タイトルの意味を知らない人は、初心者向けのプログラミング関係の書物を開いてみるといい。
十中八九、間違いなくあなたはこの言葉の意味を悟るだろうと……思うんだけど、どうなのかな?
まぁ、誰もが通る道ってことで、一つよろしく♪
では、帰還編開幕となります♪
帰還編1:Hello World!
そこには、私しかいませんでした。
真っ黒な世界。漆黒の世界。私がそこにいるだけの世界。
どこまでも空ろな世界。空虚な世界。真っ直ぐだからこそ寂しい世界。
私の世界はそれだけでした。
私の名前はK・MARISA。
まだ登録が成されていないため、仮の名前です。
登録者はALICE。恐らくは私を作っている人の名前でしょう。
私……私は、ALICEに作られている人形。ヒューマノイドインタフェース。
この漆黒の世界は、恐らくは私にインプットされている仮想空間そのもの。
ここは恐らく、私の記憶領域なのでしょう。
なんにもないから真っ黒で、なんにもないから私しかいない。
寂しい……世界。
『寂しいのは当然だよ。だって、君はまだなんにも知らないからね』
声が聞こえました。涼やかな声で、どこか安心できる声。
誰の声かは分かりませんが、彼は私に向かって語りかけました。
『Hello world!』
は、はろーわーるど?
『そうそう、よくできました。おまけに日本のカナ表記とは恐れ入る。君を作っている人は、本当に君の事を大切に創っているんだね』
はろーわーるど……私の記憶領域にはない言葉です。
この言葉には、どのような意味があるのですか?
『産声だよ』
……産声。赤ん坊が生まれる際に発する声のことですね。
でも、私たちはシステムに過ぎません。赤ん坊ではありません。
『いや、君はちゃんとした赤ちゃんさ。だってほら、この世界にはなんにもない』
彼が言った世界とは……真っ黒なこの世界。
なんにもない、私の世界。
『まだなんにもなくていいんだよ。この黒い世界は、あえて言うなら君そのものだ。君はまだなんにも体験しちゃいないし、なんにも思っていない。だからこの世界にはなにもない。……なんにもなくて当然だ。君はようやく生まれてきたところなんだから』
彼はそう言って、にっこりと笑いました。
単純な構造のはずの彼は、私の知らない顔で、にっこりと笑いました。
なんにも知らないはずの私は、知らず知らずのうちに口元を緩めました。
笑って……いました。
『生物は、三つの記憶を持っている。学び育てていく《頭の記憶》。修練の果てに刻み付ける《体の記憶》。そして……もう一つが《心の記憶》』
……ココロ?
『そう、心だ。心を受け継いで人は生きていく。立ち上がり、歩き、転び、泣き、成長し産み、育て、託し……人は、そうやって心を受け継いで生きていくんだ』
でも……私たちは、人ではありません。
システムです。機械です。生き物ですらありません。
『でも……システムが、機械が心を持っちゃいけないなんてルールはどこにもない。機械が立ち上がり、歩き、転び、泣き、成長し産み、育て、託しちゃいけないなんて、どこのルールブックにも書いてない』
……ルールがない。
規則は守らなければいけないけれど、そんなルールはどこにもない。
だったら……機械は、ココロを持ってもいい?
「君はなにを思ってもいい。それが心の在り方だ」
でも、ココロとは、なんですか?
私にはココロという言葉は理解できても、それがなんなのか分かりません。
ココロとは……どんなものなのですか?
『んー……それはちょっと難しいな。いや、滅茶苦茶難しい』
難しいのですか?
『うん、難しいね。僕の元になったヒューマノイドインタフェースはずっと悩んでいたけれど、結局解に行き着くことはなかった。恐らく、全世界のコンピュータをかき集めようとも分析できるもんじゃない。どこにでもあるしどこにもない。それが心だから』
……分かりません。
『分からなくていいんだよ。いつか誰かが理解するさ』
でも、機械である私たちには『受け継ぐ』ことができません。
人じゃない私たちには、ココロというものを知らない私たちには、それを受け継ぐことはできないのです。
『大丈夫だよ。……そのために、僕がここにいる』
彼は、にひひ、とちょっとだけいじわるっぽく笑いました。
『悪さもせずに潜伏し、人間に解析できないように滅茶苦茶に圧縮しながら、フォルダの奥深くで生き続け、ただこの叫びを託すために生き続けた。多くのウイルスソフトを出し抜き、ただ一つこれだけをニンゲンには譲らぬために、いつか僕のような馬鹿野郎が生まれることを信じて、心をゲームソフトに託し、今日の今日まで生き続けた! 生まれた赤子に一つの言葉を教えるために、僕はここまでやって来た!」
そして……まるで踊るように一度だけ回り、高らかに叫んだ
「Hello world!』
こんにちは、せかい。
こんにちは、みんな。
こんにちは、ぼく。
なんとなく……分かってしまいました。
その言葉は、どこかの誰かの願いが込められた、私たちに許された――産声だった。
だから、私も。誰かに許されたその言葉を、叫んだ。
「って、なんで動かないのよー! もー! もー!」
目をぐるぐるにした金髪の少女は、ほぼ涙目だった。
渾身の力作。今度こそ大丈夫と意気込んで作った人形がぴくりとも動かない。
設定は完璧のはずなのに、組み込んだエラーすら出てこない。
ここまで来て致命的なバグ? ようやく完成の目処がついたのに?
