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ブードゥードール

作者:kiyashi
前作を投稿した時に何か変な手応えがあったので、その勢いに任せて作った今年の2作品目です。

かわいいかわいい人形のお話です。
「私はこいつに殺された」
女は言う。
「こいつが私を駄目にした」
女は箱を踏みつける。
「全部全部、こいつのおかげだ」
踏みつける。
ハイヒールに何度も何度も潰されて、真っ赤な一つ目が血を垂らした。

―ぽたり―

― ― ― ― ―

振り向くと、錆びた金属の扉。
向き直ると、目の前に出口があった。
とても頭の痛い朝に、私は逃げ出した。

目が焼けそうだった。
豆電球一つの部屋で、どんなに小さな光でも集めるように見開かれていた目に、日光は眩し過ぎた。

両目を覆う手をどかす。
とても遠く、そして此処よりも遙かに標高の低い場所に、街が見えた。
知らないビルがいくつも立っていた。
あれから何年経ったのか、確認できるのはいつになるだろうか。

既に炎天下。
希望の朝に背を向けて、独りぼっちで街に向かう。

― ― ― ― ―

あの日は不可解なことなど何一つ無く、全てが当たり前に過ぎていった。
立ち入る事を許された富裕層の人間は、古びた椅子に座ってひたすら笑う。
脈を打つことすら馬鹿馬鹿しく思えるほど、その場は喜劇的で、それが"私を殺す"という判決を下す空間だった。
それだって、もう何度目だった?
痛み、憎しみ、床に伏せ足掻いていた私を、まるで天国へ誘うように微笑んで見せた人々は、いつも決まってこう言った。
「改めなさい。そうして、また人と成りなさい」
そこには何も残っていないことを、私はその時にやっと理解した。

斯くして、私は大衆の前で跪くことによって、色彩を剥ぎ取られた未来を約束された。

― ― ― ― ―

とても、長く歩いた。
ここはすっかり変わってしまったらしい。
身体の弱そうな野良猫が案内をしてくれた。

肥えた腕を空に向け、気の抜けた掛け声に手拍子をする。
雨乞いの踊りを見ていた。
乾涸びたアスファルト。
等間隔に伏せる血痕。
笑う人形と断末魔。
路地裏の子供達。

子供達は笑っていた。

― ― ― ― ―

どうして、こうなったんだっけ。
まだ生きていけるって、思ってたのに。
誰が、踏み潰したんだっけ?
腹が立つことさえ、半ばどうだってよかった。

報われないのはきっと、最初から誰もいないからだ。
誰も罪を知らない。
皆一様に騒ぎ立てた。
お前だ、お前だ、と。
誰もが裁きたいと思っていた。
神のいない世界で、誰もが神になりたいと願った。
それが最大の思い違いだった。
なぜなら、神は裁かないからだ。
神は、其処に居る、それだけだったから。

「仕方が無いのだ。犠牲が必要だ」
間違っていなかったから、私はひれ伏した。

しかし、これを見てしまったら。
何も、良い方向には変わっていなかった。
一人の死など、人間を変えることは出来ないと、よく分かった。

猫は止まってこちらを振り向いてから、また歩き出した。
私は次も逃げ出す。
もう戻っては来ないだろう。

― ― ― ― ―

真夜中に幻想を抱いたのは遠い昔のこと。
今では、どんな時間でも誰かしら目を覚ましていて、労働に、セックスに、口喧嘩に。
とても下らなくて、それでいてとても人間らしい生活。
夢なんて見れやしないのだと知った。
いつもと変わりなく、穏やかに暗闇が流れていた。

