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はい、そういうわけで長かった蓬莱編もこれにて完結!
本家だとタイトルのイラスト募集とか色々やってて非常に盛り上がっておりますが、自分はイラストの類は本当に描けません!
イラストとか描けたら『このクソ豚が!』みたいなツッコミが踊る萌え四コマとか描いてみたかったんですが、絵が描けないので仕方ないです。
そもそも、小説もかれこれ■■年描いてますが、未だにこの程度という。
……まぁ、ちょっと心に罅が入っちゃうような自虐はここまでにして。

蓬莱編最終話、始まり始まり♪
オリジナル展開の蛇足が多少入っていますが、気にしない気にしない♪
蓬莱編最終話:案内屋 藤原妹紅
 思い通りにいきません。
 やりたいことはできません。
 呼吸をするのが苦しいです。
 自分が嫌でたまらない。
 誰かは綺麗で妬ましい。
 生きているのはとても辛い。


 それでも、独りは寂しいから――。


 昔、大切にしていた人形を燃やされたことがある。
 それは、子供だった私にとっては宝物で、大人にとってはどこにでもある他愛もないゴミのようなものだっただろう。
 燃やされたとしても、私の人生にはなんの影響もない。
 楽しく遊んだ思い出くらいしかないその人形を、私は大切にしていた。
 大切にしていたのに燃やされた。ゴミのようなものだったから、燃やされた。
「…………っ……げほっ」
 不意に、そんなことを思い出す。
 寺小屋にはもう誰もいない。全員、霖之助の店の地下に避難したはずだ。
 それでも、敵はこちらを狙ってやって来る。誰かが犠牲になって飛び立ったロボットに大半の戦力は割いているだろうけど、だからといって敵の弱みになるかもしれない場所を放っておくはずがない。
「……くすっ……うふふふふふ」
 自分のものとは思えない笑みを浮かべながら、ゆっくりと息を吐く。
 パチュリーちゃんからもらった銃のエネルギーはとっくに使い果たした。充電するまでは使えそうにない。
 手斧や鉈といった武器はうっかり屋台に置いてきた。
 頼りになるのは自分の身一つと、金属バットと敵から奪った武器くらいだ。
 訓練以外で銃器を扱ったことなどない。いや……実戦は今まさに経験中なのだが、それはそれとして、平和な時代に生を受けた私に戦闘の経験などない。
 そもそも、平和な時代で銃を扱った経験があること自体がおかしいのだけど、それはエゴの押し付けの賜物というやつだ。
 いつの時代も、疑心暗鬼と猜疑心に取り込まれ、周囲の全てを憎み恨み妬み嫉み……絶望した人間がいることなんて、珍しくもない。
 それでも、その経験が今まさに役に立っていることは皮肉以外の何物でもない。
「……あっはっは……」
 本当の所は、私のやっていることに意味などない。
 既に子供たちは避難済み。この寺小屋には誰もいない。
 そう……肝心なものは守れている。ここを守ることに意味なんて無い。
 これはただの自己満足。『帰って来た時に家が壊れていたら、子供たちが悲しむだろうなぁ』なんてうっかり思ってしまった。……たった、それだけのことだ。
「あはははは……あはははははははははは!」
 分かっている。
 滑稽な……あるいは、無様なことをやっていることくらい、分かっている。
 私が死ねば誰が破滅し、誰が悲しむのかも分かっている。……分かっていながら、私は意味のないことをやろうとしている。
 自分を嘲笑いながら、守ろうとしている。

 それをしなければ『俺』になれない。

 だから、これは全部俺の都合だ。
 あらゆる全部が嘘っぱちだけど、自分自身すらでたらめだけど、嘘に嘘を塗り固め、虚構と疑心を貫いて、それでも……俺は決めたのだ。
 鬼でも悪魔でも、生きてちゃいけない存在だとしても、この生を生き抜くと決めた。
 生き物としては最弱の彼女たちが、殺し合いながら生きているように。
 嘘を吐きながらだけど、自分の心に嘘を吐くのはやめた。
「はっはっは……あー……後で絶対にゆいさんに怒られるな、これ」
 散々笑いながら前を向く。後悔は腐るほどあるけど……気分はそれほど悪くない。
 奪い取った煙玉を敵陣に放り込みながら、口元を緩める。
「ったく、こんなことになるんだったら最初から博麗さんに頼んでおけばよかった。大事になりそうな気配がした時点で知らせておくべきだったかな」
 ここに至れば、この事件はもう『異変』でいいと思う。
 誰かが犠牲になり、ロボットは飛び立ち、物語は終局に向かいつつある。
 色々と立ち回り、暗躍して、博麗さんの出番をことごとく潰したのは俺なので、なにも言っちゃいけないんだろうとは思うけども。
「ま……いいか。一番重要なガキ共は守れてるわけだし、適当に抵抗して無理そうだったら逃げ……て……?」
 寺小屋の塀越しに敵陣を覗き込むと、奴らはなにやら物々しいものを用意していた。
 ネオアームス■ロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーな、ヲイ。
「……いや……ないから」
 なんで単騎の敵に対して兵器を使うの? 馬鹿なの? 死ぬの?
 催涙弾とか手榴弾とか閃光弾とか煙幕とか、そのあたりを使おうとは思わないの?
 ああ……もう面倒になったから、敵ごと建物をぶっ壊そうとかそういう理屈?
「ここまでかな……やれやれ」
 元々、期待はしていなかった。
 相手には見境がない。境界がない。だから、禁忌にも平気で足を踏み入れる。
 どんなものにも踏み入れてはいけない場所があるのに、この事件を起こした奴はそんなものを意にも介さず、踏み込んだ。
「生きてちゃいけねぇよな……やっぱり」
 目を閉じる。歯車をずらす。人肌脱いで覚悟を決める。
 血が灼熱のように熱い。心は高揚する。ゆっくりと腰を上げて、息を吸う。
 手持ちの武器を確認。戦いながらほとんど使っちゃったので、納屋から持ってきた鉈と敵から奪った小銃くらいしかないが、指揮官を討ち取るくらいなら……ぎりぎり、無理かもしれないけど、できるかもしれない。
 もっとも、どんな結果になろうとも、私は死ぬだろうけど。
「さて……いきますか」
 あっさりと覚悟を決めて、全てを運に任せて、私は飛び出した。
 一斉にこちらに銃口が向く。足を止めてはいけない。足を撃たれてもいけない。
 次に来る衝撃に備えて目を閉じながら、私は走り続けた。

 衝撃は来なかった。

 銃声は響かない。ゆっくりと目を開けると、銃をこちらに向けていた連中全員が吹っ飛んで宙を舞っていた。
 そいつらの足元には、いつの間にか奇妙な陣が敷かれている。
 夢符・封魔陣。
 その全方位攻撃型のスペルカードの名前を覚えていたのは、偶然ではない。

