前書きから言い訳まみれだけど、意外性のある少女ってのはかなりツボな設定でね? だからその……公式設定以外にも手を出したというか。
ぶっちゃけ、すまんかった(謝)
なにを言っているのか分からない人は、本編をごらんください。
それでは、第五話の始まり始まり〜♪
一応言っておきますが、作者はルーミアはあまり好きじゃありません。愛してる程度です。
が、ロリでもありません。ゆかりんとかゆうかりんとかも大好きなんだから、勘違いしないでよね!
門番編4:今、ここにいる理由
無敵。最強。究極。
そんな存在は世界中のどこにも存在しない。
第一印象は貧弱な少女。ただ白く、潔癖で、故に美しい。
しかし、彼女はまごうことなき魔法使い。それも……とびっきり上等で、どこからどう見ても、私が逆立ちしても敵わないような存在だった。
吸血鬼の友達が魔法使いと聞いた時は驚いたが、珍奇な存在同士で、思ったより相性はいいのかもしれないとなんとなく納得もしていた。
私が折った銀の剣を眺めて……彼女はゆっくりと溜息を吐いた。
「……無粋ね。でも、性能としては悪くない」
「どういうこと?」
「レミィを傷つけたこの剣は、間違いなくレミィを狙ってきたということよ」
七曜の魔法使い……パチュリー・ノーレッジは気だるそうに語る。
「この剣の柄には腐水と汚金石とザザミムシを主原料とした呪蟲毒が仕込まれているわ。剣の柄を握った途端に、呪蟲毒に汚染され呪式に乗っ取って意識を掌握され、殺害対象を追い続けることになる。あなたの場合は本体である刀身を破壊した後だったから意識を奪われずに済んだ。……良かったわね、あなた運がいいわ」
「………………?」
専門用語とか、ワカラナイヨ?
私が頭の上に疑問符を浮かべると、パチュリーは思い切り溜息を吐いた。
「あなた、馬鹿でしょ?」
「私は魔法使いサマと違って育ちがよろしくないもんで、分かりやすく、噛み砕いて話してくれないかな?」
「この剣を握ると、レミィを殺すことしか考えられなくなるのよ」
なるほど、分かりやすい。
最初からそういう風に話してくれればいいのに。知識人って奴はこれだから困る。
「で、対処法は? あの子が襲われ続けてるってことは、この剣はまだまだたくさんあって、それが全部あの子を狙ってるってことでしょ?」
「正確には、レミィを狙っているのは一振りだけよ」
「どういうこと?」
「あなたが壊した剣は言うなれば『子』にあたるのよ。この剣を解析してみたけど『子』は『親』に刻まれた情報を元に殺害対象を追う。つまり、元々の大本……レミィの血の情報が刻まれている『親』となった剣がどこかにあるはず。恐らくは呪式に専用の命令があらかじめ組み込んであって、親の命令に従って子が動いている状態ね」
「えっと……もうちょっと分かりやすく」
「木を切るのに枝葉を切っても意味がないでしょ。大本の根っこを切らなきゃ」
「なるほど、それは分かりやすい」
ぽん、と手を打つと、パチュリーはなぜか苦々しい表情を浮かべていた。
馬鹿を相手にするのは疲れると言いたそうな表情だったが、まぁその辺はどうでもいいだろう。
私には、私のやりたいことがあるんだから、魔法使いにゃ構っていられない。
あとはもう二つだけ聞いておけば十分だろう。
「で、剣の『子』は何本くらいありそうなの?」
「そんなの……分かるわけないでしょ。解析した限りでは親にしろ子にしろ、かなりの技術で錬成されてるから、自己再生や増殖機能はないみたいだけど、普段は宿主の知識を使って普通の人間に擬態してるし、剣自体にも探知魔法からの偽装機能が備わってるからこちらから見つけ出すのも困難よ。……時間があれば、親を割り出すことはできるけど」
「じゃ、一分一秒でも早くお願い。もしも他に対策があるんだったら、今のうちに言っておいて」
「……あなた、なんなの?」
私の不遜な態度に腹を立てたのか、パチュリーは冷たい目で私を見つめる。
私はその目を真っ直ぐに見返し苦笑した。
「武術家崩れの……ゴロツキよ」
そう、今の私はその程度の価値しかない妖怪だ。
守れぬ人を守れなかった死にたがり。今も殺して欲しくてたまらない。