いつも、今も、現実から遊離した思考が私の足を勝手に動かして、一体何をしようと思っているのか、最早分かろうとすることも面倒だ。

まるで波に呑まれたように、ふらふらと、息を切らしながら、知りもしない場所へ歩いていった。

― ― ― ― ―

私はどこにいる。
此処にいるか?
それは確かな事だろうか。
―?―

そんなはずは無い、と、答えた。
いつだって、ここにある確証など、証明することなど、不可能だ。

地に足が、ついていないような気がした。
足元さえ闇の中に沈んで見える。
そんな真っ暗の中にいた。


― ― 数え切れない数の夜を遡る ― ―

「許さない」
「殺してやりたい」
「全部あいつのせいなんだ」
「あいつだけじゃない」
「みんなのせいだ」
「殺してやる」
人形を握る。
潰れそうになる。
血が吹き出そうになる。
「殺して」
殺してやるんだ。
「誰を」
誰を殺せばいい?
誰を殺せば、私は幸せになる?
誰が悪いのか?

「そうだ。これだから、みんな不幸になってしまう」

握っていた釘も、人形も手放した。

― ― ― ― ―

世界で一番新しい夜に居た。
遠く向こうに、小さな光が見えた。
近づくほどはっきり、明るくなっていく。

寂しそうに電灯が立っているのが分かった。
細い柱の先に、小さく光る。
か弱いけれど、確かに気を緩めてくれる光だった。

― ― ― ― ―

朽ちかけた鳥居が幽かに照らされていた。
紅い塗料はほどんど剥がれ、木材の表面が剥き出しになっていた。
確かに何かを願っていた、その小さな遺跡に触れる。
何を願うだろうか。
幸せでいたいと願った誰かは、私と何が違っただろうか。
何も変わらないはずだと、あの時私を見下ろした、彼は言っていた。

「あなたは何も分かっていない」
私の言葉は微塵も届いていないだろう。
そして今も雨を乞い続けている。

― ― ― ― ―

落ちていたのは、細く長い釘と、不細工な人形。
この人は何を願っただろうか。
分かりやすい過去の話だ。

ブードゥー人形は笑わない。
役目を果たさずに捨てられたからだ。
「代わりにね」
許して欲しい。

― ― ― ― ―

「誰を殺してやろう」
「誰が一番憎らしいだろう」
「あいつだ」
「違うな、こいつの方が、私を苦しめた。傷つけた」
誰か、誰だ。
最良の選択を。
いや、他にも―――。

― ― ― ― ―

喘鳴が鳥居に反射した。
角膜は乾ききっている。

『結局は』と言って始まるのは、その通りで、初めから分かっていたのかも知れない。
誰も悪くないのなら、どうしようもない。
どうしようもないのなら、どうしよう?
全部を笑い飛ばせるような、シニカルな感覚を、これほど欲しがったことがあったか。
明日が来ないような気がした。
仕方が無いのだ。
全部そういうことで片づけられてしまうほど、人は小さいのだと、初めて知った。

信じたくない。
大切にしたいのは、何だった?
大切なものは何処にあった?
もう何も信じられない。

― ― ― ― ―

顔を出した朝日は、今日も一日、私を見下ろして笑っているだろう。
夜明けは美しさの象徴だ。
無くなってしまえばいい。
そして、何も見えなくなってしまえばいい。
全てを隠してくれる。

人形はこの手にある。
もう用は無いだろうが、何も見えない中で選択肢を与えてくれた。
過去の誰かが、同じように失くした心もここにある。
いつも通りだ。
西へ歩いていく。
もう、何にも触れたくないから。
もう、"正しいこと"に惑わされたくないから。

大嫌いな街が、また遠くに行ってしまう。
後戻りも無いし、先に進むでも無い。
ただ、ひたすらに笑っていたいだけ。
本当も嘘も要らないけど、今は本当に、それだけでいい。
何か伝えたいことが、少しだけ言葉になったと思います。
具体的に口に出来ないことをアウトプットするために小説を作っているつもりなので、それはいつまでも漠然としているような気がします。
それでいいんだと思ってます。
― ― ―
ここまで読んでいただきありがとうございました。
数なんてあんまり関係無くて、一人でも読んでくれたなら、何か考える種になってくれていたら嬉しいです。
先月、『グラスシティ』という短編を投稿しました。
そちらも是非、お暇でしたら。

また作れたらいいなあと思います。
ありがとうございました。

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