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ドワーフの童話 作者:松宮星

春のドワーフまつり

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月光と妖精

「ドワーフの童話」スピンオフ作品第二弾です。
 ぼくらは、お空に浮かんでいた。

 怖くて、地上には降りられないから。

 最後の一人になるまで戦えとか、もう信じられない。

 おかしくなった人間族に斬られて、五人いたぼくらは二人になってしまった。

 時々、竜王が空に舞い上がる。
 ぼくらはこわくて震えるけれど、とてもとても大きな竜王はぼくらのそばを行き過ぎてゆく。
 小さなぼくらは、竜王の視界にとまらないようだ。

 時々、有翼族がぼくらのそばを飛んでゆく。
 ぼくらはこわくて震えるけれど、有翼族は挨拶だけして遠くへ行ってしまう。
 小さなぼくらを、彼等は相手にしてないようだ。

 妖精界を恋しく思いながら、今日も、ぼくらは下界を眺める。
 足元の世界は、とても恐ろしい。
 一人なら、こわくって見てられない。
 でも、ぼくには友だちがいる。
 友だちは、ぼくと一緒に、狂気の世界を見つめてくれる。

「あ、人間族が全滅した」
「バカだよね。一番、数が多いのに。協力すれば他の種族を倒せただろうに」

「こわいね」
「こわいね」

「海人が、干あがっちゃった」
「かわいそうに。つかる水がないものね」

「翅、痛くない?」
「翅、痛くない」

「小鬼族が消えた」
「小鬼たちが人間からかすめとった食べ物は、エルフ行きか。エルフは賢いね、最後まで生きのびるかも」

「おなかすいたね……」
「おなかすいたね……」

 エルフが歩きまわる。
 人馬をひきつれ、有翼人も仲間にし、人狼族に戦をしかける。

「あ〜あ、人馬、死んじゃった」
「盾になるからだよ。上空から槍を投げてる有翼は無傷だし、弓使いの多いエルフもケガ人が少ないのに」

「バカだよね」
「バカだよね」

「人狼を倒したみたいだね」
「数の勝利だね。バラバラに人狼に挑んでたら、きっと負けてたよ」

 ぼくらに向かって、白い翼を羽ばたかせて、飛んで来る者がいた。
 有翼族の王子だ。
 僕等はこわくて震えあがり、互いの体を抱き合った。
「こんにちは、妖精さん」
 王子が礼儀正しく挨拶をする。
「こんにちは……」
 小さなぼくらは、消えてしまいそうなほど小さな小さな声で挨拶を返した。
「これから、僕らは竜王を倒しに行くのです。ご一緒ねがえませんか?」

 え?

 竜王?

 お山のように大きな竜王と戦う?

 真っ青になったぼくらに、有翼族の王子が笑顔をみせる。

「高みの見物なんて卑怯ですよ。僕らを助けてくださいますよね?」
 王子の右手には、人狼の血に染まった槍があった。
「古えから生きている妖精族には、神秘の力があると伺っています。どうぞ、尊い御力をお貸しください」

 もう。
 どうして、みんな、妖精に夢を見るの。
 ぼくらに、すごい力なんてない。
 弱々しい、小さな小さな生き物なのに。
 きれいなものを見て、歌を歌って、踊るのが好きなだけなのに。
 他の生き物の命を奪うのなんか、好きじゃないのに。

「竜王に魅了をかけ、自決を命じてください」

 あのね、魅了ってね、そうそう綺麗にかからないの。
 相性っていうのがあるの。
 まったくかからず、逆に怒られることだってあるんだから。

「でも、魅了をかけることで、相手の心を乱すことはできますよね? 竜王の動きを鈍らせてくだされば、後は、僕らが戦います」

 うむを言わさぬ王子に連れられて、ぼくらは竜王のもとへ。

 黄金の鱗の巨大な竜は、丸まって眠っていた。
 とてもとても大きな体は、まるで丘か山のようだった。

 とてもとてもこわかったけど、ぼくは一人、竜王に近づいて行った。
 有翼族とエルフが、ぼくの友達を取り囲んでいる。最後の一人になったぼくの友だち。あの子を見捨てることはできないから。

 ぼくは竜王の鼻づらまで飛び、お願いした。
 魅了をかけながら、頼んだのだ。
『死んでください』と。

 竜王は、縦に長い水晶の瞳孔でギョロリとぼくを見て、鼻づらをあげた……

 覚えているのは、そこまでだった。


「おめでとう、君が勝者だ」
 地面に転がっているぼくに、楽しそうな声がかかった。
 ろくに動かない首で見渡すと、大きな竜の遺骸が見えた。その周囲に有翼人やエルフの死体も転がっている。
「みんなは……?」
 小さな小さなぼくの声に、男は答えた。
「死んだよ。生きているのは君一人だ」

 竜王の鼻づらにはじきとばされ、ぼくは、ずっと気を失っていたのだ。

 魅了の魔法はきかなかったのだろうか。
 それとも、半端にかかってしまったのだろうか。

 知りたくても、答えがわからない。
 ぼくの問いに答えてくれる仲間は、もういないから。


 月の光の中、ぼくは一人、妖精界を目指した。

「ねえ、どうして死んだの?」

「ぼくが竜王を怒らせたから?」

「小さなきみが竜王の目にとまるはずはないのに……有翼人たちといっしょだったから巻き込まれたの?」

 死者しかいない世界を、ぼくはたった一人で羽ばたく。
 こわくてこわくて気が狂いそうなのに、誰もぼくといっしょにいてくれない。

「どんな風に、死んだの……?」

「痛かった……?」

 答えが返らない。
 いつもはすぐに答えてくれるのに。

「怒ってるの……?」

「ごめんね、次は、ちゃんと守るから……」

「許して……」

「姿を見せて、お願い……」

 何度も謝った。
 けれども、答えが返らない。

 草木一本ない荒野を、ぼくは一人、飛ぶ。

 ふらふらと飛んでいるうちに、ようやく、ぼくは気がついた。

 友だちがいた。
 地面に。
 ぼくが動けば、ぼくを追い、
 ぼくが立ち止まれば、止まる。
 どこまでもどこまでも、ついて来てくれる。

「きみ……そこにいたのか」

 返事が返らない。
 竜王と戦ったんだ。
 ケガをしたのかも。
 喉を痛めてしまったのかもしれない。
 でも、いい。
 いっしょに居てくれるのなら。

「大妖精様のもとへ、いっしょに帰ろう……」

 嬉しくなって、ぼくは飛んだ。
 ふらふらと飛ぶぼくの後を、長く伸びた黒い姿の友達がふらふらと追いかけて来てくれる。

 月光を浴びながら、ぼくは、遠い遠い妖精界を目指し飛んで行った。











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