chapter 2
「見たまえ、やはりここにも生物はいないようだ」
と地質学者は手を広げながら言った。
「そのようですね」
生物学者はそう言ってはみたものの、結論を出すのはまだ早いのではないかと思っていた。完全に調べきるまでは、調査結果で生存確率がゼロと出るまではあきらめてはいけない。この星の裏側には私のふるさとにある『空の映る大地』と呼ばれる美しい森にそっくりな緑が広がっているかもしれないじゃないか。
しかし現実はそうではなかった。三百六十度どこを見渡しても生物学者の脳裏に広がった情景を思い起こせるようなすばらしい景色は存在しなかった。彼は早くも自分の考えが馬鹿げていることに気づき、ため息をついた。やるせない気持ちが彼を取り囲み、脱力感が体を支配した。
「今回も無駄だったようだな」
生物学者は返事をしなかった。地質学者は今言った言葉が、憂鬱感を漂わせるただの独り言になってしまったことを後悔した。
「とりあえず地質と空気成分、それから微生物がいるかどうかを調べるから機械をセットしてくれ」
地質学者は事務的にそう言うと、不自然なほど直線的な形をした岩山へと歩いていった。生物学者はというと、機械を作動させながらもまだ絶望感から立ち直っていなかった。
今回も無駄であった。この調査艇で行ける範囲内の、生物の存在しそうな星は隅から隅まで入念に調べた。さらにとても生物が住めそうにない、こんな絶境の地までわざわざ降りたって調査しているというのに、生物どころか生物のいた痕跡さえ見つからない!
生物学者のしなやかな五本の腕はむなしく宙を舞った。彼はつい感情を高ぶらせ、こぶしを振り上げてしまった。私達二人はいったいどれだけの星を調べてきたのだろう。その昔、我が調査団体が政府から正式な名称と重要な任務と莫大な予算をもらっていた頃、生命体との遭遇の可能性は無限にあるように思えた。いつか必ず衝撃的な出会いがあると信じ胸躍らせてきたあの頃に比べ、なんと歳を取ってしまったことだろう。調査のために費やした時間はあまりにも長く、また結果の出ないむなしいものであったのは確かだ。今ではたったの二人きりで何のスポンサーもない、存在の意義自体が危ぶまれている団体になりさがっているのも確かだ。しかしあまり期待もせず、こうしてだらだらと調査を続けることに慣れてしまっていいのだろうか。実際地質学者の方も、もううんざりしているのではないだろうか。
そう思うと実にやるせない気持ちになり、思わず地質学者の方を振り向いた。地質学者は何をするでもなく、薄白い居丈高な岩の塊を触っていた。地質学者の背中を見ていると、そのまわりにある景色が視界に入ってきた。不自然なほど直線的な形をした岩山の広がり、無意味な幾何学模様をした土砂、自然の作ったすばらしい、そしてさびしい荒野。さまざまなものが生物学者の目に飛び込み、それがどんどん孤独感を生んだ。
ただの荒地だ。生物学者は独りごちた。
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