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マルハゲドン

作者:紅月赤哉
 分かったよ。お前の依頼は受けてやる。そんな涙目になるなよ。美人が台無しだぜ?
 その代わり、あの時の話を聞いてくれ。それが条件だ。お前たちにとっちゃ過去ってところだけどよ、たまにしか起きない俺にはまだ一年くらいしか経ってないように思えるんだよ。あと、老人は昔話をしたいんだよ。過去の栄光ってところかね。
 何? まだ六十歳なら若いって? もう老人だよ老人! 自分で動けないし、口だけが達者で、昔話が好きなんだからよ。


 もう三十年前になるか。
 地球に巨大な隕石が衝突する時まで残り二日と言われていた。
 遂に人類の歴史が終わる時が来たと神父が外で唾を飛ばしてるのを聞きながら、俺は三日ぶりの睡眠から目を覚まして、シャワーで綺麗にした体にスーツだけ着て部屋を出たんだ。ネクタイをしないのは別にクールビスでもなんでもない。アケミから「遂に人類の未来を切り開く兵器の調整が完了した」って連絡があって、研究所へと向かうだけだからネクタイなんて不要だったんだ。
 人類が終わるかどうかの瀬戸際に身だしなみを気にしている余裕はない。と言いつつも、彼女の前に立つ時は綺麗な格好でありたいと思ってな。スーツはクリーニングから返ってきてから着ていないもので白いワイシャツもアイロンはかけて、顔も髭は剃っておいたのさ。どんな時でも好きな女の前では気取りたくなるもんだろ? お前も惚れた男の前じゃ……何? そんな余裕がない時は化粧してないって? そんなんじゃいい男を捕まえられないぜ?


 話を戻すか。もうすぐ隕石がぶつかるって時にはさ、公共交通機関はとっくに麻痺しててな。人は地下のシェルターに一縷の望みをかけて避難していたから、道路を走るのは俺の車だけだったよ。浮浪者が無人のコンビニから盗んだ商品を食べている姿を見たが、取り締まる警察もいないし、俺が止めろという義理もない。
 目的地の研究所まで走らせると、そこには何台か車が止まっていた。アケミの研究をサポートすることしかできなかった情けない男たちのものさ。小さな人類救済プロジェクトチーム。女一人、男四人の小さなチームさ。ま、流石に最初からそんな人数じゃなくて残り二カ月くらいからだが。もうそこまでくると人数よりも質だったからよ。足手まといはいらなかったんだ。
 俺は入口の傍に車を止めて全力で研究室まで走った。これでも学生の頃は短距離走の選手でね。今じゃ見る影もないが、なかなかの筋肉美をしてたと思うぞ。
 でもな。あの兵器と比べたら見劣りしたな。


「あら、マサル。早いわね」なんて、アケミは部屋に入った俺に言ったよ。同じように家に帰ってたやつらがとっくにいて、俺が最後だってのによく言ったよ。強化ガラスごしだったからスピーカーから声が聞こえてくるわけだが、どうしてかアケミの声はマイクで拡張された感じじゃなくて、生声みたいだった。惚れてる相手の声だったからかもな。
 強化ガラスで区切られた先にいるアケミと、並ぶ兵器の姿を見て俺は口を開けたまま固まった。周りにいる他の男たちに視線を向けると苦笑いしていて「気持ちは分かる」と無言で伝えてきた。
 ガラスの先に並ぶのは、筋骨隆々でハゲ頭の男たちだったんだ。全く同じ顔で、体つきも全く同じ。彼女のことだから間違いなく体重も一緒に違いなかった。そして笑顔は気持ち悪いくらいにんまりしてた。口裂け男? だったか。日本の古くからの妖怪? みたいな。


 飛来する隕石を破壊するための対隕石ミサイル開発プロジェクト。最高責任者であるアケミ・ハミルトン・南とその下に集まった男たちだ。
 不眠不休で製造を続けた結果、俺たちは見た目をアケミに一任した。俺たちは成層圏を抜けるパワーと隕石を粉々にする威力を出すことに必死で、そこまで気が回らなかったからな。
 最終的な威力調整は彼女の腕次第だったから、男たちは全員一日だけ休息を取るようにと家に帰っていたんだよ。
 たった一人、アケミは最終調整と称して外見を完成させたんだ。