「霖之助さんの所にお茶を飲みに来たらこの騒ぎ。……私の勘も鈍ったもんね」

 背筋に走る寒気に、打ち立ててきた覚悟が全部へし折れる。
 恐る恐る振り向くと、そこには見覚えのある巫女が口元を引きつらせて立っていた。
「さて、おでん屋さん。いくつか質問があるんだけど、いいかしら?」
「いや……その……ほら、今ってそういう事態じゃないし、敵も残ってるし」
「ふぅん?」
 ズン!
 とても大きな、陰陽玉が、砲台もろとも敵をなぎ倒した。
 博麗さんは振り向きもせずに、あっさりと敵を壊滅させてしまった。
「はい、これで問題はないでしょう?」
「いやいやいや! 待て! 今の確実に何人か殺してないか!?」
「加減してるから大丈夫よ。……で、これは一体どういうこと? なにがあってなにが起こって、なんでおでん屋さんがここにいるのか説明してもらえる?」
「ちょ……いや、説明はいいけどなんで胸倉掴み上げんの?」
「実は、この前もらったお茶とお酒を切らしちゃって。……まだ持ってるでしょ?」
「脅迫とかせんでも普通にやるわい!」
「あと、こうでもしないと、口八丁手八丁でのらりくらりと逃げられる」
「……いや、博麗さん相手に逃げるとかそんな無茶な……」
「って、紫が」
「………………」
 紫色の淑女が悪意たっぷりの笑顔で手を振っているのが見えたような気がしたが、多分それは俺の気のせいだろう。
 あんにゃろ……余計なことしやがって。今後色々やりにくくて仕方ないだろうが!
 まぁ、対処されたら他の所で出し抜くだけだけども……それはともかく。
「分かった。ちゃんと説明もするし逃げもしない」
「なんか、妙に素直ね?」
「いや……とりあえず、あちらの方々をなんとかして欲しいんでな」
「へ?」
 博麗さんが振り向くと、そこには小銃を構えた方々と、三両の戦車がずらりと整列していた。
 まぁ……第二陣というか、こちらが本隊というか、ロボットに向かって欲しい部隊が若干こちらに来てしまったでござるの巻というか。
「博麗さんが派手に暴れたせいだとは、口が裂けても言えないな」
「言っちゃってるから裂いてもいいのかしら?」
「怖えよ! で……どーすんだ? 博麗さんの手に余るとは言わんが、あいつらをちゃっちゃと片付けないと説明もままならないぞ」
「んー……まぁ、すぐに終わるんじゃない?」
「はィ?」
 と、俺が少しばかり呆気に取られていた、その時。

 ドゴン! という凄まじい轟音が響いた。

 人型のモノを地面に叩きつけた音、と言えば分かりやすいだろうか。
 分かりやすく、兵隊の一人が地面にめり込んでいた。
 全身を包み込むようなパワード・スーツを身につけていなければ即死確実。恐らく生きてはいるだろうが……正直、確信は持てない。
 ただ、兵士の生き死になど正直どうでも良く……はっきり言えば、その時の俺はちょっとおしっこちびりそうなくらいにびびっていた。

「知っているか、お前ら。教師にとって、教壇とは聖地であり、戦場だ」

 上白沢慧音。寺小屋の教師で、子供たちの人気者。授業の教え方はおせじにも上手くはないけど、一生懸命で常に子供たちのことを考えている、とても素晴らしい先生。
 二本の角が彼女の頭から生えているような気がしたけど、もちろんそれはきゅんちゃんから聞いた満月時のそれではない。単純に……人には踏み込んじゃいけない境界があるというだけの話で……つまり、慧音先生は滅茶苦茶怒っているのだった。
「さて……それじゃあ、八つ当たり気味で悪いが、全員歯を食いしばれ。子供たちが受けた痛みを、私が体に思い知らせてやろう」
 ゴキリと拳を鳴らしながら、慧音先生はにっこりと笑った。
 もちろん、目はまるで笑っていなかった。


 戦車がひっくり返ったり、逃げ惑う兵士が宙を舞ったり。
 そんな悪夢のような光景を見つめながら、ぼんやりとした頭で煙草に火を点ける。
 まぁ……今回はラッキーだったってことでいいんだろうか?
 俺の人生に幸運なんて言葉があるとは思ってなかったけど。
「さて、それじゃあ説明してもらうわよ。なにがどうなってこうなったの? 前みたいにはぐらかしたり、逃げたりしたらまたぶん殴るからね」
「分かってる。……でも、その前に虫のいいことを頼んでいいか?」
「なに?」
「今からある所に飛んで欲しい。……で、その場所でもしもなにかが起こったら、なにも言わずに俺をその場で下ろして、寺小屋まで引き返してくれないか?」
「なにそれ? どういうこと?」
「それも含めて今から説明する」
 博麗さんは嫌とは言わなかった。
 彼女の厚意にすがることになっちまうのはちょっと嫌だったが、この際背に腹は変えられない。
 もしも。たら。れば。
 言い出したらきりがないIFの話。
 この戦いがどんな結末を迎えるかは分からない。
 しかし……俺と同類のやりそうなことは見当がついてしまう。
 だから――念のため、どう転んでも守りたかったものだけは、守れるように。
 俺と同じ誰かを、破滅させることにした。