あの子なら簡単に私を殺してくれるだろうし、この魔法使いに頼んだっていい。
ああ……でも、初志貫徹くらいはしておきたい。そんな風にも、思うから。
私を見つめながら、パチュリーは口を開く。
「あんまり言いたくはないけど、あなたには死相が出てる」
「へぇ、魔法使いにはそんなものが見えるんだ?」
「正確に言えば、あなたは精神的に死にかけてる。体じゃなくて心が死を望んでいるのよ。……そんなに人に、レミィを任せるわけにはいかないわ」
「心配しなくても大丈夫よ。あの子に関しちゃ、問題ないわ」
にっこりと笑う。
心が死にかけてるだけなら大丈夫。私はまだまだ全然やれる。
「私が体を張れば、最低一回はあの子を守れるでしょ?」
あの子を誰が守ろうが関係ない。魔法使いに頼んだって問題ない。
でも……もしも、私にしかできないことがあるんだったら、それをやりたいと思う。
あの子に殺されるか、あの子を守る途中で死ぬか……どちらにしろ、のたれ死ぬよりは命を有効に使えるってもんだ。
私の言葉に、パチュリーはあからさまに顔をしかめた。
「……気分が悪いわ。あなたの思考は理解できない」
「理解しちゃ駄目よ。文字通り、私は死に場所を探してここにいるんだから」
苦笑しそうになる気持ちを抑えて、私はなんとかにっこりと笑った。
「それに……あの子の友達がそんな顔しちゃ駄目じゃない。魔法使いなら魔法使いらしく、ふてぶてしく笑って、今回のことも解決しちゃって、『レミィは駄目ね。今回のことは貸しにしておいてあげる』くらいは言ってあげなきゃ♪」
「………………」
パチュリーは苦虫を噛み潰したような顔をすると、思い切り溜息を吐いた。
「できる限り……なんとかしてみる。その間、レミィをお願い」
「分かってるわよ。最低一回とは言ったケド、なんなら百回でも二百回でも、あの子が望むだけ守り続けるつもりよ。こう見えて、わりと強いんだから♪」
「………………」
パチュリーはなにも言わなかった。
私は背中を向けて歩き出す。パチュリーに挨拶はしない。
私はもうすぐ死ぬんだから、情は要らない。
あの魔法使いも、ちょっと危なっかしいとは思ったケド。
私は私の目的のために、思ったことは全部黙殺した。
追想が消える。頭の中を支配していた雑念が消えていく。
眼前には大岩。拳を打ちつけたら拳の方が壊れるだろうってくらいに、大きい。
「はああああああああああ……」
息を吸う。息を吐く。心身を合一させ、前を向く。
これはただの基本。基本にして究極の確認。
呼吸を止める。ただ一撃のために身体機能を総動員する。
「破ァ!」
中段一閃。私の拳は固い岩に叩きつけられた。
そんなことをすれば普通は腕か拳が砕ける。常識的に考えれば……私の拳は、咲夜さんと戦う前に再起不能になっているだろう。
しかし……その常識を覆すために武術は存在する。
岩に罅が入り、罅は亀裂になり、最後にはドゴン! という派手な音を立てて、大岩はものの見事に割れていた。
それと同時に、肩から力を抜き息を吐く。
「よし……これで、体力と速度はほぼ元通りってところか」
元通りどころじゃちっともさっぱり足りないけど、とりあえず必要な要素は揃った。
咲夜さんと対峙する時に必要なのは速度。そして体力だ。
咲夜さんの能力は確かに強力だ。あまりに強過ぎて、卑怯すぎるでしょうってくらいに卑怯だけど、攻略法がないわけじゃない。
時間を操れるのは数秒単位。咲夜さん自身は止まった時間の中で動くことはできるけど、手放したナイフが動くことはない。
距離を取っていれば咲夜さんの直接攻撃は防げる。
つまり、咲夜さんの能力を相手にする際には、時間が動き出してから勝負となる。
自分に着弾するまでのコンマ数秒でナイフの軌道を見切る速度、ナイフを投げる気配と時間停止を行う気配を察知する術、そしてそれらを長時間持続させるだけの体力。
あとは……咲夜さんの意表を突くだけのなにかが必要になるだろう。
私が妖怪である以上、基本性能は咲夜さんよりも上だ。時間を稼ぎ、咲夜さんの体力を削ることができれば、私のようなスットコ妖怪でも咲夜さんを傷つけずにに勝つことは、十二分に可能なのだ!
