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異世界で自由奔放に生きてみました~最強冒険者と呼ばれた男の波乱万丈転生譚~ 作者:西園寺☆桜

第3章 冒険者 揺籃編

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第25節 リンス外商

エリィは、カムイ、セフィールを伴ってマルティロシン伯爵家に来ていた。
先だってのルルデスとの約束通り、リンスについて売り込みを行うためだ。


エリィから送られてきた手紙を読んでカムイは驚いた。
エリィが外商の相手に選んだのが、偶然にも以前リュック・アレクサニン伯爵の消息探索の手伝いをし、今は研修生として教えているファティマの母親でもあるルルデス・マルティロシン伯爵夫人だったからだ。

エリィには知っている情報を全ては教えず、研修生であるファティマの母親であることのみ話をした。

「こんな偶然もあるもんね」
「そうですね。手紙を見て驚きました。それでこれからどうするんです?」
「カムイが王都に来る日を連絡くれたでしょ?それで先方と調整して今日時間を割いて頂いているのよ。これから行けるでしょ?」
「大丈夫ですよ」

カムイもそのつもりで王都に行く日を連絡したのだ。
一応、リンス開発担当ということで同行するため、ノップスの服を借り商人らしい恰好をする。

持っていくのは椿油とその後製作に成功したオラバから製作したオリーブオイルだ。
オラバとは、元の世界で言うところのオリーブだ。
オラバの名称をそのまま付けると製造法が直ぐにバレるかもしれないと思い、元の世界の呼び名であるオリーブオイルと名付けることにしたのだ。
しかも、クラバの特性なのか出来上がったオリーブオイルは品質が高く、エクストラ・ヴァージン・オイル級の出来栄えだった。
さすがのカムイも、この品質には驚いた。

「よくこんな品質にできましたね」
「よくは判らんがワシらはカムイの言う通りにしただけなんじゃが・・・。そんなに良い出来なのか?」
「えぇ。この出来なら1瓶で雌牛が1頭買えますよ」
「そんなにか!」

家畜の中でも牛は高価で取引され、中でも雌牛は貴重で金貨5枚は下らなかった。
1瓶でそれと同等の価値があると聞かされ、驚きの声を上げる村長。
まぁ金額については、この世界の相場が判っていないため咄嗟に思いつきで言ってしまったが、貴族を相手にするからにはそのくらい言っても売れるのではないかと思っている。

 △▼△▼△▼△▼△▼△

カムイたちが通された部屋は、応接室ではなく窓の外がテラスになっている少し小さめのダンスホールのようだった。
そこには、大量のタオルや小さな桶類が用意されており、見るとテラスには大きな樽が置かれていた。
おそらく樽の中には水が入っているのだろう。

カムイとエリィは目を合わせ、その意味を理解する。

(誰かに試させるんだろうな)

カムイが依頼主だったとしても同じことをするだろう。
売り手の言う事が本当の事だとしても、何の確認もせず商品を買うようなことはしないだろう。

部屋には数人のメイドが主の来るのを待っていた。
ただ、そのメイドたちも気になるのだろう。
チラチラとエリィ、セフィールの髪を見ているのが判る。

そうしている間に、ルルデスが入ってきた。
ルルデスは1人ではなく3人の人物を伴って入ってきた。
3人目にファティマがドレス姿で入ってきたところから察するに、おそらくルルデスの娘たちだろう。
いつも防具を着用した姿しか見ていなかったが、こうやってドレス姿で現れると伯爵令嬢なんだと改めて気付かされる。

「お待たせしたかしら?」
「とんでもございません。今日は貴重なお時間を頂きありがとう御座います」
「身内しかいないからそう畏まらなくてもいいわよ」

ルルデスそう言って笑う。
そして、カムイを見る。

「セフィールちゃんからリンスだったかしら?作ったのはカムイという人物だと聞いた時にはもしやと思ったけどやっぱり貴方だったのね」
「ご無沙汰しております」

カムイは深々と頭を下げる。

「リュックの件、改めてお礼を言うわ。ありがとう」
「勿体ないお言葉です」

カムイの物言いに笑いながら普通に接するように言う。

「貴方も普通にして頂戴。そんなんじゃ肩が凝るでしょう?」
「そうですか?ではお言葉に甘えまして」

そう言って二人とも微笑む。
エリィはそのやり取りを見て驚いた顔でカムイを見る。

「なんのこと?研修生の教官をしているだけじゃなかったの?」
「まぁ、色々と・・・。もう済んだことですよ」

この話は終わりとばかりに答えるカムイ。

そうしている間に、控えていた娘たちから声が上がる

「お母様、早く私たちを紹介して下さいませ」
「アラアラ、ごめんなさいね。紹介するわ。私の娘たちよ」
「長女のティアよ」
「次女のラニカです」
「教官はもうご存知だと思いますが、三女のファティマです」
「「教官?」」