 見た目の間抜けさとは裏腹に、パチュリーロボはとんでもない性能を持っていた。
 かなりの数の戦車に囲まれたにも関わらず、その全てをあっさりと撃破。
 もしも、このロボットが動いていなかったら私たちは負けていただろう。
「……すげぇ」
「内側に収束する指向性を持たせたフレア塊を相手の周囲三メートルほどに展開させることによって通常のフレアの約十倍の威力を持たせることに成功しているの。他にも、魔法障壁を展開する必要がなくなったことから余分な魔力の削減できる。さらにエキゾチックフラタニティを共有することでさらなる……」
「次が来るわよ!」
「…………むぅ」
 説明を遮られてか、少しばかり不機嫌になったパチュリーはそれでも前を向く。
 モニターに映し出された敵は、とんでもなく巨大な目玉の化物だった。
「な……なんだありゃ!」
「イビルアイ、と呼ばれる空想上の化物よ。邪眼や魔眼と呼ばれる、魔法でも到達するのが困難な特殊能力を持つのが特徴。大抵の場合は強敵として扱われるわね」
「……空想上って……じゃあ、ここにいるのは?」
「恐らくは、科学技術によってイビルアイを再現したものでしょう。パチュリーロボの装甲には魔法を防ぐ刻印を刻みこんであるから魔眼による特殊能力はある程度遮断できるけど、あの大きさになるとそれだけで脅威よ。……恐らく、起動までの時間稼ぎをするつもりでしょうね」
「どうするんだ?」
「正面突破に決まってるわ。……小悪魔、バーニアユニット展開!」
『了解! バーニアユニット展開! 出力80%です!』
「スピン・ニードル!」
 パチュリーの掛け声と共に、ロボの左腕であるドリルが回転。背中に取りつけられたブースターの加速力と共に、イビルアイに叩きつけられた。
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
 嫌な叫び声と共に、ドリルがイビルアイを射抜く。
 が、それと同時にイビルアイの触手がロボに絡みついた。
『パチュリー様! 敵の触手より腐食液が装甲に浸透しています! ……胴体部の魔法刻印が剥離!』
「魔力回路を一番だけ起動! ロイヤルフレアを使って触手を焼き切る!」
『了解!』
 爆音が響き、自分自身すら巻き込んだフレアがイビルアイの触手を焼く。
 イビルアイがロボから離れたのを確認してから、パチュリーは舌打ちした。
「やってくれるじゃない。……小悪魔、バーニアユニットを全開に。あれを使うわ!」
『了解、バーニアユニット全開! 急浮上します!』
 アナウンスの言葉と共に、体が一気に重くなる。
 ロボが上空高く飛び上がったと気づいたのは、モニター越しに綺麗な青空が見えてからだった。
『誤差修正……照準セット!』
「バベルノン・キック!」
 急上昇から急降下。胃の中身をぶちまけたくなるような重みが全身を圧迫する。
 その間にもモニター越しの景色は青空から妖怪の山、最近発展した人里へと移り変わり、最後には目玉のお化けにロボの右足が突き刺さる所で止まった。
『イビルアイの内部より熱源を探知!』
「ちっ……自爆とはね。遮断結界を展開! 周囲への被害を最小限に!」
『了解! 一番から五番までの魔力炉を展開! 空間隔離開始!』
 ロボが瀕死のイビルアイにドリルと打ち込むと同時に、傷口から光り輝く刻印が広がりイビルアイを覆い尽くす。
 そして……次の瞬間、イビルアイの体が大爆発を起こした。
 ……ように、見えた。
 イビルアイの体は確かに爆発した。しかし、まるでテレビの向こう側のように、こちら側にはなんの影響もなかった。
 唖然としていた輝夜が、私より先に口を開く。
「パチュリーさん、今のって……」
「詳細は省くけど結界術の一種であいつを隔離したの。パチュリーロボならあの爆発は耐えられるけど、人里に飛び火しかねない規模だったからね。……本当は奥の手として隠しておきたかったけど、背に腹は変えられないわね」
 手段は選ばず、道義や道徳も無視して、こちらの戦力を削ぐことに力を費やす。
 自分以外に守るものがないぶん、外道ってのはこういう時には有利だ。
「小悪魔、レーダーに反応は? 他に敵はいる?」
「きょ……巨大な物体の接近を確認! パチュリーロボとほぼ同じ反応です!」
「もう動き出したってことか……流石に早いわね」
「敵ロボット……形式名ヤゴコロダイオー、こちらに向かって突進してきます!」
「迎撃準備!」
 画面に映し出されたロボットは……なんというか、ちゃんと完成しているせいか地下で見たものより間抜けに見えたが、こちらも同じようなものなのでなにも言えない。
 ……はずなのだが。
「ふん……芸術性の欠片もない禍々しいデザインね。ぶっ壊してやるわ!」
『こちらも似たようなものですよ、パチュリー様』
「通信でいちいちツッコミを入れなくてもいいわよ、小悪魔!」
『ヤゴコロダイオーが攻撃を開始します!』
「迎撃準備!」
 振り下ろされるネギ……によく似た鉄の棒を、ロボットアームで迎え撃つ。
 轟音が響き、なんとか直撃は避けたが、押し合いになるとこちらが力負けしているのは素人目にも分かった。
「な、なんかあっちの方が強くないか?」
「当たり前でしょ。……あっちにはYdmtⅣとは比べ物にならないくらいの液化生物がぎっしり詰め込まれてるでしょうからね」
「っ!?」
 エネルギー量が違うのだから、出せる馬力も当然違う。
 こちらが少しのエネルギーでぎりぎり動かしているのに対し、あちらはエネルギー満タンで絶好調に動かしてくるのだ。
「小悪魔、出力を75%まで上げて! 速攻で畳みかけるわ!」
「了解! 出力上げ! 攻撃準備完了!」
「行くわよ……スピンニードル!」
 左腕のドリルが敵ロボット……ヤゴコロダイオーの装甲を穿つ。
 が、凹んでいるのはほんの少し。火花は派手に出ているが、ダメージを与えられた様子はまるでない。
「ね……ねぇ、全然効いてないみたいなんだけど」
「分かってるわ。……小悪魔、バベルノンキックよ!」
『了解!』
 イビルアイの時と同じく、パチュリーロボの巨体が宙を舞い、ヤゴコロダイオーに必殺のキックを叩きこむ。
 凄まじい質量がぶつかり合う轟音が響いた。
 しかし……それほどの衝撃がありながら、ヤゴコロダイオーへのダメージはない。
 あるとしても、先ほどよりもほんの少しだけ装甲が凹んだくらいだろう。
『ヤゴコロダイオーより高エネルギー反応!』
「回避よ!」
『駄目です! バベルノンキックの反動で回避行動が取れません!』
「ロイヤルフレアを撒き散らして相手の照準を逸らして!」
「了解!」
 戦車を薙ぎ払った時とは比べ物にならないフレアを周囲に撒き散らす。
 爆発と粉塵が吹き荒れ、ヤゴコロダイオーの姿を見失う。
 と、それとほぼ同時だった。

 ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!

 コックピットに立っていられないほどの振動が走り、続いて一瞬だけ画面がブラックアウトする。
 画面はすぐに回復したが、そこにはまるで無傷のヤゴコロダイオーが映っていた。
「小悪魔、損傷は!?」
「胸部装甲が大破! また、今のショックで食器とティーカップの類は全損! 他の損傷は軽微ですが、次に今のと同じ攻撃を食らったら終わりです!」
「ったく……物量と金にものをいわせて無茶苦茶な装甲しやがるじゃない!」
「このままじゃまずいんじゃないか!?」
「まずいどころじゃないわね。こっちはエネルギーが不足してる上に武装の30%は使用できない。あっちは持久戦に持ち込めばそれだけで勝てる」
「じゃあどうするんだよ?」
「全開で戦わないとあいつの装甲を破るのは難しいけど、今のエネルギー量だと3分でエネルギー切れになるわ」
「……打つ手なしってことか」
 3分であのロボットを倒す手段があればなんとかなるだろうが、それは不可能だ。
 恐らく、私の能力も輝夜の能力も対策がしてあるだろう。
 私とパチュリーが絶望に沈みそうになる中、輝夜が控え目に手を上げた。
「ちょっといい?」
「なにかいい案でもあるの?」
「こういう時のお約束なんだけど……外が駄目なら中から攻められない?」
 中。つまり、あのロボットの内部。
 一寸法師やらアニメやら、そのあたりのお約束。
「なるほど、中から攻めればロボット対決に付き合う必要もないってわけだ」
「やー……私としてはどっちかっていうとロボット対決を見たいんだけどね」
「勝てないんだから仕方ねーだろ」
「そうなのよね」
「あなたたち、後で絞め上げてやるから覚悟なさい。……勝てないのはロボのせいじゃなくてエネルギー不足だからよ」
 言い訳がましいことを言いながらも、現状の不利は悟っているのか、パチュリーは深く溜息を吐きながらも、にやりと楽しそうに笑った。
「分かったわ。あなたたち二人で脱出用ポッドに乗って。あいつの内部に入れそうな所に打ち込むわ。通信ユニットを渡しておくから、連絡はそれでお願い」
「おう、分かった!」
『それと、脱出ポッドには爆弾を積み込んでおきました! 素手での破壊は難しいでしょうから、アイツの中に入ったらサクッと爆発させちゃってください!』
「小悪魔? いつ私がそんなことを命じたのかしら?」
『お約束の上塗りになっちゃいますけど、誰かが特攻をかけるんじゃないかと思って、あらかじめ積んでおきました♪』
「……まぁ、今回は結果オーライだから許してあげる。……そういうわけだから、二人とも脱出ポッドに乗り込んでちょうだい」
「分かった! 行くぞ、輝夜!」
「ええ!」
 コックピットのハッチを開けて、私たちは脱出ポッドに向かう。
 戦いはクライマックスを迎えようとしていた。