「ゆゆ? よくわからないけど、ごはんをちょうだいね!」
「………………」
あまりの空しさと虚脱感に、私は頭を抱えた。
自分で自分が分からない。なんでそんな話を、よりにもよってゆっくりにしちゃったんだろうか?
孤独にはわりと慣れていると思ってたんだケド……それは勘違いだったんだろうか。
目からなにかしょっぱいものが流れている気がしたけど、あえて無視した。
「……帰りたいなぁ」
「なまいぎなごどいっでごべんだざいおでーざん! でいぶがわるがっだです、おねがいだがらやべでええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
れいむの頬を思い切り引き伸ばしながら、私は溜息を吐いた。
修行を始めて一週間ちょい。
私は、自覚できる程度のホームシックにかかっていた。
と、いうわけで心が弱っている時は体を動かすに限る。
本日の修行場は打ち込み稽古ができる森の中。紅魔館からもそこそこ近く、いわば私のテリトリー内と言えるだろう。
森の中を悠々と歩きながら、咲夜さんの意表を突いた闘い方を考える。
できれば……投擲術をアレンジする方向でなんとかしたいところではあるけど。
既に越えられているが、元々咲夜さんに投擲術を教えたのは私だ。
もちろん、お互いの手は知り尽くしている。……だからこそ、知り尽くしているからこそ、裏をかくことができるはず。
と、そこで私は周囲の風景が見慣れないものになっていることに気づいた。
「…………あれ?」
迷った?
……また迷った?
テリトリーと言ってもいい場所なのに、またもや迷いましたよ!?
「私って、方向感覚ないんですかねぇ……とほほ」
紅魔館からあんまり出歩かない職業だとはいえ、いくらなんでもこれはないだろう。
気ままに遊ぶ妖精ですら、自分のねぐらに帰ることくらいはできるだろうに。
いざとなったら木を切り倒して年輪を調べれば方角くらいは分かるだろうし、夜になれば月も星も出る。
……でも、修行に来たのに帰り道に尽力しなきゃならないってのも本末転倒だ。
と、私が色々と思い悩んでいた、その時。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
なにやら気の抜けた叫び声が響き渡った。
慌ててそちらを振り向くと、真っ黒な玉が人間の親子連れに襲いかかっていた。
黒い玉の方は見覚えがあるけど、親子連れの方は恐らく森に迷い込んだのだろう。
親は子を守るために、妖怪に立ち向かっていく。
「こんな妖怪にやられてたまるか!」
「父ちゃん頑張れ!」
んー……その意気は認めるけど、いくらなんでもそりゃ無茶ってもんだろう。
仕方ない。こんな所で死なれるのも寝覚めが悪いし、助けてあげ……。
ドシュッ!!
ちょ、早っ!?