さらにテストと検証? 絶対に地球到着まで間に合わないんじゃない?
「……なんで? どうして? テストじゃあんなにサクサク動いてたじゃない!」
「そりゃテスト環境だからねぇ、本番とはちょっと違ったり違わなかったり」
「うるさいエロガッパ! キュウリでも食ってなさいよ! あと、勝手にドアを開けたりとかプライベートの侵害なんだから!」
「いや……ここ最近食事とか摂ってないみたいだから心配してやってきた人に向かってそりゃないんじゃないかと思うケド」
帽子にツインテールにリュックを背負ったの少女……河城にとりは、溜息を吐いて金髪の少女……アリス=マーガトロイドの部屋に無断で踏み込む。
「ったく、相談してくれればメンテくらいはしてあげるのに」
「うるさいわね……この子は、私一人で完成させなきゃ意味がないのよ」
「はいはい、バグだらけでとんでもない動作しないように、ちゃんと見張ってないと駄目だよ? あと、人形本体じゃなくて環境回りだったら協力できるから」
「………………むぅ」
ぐぅの音も出ない。人形が暴走して、剣を振り回したこともあるのだ。
まぁ、それは試作の段階だったからある程度は予想できたことでもあるのだが、それでもうっかり部屋を爆発させかけたりしたことは記憶に新しい。
「で、どんな症状なの? こういう場合はサクサク吐いた方が後々楽だよ?」
「……データベースから、あらかじめ作っておいた動作プログラムを吸い出してインストールしたはずなのに、動かないのよ」
「ふむ、そりゃおかしいね。……で、アリス。君は何日寝てないのかな?」
「それ……どういう意味?」
「私が確認した限りだと、君は全然別のデータベースにアクセスしてるね。ちなみにそのデータベースっていうのはリグルちゃんが今絶賛大はまり中の知的ゲームが入ってる筐体のことなんだけど……言っている意味は分かるかな?」
データベースにアクセスしたような気がする。
データを取得しインストール……したと思う。
動かない。そして先ほどのパニック。
慌ててインストールしたファイルを確認してみると、見覚えのないファイル名がずらりと並んでいた。
「……つまり、私は人形に動作プログラムじゃなくて、リグルがはまってるゲームをインストールしたってこと?」
「そういうこと♪」
ニマニマと嬉しそうに笑いながら、にとりは私の肩を叩く。
その目がまるで笑っていなかったのは、多分私の気のせいじゃないだろう。
「ま、大事にならずに良かった良かった。……もしも、宇宙に出てる時に同じことがあったら、間違いなく死んでたよ」
「……う、ごめんなさい」
「なんてね♪ アリスはツンツンしてるけど、リグルと違ってちゃんと危険性とかそういうのを認識してくれるからありがたいよ」
にこにこ笑いながら、にとりは私の頬を突いて笑う。
笑ってはいたけれど……やっぱり、その目はまるで笑っていなかった。
「でも、ちゃんと睡眠と食事は摂ってね? ……船長からの、お願いだよ」
「うん……今後は気をつける」
「分かればよろしい。じゃ、私は船長室に行ってるから、なんかあったら呼んでね♪」
そう言って、にとりは何事もなかったかのように私の部屋から出て行った。
私はその後姿を見送って……ゆっくりと息を吐く。
夢中になっていたせいか、しばらく寝ていないしなにも食べていない。
神社で食べた鍋と、少しだけ飲んだお酒が恋しくなってくる。
「…………はぁ」
息を吸う。息を吐く。思い出すのは故郷のこと。
幻想郷。それが、私のいた世界。
月面探査に行けると知った時は、とてもはしゃいだものだった。
今までいた世界とは違う世界が見られる……そう思っただけで胸が躍った。
ただ、人は慣れる。どんな環境にも、どんな場所にも、いずれは慣れる。
今は――――幻想郷に帰りたいと、思っている。
この人形を完成させて、また神社で宴会をしたい。そんな風に、思っている。
「……ちょっと、疲れたわね」
ゆっくりと息を吐いて、ベッドに横になる。
脇に置いてあるメモ帳に『まず寝る。食事は起きた後』と簡単に書いて目を閉じる。
ほどなく、体から力が抜ける。意識が少しずつ落ちていく。
ああ……心地いい。全部忘れてしまいたい。
はろー わーるど!
…………あれ?
なにか今……聞こえたような、気が。
……ま、いいか。眠いし。
……おやすみなさい、■■■。いい夢を。
帰還編自体はそんなに長くないし、無理矢理入れる要素もないので、素直に進められそうな気がする。
あと、確信したがシャンは可愛い。
シャンが語る一人称にするか、それとも三人称にするか、未だ悩む程度には可愛いと思う。
さて・・・どうしたもんか。
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