 おおきなおとがした。
 少しずつ消えて行く中で、彼……あるいは、彼女はぼんやりと考える。
 YdmtⅣと呼ばれたボディを失い、生命として曖昧なカタチになってしまったから思考能力は極端に低下している。
 それでも……考えなくても分かることがある。
 自分が命を賭してやり遂げようとしたことがある。
「……ゆ……っくり……」
 声を発する機関がないから、その声は言葉にならない。
 誰が聞いていたわけでもない。誰に届いたわけでもない。
「……して……いって……ね……!」
 それでも、その声を聞き届けるかのように。
 今は彼女自身である鋼の巨体は、鳴動を始めた。


 結論としては、入れそうな場所はなかった。
 まぁ、これは予想できたことで、そもそも敵に侵入されるような装甲の柔らかい部分があるのなら、そこを重点的に叩くだけでこの戦いは終わるのだ。
『パチュリー様。このままだとジリ貧ですよ!』
「分かってるわよ。……さて、どうしたものかしらね」
 ロボを全開で動かしても、あいつに穴を開けることはできそうにない。
 いや……もしかしたらできるかもしれないが、かなり難儀なことになる。
 先ほどのスピンニードル、そしてバベルノンキックは、決してノーダメージというわけじゃない。多少なりともダメージは与えられている。
 ならば、全ての攻撃を一点に集中させれば、穴を開けられるかもしれない。
「でも、リスクが高過ぎる。一発でも外せばそれで終わり……」
 エネルギーさえあれば、もっと有効な手が打てたかもしれないのに。
 色々なことにこだわり過ぎて後手後手になってしまったことを悔やみながら、なんとか相手の攻撃を受け止める。
 機体が揺れ、ロボの関節が悲鳴を上げた……その時だった。

 して……いって……ね!

 そんな、聞き覚えのある誰かの言葉が、不意に聞こえたような気がした。
「……え?」
 思わず顔を上げる。
 もちろん、コックピットには私以外に誰もいない。
 いや……そもそも、その声の主はもうこの世にはいないはずで――。
『パチュリー様!』
「どうしたの、小悪魔!?」
『しゅ……出力が平常時の三倍に上がってます!』
「なんですってっ!?」
「エネルギーが枯渇するまで、あと三分! エネルギーの枯渇と共に補助燃料に移行し、以後の戦闘行動は取れなくなります!」
 小悪魔の報告は信じ難いものだったけど、同時に納得もできた。
「そう……それが、あなたの願いなのね」
 どこまでもお人好し。
 どこまでもおばかさん。
 それでも――私はあなたに敬意を表する。
「……小悪魔」
『はい』
「出力を臨界へ。……あいつを叩き潰すわ」
『了解しました』
 小悪魔の返事と共に、機体の鳴動が激しくなる。
『魔力回路フルオープン! ……一万、十万、百万……アルスマグナシリンダー起動! システムALICEを開始! パチュリー様、行けます!』
 バーニアユニットが火を噴き、ドリルが回転を始める。
 操縦桿を握り締め、私は叫んだ。


「それは罪と共に生れし力。帰る場所を守るために生れしモノ」

「これは誰かのために生まれた力。想いに応える鋼の巨人」

「今こそ……あなたの想いをこの身に刻み、無間の絶無を打ち破る!」

「破軍英知 パチュリーロボ!」


 二体の巨人に、大した差はなかっただろう。
 エネルギーはともかくとして、戦略兵器としての思想はどちらも同じで、ヤゴコロダイオーにできることはパチュリーロボにもできる。
 元々……根本の発想は某白衣の守銭奴が作り上げたもので、二体の巨人はその根本を元に、積み上げ作り上げ構成されていっただけに過ぎない。
 狂人の手により、敵を殲滅するために作られた兵器。
 魔法使いの罪悪感により、帰る場所を守るために作られた兵器。
 しかし、それこそが決定的で明確な差だった。

 ドォン!

 力負けしていたはずのパチュリーロボの目に光が宿る。
 あらゆる意味で、たとえエネルギーを満たしたとしても互角以上にはならないはずのパワーバランスが、たったそれだけで崩壊した。
 ヤゴコロダイオーを付き飛ばし、パチュリーロボは弾幕を展開する。
 四方八方から撒き散らされたフレアが、ヤゴコロダイオーの胸を焼いた。
 もちろん、その程度の火力でヤゴコロダイオーの装甲を撃ち抜くことはできない。
 だが……火力がいかに弱かろうが、ヤゴコロダイオーの装甲は金属で構成されている。火力がいかに弱かろうが、衝撃を遮断しようが、金属は熱すれば柔らかくなる。
 破壊しやすくなる。
 それが、彼女の狙いだった。
 フレアの爆発に紛れ、煙幕が立ち上る。
 その間に、パチュリーロボは距離を取っていた。
 バーニアユニットを最高出力に。上空遥か高く、どこまでもどこまでも高く。
 レーダーにもセンサーにも捉えきれぬ距離を上昇し、雲を越えた頃、ようやくそこでパチュリーロボは上昇をやめた。

「バベルノン……キイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィィック!!」

 そして、遥か彼方の高みより急降下する。
 上昇と降下まではほぼ一瞬。自重+キック力+重力加速度、そしてバーニアユニットによるさらなる加速を加えた、古代バビロニアより伝わる超絶技。
 雲を貫き、音の壁を越え、全てを破壊する蹴りがヤゴコロダイオーに突き刺さる。
 ヤゴコロダイオーの装甲部が軋みを上げ、轟音と共に陥没する。
「今よ、小悪魔!」
『了解! 脱出ポッド照準セット!』
 そして、着地したパチュリーロボの胴体部より、白い球体が射出され、ヤゴコロダイオーの大破した部分へと吸い込まれていった。
 それと同時に、パチュリーロボの鳴動も終わる。
『エネルギー枯渇……これより、補助動力による運転に移行します。メイン武装は使用不可能。パワーも通常時の半分以下に低下します』
「分かったわ。……小悪魔、これ以上付き合う必要はないわ。脱出なさい」
『嫌です』
「仕方ないわね。それじゃあ、地獄まで付き合ってもらうわよ!」
『了解!』
 大ダメージを与えたとはいえ、ヤゴコロダイオーは健在。
 対するパチュリーロボはエネルギーの枯渇によるメイン武器の使用不可に加え、今のバベルノンキックの反動により脚部が破損し逃げることもできない。
(……後は頼んだわよ。二人とも)
 それでも、闘志は衰えることなく、決意も揺らぐことなく。
 死した者の想いを胸に、傷だらけの巨人は再度立ち上がった。


