「今の貴女に足りないもの、それは [ツンデレ] だ。」
「ツ…ツンデレ?」
年表では西暦1000年の軸のあたり
今で云う平安時代の事。
偉大な歌人を親に持つ、少女の物語である。
「明日の歌合わせ、ど〜しよっかな。」
一人の少女は、倦怠げに空を見上げていた。
丸く大きな目に映るのは、蒼く澄んだ空だった。
硝子細工のように澄んでいて、繊細で、無垢な瞳だった。
ふくよかなお多福・阿亀の女性がモテてるご時世のお陰で、男子や色事とは縁遠くなってしまったらしい。
母親は歌人として有名で、歌作りの才能といったら凄まじく、誰もが認める存在だった。
そして、ぼ〜っと空を眺めていると、突然1人の男が話かけてきた。
「今の貴女に(ry…」
「ツ…ツンデレ?」
少女は突然のことに、戸惑いで一杯である。現代的な価値観では、この男、そんなに顔だちは悪くなく、まぁ(現代日本の)分類としては、美青年ということになるだろう。
そんな青年が、妙なことを言い出した。
「普段はツンツンしている可愛いおんにゃの子が、自分だけにデレデレしてくれたら、純粋な童t(ryは萌え死ぬぞ。漏れもこれだけでご飯参(3)杯はいけるっ。」
「誰か〜、ここに変t…。」
「ちょ…、まっ…。話だけでも」
「はぁ…。」
持ち前の優しさでやんわりと返答する。
「もっと大事な事があると思う。自然に対する感性を磨く とか。」
「確かに、それも大事である…。」
やっとまともな話になったか、と彼女は肩を竦めたが、この時彼女は気付いていなかった。
[確かに]という言葉の後には、逆接がくる(元の話題に戻る)可能性があることを。
「しかし、貴女の自然に対する和歌の感性は、もう充分なもの。歌合わせとは、大衆に人気のあった方が勝ち。それならば、恋に飢えた貴族をはじめとする高位な大衆を優しく包み込むのは、他ならぬ恋の歌なのだ。あとは、持ち前の素晴らしい自然描写と、ツンデレをお題に組み込めば天下をとれる。」
彼女の耳元でぼそっと呟く。
「ツンデレの破壊力さえあれば、明日はぜ〜ったいに勝てるのになぁ〜。イケメンだってくわんたんに落とせるのになぁ〜」
このようなシチュエーションはまさに、インチキ教材の販売とか、マルチとかそういうものに似ていた。彼女の返答までもが…。
「是非とも極意を教えてください、先生。」
ツンデレの極意は教えてもらいはしたものの、彼女は最後まで名乗らなかった…。当時の貴族は呪術的なものにかけられるのを恐れて、安易には名乗らなかったのである。
しかし、それとは対称的に彼は簡単に[中納言定頼]と名乗ってくれたのである 。
歌合わせ当日。
彼女は御簾(私室)に籠っていた。御簾からは、少しでも緊張が和らぐように、扇子をあおいでいる手がちらりと見える。
そこに、1人の男がからかい(冷やかしに近い)に来た。彼女はそんな客に対して、御簾越しから顔を覗かせるのもめんどくさそうだ。
「貴女の母君は、かなり有名な歌人らしいですね…。」
にやけて、こう続けた。
「丹波に送った使者は、帰ってきましたか?(母君 に作ってもらった代わりの歌は届きました?) 」
その言葉が、彼女の表情を変えた。いつのまにか、扇子をあおぐ手も止まっている。
冷笑を浮かべて、彼が踵を返そうとした、その時。
彼女は御簾から身を乗り出し、彼の直衣の袖を引っ張って、こう詠んだ。
「大江山 いくのの道の 遠ければ まだふみもみず 天橋立
(生野を通って大江山へ行くのは遠いから、手紙なんて見てないし、天橋立なんて踏んだことない所なの)」
彼女が見上げると、お互いに、あっ という空気が流れる。
「昨日の変t(ry…。」
「空気嫁!。(小声)」
形勢が徐々に逆転してゆくように見えた。いくらかのお偉いさん方の視線が、この異様な光景を暖かい目で見守ってくれている。
「ええと…、(藤原)中納言定頼殿。返歌は…?」
「なによ。あんたの言っていたツンデレって別にいらないじゃない…。(小声)」
「そりゃぁ、あんたと一緒にいられて、す…少しは楽しかったけど…。」
照れた表情をして、うるうるとした目を泳がせて呟く。顔は明らかに紅潮していた。
「キタ―(゜∀゜)―」
「そ、それに…。」
「待て。もちつけ。これ以上の爆撃には、もはや耐えら…」
今度は丸く大きな目で、定頼を見詰めて言う。瞳からは、ちょっと涙が溢れていた。
「こ…、こんなことになった責任、とって貰うんだから〜」
定頼に返歌など思い付く筈もない。彼は鼻を押さえて一目散に逃げていった。
「もう無理ぽ。萌え死んだ。」
汗はだらだら、鼻血は止まらない。
定頼をはじめとし、世の人は現代まで、名を知らしめたのである。
「小式部内侍。ここにあり。」 |