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あの変態はなぜパンツを求めるのか? 作者:すなぎも

第一章:三人の変態

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エピソード12:あのときも、パンチラ

 「……これで終わりだッ!」
 委員長の左足が俺の上半身を狙う。
 だが避けるつもりはない。
 だからといって、当たるつもりも毛頭ない。
 「なっ……!?」
 はじめからこれを狙っていた。
 俺は身を翻しながら地面へ飛び込んだ。
 カミソリより鋭い委員長の足が虚しく空を切る。
 「よし……!」
 俺は背中から床に着地する。
 落下点には、ワックスによってピカピカに磨かれた滑りのいい体育館の床がある。
 そしてそのワックスは制服と床との摩擦を軽減して。 
 俺の体は、勢いよく滑りだした。
 そして、俺の体が向かう先に。

 「えっー!?」

 裏ミス鷺森。
 君のパンツを見せてほしい。
 そこが全ての終着点。
 レンズ越しに眺める彼女は現実の彼女よりも美しい。
 さぁ、はやく、パンツを―――!
 ところが。
 裏ミス鷺森と俺の距離は予想以上に遠かった。
 パンツが見える角度に辿り着く前に、俺の体が徐々に失速し始める。
 ワックスがいくら摩擦を軽減するからといって、なにも摩擦が無くなったわけではない。
 俺の体は、裏ミス鷺森のパンツが見える手前で。
 完全に停止した。
 「うそ……だろ……」
 そして。
 鬼神の如き素早さで追いかけてくるのは委員長だ。
 ふっ、と。
 数秒後の未来が予測できた。
 俺の金玉は、委員長によって蹴り上げられる。
 「――――――――――ッ!!」
 いやだ。
 さすがに変態の俺も、金玉だけは勘弁だっ!
 あれは本当に痛い。
 皮一枚だけで守られた、男子共通の弱点。
 金玉を委員長に狙われてる!
 それだけ聞けばなんとも官能的な響きだが、今は状況が状況だけに心底恐ろしい。
 では、何か策はあるか。
 立ち上がり、走って裏ミス鷺森のパンツを撮るか。
 このままの体制で地面を蹴り、這いずってパンツに辿り着くか。
 ―――ダメだ。
 どちらも、委員長のスピードに勝てやしない。
 万策尽きた。
 もうおしまいだ。
 ―――諦めるのか?
 山田が常森を引き止めているのに。
 部長が身を投げうって串刺しにされたというのに。
 裏ミス鷺森のパンツを待っている人たちがいるのに。
 俺は、俺は裏ミス鷺森のパンツを見ながら手慰みに耽りたかったんじゃないのか―――!
 「……くそぉ!」
 カメラを構える。
 脇を引き締めて、レンズを裏ミス鷺森のスカートに向ける。
 めくれろッ……!
 俺はもう願うしかなかった。
 「無駄無駄無駄、ムダだよ米倉くん!」
 委員長の声が迫る。
 ちくしょう!
 ここまで来たのに。
 みんなの熱意を、無駄にしてしまうのか?
 くそッ。
 めくれろ。
 めくれろめくれろめくれろ……!
 めくれろめくれろめくれろめくれろめくれろめくれろめくれろめくれろめくれろ!
めくれてくれぇ!
 でもその願いは、誰も聞き入れてくれない。
 自分の性癖が誰にも理解されないように。
 誰もこの願いを聞いてはくれない……!


 そのとき。
 頬をなでる風がふきあげた。


 それはあまりにも小さい風。
 この体育館にいる人のどれほどが感じ取れたのだろう。
 それほど小さくて、優しい風。
 だけど。
 ふわり。
 裏ミス鷺森のスカートが数センチ持ち上がる。
 やはり風は俺たちの味方だった。
 思えば、あのときも――――――――――俺が変態になるキッカケとなったあのときも――――――――――風が俺に奇跡の一枚を撮らせてくれたのだ。
 おそらく、委員長からは裏ミス鷺森のパンツは見えないだろう。
 誰も気づかないような僅かな変化。
 けれど、俺だけは知っている。
 ファインダー越しに世界を見る俺だけが知っている。
 その僅か数センチ持ち上がったことによって、俺の今いる角度からはパンツが見えるということを―――!
 俺たちはなぜ女子のパンツに興味を抱くのだろう。
 それは有史以前から疑問視されて今だに解決されない難題だ。エロスという名の妄執に囚われた数多の哲学者たちが競ってこの難題の究明に尽力したが、どれも失敗に終わっている。
 だけど、俺は今わかった気がする。
 パンツって、こんなにも興奮できるのだから!
 この不毛な世界を明るく彩る光。
 それがパンツだ。
 そして素晴らしい裏ミス鷺森のパンツを。
 ドドメ色のフィルムに焼きつけるために。
 俺はシャッターを切る!
 星屑のきらめきのような閃光が瞬いた。
 「裏ミス鷺森うち撮ったり!」
 それと同時に、振り上げられた委員長の鋭い足が金玉に食い込んだ。
 「――――――――――ッぁあああぁあぁああぁああ!!?」
 体育館に魂のこもった絶叫が響きわたった。
 それからのことはあまりよく憶えていない。
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