 脱出ポッド。
 確か、パチュリーはそう言っていたような気がする。
 もっとも、傷がついていたとはいえ、あの装甲をブチ抜いた上で私たち二人が無傷というのはすごいことかもしれないけども。
 脱出ポッドに積んであった小型爆弾が衝撃で爆発しなかったのも、すごいことかもしれないが。
 乗員が死にそうになる突入方法はなんとかならないもんだろうか?
「輝夜、無事か!?」
「……うえっぷ……な、なんとか!」
 衝撃で吐きそうになりながらも、なんとか私たちは侵入に成功した。
 そこは、ロボットの間抜けなデザインとは裏腹に、光り輝く石が敷き詰められた、なんとも奇妙な空間だった。
「ここがロボットの内部か……」
「目指すべき場所は操縦席と動力炉だけど、一つずつ回ってたら時間がないわね」
「なら、ここは二手に分かれるべきだな」
「そうね。……私が動力炉に行って動力を破壊するから、妹紅は操縦席に行って操縦者を倒してきて!」
「分かった!」
 私の能力と輝夜の能力。爆弾があるとはいえ、動力炉のようなでかいものを壊すのは輝夜の方が向いているだろう。
 どちらにも危険はあるだろうが、それはもう考えなくてもいいだろう。
 私も輝夜も、生半可な覚悟でここまで来ちゃいない。
「妹紅」
「念のために、お守りを渡しておくわ」
「へ?」
 輝夜が投げて寄越したものをキャッチ。
 手を広げてみると、そこには綺麗な宝玉があった。
「蓬莱の玉よ。その宝玉には私の能力が込めてあるから、いざって時に使って」
「……いや、いいよ。輝夜に気を使われるとか、なんか気持ち悪いし」
「気持ち悪いとか言うな! ……ったく、せっかく人が心配してんのに……」
「………………」
 輝夜の能力の使い方とか、よく分からないし。
 それ以前に、この玉……というより、本体である『蓬莱の玉の枝』の方に色々と因縁があったりするわけで。
 蓬莱の玉の枝がなければ……あるいは、輝夜がいなければ。
 私は幻想郷に来ることもなく、普通の人間として生を終えていただろう。
「……やれやれ」
 因縁も因果もつきまとう。……それならそれで構いやしない。
 手の平に収められた玉をポケットにしまって、私は口元を緩めた。
「分かった。輝夜に心配される筋合いはないけど、借りておく」
「ええ、そうして。全部が終わったら返してちょうだい」
「ああ。……じゃ、そろそろ行くか。死ぬなよ、輝夜」
「私たちは死なないけど……ま、いいか。あなたもね、妹紅」
 私は操縦席へ、輝夜は動力炉へ、互いに振り向かずに背を預けて走り出す。
 警戒はほとんどない。敵もいない。呆気ないと言えば、呆気ない。
 ロボット内部に侵入されるとは思っていなかったのか、それほどの警戒もなく操縦席に辿り着いた。
「な、なんだ貴様!」
「必殺:アル・フェニックス!」
「ぐああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
 操縦席にいた連中は最大必殺技でぶちのめし、操縦席の占拠はあっさりと完了した。
 通信ユニットを作動させ、輝夜に向かって叫ぶ。
「輝夜、操縦席は占拠した! そっちはどうだ!」
『分厚い扉に邪魔されて動力炉に入れないわ! 操縦席に動力炉の扉を開けるスイッチがあるはずよ!』
「こいつか!」
 分かりやすい真っ赤なスイッチを押すと、どこかで重々しい音が響いた。
『動力炉の扉に着いたわ。今から爆弾を仕掛けて脱出する!』
「はは、輝夜にしちゃ手際がいいな!」
「こんな時にまでのんびりしてられないでしょ!」
 小型爆弾のスイッチを押す音と、輝夜が私に毒づく声、走り去る音が通信ユニットを通して聞こえてくる。

 それとは違う、重々しい音が響いた。

 まるで、開けた扉が閉まったような、そんな音。
「おい……輝夜、どうした!?」
 緊急事態発生 緊急事態発生。
 動力炉にて原因不明の不具合が発生しており……。
 そんな、ふざけたアナウンスが耳に届く。
「輝夜! なにがあった!? 無事か!?」
『無事……だけど、もうじき無事じゃなくなるわ』
「……かぐ、や?」
『動力炉の扉が閉まったわ。……私が脱出するのは無理みたいね』
 目の前が真っ白になる。
 溜息を吐いて、多分苦笑などを浮かべながら、輝夜は言った。
『妹紅、ここは危険よ。もうじき動力炉は爆発する。行き場を無くしたエネルギーで液体人間が漏れて、あなたも液化生物にされてしまうわ』
「待ってろ、今助けに……」
『来ちゃだめ!』
 それは、きっぱりとした拒絶の言葉だった。
『あなたは早く脱出して。……私なら大丈夫よ』
「ダメだ! 私が……私が、お前を置いて逃げるなんて、そんなことが……できるわけねぇだろうが!」
 力いっぱい叫んで、そこでようやく気付く。
 震える声で、通信ユニットに語りかけた。
「輝夜……お前、最初からこうなることを知っていたんだな!」
 私が操縦席。輝夜が動力炉。……そう言いだしたのは、輝夜だった。
 まるで気にしちゃいなかったし、輝夜の能力と爆弾を併用すれば動力炉なんてあっという間に壊せると思ったからだったが……それが、計算づくのことだったとしたら。
「知ってて、自分が犠牲に……」
「妹紅。私は大丈夫よ。私を信じて! ……じゃ、通信終わり!」
 一方的に、輝夜らしく、あっさりと通信は切れた。
 通信ユニットを握り締める。
 ここに来るまでに、仲間を一人犠牲にした。
 私を助けるために、輝夜は犠牲になった。

「輝夜あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 私は叫んだ。
 叫ぶことしか、できなかった。


 もちろん、私はそれを知っていた。
 でも、妹紅を巻き込むわけにはいかなかった。
 この事件は、そもそも私たちの問題。私が発端で、永琳が仕掛け人。
 関係ない妹紅を巻き込むわけにはいかなかったから。
「妹紅……あなたには、慧音さんを初めとして寺小屋の子供たち、人里に多くの仲間がいる……あなたは、決して独りじゃないの」
 そう、消えるのは役立たずの女一人で十分だから。
 液化生物と化していく中、朦朧とした意識で、私は口元をつり上げる。
「残念ね、こんなことにならなかったら、私があなたをぶん殴ってたのに」
 見上げた先には、ネクロマンサーで狂人の……事件の黒幕が笑いながら立っていた。
「ウシャシャ……半ば液化生物と化しているというのに、減らず口は多いですねぇ」
「……どのみち、あなたの野望もここまでよ。ロボットは壊れたし、妹紅がきっとあなたを倒す。逃げられはしない」
「残念ながら、そうはいきません」
「ぐぅっ!?」
 胸に灼熱感が走ると同時に、私は地面に血反吐をぶちまける。
 なにをされたわけでもないのに……その瞬間、私は『終わった』と感じた。
「……あなた、一体なにを」
「あなたたちの不老不死の仕組みは『停止』です。蓬莱の薬を服用した時点であらゆる干渉から己を停止させる。故に、時間にも影響されず、重傷は勝手に治癒し、永劫に老いることもない。……ならば、そのシステムに介入することができればいい」
「かい……にゅう?」
「そう、蓬莱の薬の特性に介入し、『蓬莱の薬を飲んだ時点』ではなく『液化生物になった時点』で停止させるように上書きするのですよ」
 液化生物のまま時間を止めるということ。
 液化生物の死は……蒸発? あるいは枯渇? いや、どちらでも同じこと。
 行き着いた結論は、吐き気をもよおすほどに邪悪だった。
「……なるほど。人間の発想じゃないわね」
「失礼な。これは至極まっとうで効率的な、実に人間らしい発想ですよ。あなたたちのような化物とは違うのです」
「……なら……そう思っておけば……いいわ」
 意識が崩れる。もう、自分を保っておくことすら難しい。
(……後は頼むわよ、妹紅)
 周囲が曖昧に歪み、意志が溶解し、なにもかもが分からなくなり。
 私は、そこで終わった。