まるで閃光のごとく。瞬きの間にあっという間に殺された父親は、叫ぶことすらできずにその場に倒れ付した。
「父ちゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!」
倒れた父親を背負って、子供はものすごい勢いで逃げていく。その速度たるや、父親が殺された速度のおおよそ倍ほど。並の妖怪が追いつけるはずもない。
置いていかれた真っ黒い球は、ふよふよと浮きながらこちらに近づいてきた。
「あーあ、逃げられちゃった」
響いてきたのは予想通り、少女の声。真っ黒い玉に見えるが、それは彼女の能力で操っている暗闇を球状にし、自分の体を覆っているのだ。
少女の名を、ルーミアという。森に住む妖怪で妖精ともそれなりに仲がいい。
主な食料は人間。幼い少女のように見えるけど、彼女は人食いの妖怪なのだ。
しかし……人食いの妖怪にしては、あまりにも無節操に能力を使っているような気がしないでもない。
「……白昼堂々暗闇なんて使うからですよ」
「あなたは食べてもいい?」
「私は妖怪ですよ」
「そーなのかー」
ぐぎゅるるるるるる、という盛大な音が鳴ったのを、私は確かに聞いていた。
人食いのくせに人を捕まえるのが下手で、さらに付け加えるなら白昼堂々能力を使ってしまうようなお馬鹿さんだが……ルーミアは、妖怪だ。
「でも………………」
暗闇越しで見えないが、気配だけはきっちりと伝わってきていた。
渇きと飢え。すなわち……飢餓。
あらゆる生き物が攻撃的になる、とても危険な状態。
「お腹空いたーーーーーーっ!!」
ルーミアは、切羽詰った叫び声を上げながら私に襲い掛かってきた。
姿は見えずとも、意まで隠せるわけじゃない。
意を隠せても気配までは隠せない。
能力を使わなければ気配を読むことはできないが、それでも意を……殺意や害意といったものを見抜く程度だったら、能力を使わなくても十分に可能だ。
ルーミアが飢餓状態なのは近づけばすぐに分かったので、私は彼女に襲われる前には、既に攻撃を開始していた。
「あう?」
ルーミアの死角から上空に投げ上げたクナイが、暗闇を通過して地面に突き刺さる。
これは、当たろうが当たるまいがどっちでもいい。
ルーミアが気を逸らしてくれれば、それで良かった。
闇が爆ぜ、少女はようやく姿を現した。
小柄な体躯。大きな瞳。可愛らしい顔立ちは以前見た通り。
しかし……なぜだろう。その可愛らしさとは裏腹に、今のルーミアからは底知れないなにかを感じ取れた。
彼女らしかぬ不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。
「クナイが偶然リボンに掠るとは……なんとも運のない小娘だの。まぁ、これもまた一興。精々、封印が復活するまでは遊ばせてもらおうか」
「……ルーミア?」
「なんでもないのだー」
にっこりと、いつも通りにルーミアは笑う。
底知れないものを隠さぬまま、あるいは隠せぬまま……笑っていた。
やばい。
なんかとてもやばい。あからさまな地雷を踏んだ気がする!
あらゆる意味で!