ティアとラニカは何のこと?といった顔をする。

「そこに控えているカムイは、今日は商人としてきていますが普段は冒険者?でいいのよね?」
「はい」
「今はファティマの研修の教官もやって貰っているわ」
「へぇ~そうなんだ」
「ファティマはちゃんとやれてる?我が強いから我儘とか言ってない?」
「失礼ね。ちゃんとやれてますわよ。ね、教官」
「そうですね。ファティマにはパーティリーダーをやって貰ってます。皆を纏めるが上手いので助かってますよ」
「「「以外~」」でもそう言われると少し雰囲気は変わったわよね。なんかこう芯が1本入ったような感じがするわ」
「そりゃ、誰かさんに鍛えて頂いているからですわ」

ファティマはカムイを見る。
ティアとラニカもカムイを見る。

「で、その教官殿は強いの?」
「強いですわ。それに物知りですのよ。学園でも教えてないようなことまで知っていらっしゃるのよ」
「ふ~ん。ファティマはこう言ってるけど本当なの?」

ティアがカムイに話を振る。

「さて、どうなんでしょうか?商人(・・)の私には判りかねます」

今日は冒険者としてではなく、商人として来ているので判らないと話しをはぐらかす。
カムイの言葉にルルデスも本題であるリンスに話しを向ける。

「そうね。そろそろ本題に入りましょう」

 △▼△▼△▼△▼△▼△

「これが、気になられているリンスです」

用意されたテーブルに2種類の小瓶を出す。

「リンスは、毛髪のごわつきを抑えて櫛どおりをなめらかにする他、毛髪をしなやかにしてツヤを出します。また、毛髪の保護といった効果もあります。その結果は、こちらにいるエリィさんとセフィールの髪を見てもらえれば効果のほどが伺えるでしょう」

その場にいる全員が、エリィとセフィールの髪に注目する。

「なぜ2つあるの?」

ルルデスは、リンスは製品の固有名詞だと思っていたようだ。

「リンスという呼び名は、先ほど説明した効果のあるものの総称です。この薄黄色の液体は椿油といいます。エリィさんやセフィールが使用していたのがこちらのリンスになります」

瓶の蓋を開け、ルルデスに手渡す。
ルルデスは、渡された瓶をマジマジ見つめたあと鼻を瓶に近づけ匂いを嗅いでみる。
その匂いは嗅いだことのある匂いであることに気が付く。

「この匂い、どこかで嗅いだ記憶があるわ」

ティアたちにも瓶を手渡しながら、自分の記憶を辿っていく。
すぐ気が付いたのはラニカだった。

「お母様、これは椿の花の匂いですわ」
「あぁ椿ね。家の庭にも咲いているから嗅いだことがあったのね」

ファティマから瓶を受け取りながら説明を続ける。

「そして、こちらの黄緑の液体はオリーブオイルといいます」

先ほどと同じように瓶の蓋を開けてルルデスに手渡す。

「これもいい香りね。でもこっちは嗅いだことのない匂いだわ」

これは流石に3姉妹とも記憶にないようだ。

「これはなにから出来ているの?」
「申し訳ありません。それは秘中の秘ですのでお教えすることができません」
「そうなの?」
「えぇ。なに分原料が希少なものですから、誰かに真似をされる訳にはいかないものでして・・・・」

原料が希少というのは嘘だ。
オラバは豊穣の森に行けば簡単に手に入るし、他の森にも群生しているだろう。
それだけに真似されたくないというのは本音だった。

「ただ、先ほどの椿油も効果的には問題のあるものではありませんが、こちらのオリーブオイルの効果は格段に良くなっています」
「原材料が希少で品質がいいとなると、値は張るのでしょうね」
「そうですね。決してお安いとは言えませんが、それだけの物だと自負しています」