 通信ユニットからはもうなにも聞こえない。
 一方的に電源が切られて……それっきりだった。
「馬鹿野郎……一人で格好付けやがって」
 コンソールに拳を叩きつけ、胸にぽっかり空いた穴に耐え切れずに。
 私は、叫んだ。
輝夜(おまえ)がいなくなったら……私は、誰と……いったい誰とケンカすればいいんだよ!」
 それが、答えだった。
 輝夜のせいで幻想郷に来る羽目になった。
 それでも、幻想郷の生活はそれほど悪いものじゃなかったし。
 輝夜と殺し合いをするのも、痛くて苦しいけど、悪いものじゃなかった。
 因縁なんてどうでも良かった。因果なんざ知ったこっちゃなかった。
 そういう楽しいことが、幻想郷での日々が、ずっと続けばいいと思ってたのに――。

「ウシャシャシャ!!」

 耳障りな笑い声が響く。
 相手が誰かは分かっている。私はゆっくりと振り向いて、そいつを睨みつけた。
 ネクロマンサーで、マッドサイエンティスト。
 この事件の黒幕、シンデルマン。
 シンデルマンの手に握られていたのは、琥珀色の液体の入ったカプセルだった。
 研究所の地下で見たことがある……液体生物を収めておくための、カプセル。
「素晴らしい! 不老不死の人間から作り出した液体人間は、決して尽きることのない永久燃料になります! このロボットを失うことは悔しいですが、代償以上のものが二つも手に入ることになるとは……これで、研究はさらに加速します!」
「貴様……!」
 押え切れない怒りと共に、私は叫んだ。
「全部材料かよ! 全部物かよ! なんで平気でそんなことが言えるんだよ!」
「何故理解しようとしないのですか。私は、死の超越という人間の永遠の夢を果たそうとしているのですよ!」
「お前になにが分かる! 死ぬってのがどういうことかお前に分かるのか!?」
「……ああ、そうでしたね。あなたは不老不死の体を持つ。もはや人間ではない! 人間ではない化物に、人間の考えなどわかるはずもありませんでしたか!」
「………………」
 確かに、私の身体は真っ当な人間のものじゃない。
「ふざけんな……」
 この身体のせいで、たくさん辛いことがあった。
 この身体のせいで、誰かを守れなかったこともあった。
 それでも、この体のおかげで、誰かに出会うことができた。
「たとえ身体がまともな人間じゃなくってもな、心はいつまでも人間なんだよ!」
 自分は独りだと思っていた。
 それでも、独りじゃなかった。
 この無限の時間を生きて行くのは、決して独りじゃなかった。
 独りじゃなかったから、ここにいられた。折れることも曲がることもあったけど、独りじゃなかったから、耐えられた。
 怒りと共に炎が吹き上がる。爆発がする操縦席の中で、私は炎の翼を広げた。


「なぁ……そうだろ、輝夜!」


 展開は、一方的だった。
 シンデルマンは己の周囲に結界を張っている。
 それは、炎を遮断する結界であり、妹紅の攻撃はその結界で防ぐことができた。
 対する藤原妹紅は魔法使いではない上に、徒手空拳。
 故に、シンデルマンが得意とする暗黒術に対する耐性がない。
「……ぐっ……おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」
 幾度倒れ、幾度殺し、幾度立ち上がってきただろうか。
 周囲は既に崩壊寸前。ヤゴコロダイオーはいつ爆発してもおかしくない。
 それでも、彼女は血まみれになりながらも、ゆっくりと立ち上がった。
「さすがは不老不死……といったところですか。既にかれこれ五回は死に至っているはずなのに、その度に復活する。死が怖くないからそんな真似ができるのでしょうね」
「……馬鹿言ってんじゃねぇよ」
 炎が妹紅を包み込み、傷が治癒されていく。
 左手の握力が戻ったことを確認しながら、妹紅は口元を緩めた。
「死ぬのは怖いさ。痛いのも、苦しいのも御免だ」
 膝が落ちそうになるが、必死で踏ん張る。
 にやりと不敵に笑いながら、妹紅はきっぱりと言い放った。

「怖いからこそ前に進もうとする人間の気持ちなんて、お前にゃ絶対に分からない!」

 再び炎が燃え上がる。その勢いは、妹紅自身とは裏腹に衰えることはない。
「必殺:アル・フェニックス!」
「無駄なことを!」
 幾度となく防いできた技に対応し、シンデルマンは防御結界を張る。
 幾度となく防いできた時と同じように、炎の鳥は結界に阻まれ勢いを失って消えた。
 必殺技の名の通り、妹紅のアル・フェニックスには使用前と使用後に大きな隙がある。シンデルマンは幾度となく防いで時と同じように、攻撃の呪文を唱え……。

 吹き飛ばされた。

 壁に激突すると同時に、妹紅の真っ赤な拳が、シンデルマンを貫いていた。
 体を貫かれ、シンデルマンは口から奇妙は液体を吐きだし、目を剥いた。
「なん……だ、ど?」
「命も張れねぇで、高みの見物を決め込んで、余裕たっぷりの余裕綽々で、自分のことしか考えなくて、自分だけが頭がいいと思っている奴を騙すのは……簡単なんだよ」
 幾度となく防いできた、必殺技。
 当然のごとく防げると思ってきた、必殺技。
 だから、炎の鳥が消えた時、それまでと同じだと高をくくって結界を解いた。
 それまでと同じように、防御を解いて攻撃しようとした。
 しかし……実際には炎の鳥は消えたわけではない。
 妹紅の左腕に『収束』しただけだった。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「ぐふっ!」
 シンデルマンが振るった杖の直撃を受け、妹紅は壁際に弾き飛ばされる。
 転がっている最中に、熱量に耐え切れずに炭化した左腕が転がって落ちた。
 本来なら様々な防御を施してから展開するはずの炎を、なんの前準備もなく全て左腕に収束したのだ。……それは、当然の帰結だった。
 だが、執念かあるいは狙っていたのか、妹紅の右腕には液体人間が収められたカプセルがあった。
「クククク……今更彼女を奪い返したところでどうするつもりですか? 片腕を失い、全身は疲労困憊。あなたにはもう打つ手はない!」
「……かもな」
「覚悟を決めましたか? ならば……うぶゥッ!?」
 変化は、少しずつだった。
 少しずつだから、異変に気付けなかった。
 腹から燃え上がる自分の体を見つめて、シンデルマンは叫んだ。
「お……お前、一体……私になにをしたっ!?」
「別に、大したことじゃないさ。私の攻撃にアンタが気付かなかっただけだ。……本来、フレアやアル・フェニックス……私が使う高出力の技には、ある程度の『溜め』が必要なんだよ」
 ぼろぼろになりながら立ち上がり、妹紅は口元を緩めて、手を開いた。
 そこには、輝夜から預かった宝玉が輝いていた。
「宝玉でアル・フェニックスとフレアの溜め時間を省略。そして、お前が攻撃すると同時にフレアをぶち当て、宝玉の力で『停止』させた。……お前の結界を撃ち抜き、輝夜を奪い返したその時に、一斉に炸裂させるためにな」
 一撃じゃ倒せないのなら、何発でもぶち当てればいい。
 けれど、効力が薄い状態で放っても意味はない。
 人質を救出した上で、結界を破るタイミングを計っていた。
「確かに打つ手なしだ。……もう手を打つ必要はないんだからな」
「があああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!」
「あばよ。……あんたも紅に染まれ。シンデルマン」
 妹紅が指を鳴らすと同時に、フレアの停止が解除され、シンデルマンを焼きつくす。
 左腕を失い、血を吐いて。
 服はぼろぼろで、あっちこっちが傷だらけ。
 それを意に介さずに、妹紅はゆっくりと走り出す。
「終わったぜ……輝夜」
 頬を伝うものがあった気がしたが、振り払って走り続けた。


