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無題―no title―
作:ハルコ



無題2―no title―


「あのさ、ウチに来れない?」

「……は?」

 あまりに唐突な質問に、侑子は思わず聞き返した。

 目の前の少年・隆祐と少しずつ会話をするようになって、だいぶその突拍子の無い会話にも慣れてはいたが、この質問はあまりにも唐突だった。

 今、侑子たちは授業の時間を使って、校外のゴミ拾いに出ている。

 エンジ色のジャージで、まだ強い日差しから肌を守り、ぶつぶつと文句を言いながら煙草の吸い殻を取っていた時にそう言われた。

 侑子と一緒に掃除をしていた友人もパチクリと目を丸めている。

「ちょっとウチに来て欲しいんだ」

「……」

 淡々と言う隆祐に、特別な感情がある様には見えない。本当に、ただちょっと、家に来て欲しいのだろう。

「……駄目なら……いいんだ。うん。言ってみただけだから」

 侑子が無言のまま固まって居るのを見て、隆祐は頭を掻きながら離れて行く。

 その背中にはなぜか哀愁が漂っているように見えて、

「……家、ドコなの?」

 気がつけばそう言っていた。
 少女の性分から言って、見捨てることはできなかった。

◇◇◇

「よかった。ダメもとだったんだけど、言ってみて」

 鼻唄でも歌いかねないくらいその声は踊っていて、少年の機嫌の良さが窺える。

 普段無表情な彼からすれば、格段に珍しいことだった。

 ――なにがそんなに嬉しいんだろ。

 隆祐の後を追いながら、侑子は首を捻る。

 電車で二駅。さらに次の駅で降りる侑子は、意外と隆祐の家が近かったのだと知る。

 夕日に染まる川の上を歩いていると、隆祐が振り返った。

「きっと驚くなぁ」

「……?」

 その言葉は自分に言われた様には思えない。ただの独り言の様だ。

「驚くって。誰が?」

 問われた隆祐は目を細め、少し笑ってまた歩き出す。

 ――答えろよ!

 心中で怒ってみても、実は腹が立っている訳でもなく、大人しく隆祐の後を追う。

 もうこういう遣り取りには慣れっ子だった。


 ――ま、行けば解るでしょ。

◇◇◇

 行けば解るとは思っていたが、まさかココまで解りやすい驚き方をされるとは侑子も思っていなかった。

 侑子の目の前に立っている女性は、恐らく隆祐の母親なのだろう。うっすら見える白髪とは対照的に、顔付きは少女らしく、どこか可愛らしい顔をしていた。

 ――隆祐は母親似か。

 母親と、彼女が驚いた拍子に落としたお玉を交互に見ながら、そんな事を考えた。


「ただいま」

 隆祐がお玉を拾い、母親に声をかける。

「……ぁ……らま、まぁまぁ!」

 母親はお玉と隆祐を無視するカタチで、侑子に歩み寄った。玄関に、靴下で。

「隆、隆。この子ね? 前に言ってた子ね? ホントに、ホントに……」

「……?」

 母親は涙ぐんでいる様に見えた。

「母さん」

「あ、……ごめんなさい。隆祐の母、可南子です」

「……あ。佐久間悠子です。はじめまして」

 一拍遅れて返事、頭を下げた。

「侑子ちゃん」

 母・可南子は輝かんばかりの笑みで侑子の手を取り、引っ張る。

「何も無い所ですけど、上がって、ね? ご飯食べて行ってね」

「あ、あの……!」

 有無を言わせぬ行動力に困惑しつつも、侑子は居間へと招かれる。

 横目に見えた隆祐の顔は、ホッとしたような、楽しそうな、優しい顔をしていた。

◇◇◇

「帰りはちゃんと送ってあげるのよ、隆」

「うん」

 テーブルいっぱいに並べられた和食を突つきながら隆祐が頷く。

「いえ、一人で帰れますから……。道も覚えてますし」

 これ以上この母子のペースに乗ってはいけない。そう思って断ると、可南子は目を細めた。

 ――あ、また。

 時折、可南子は侑子を優しい目で眺める。

 食事は美味しいかとか、お茶はどうかとか、そんな世話を焼く時は必ずこの表情になる。

 まるで家族に対する表情だと、侑子は思う。

「女の子一人で夜道は危ないわ。ね、送らせて? 大丈夫! この子は襲ったりしないから」

「へ? ……あ、それは解ってますが」

 隆祐は無関心に食事を続けている。

「本当に、侑子ちゃんに何かあったらオバさん困るし泣いちゃうわ。だから、ね?」

 最後の「ね?」には断り切れない力が込もっていた。

「……じゃあ」

 しぶしぶ頷く。







ココではないドコかへ。(HP)





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