「じゃ、いくよー……精々、足掻くといい」
ルーミアは笑った顔を張り付かせたまま、私に向かって手を向けた。
手の平に真っ黒いものが収束していく。
あの動作はどこかで見たことがある。そう、あえて言うならあの泥棒の……。
そう思った時には、全力で横に飛んでいた。
『蝕符・トータルエクリブス』
放たれたのは黒い閃光。閃光と闇は相反するものだけどそうとしか形容できない。
放たれた暗黒が木々をなぎ倒し、無残な傷跡を刻んだ。
出力としては白黒の魔砲とどっこいだけど、白黒の魔法が触れれば焦げる程度の威力なのに対し、こちらは触れれただけで腐食しそうなイメージがある。
もちろん威力を高めて、森ごと私を吹き飛ばすこともできるだろう。それをやらなかったのは至って簡単。
彼女は、全力を出せないか、あるいは手を抜いている。
舐められたもんだ。
「さて……と」
木の影に隠れながら、一本のクナイを握りこむ。
咲夜さんのナイフさばきは既に芸術の域に到達している。必殺必中に加え、能力を利用した多方向からの弾幕投擲。アレをやられると本当に手が出せない。
私には咲夜さんの真似はできない。必殺必中とはいかないし数多くは投げられない。
だからこそ、一撃に賭ける。
限界まで体を捻る。爪先から指先にいたる間接の速度を、クナイに乗せるために。
心を研ぎ澄ます。前を見据える。心を平静に保つ。
ナイフにしろクナイにしろ、投擲術には絶対的な冷静さが求められる。
敵を見ると熱くなる私にはそもそも向いていない。
それでも……やらねばならないことがある。
「ふっ!」
クナイが放たれる。最高速度で最高威力。今の私が思い描ける最高の投擲。
重心の重いクナイは独特の軌道を描き……ルーミアの隣の木に命中した。
「…………なっ!?」
クナイは木の幹を穿ち、破壊し、周囲に木屑をばら撒いた。
それで十分。元々当てるつもりなんてない。
ただ、近づく隙を作れれば、それで十分だった。
さて、それじゃあ……投擲のアレンジも済んだ所で修行の総ざらいといきましょう。
「ちぇりゃあああああああああああああああああああああああああ!」
一瞬で間合いを詰めて、ルーミアの頭に回し蹴りを叩き込む。
「連・環・撃!」
ぐらりと揺れたルーミアの体に、左右二発。腹に拳打を放つ。
鳩尾に肘を叩き込み、それと同時にルーミアの体を蹴り上げた。
「シマリス脚!」
浮き上がった彼女を追いかけるように地面を蹴り、上から叩きつけるような回転蹴りがルーミアを捉える。
わりと生々しい音を立ててルーミアの体は地面に叩きつけられた。
もちろん、勝ったとは思わない。さっきのアレもあるが、今のルーミアはいつものルーミアとはなにもかもが違う。
案の定、体を起こしたルーミアはケロっとしていた。
「……やれやれ、やはりあの程度では一撃が限界か。もう少し楽しみたかったがなぁ」
なにやら訳の分からないことを呟くと、彼女は再び真っ黒い球を纏った。
「ぅわーつよいー」
そして、ふよふよと浮いて森の奥に逃げていった。
ルーミアが逃げたことに安堵すると同時に、罪悪感が込み上げてきた。
腹ぺこの子を足蹴にして、全力で追い返した気分だ。
「んー……まだ猪の肉が余ってるから、ぼたん鍋でもご馳走してやればよかったかな」
「ごはん!?」
ご飯の文字に反応したのか、ルーミアはものすごい速さで戻って来た。
「ごはんをくれるのー? 猪ならルーミアも食べるー!」
「………………」
現金な妖怪だと思わなくもないけど、お腹が空くってのはそれだけ辛いことだ。
私は溜息を吐いて、ルーミアの頭をポンと撫でた。
「じゃ、一緒にぼたん鍋でも食べましょうか?」
「やったー」
余程お腹が空いていたのか、ルーミアはくるくると回ってはしゃいでいた。
私はルーミアの頭を撫でながら、前にもこんなことがあったことを思い出していた。
「美鈴、今日は大事なことを教える」
私がほんのちょっと強くなった頃、師匠は言った。
「君は、確かに強くなった」
認められるのは嬉しかった。
ただ……師匠は真っ直ぐに、いつも通りに生真面目に、私の目を見据える。
「だが強さとは相手を倒すことだけじゃない。自分の身を、そして大切な人を守ることも強さの内だ」
「………………」
それは分かっていた。
いや、正確には半分くらいは分かっていなかったのかもしれない。
正直に言えば……私は、強くなったところで結局自分に自信を持つことはできなかったし、今でも自分自身だけは、本当に呆れ返るほど弱いと思っている。
でも……そんな私でもほんの少しでも強くなれたのなら、それは師匠のおかげだ。
師匠を守れるのなら、どんなことになっても構わない。