 私がパチュリーロボに戻ると同時に、ヤゴコロダイオーは大破した。
 足が折れ、装甲は爆散し、エネルギーとなった液体人間がまるで血液のように漏れ出し乾いた地面へと沈んでいく。
 その有様を見つめながら、パチュリーは呟いた。
「これで……終わったのね?」
「ああ、終わりだ」
 あの規模のフレアを食らって、ただで済むわけがない。
 仮に生きていたとしても、あの爆発の中で生きていられる道理はない。
「とりあえず、帰ったらあなたの治療と……輝夜さんをなんとかしないとね」
「………………」
 コックピットに立てかけられた、琥珀色の液体の入ったカプセル。
 それが輝夜だとは信じたくないが……多分、本当だ。
 なんとなく、分かる。
「……ったく……ばか輝夜が……っ」
 輝夜はそこにいて、どこにもいない。
 心にぽっかり空いた穴の痛みに、大声で叫びたくなる。
 私が怒りのあまり拳を握り締めた、その時だった。
『パチュリー様! 大変です!』
「どうしたの、小悪魔!」
『ヤ……ヤゴコロダイオーから、殺人ガスが漏れ出ています!』
「なんですって!?」
 慌ててモニターを見つめるパチュリーの顔は、青ざめていた。
「いえ……違う。これは漏れ出ているんじゃない。誰かがガスのタンクを無理矢理こじ開けたんだわ!」
「誰かって、誰だよ! シンデルマンは私が倒したぞ!?」

『ウシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!』

 既に崩壊しつつあるヤゴコロダイオーから、狂気に満ちた笑い声が聞こえた。
 それは、私が倒したはずの、シンデルマンの笑い声だった。
『……ぐ……ぶぶ……よぐも……よくもやっでくれまじだねェ……私の野望をォ! 人類の悲願を! もうすこしで……手がどどいだというのにィ!』
「てめぇ!」
『ただでは終わりまぜんよゥ……あなたたちも、道連れにじでぐぼぉ!』
 大規模な爆発が起こって、それっきりシンデルマンの声は聞こえなくなる。
 その代わり、パチュリーロボの機器が赤く点滅を始める。
『く……空気汚染が始まっています! この風向きじゃ……人里に!』
「……結界隔離! これ以上のガスの流出を食い止めて!」
『け、結界隔離開始! ですが……エネルギー不足で五分しか持ちません!』
「…………くっ」
 成す術なし。ここで詰み。終わり。足掻いても無駄。
 ほんの少しだけそんな言葉が頭を掠めたけど、私はゆっくりと口元を緩めた。
「パチュリー。ヤゴコロダイオーを人気のない場所に運んでくれ」
「なんですって?」
「アンタの結界ならしばらくは持つ。その間にヤゴコロダイオーを人気のない場所にまで運んでから、ガスごと全部焼き尽くせばいい」
「無茶言わないで! そんな火力は地霊殿のあの子でもない限り発揮できな……」
 そこで、パチュリーは言葉を止める。
 気づいたか、さすがは魔法使い。
 口元を緩めながら、私はパチュリーを見つめた。
「もう誰も犠牲にはならない。私なら死ぬことはない。……そーゆーこったろ?」
「……分かったわ。その代わり、一つ貸しにしておくから後で返しにきなさい」
「ああ」
「小悪魔、補助エネルギーを全部使ってヤゴコロダイオーを運ぶわ! どこか適当な……この機体がとんでもなく派手に吹っ飛んでも大丈夫そうな場所はない?」
『えっと……あります! 食糧不足でゆっくりが森を食べ尽くしちゃったっていう山で……確か、紅魔館からそれほど離れた場所じゃなかったと思います!』
「そこに向かうわ。エネルギーの残りは?」
『残り五分!』
 最初に動いていた時とは打って変わって緩慢な動作で、パチュリーロボはヤゴコロダイオーを持ち上げる。
 私は目を閉じて、その時を待った。


 ぎりぎりで間に合った、と言えるだろう。
 ヤゴコロダイオーを運ぶことはできたし、パチュリーロボも離脱した。
 後に残されたのは、ガスを噴き出すヤゴコロダイオーと、それを上空から見つめている私だけ。残り時間は少なく、あと二分もすれば結界は解除される。
 そうなれば……山も森も人里も、全部が終わりだ。
「輝夜、お前に借りた蓬莱の玉……返せなくなっちまったな」
 光り輝く玉を口の中に放り込み、一気に飲み干す。
 ゆっくりと息を吸って、息を吐く。
 練り上げる、制御する、今の私ならばあいつを撃破することは容易い。
 必要なのは覚悟。私自身も含め、全てを捨てる覚悟だけだ。
 周囲に浮かぶ極光の白矢。それは究極まで高められたフレア。服はとっくに燃え尽きて、光は眼を焼き、熱は肌を焦がす。その中心に私は立っている。
 さて……行こう。
 この生の全てを使って、あいつをぶっ壊す!

灼刹(しゃくせつ)迦具矢(かぐや)

 極光の白矢が、ガスを噴出するヤゴコロダイオーに突き刺さる。
 あまりの熱量に装甲板が爆ぜ、爆発はさらに加速する。
 その瞬間、私の生が一度終わる。
 さらにもう一度、生涯全てで使える力を、一本の矢に注ぎ込む。
 幾度もの生涯を使い続ける。
 永遠に生きるはずの人生を使い潰す。
 何本も何本も光の矢を打ち込む。ガスが漏れてはいけない。液体人間を漏らしてもいけない。あのロボは……完全に、完璧に、この世から消滅させなくてはならない。
 蘇生と消滅。矢を一本打ち込む度に私は死んで生まれ変わる。
『ウシャシャシャシャ……そんなことをしても、無駄ですよゥ!』
「……まだ生きてたのか、テメーは」
『分かっているのでしょう? ここでいくら体を張ってロボの自爆を止めたとしても、あなたには平穏など訪れないィ!』
 不老不死だから迫害され。
 不老不死だから蔑まれ。
 不老不死だから追い詰められ。
 不老不死だから犠牲にした。
『悲しいですねェ……あなたのような化物は、誰かを犠牲にしなければ生きて行けず、誰かに蔑まれながら生きていかねばならないのですからねェ!』
 幾多の修羅場を潜り抜け。
 たくさんの人を犠牲にしながら、生き永らえた。
 心を壊さず。前を向いて、ここまで歩いてきた。
「ああ……そうさ。私は、仲間を、輝夜を、YdmtⅣを犠牲にしたさ。他にも色んなものを犠牲にして生きてきた。……だから、この期に及んで私だけが無傷で済まそうなんてそんなこたァ考えちゃいねぇんだよ!」
 白い羽を広げる。
 青い炎と赤い炎で己の身を包み込む。
 魂を燃やし尽くしながら、私は己自身を光の矢と化して、急降下した。
 ヤゴコロダイオーを一直線に貫くように……操縦席を目指して。
『な……馬鹿な! やめろ!』
「ハ、やっぱりな! お前のことだから、そのロボがどうなろうが操縦席の安全だけは確保してると思ったよ。……さて、私は行けないから、テメェ一人であの世に行け!」
 幾度の生を終わらせながら、私は叫んだ。