そういってカムイは品質、効果に胸を張る。
ルルデスもカムイの言っていることは本当なのだろうと思っている。
伯爵家相手に大手でもない中級商人が詐欺を行うという危険なことはしないだろうし、リュックの件もある。
それでも無条件に信用する訳にはいかない。

「おそらくカムイの言っていることは真実なのでしょう。そこにいるエリィさんやセフィールちゃんの髪をみても効果も本当なのでしょう。ただ、それを鵜呑みする訳にはいかないのよ」
「判っています。百聞は一見に如かずと言いますしね。で?どなたがお試しになるので?」


リンスという商品を試すということで、検証のためにメイドを1名選んでいたようだが、カムイが用意してきたリンスは2種類あった。
急遽2人目を用意する必要があったが、ここでひと悶着起きてしまう。
2人目にファティマが手を挙げたからだ。

「お母様、その役私ではだめでしょうか?いえ、是非私にやらせて下さいませ」
「あ、ファティマ、ズルイ。私もやりたいですわ」
「私も!」

ファティマだけでなく、ティア、ラニカもやりたいと言い出した。
それはそうだろう。
村でもそうだったが、エリィやセフィールと同じような髪になるのであれは試してみたいと思うのは女性として仕方がないことなのだろう。

「困ったわね。誰か一人にならない?」
「「「これは譲れませんわ!」」」

3人の声がハモる。

困ったようにカムイをみるルルデス。

「余分に持ってきていますので大丈夫ですよ」

そう言って苦笑いをするカムイだった。

 △▼△▼△▼△▼△▼△

リンスの試行は話し合いの結果、椿油をファティマとメイド、オリーブオイルをティア、ラニカが試すことになった。
ファティマは、最後までオリーブオイルを試したいと主張していたが、姉2人に押し切られ悔しそうだった。


まずは、他のメイドに手伝ってもらいながらメイドにこれまでの洗髪のやり方を再現してもらう。
再現方法は、さすがに裸になることはできないため、ロッキングチェアを傾けたまま固定し、そこに座ってもらい髪を後ろに垂らしてもらうことにした。
理髪店や美容院で見かける洗髪の仕方だ。

といっても簡単で、ただ髪を濡らし洗い流すだけの方法だ。
ファティマたち貴族になれば固形石鹸を使用して洗うようだが、貴族つきメイドといえど石鹸を使える訳ではなかった。

ここで、カムイはリンスより少し大きめ、といっても片手で十分持てる大きさなのだが、1つのビンを取り出す。

「それは?」
「これですか?これは泡石鹸です」
「それが石鹸ですって?」

ティアたちが驚きの声を上げる。
今まで石鹸と言えば固形のもしか見たことがなかったからだ。

カムイが泡石鹸といって取り出したのは、ムクロジの実の果皮を水につけた石鹸もどき(・・・)だ。
これまでは石鹸もどき(・・・)と言っていたのだが、あまりにも印象が悪いということで泡石鹸と呼ぶようにしたのだ。

カムイは、泡石鹸のビンをシャカシャカと振ると、ビンの空いている空間いっぱいに泡が広がる。
その泡を取り出し『失礼』といってメイドの髪を揉むように塗っていく。
1度目は髪に吸い込まれていくように泡が消え、それを1度洗い流す。
さらに泡石鹸を振り、2度目の泡をメイドの髪に塗り揉んでいく。
するとどうだろう。
1度目とは異なり、2度目は髪全体を覆うように泡で一杯になった。

その様子を見て、エリィ、セフィール以外の誰もが驚きの声を上げた。

「「「「「「!」」」」」」
「すごいわ」
「なぜ泡立つの?」

ルルデスが説明を求めるようにカムイを見る。

「泡を2回塗った事に理由がありそうだけど?」

2回泡をつけたことに理由があると考えるあたりさすが年の功と言ったところか。

「そう難しい話ではありません。なぜ髪を洗うのかというと、髪につけた化粧品や目に見えない埃などを洗い流すのが目的ですが、1度だけでは十分に落とせてないからです」

これは、元の世界のシャンプーでも同じことが言える。
1度目は中々泡立たなくても、2度目はちゃんと泡立つようになる。
これは、1度目は化粧品や目に見えない埃などの不純物が泡立ちの邪魔をしているためで、2度目はその不純物が1度目で取り除かれるためちゃんと泡立つようになるからだ。