そんな風に、思っていた。
「あと、コレだけは絶対に言っておかなくちゃならない」
私の思いを知ってかしらずか、師匠は……私に言い放った。
「いついかなる時も、憎しみで戦ってはいけない。……絶対に」
憎しみ。それは、私にとって身近なものだった。
たくさん憎んだ。いっぱい恨んだ。師匠と出会っても、それは変わらない。
私は弱い妖怪だったから恨んで妬んで憎んだ。世界を憎み、誰かを憎み、私自身を憎み続けた。今だって……きっとそうだろう。
そう思っていたけれど、私はなにも言えなかった。
「師匠、顔強張ってますよ。……以前になにかあったんですか?」
「いや……なにも」
師匠が心の奥でなにを思っていたのかを知る術は、もうない。
師匠がなにを見てきたのか、私には分からない。……師匠は、そのことを最後まで語ることは無かった。
でも――それでいいんだと思っている。
私が師匠から受け継いだのは、力でもなく、技でもなく、その心なのだから。
「そんな顔しちゃ駄目ですよ、師匠」
だから、私は笑った。
いつもの師匠のように、にっこりと笑いながら言った。
「師匠がなにを思っているのか、なにを経験したのか、私には分かりません。……それでも、ただ一つだけ確かなことは、私は絶対に自分と大切な誰か以外のために、この拳を振るうことはないってことです」
「…………美鈴」
「競い合う戦いは好きですけど、本音を言えば殺し合いは大嫌いです。……それでも、いざとなったら私は躊躇なく拳を振るいます。私の大切な誰かを傷つける奴はどんな理由があろうとも私の敵です。全身全霊を持って打ち倒します」
この拳を、誰かを守るために。
師匠に弟子入りする時に、私自身がそう決めた。
生き方は格好悪く、なにもかもが不細工で、完璧や無敵や瀟洒なんて言葉とは縁がない私が、最後の最後で意地を張るために決めた不文律。
私のような小娘の命が、誰かの役に立つんだったら。
それはきっと――誇れることだと思ったから。
師匠は少し驚いたような表情を浮かべて……それから、ぽん、と私の頭を撫でた。
「……師匠?」
「ごめん、美鈴。そうだったね……君は、人を憎んだりできる子じゃなかったね」
「む、それは勘違いですよ? 昨日、師匠が私のももまんを食べてしまったことはきっちりと憎んでいます!」
「ははは、それじゃあ今日は美鈴の肉まんを一つ多くしようか」
「わーい! やったー!」
師匠は笑いながら、私の頭を撫でていた。
その手が少し震えていたような気がしたけど、あえて見なかったことにした。
その日は、ほんの少しだけ騒がしかった。
ルーミアは私の作ったぼたん鍋を美味しそうに食べ、私もほんの少しだけ食べた。
猪一頭を食べ尽くしたルーミアは、今度はゆっくりを食べようとしたけれど、それはなんとか止めた。
いやまぁ、断末魔とかうるさそうだし。
ルーミアからは『非常食』と称したリンゴをもらった。
リンゴがなぜ非常食なのかというと、肉と比べると食べた気がしないかららしい。
これがなかなか甘酸っぱくて美味しかった。今度咲夜さんに頼んでパイにしてもらったらさぞかし美味しいものに生まれ変わるだろう。
ゆっくりはルーミアからもらった激苦い木の実をかじって、悶絶していた。
ルーミアはどうやらゆっくりが嫌いらしかった。
大騒ぎの食事が終わって、ルーミアは自分のねぐらに戻っていった。
後片付けを済ませて、私もさっさと眠ることにした。
ゆっくりだけは『れいむにもりんごさんたべさせてね!』とうるさかったので、適当に地面に叩きつけ、気絶させて黙らせた。
静かになって……私はようやく眠りについた。
夢を、見た。
吸血鬼が、師匠を殺す夢。
今日の親子みたいに、師匠は私を守ろうとして殺された。
私は逃げた。師匠と一緒に立ち向かうこともせず、怖くて逃げた。
私は、私の弱さに負けた。師匠と一緒に立ち向かうべきだったのに、逃げた。
その結果が、目の前の亡骸だった。
師匠は血を流して倒れていた。
血はもう流れつくしていて、師匠はもう動かない。
師匠は、死んでしまった。
私が殺してしまった。
私が傷を負わなければ、師匠は負けなかった。
私の傷の治療のために気功を使わなければ、師匠は負けなかった。
師匠を殺したのは……私。
自分の決めた約束すら守れない……弱い私だった。
「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
雨が降りしきる中、私は叫び続けていた。
なにが大切な人を守るだ。なにが心を受け継ぐだ。
私は、その大切な誰かを見捨てて逃げたじゃないか!
