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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

文学フリマ参加作品

罪人

作者:持垣秋行
 昔々、ある村育ちの一人の少年がいました。
 少年は母親と二人で住んでいました。心優しい少年は、母に外に出ないようにと、言われました。だから、生まれた時から少年は、一度も外の世界を知りませんでした。

 いつものように、少年は用意された、窓のない独房にいました。硬く冷たい床に座っていても、少年は気にしてませんでした。手に母が贈ってくれた玩具のロボットに、玩具の飛行機で遊んでいました。

 「しゅーしゅー、悪のパイロットと悪の操作員が対峙する!……」と、稚い声で少年は楽しんでいました。


 「ああ……あなたの赤目は一体、誰と似てるのでしょうね」十才になった少年は母親にそう言われました。いいえ、ただ彼女の独り言でした。
 無垢な表情で母を見つめ返す少年は返します。「僕はかあさんの子だから、かあさんと似てるでしょ?」

 「ええ……そうね……」一瞬、母は蔑んでるような視線を感じました。

 「あのね」少年は母から視線を膝に落としました。
 「なに?」伝えてきた声はいつもと同じような、優しいものでした。
 「どうして僕は外に出られないの?」
 母は躊躇した気がします。「それは……あなたを守りたいからよ……一緒にいたいからよ」と、答えます。
 「そう……」少年は自分の両手を合わせて、指と指をクロスして、いじっていました。

 少年の独房は穢れるという一般的なイメージを覆うくらいの、いさぎよさでした。いつもだと、薄暗い空間です。不気味ではないのですが、寂しいのです。少年だけが住んでいるので、結構広いのです。壁も床も、常に冷たいのです。何故なら、石造りですから。
 少年は本を持ってませんでした。母親に、与えられませんでした。言葉の学びは、必要なものしか、教えられませんでした。

 孤独な少年は、いつも玩具で遊んでいました。退屈な日々を送るために、寝室の隣に、玩具の部屋がありました。

 その変わりのない日常に、夏がやって来ました。暑いので、冷たい床はかえって涼しいと思ってしまいます。だから少年は、床に横たわっていました。
 あまりにも気持ちよかったので、眠気に襲われました。

 チュンチュン、何かの鳴き声で少年を起こしました。ネズミでした。ネズミは、少年を見ていました。
 少年は首を傾げて、聞きます。「ねえ、君はどこから来たの?」と、眠気もなくなったようです。ネズミは、チュンチュンと、逃げました。少年は、ドアに向かって走るネズミを追いました。ネズミは、必死に走って、廊下の一番奥の部屋に逃げ込みました。体力の優れない少年は、その部屋を目指そうとしました。

 「何をしているの?」階段から降りてくる、少年の母親でした。
 「い、いや、何もないよ……。それよりかあさん、ロックを解除する音なかったよね。なんで?」
 「……前回ここから出た時、鍵かからなかったからよ。飯を持ってきたわ」
 「う、うん……」
 「何かあったの?」母親は、心配そうな声で聞きました。
 少年は頭を強く振ってました。「ううん。いただきます」

 母が階段を上り、鍵のかける音したのを確認した少年は、奥の部屋に向かいました。ここは、少年にとって初めて来ました。「倉庫」だそうで、近付いたら危ないと、母親に言われました。しかし、少年は好奇心に敵えませんでした。
 部屋は他の部屋の木製ドアと違って不規則の形の石製ドアでした。ネズミは、隙から部屋に入ったのだろう、と少年は思い付いたのです。

 「ぬうう……」少年はドアを開けようと押しました。彼にとって、重かったようです。ギイギイと、少しずつドアは壁との距離を開けられました。息を整えながら、中に入りました。暗い部屋でした。隙から入れてくる光線は、少しだけ中を照らしてくれたのです。箱ばかりでした。

 「あの灰色の生き物……どこへ?」と少年は囁きました。

 ガチャガチャ、と鍵を開ける音でした。慌てて少年はこの部屋の隣の部屋――玩具の部屋に入りました。
 「なあに、ここにいたの」と母。
 できるだけ、何も無かったように。
 「出かけるわよ。隣村行くから、夜まで帰ってくるわ。腹減ったら、おやつを置いておくから、それを食べなさい」
 「うん、わかった」こっくりと静かに頷きました。母は暫く少年を見てから、出て行きました。

 遠くのバアンの音を聞いて、少年は部屋を出て、再び倉庫に入りました。
 「ねえ、どこ?」と囁きます。返事も何の音もありませんでした。
 「む……、探してやる!」と言った少年は、箱を登ったり降りたり、運んだりしました。自分より高い所から箱を降ろすのは、大変でした。

 箱を移動することで、反対側に届ける道のようなものをできました。少年にも、驚きました。
 「さあ、どこだ!?」少年は耳を澄ませます。

 少年のセリフに応じたのは静寂でした。と、思わせたら、微かな音が聞こえてきます。カッカッカッ……、刃物が木材を叩く音に思えます。遠く、なのに道の果てにある気がします。あまり見えないのですが、少年は反対側に近付いていきました。
 壁に触れた気がします。そして少年は違和感を覚えました。壁は、いつものように硬くて冷たいものではない、と。

 コンコンと拳で叩いてみます。壁の中身は空っぽのようです。壁に力を入れると、ギシギシと僅かに動いているような気がしました。闇の中で少年の目はキラキラと光らせました。
 「よし、開けてみようか!」
 少年は全ての力を使い果たそうとしました。その壁を押すために。
 壁と壁はズレました。一筋の光は部屋に入れました。

