原石たちの唄。縦書き表示RDF


読者の津森さんのリクエスト、『少年たちの唄』風味。第一弾。ヘタレ・ロッカーズはもう少し待ってて下さいね。
原石たちの唄。
作:森本エリ



「ちきしょう……なんで……俺たち……こんなに弱ぇんだよ……」

汗や血が涙に混じって痛かった。
身体のアチコチが痛い。
もう体力なんてヘロヘロの全身のどこにも残っちゃ無かった。
それでも、悔しさに奥歯を軋ませる力はあった。
無力な自分が情けなくて、悔しかった。

「……生きてっかぁ?」

足下の方から使い物にならなくなった身体と同じくらい情けない声がした。

「生きてるよ!!ワリィか!」

眼ん玉に敗北が染みて痛くて、半ば自棄になって喚いた。

閉じた瞼の中にあの娘の笑顔。

『次のライブも頑張って下さいね』

路地裏のごみ捨て場でのびている俺と佐田。

俺達は中三の時、『ライラック』という、今は解散してしまったバンドを介して仲良くなって、高校に入学してすぐにバンドを組んだ。
そして十九歳の今まで一緒に演っている。
俺がベースで佐田がギター・ボーカル。ドラムはちょこちょこ変わったけれど、俺達は変わらない。

音楽の趣味が微妙に変化しても、俺達が好きになるモノは同じだった。

パンクといってもいろいろあるし、ロックといってもいろいろある。
俺達はストレートで熱のこもった歌詞や人間が演ってる、て感じの滲み出た音が好きだった。
ちっともキレイじゃないけど、純粋な勢いを持っているような。


音楽を演る人間として――音楽だけじゃないかもしれないが――視野を広く持つタメに、いろんなジャンルを聞いておかなくちゃならない。と別のバンドのギタリスト君が言っていた。
それで、時には違ったモノを融合させてエジソン級の発明して新しいジャンルを開拓しちゃったりする奴もいるらしい。
ヒップホップ+ロックンロールetc…確かに根底は兄弟だろう。(ロカビリーもロックンロールも黒人音楽がなけりゃ存在しなかった。)だけど、俺はヒップホップがそんなに好きじゃないし、佐田だって同じだった。
ヒップホップよりもブルース(ブルーズって呼び名を推奨する人もいる。)の方が断然、グッと来る。

俺達はそういうタイプの奴ってだけなんだ。

だけど、新しいドラムはどこで触発されたか知らないが、俺達に言った。
『ストレートなだけのロックンロールなんてダサくない?』

確かにレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンはむちゃくちゃカッコいい。
リンプ・ビズ・キットのセカンドも悪くなかった。

コーンもスリップノットも、悪くない。
(俺にはそれらにロックの要素が云々言われてもあまりピンとこなかった)

だけど、『俺達自身』はそれと異なる。
佐田は歌いながらスクラッチのようなカッティングはできないし、 俺達の耳に染み付いているのは、ドラマーがダサいと云うストレートなロックンロールやパンクだし、英語風に歯切れのいい歌詞も作れない。

それでも今日、俺達はライブをした。
そして打ち上げで酔っ払ったドラマーが言った。
『このままじゃ、客も増えない。俺はお前らみたいなだせえ奴等と埋もれたかねーんだ。他のバンドに行く』
その瞬間、俺は酔いも手伝い、座敷の卓袱台ごとドラマーを押し飛ばしていた。
俺達は店を追い出され、繁華街の裏側で喧嘩した。
どっから嗅ぎつけたか知らないが、ドラマーの友達が三人、応援に来た。
ダボダボシャツのガタイのいい四人に俺と佐田はこてんぱんにやられた。

「……なぁ、まっちゃん」

佐田はよろよろの四つん這いで、俺の近くにきた。

俺は松田だから“まっちゃん”だ。
佐田のひょろひょろの痩躯には黒いライダースと、27のスリムストレートのブラックジーンズがハマっている。
伸ばしっ放しの黒髪で隠れた眼差しは意外にでかくて、意外に穏やかなのだ。
赤いパーカーのフードが、こ汚い赤頭巾みたいだ。

「……俺達、たまたま運が悪かった。それだけだよな」

きったねえ赤頭巾は少し笑って横たわった。
その情けねえ泣きそうな笑い顔を見たら、また悔しさと惨めさが込み上げてきた。

佐田はボーカルで、うちの看板なのに、右目の上が腫れ上がっている。

俺は歯を食いしばり、腹腸がぐらぐら煮えてくるような苛立ちを抑えようとしていた。

「……俺は俺の好きなモノをやっていく。それしか出来ねえし、したくねえ……」

佐田の声に嗚咽が混じる。

「まっちゃん、このままじゃ、ロックスターにはなれないよ」

佐田はガキの戯言を震える声で真剣に言った。

「ロックスターなんて……クソくらえ。あんなもん大衆の幻想だ」

俺は、わかったような口をききやがって、と自分に苦笑したくなる。
でも口ん中は切れてて笑えない。

「幻想か……」

佐田は呟いて、また小さく笑う。
俺もコイツも黒ずくめだから、星から見りゃ蟻みてぇに見えんのかな。なんて思いながら、夜空を見上げた。それらは白く光っていたが、遠すぎて、小さすぎて、頼りなくみえた。

俺達はまだ小さくて視野が狭いのだろう。

あのドラマーだってそうだ。

だけど、好きなモノを好きで、何が悪い。
『次のライブも頑張って下さい』って言ってくれる人もいる。

こんな俺達だって、輝いてるって思ったっていいじゃないか。

俺は夜空に向かって中指を立てた。














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