 俺はアケミに「それは一体誰だ」聞いたよ。そしたらアケミはさらっと「趣味だ」って……さらっと言ったんだ。どっかで見たことあるなと思ったんだが、他の同僚に海外の俳優だろうと言われて納得した。一人で銃乱射して軍隊を倒しちまいそうな俳優に似てたんだ。アケミも父親がアメリカ人のハーフだから、趣味がアメリカ系だったのかもなって納得した。
 アケミは俺たちにそれ以上疑問を挟む余裕を持たせずに、スイッチを押していた。研究所の天井がけたたましい警報と一緒に開いてよ、居並ぶ笑顔の筋骨隆々なミサイル三百体が時間差で発射されて飛んでいく様子は壮観だった。
 アケミのいる場所は更に強化ガラスで防護されていたから、ミサイルが飛んでいく様を一番近くで見てたんだよ。一緒に隕石に着弾するところを確認するための衛星も打ち上げられて、少しして映像が飛び込んできた。
 今でも覚えてる。人の形をしたミサイルが、隕石に当たってひしゃげて壊れる姿をはっきりとな。
 あれは、普通の人間が死ぬのと同じくらいグロいんだ。正直、趣味だって理由だけで似せた人間の形したミサイルが潰れる様を見てアケミはどう思ってるんだと視線を向けたら、何も言えなくなった。
 アケミは笑ってたんだよ。めちゃくちゃ口を開いて。
 ゲラゲラって狂ったように、隕石にぶつかってひしゃげていくミサイルと、破壊されていく隕石を見てさ。


 次々と人型ミサイルが潰れていって、隕石は順調に小さくなっていった。残った二発が撃ち込まれて爆発すれば、隕石の欠片全部が大気圏で燃え尽きる程度の大きさになるはずだった。
 でも最後の一発が不発で、頭から隕石の欠片に突き刺さった状態で落ちてくるなんてことが起こったんだ。
 人間の作業に完璧なんてないんだよ。だから余分に弾数を作っておけばよかったんだ。それを削ってまで、アケミはミサイルの外見を筋肉ハゲ頭にすることに予算を使っちまったんだ。
 あとはお前もの知ってのとおりさ。隕石は運悪く俺たちの研究所へと落ちて一帯を消滅させた。俺だけは運よく四肢を切断するくらいで生き延びて、こうして三十年もベッドの上にいるもんだから安いもんさ。


 ほんと、安いもんだよなぁ。


 え? アケミはどうなったかって?
 目を覚ました俺の前で、あのミサイルの頭が胸にめり込んだ状態で死んでたよ。笑顔だったな。ゲラゲラ笑ってた時の顔そのまんまさ。
 その顔がミサイルにそっくりで俺は思い出したんだ。アケミは父親と母親が離婚した後でかなり苦労してたってな。父親のことをだいぶ憎んでると深酒した時に言っていたよ。生まれて数年経った子供には同じ思いはさせたくないってのも言ってたな。
 ミサイルの造形は、アメリカの俳優じゃなくて父親だったのかもしれないな。アメリカの俳優が父親だったかもしれないが……そんなことはどうでもいいわな。
 自分が恨んでいる人間の姿にしたミサイルが、隕石を破壊しつつ粉々になっていくのを見て笑う気持ちってのは、どんなんなのかねぇ。
 俺は正直、吐き気がしたが……あいつは楽しかったんだろうな。


 さて。これで昔話は終わりだ。聞いてくれてありがとよ。
 かくして人類救済のプロジェクトチームは俺以外が死んで、ミサイル製造のためのデータも研究所と共に消滅して、製造の知識がある者もいなくなった。
 だから三十年後、再びやってくることが分かった隕石を破壊するためにこの老いぼれを持ち出そうってわけだ。
 いいぜ、俺も国に生かされてるからな。こういう時のために死にたくても死ねない三十年を生きてきたんだよ。何? お察しします? 察することできるわけないだろ。無理すんなよ。お前が分からなくても当たり前なんだから気にしないさ。変に気を遣われると逆に腹立つぜ。
 こんな手足がない老いぼれでも口は出せる。製造プロセスは今、話した昔話みたいに一から十まで伝えられるさ。これもまぁ、国が俺の頭をいじった成果なんだけどよ。すげーだろ?
 なーに、まだ隕石が落ちるまで三年あるんだ。俺たちの時より楽よ。三十年も経ってるんだから技術は進歩してるだろ? あとは、作り方だけだ。料理のレシピみてーによ、分かればすぐできるだろうよ。


 あ、一つだけ。
 ミサイルのデザインだけは俺に決めさせてくれよ。
 どんなのかって? そりゃ決まってるさ。


 俺が惚れてた女の形だよ。


 いいだろ? 南、雅美博士。

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