八、哀しき最期
深夜。
鵺たる異形、夜行鳥や江戸の多くの者が眠りについた頃。
彼は江戸城裏手から姿を現した。
宵の江戸城・裏戸から、御庭番の黒装束を纏い現れた彼は、山間に身を隠していた男のもとへと駆け寄った。
「……して、今回も何か掴めたのかぇ?」
「ええ。それが、奴等廃寺を見つけてしまいまして」
「…なんと…」
「その上、明日のうちに奇襲を用いると…」
「…そうかぇ。秀次様には伝えておこ。戻れ」
「御意」
証拠は掴んだ――…。ならば、あとは捕らえるだけ。
「はい。ちょっと待てな」
去ろうとしていた片方の男の腕を掴み、その首に陽水は素早く短刀を当てた。
「なっ……!!なんぞぇ!?いきなり…」
そこに陽水が鋭く命じる。
「動くな。動いたら……わかるな?」
すると今度はもう片方の男が、逃げようと背を向け走り出した。
しかし。
「往生際の悪いこと極まりないな」
「ふ、副頭……」
佐木桷に腕を捕まれた御庭番の黒装束の男は、すぐに酷く青ざめた顔をした。
何故なら、佐木桷の目が非情の眼差しになっていたからだ。
御庭番衆なら皆知っている。
頭の陽水にも勝るほどの腕を持つ副頭佐木桷は、時折任務中に酷く非情な目を向ける時がある。
それは、彼が心底腹をたてていると同時に、捕まった者の惨劇を意味すると。
それがまさに、目前で起きているのだ。
「……愚かな」
佐木桷は掴んでいた腕を引き、腹に膝蹴りを食らわす。
「……っ…!!」
佐木桷は懐から長い毒針を抜き出し、無言でそれを放とうとした。
「……烏山、抑えろ」
しかし、それは陽水の鋭い声により止まった。
「………御意」
毒針が男の体に刺さる寸前で己の体を止めた佐木桷は、渋々頭の要請に頷いた。
「……これ、毒じゃなくて睡眠薬を混ぜた針なんですけどね……」
ぽつり、と呟かれた彼の呟きは、暗闇へと消えた。
「で?なんで密告者が君なのかなぁ?前副頭の弟君、篠崎永雅君?」
白柳を捕らえ、御上に差し出したあと、密告者の男を連れ、部屋に戻っていた。
密告者――永雅は、ぶすっとした表情のまま、目前の陽水と佐木桷を睨んでいる。
「しかもあんなに有能な兄者を持っておいて、その兄を殺した白柳に……」
「なにが有能な兄だ」
陽水の言葉を遮り、永雅は告げた。
佐木桷の眉間に、また皺が刻まれる。
「あいつは、俺がどんなに腕を上げようと、必ずしもその先を歩き、俺が欲しいものをやすやすと持っていく。
俺はあいつが大嫌いだった」
堪っていたものを吐き出すように、彼は赤面になって語った。
それを二人は無言で聞いている。
「だからあいつが御庭番に入った時、俺は思ったんだ。あいつが御庭番なら、俺は白柳で百人斬りになってやろうと。
そして白柳に門下入りすると、上は俺の兄をの素性を知り、御庭番に間者として入れた」
永雅が此方を向く。
陽水はその顔が、何故か酷く痩せ細ってみえた。
「でもあいつが白柳から殺されたと聞いたとき、不思議と俺は素直に喜べなかった」
「……………」
「でも、もう戻れない。しくじった者は殺される。それが白柳だ。
でも、他人に殺されるなら、いっそ…」
「……おい!やめろ!!」
彼の懐刀が、宙に持ち上げられる。
陽水と佐木桷はほぼ同時に跳んだ。
しかし―――――…
――鮮血が、飛んだ。
―――兄さん、
―――ごめんな?
―――俺はただ、
―――兄さんに
―――敵う忍びで
―――ありたかった
―――だけなんだ…
―――死にたく
―――なかったな…
最期に、兄さんと遊ん
でいた、あの頃が映っ
た―――…
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