 ……外の世界。
 心の中に湧いたその言葉は少年は決意しました。絶対にここから出よう、と。分厚い木製の壁を、精一杯押しました。

 ガクンと、壁――いいえ、ドアは動きました。
 乗り出す木の板の後ろから、溢れる光は眩しかったのです。慣れるには、少し時間をかかりました。

 少年の前に広がるのは、ライトグリーンの丘――ここは、外の世界です。生活してきた独房とは正反対で、涼しい風、暖かい陽射し、多彩な世界。未だに知らぬ世界。
 「……広い、キラキラしてる!」少年の口は大きく開け、目はダイヤのように輝いていました。
 少年は佇んでいました。今の彼の中に、薄暗く小さい部屋から出る欲望よりも、純粋の好奇心が占めています。

 少年は歩き出したのです。丘を登り、林檎の樹に届きます。振り向かえば、地平線を見えます。世界はずっとずっと広い、と少年は思いました。


 街に一人で歩き回ります。夜まで帰ればバレません。
 少年はふと気が付きました。ざわめく市場の人々は、誰からも好奇、そして恐怖の視線を浴びました。気分悪くなったので、やがて人気のない住宅区に辿り着きました。
 市場とは正反対で、静まる場所です。人が住んでいるかと疑うくらいの、ボロボロの家も少なくなかったのです。

 耳を澄ませますと、小鳥が鳴いてると聞こえます。好奇心に従い、少年はその僅かな歌い声を手掛かりとし、追っていきました。町の周囲に立ち木が聳え立つ姿を見れます。そこから鳥の声を聞こえるのでしょう。
 立ち木に一番近い家の前に、少年は足を止まりました。

 「あ……」
 地面を叩く重い音を聞こえました。少年は、窓から中を覗こうとしました。すると、笑い声がしました。普通の笑い声ではなく、野獣の笑い声でした。空間を轟く、震わせます。
 透明な窓がそれを写ります。中に一人の男は、笑っています。……血を塗れながら。少し休むと、赤色の瞳はギロリと見回しました。見られるのを恐れ、少年は隠れようと思いましたが、足が動いてくれませんでした。

 男は狂っていました。笑いながら、無抵抗な身体を刺します。手をひたります。服を染めます。窓を汚します。少年は、目を逸らすことはできなくなりました。赤目は、赤から離れなくなりました。夢中になりました。気が付いたら、口元は微笑んでいます。

 「なんだ、ガキィ?」
 窓を通って、男は少年を見下ろします。雷のような声で言います。
 「……ん?お前さんも赤目なのか?……それは、仲間ってことか、アハハハハ!」男の笑い声は、周りの空気を振動させるようなものでした。少年は目を逸らさずにいました。
 「俺様を見て怖がらないヤツは、お前さんくらいだ!流石殺人鬼の血を流れる罪人だ!アハハハハハ!」

 「殺人鬼の血……?」と少年は聞きます。

 「んあ?お前さん……、ひょっとして、人を殺したことないのか?あん?」

 「人を、コロス……?」

 「ああ!つい先の俺様のように!見たか!」

 「違う……僕は……、こんなもの見たことない……人なんて……かあさんしか……殺人鬼なんて……知らないもん……知らない……」
 少年の前には、赤、赤、世界は、歪んでいきます。顔を手で覆い、少年は走り出しました。

 「ああん?見られたから仲間とは言え見逃すと思うか?」男の巨体は、少年を迫ってきます。……赤い刃物を握って。

 「あ、ああ……、あああああ……」
 少年は絶叫しました。振り下ろされる銀色の光線に引き裂かれ………



 太陽は地平線に二つに分けられ、丘を焼けます。町は灰色の世界に沈んでいきます。
 重くなった自らの身体を足で運び、少年は再び独房に戻ります。……赤い刃物を持ちながら。

 ガチャと鍵を外します。女性は家に戻ってきました。まだ先を知らずまま。奥のドアにかける鍵を外しました。ギア、とドアの悲鳴と共に、現すのは少年の姿でした。
 「あ、あなた……何故……これは……!」彼女は少年の手が握っているものを見ました。少年は、開かれた扉の向こうに向かって歩き始めました。「と、止めなさい!」女性は甲高い声で叫び出しました。
 少年は止まりました。振り返る赤目は、女を睨み付けます。ピクッと彼女に近付けようと思わせる時、女はもう一度声を上げます。「ち、近付くなッ!」そう言う彼女の手の中に現れ、黒光る拳銃の銃口は、少年に向いています。女性は両手で持つ、震えながら少年に聞きます。
 「何を、したんだ!」

 「………」少年は答えませんでした。

 女性の声も震えました。「出たわね……、ここから……!外に行って、人を殺したわね……!」震える唇を噛みます。「やっぱりあいつの子だわ……赤目を、……お前をあの時殺しておけばよかったわ!」「あああああああッ!」女性の言葉を遮るように、少年は叫びました。
 ダァン、と轟音が、静かな夜を破壊しました。


 月光の下に、少年は歩きます。頬に水滴が流れて、光ります。空を仰ぎ、少年は笑い出しました。もう、狂いました。真実は、そういうものだ。僕は、生まれながら罪人で、許されない存在だ。

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