『1度目で不純物が取り除かれていればいいじゃないか』と思うかもしれないが、カムイはシャンプーは泡立たないと気がすまない派だったので2回することにしていた。
ただ、カムイの嗜好を説明しても意味はあまりないため、『1度だけでは十分に落とせてない』と説明したのだった。

「やり方をよく見ておいて下さい。あとで残りの3人にもやってもらいますから」

そして、椿油のビンを手に取り、中の液体を丹念に髪全体にいきわたるように刷り込んでいく。
そんなに髪の長くないメイドにさえ、小瓶のほぼ半分の量を使うことになった。

(貴族の女性は髪の長い人が多そうだからビンの大きさは再考の余地ありだな)

ルルデスをはじめティア、ラニカ、ファティマを見ながら、ビンの大きさについては再考の余地ありと思えた。

「リンスを髪全体に馴染ませたら、2、3分待って石鹸と同じように洗い流してください」
「え?リンスはそのままつけたままではないのですか?」
「はい。リンスと付けたままにしておくとベタベタして気持ち悪くなりますから洗い流してください。そして洗い流したあとはよく拭いてください。それで完了です」

そう言って、手伝っていたメイドにリンスを洗い流して、タオルでよく拭くように指示をする。

髪の拭き終わりを確認し、モデルになったメイドに立ち上がるように言い櫛を手渡す。

「今まで、髪を洗ったあとブラッシングしていたと思いますが、何度も櫛が引っかかり結構時間がかかってたと思います。では、ブラッシングしてみて下さい」

そう言われてメイドは、櫛を髪にあてブラッシングをする。
すると、櫛は髪にスッと入り、スムーズにブラッシングができた。
その光景に、ルルデスたちは驚いたが、一番驚いたのはメイド自身だった。

「す、すごいです!たった1回ですのに全然引っかからないし自分の髪じゃないみたいに軽いです!」

その言葉と聞いてティア、ラニカ、ファティマは、そそくさと椅子に座り始め、メイドたちに『早く私にもやって頂戴』といい始めた。

もちろん、結果はメイドと同じようにスムーズなブラッシングが行えるようになり、ルルデスや試されなかったメイドたちに髪を触られまくるのだった。

 △▼△▼△▼△▼△▼△

「カムイ、ご苦労でした。信用はしていましたが、娘たちの喜びようを見る限り間違いはなさそうですね」
「ありがとうございます。髪の質とかは個人差がありますので、エリィさんやセフィールのように天使の輪が「「「天使の輪?」」」」

話の途中だったが、天使の輪という言葉にティア、ラニカ、ファティマが喰いついた。

「あぁ、言ってませんでしたが、エリィさんやセフィールに見られるような光沢は、天使のワッカにちなんで天使の輪と呼ばれています」
「「「天使の輪・・・・」」」

その響きに3人はエリィ、セフィール見ながらうっとりする。

「話の途中になりましたが、その天使の輪ができるようになるには個人差がありますが、毎日欠かさず続けていけば出るようになります」
「私にもでますか?」

ルルデスは、若くなければ出ないのではないかと心配しているようだ。

「もちろんです。毎日欠かさず使用して頂ければ間違いなくでます」
「そうですか」

カムイの言葉を聴いて嬉しそうに微笑む。

「それともう1点。リンスのことは他にも売り込みましたか?」

その質問には、エリィが答える。

「いえ、まだどなたにも」
「それは僥倖です。しばらく他には秘密にしてもらうことは可能ですか?」

ルルデスも伯爵家で独占するつもりはないが、他家とのアドバンテージは確保したいのだろう。
他への売り込みは、暫く待つように言ってきた。
エリィはカムイを見て頷くのを確認する。

「カムイともご縁のある伯爵夫人の申し出です。仰せの通りに致しましょう」
「ありがとう。約束通り、これからノップス商会を贔屓にさせて頂くわ」
「こちらこそ、ありがとうございます。よいお取引ができて嬉しく思います」

こうして、リンス外商は幕を閉じるのだった。
幕間にするか迷いましたが本編にしました。


お読み頂きありがとう御座います。
誤字脱字等ご指摘があればよろしくお願いします。

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