師匠に救ってもらった命を返せもせず、生き恥を晒しているじゃないか!
今までも自分を憎んだことはあったけど、今日ほど自分を憎んだことはなかった。
……死ねばいいのに。
私なんて……死ねばいいのに。
弱い私なんて、師匠を守れない私なんて、死んでしまえばいいのに!
でも、私が死んだら師匠がやったことが無駄になる。
死にたい。もう嫌だ。私はもう生きていたくない。死んでしまいたい。
死ねないのに……死にたいのに。
だれか、おねがいです。いっしょうのおねがいです。
かみさまでもほとけさまでもしにがみさまでもえんまさまでも、だれでもいいです。
おねがいします。おねがいします。おねがいします。
わたしを……ころしてください。
朝日に照らされて、私はゆっくりと目を開けた。
気分は爽快。体は快調。憂鬱な気分はどこかに吹き飛んでいた。
「……ああ、そっか」
なんとなく、納得する。
死にたかった私が生きる意味。私が願ったこと。
私がここにいる理由が、判った気がした。
もちろん、そんな悟りに意味はない。いつだって生きている限り、なにかを見つけ、なにかを見失い、なにかを探し続けることを続けなきゃならない。
生きている限り、無限に回り道を歩まなければならない。
それでも――歩いた道に、意味はあるのだ。
私は弱い妖怪だ。いつだって誰かを羨み、憎み、自分だけが苦しんでいると思い込んでいる。
けど、そんな私にも大切な人はいる。
裏切られたって構わない。元々、損得なんて考えちゃいない。
私は――私の心の命ずるまま、彼女たちを守ると決めた。
「さて……それじゃあ、挑んできますか」
そのために、今まで守ってきた門を破ろう。
守護者としてではなく、侵入者として、あの門を真っ直ぐに突き破る。
なんなら……レミリアお嬢様に挑んだっていいかもしれない。
自分が一番強くて調子こいてて、甘えたさんのくせにカリスマぶっているあの子に、たまには拳の一つでもくれてやってもいいかもしれない。
挑むからにはとことんまで。ラスボスまで挑んでみるのがセオリーってもんだ。
お嬢様対策を考えながら軽い足取りで歩き出す。
心のままに、望むままに、真っ直ぐに、歩き出した。
その先に、師匠の仇が待ち受けているのも知らずに。
私は紅魔館に向かってゆっくりと……歩き続けていた。
弱く、醜く、偽物で、みっともない。
かつて、吸血鬼はそれを忌避した。彼女にとって強く美しいものだけが価値のあるものだった。
しかし――そんな彼女を助けたのは、弱く、醜く、偽物で、みっともなく、死を望みながらも足掻いて生き続ける一匹の龍だった。
「覚えておきなさい、お嬢ちゃん。私の名前は――」
次回、門番編最終話:紅魔館門番 紅美鈴
これは、真っ赤に生きる女の物語。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。