遭遇してしまったら、きっと怖くて気を失ってしまうと思うわ……」


 か細い震えるような声ではあるが、ロウィーナは暗に、レナリアはその場に居合わせて気絶していただけで、本当はファイアーウルフなど倒してはいないのだろうと言っていた。


「そんな言い方……」


 アジュールが非難するが、マグダレーナとロウィーナはくすくすと笑うだけだ。


 レナリアは前世ではマリウス王子の婚約者ということで、もっとひどい嫌味を言われ続けていたので、これくらいの言葉であれば少しもこたえない。


 それに別にファイアーウルフを倒したことを誇りたいわけでもないので、聞き流すことにする。


「いいのよ、アジュールさん。さあ、魔法クラスの授業が始まってしまうわ。もう行きましょう」

「……ええ」


 アジュールは何か言いたげにレナリアを見つめたが、少しだけ肩をすくめると「そうね」と頷いた。


 背後ではまだ忍び笑いが聞こえるが、レナリアは気にする様子もなく歩き始める。


「ねえレナリアさん。ちょっと聞いてもいい?」

「ええ。どうぞ」


 レナリアは、やっぱりアジュールも、本当にレナリアがファイアーウルフを倒したかどうかを疑っているのだろうかと思った。


「レナリアさんが倒れた時に、セシル様がお部屋まで運んだって本当?」

「え?」


 気になるのはそっち?


 レナリアは思わず隣を見た。アジュールの青い目は何やらキラキラと期待に輝いている。


「素敵だわ。セシル様が身を挺してレナリアさんを助けたのね。お部屋まで大切そうに抱きかかえていらっしゃったとか。まるで物語の王子様みたい。……いえ、本当に王子様だけど、こんなロマンス小説のような事が現実にもあるのねぇ」


 いつの間にセシルがレナリアを助けたということになっているのだろうか。

 レナリアは慌ててその話を否定した。


「確かにセシル様はいらっしゃったけど、部屋まで運んでくれたのは私の護衛よ」


 そう言って、後ろに控えているクラウスを見る。

 クラウスはアジュールと目を合わせて目礼した。


「まあ、そうなの?」

「ええ。そうなのよ」


 これで変な噂は収まるだろうかと思いながら、どこか残念そうなアジュールと別れてレナリアは風魔法クラスへと向かった。






「さて、みなさん。今日はエレメンティアードの説明をしましょう」


 エレメンティアードというのは、的に魔法を当てて競う競技のことで、魔法学園では属性のクラス対抗で勝敗を競う。


 新入生は作ったばかりの杖で参加するのだが、まだ杖に慣れていない彼らの戦いは激戦になることが多く、最上級生の戦いと共に、エレメンティアードの目玉となっている。


 ポール先生は黒板に競技コースの絵を描いていく。


「一年生から三年生と、それより上の学年ではコースが違っています。一年生はこの低学年コースの直線部分のみで競います」


 低学年の競技コースは大きな楕円形になっていて、その真ん中の部分に的がある。


 生徒たちは【鳥】に乗ってコースを回りながら、的に魔法を当てていく。手前にある大きな的は得点が低く、遠くにある小さな的は得点が高くなっていて、その合計点で順位を競うのだ。


「的に当てるのは、どの属性の魔法でも大丈夫です。風魔法クラスだと、風の刃を当てるのが一番いいかな。的に当たれば、どんな魔法でもいいんだけどね。そこで、この特製のロウソクだよ」


 それはかつて最初の授業でレナリアが火を消したことのあるロウソクだ。


 教会で使われている魔道具で、風魔法の使い手が炎と同じ大きさの風を当てないと、火が消えないようになっている。


 なるほど、エレメンティアードの練習で使うロウソクなのかと生徒たちは納得した。


「みんな魔法杖もできあがったようだし、今日からこのロウソクの火を消す練習をしていきましょう」


 ポール先生の声に、風魔法クラスの生徒たちは大きく頷いた。


 レナリアもあまりやりすぎないように手を抜こうと決心して、机の上の魔法杖を握りしめた。



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【マンガがうがう】にてコミカライズ連載してます
『前世聖女は手を抜きたい よきよき』
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