「こいつはテメェの犠牲になった連中の!」

「YdmtⅣの!」

「輝夜の!」

「そして……この私の命の炎だあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」




「真炎・紅蓮迦具矢!」




 そこは、真っ白な場所だった。
 私以外には誰もおらず、なにもない。孤独な場所だった。
 地獄でもあの世でもない。天国でも来世でもない。
 ただただ……真っ白で孤独な、とてもとても寂しい場所だった。
「………………あ」
 私はゆっくりと歩みを進める。
 どこまで行けばいいかなんて、分からない。
 ただ、この霧の向こうに誰かがいるような気がして、歩き続けた。
 時間の感覚などなく、ひたすらに歩き続けた。
 やがて……風景は変わり、開けた場所に出た。
 そこは、見たかったような、そうでもないような景色。
 大きな川と小舟が一つ。船頭はおらず、船には誰かが乗っている。
 どこかで見た誰かと、どこかで見たようなゆっくりが、乗っていた。
「なるほど……確かにお前の言う通りだったな」
「ゆゆん! しんじてくれてありがとう、おねえさん!」
「いや、礼を言うのはこっちだ。……ありがとう」
 そんな会話を交わしてから、女は口元を笑みを浮かべてこちらに歩み寄る。
 灰色の髪にくすんだ肌。手はボロボロで、お世辞にも綺麗とは言えない。
 どこかで見たことのある女の人だった。
 彼女は真っ直ぐに私に歩み寄ると、真っ直ぐな瞳を向けて、口を開いた。
「お前は、ここにいるべきじゃないよ」
 真っ直ぐだけど優しい瞳。
 優しくて柔らかい声で、彼女はきっぱりと言った。
「お前のいる場所は、暖かくて、柔らかくい、幻想が最後に行き着く場所だ」
「…………あ」
「ここは、此方でも彼方でも彼岸でも対岸でもない。もっと別のなにかだ。お前のように優しい娘は、こんな所に来るべきじゃないんだ」
「………………私は……」
 謝りたかった。
 自分のせいで滅茶苦茶にして。生活をぶち壊して。
 ずっと謝りたかったのに、見つけた時にはとっくのとうに死んでしまって……。

「いいんだよ、妹紅」

 彼女は、軽く微笑んだ。
「もういいんだよ。もう……過ぎたことなんだ。それに、終わった私とは違って、お前にはまだ、やらなきゃいけないことがたくさんあるだろう?」
「……やらなきゃいけないこと?」
 不意に、手を握られる。
 振り向くとそこには……見覚えのある黒髪の誰か。
「…………かぐ……」
 彼女に向かって必死に手を伸ばす。
 その瞬間、光に包まれて、黒髪の少女の手を見失った。
「彼女を待つのが、お前の成すべきことだ。……では、達者で暮らせ。お前はどう思ったか知らないが、私の人生はそう悪いものじゃなかったぞ」
 誰かの声も次第に聞こえなくなり、そして――。


 まるで、繭のようだと思った。
 奇妙な形のロボットに光の矢がいくつも打ち込まれ、最後に放たれた黄金の槍がロボットを射抜いた時、炎は外に広がらず、中に収束した。
 ロボットを包むように球状を成し、球の中のものを全て消滅させた。
 残骸も残らない。まさしく……ペンペン草一本生えない不毛の地になった。
 その破壊跡を見つめている女の子がいた。
 近づくのも危険な中心部からかなり離れて……白い髪と白い肌の女の子が、膝を抱えて泣いていた。
 いや……泣いていることも気づいていないのかもしれない。
 とりあえず、絵的には映えるけどなにも着てないのをそのままにしておくのもいけないだろうと思って、その辺で拾った赤い布をかけてやる。
 火鼠の皮衣。輝夜ちゃんがそう呼んでいた宝具に、よく似ていた。
「なんだ……誰かと思ったら、アンタか」
「おう、毎度おなじみおでん屋さんだ」
 妹紅ちゃんの隣に腰掛けて、煙草を取り出そうとして舌打ちする。
 んー……そういえば最近ヤニを補充する暇がなかったからなぁ。困ったもんだ。
「ま、とりあえず一件落着って感じかな」
「……どこが落着だ」
「落着さ。真犯人は妹紅ちゃんがぶっ殺しただろ? 事後処理やらなにやらは残るけど今回の事件はこれで終わりさ。寺小屋のまりさは戻ってこないし、殺された人たちも戻って来ない。……戻って来れる可能性があるぶん、輝夜ちゃんは希望がある方だぜ」
「…………私は」
「ん?」
「私は、どうすればいいんだろう?」
 どこか、遠くの景色を見るように。
 どこか、他人事のように。
 妹紅ちゃんは、寂しそうに、ぽつりと呟いた。
「輝夜がいなくなって……私は、どうすればいいんだろう?」
「戻って来るまで、待ってりゃいいだろ」
「簡単に言うな!」
 妹紅ちゃんは、叫んだ。
 まるで……普通の女の子のように叫んで、俺の胸倉を掴み上げた。
 言葉は続かず、ただただ泣きじゃくりながら……俺の胸に拳を叩きつけた。
 既に体力が限界に達していたのか、その拳にはまるで力はこもっていなかった。
 だから、手首を握り締め、真っ直ぐに言った。

「簡単になんて……言えるかよ」

 待つ時間はなにより辛く。
 待つ時間はなにより長く。
 待つ時間は……あまりにも残酷に人の心を引き裂く。
「いつまで待つかなんて分からないし、もしかしたら、ずっと待ち続けなきゃいけないかもしれない。……辛くても、苦しくても……それでもまた会えるから」
「……あんた」
「妹紅ちゃんが諦めなきゃ……きっと、また会えるから」
 本心からそう思う。
 心の底からそう願う。
 だってそうだろう。……そうじゃなきゃ、駄目だ。
 あのまりさが願ったように、みんなが揃ってゆっくりできる日が来るはずだから。
 諦めず、曲がらず、歪まず……真っ直ぐに。
「輝夜ちゃんがいなくなって、寂しかった?」
「…………っ!」
「寂しいんだったら……帰って来た時に、一番最初にぶん殴ってやればいい」
 よくも待たせやがったなと、罵りながら、泣きながら殴ってやればいい。
 くしゃくしゃと妹紅ちゃんの頭を撫でながら、口元を緩める。
 何の慰めにもならないだろうし、状況も変わりはしない。
 輝夜ちゃんは帰って来ない。
 それでも――少しでも、気休めになればいいと思って、頭を撫でた。
 神様と同じように、頭を撫で続けた。


 風が吹く。なにかの焼け焦げた匂いが鼻をつく。
 泣き疲れた女の子の寝床としては最悪だけど、眠ってしまったものは仕方がない。
 妹紅ちゃんに膝を貸して、代わりに白くて綺麗な髪を撫でながら、空を見上げる。
「これで全部おしまいかしら?」
 不意に、ひょっこりと顔を出したのは紫色の淑女。
 太陽や空と比べると……黒さ的な意味で……対極に位置する彼女。
 その彼女に向かって、微笑みながら言った。


 彼女の物語は、これでおしまい。

 でもね――紫さん。

 まだ、やらなきゃいけないことがあるんだ。
少女は、かわいそうな女の子だった。
生まれた時に母親を失った。
自分のせいで父親を失った。
色々あって家族を失った。
色々あって愛する人を失った。
苛立ち紛れに誰かを破滅させた。

少女は、かわいそうな女の子だった。
少女は、■■だった。

次回、蓬莱編蛇足:惨餌

あなた以外に、だれがあなたを助けるんですか?


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