二十、魚釣り大会(序)
「暇だな」
ぽつり、と窓際に胡坐を掻いている陽水が呟いた。
「仕事があんなに溜まってるじゃないですか」
同室で筆と目をせわしく動かしていた佐木桷が、目も向けずに言い放つ。
「いや、実に暇だ」
「だったら仕事……」
「よし!! 御庭番対抗戦、魚釣り大会しよう!!!」
「はぁっ!?」
この陽水の一言が、すべての幕開けだった。
「さぁ〜、始まりました!! 御庭番全員参加の魚釣り大会!!
司会はわたしこと謙助が勤めさせていただきます。
ここ、江戸川上流では、御庭番衆が事の開始を今か今かと待ちわびている模様です」
やけに奮起立った謙助が実況解説を入れる。
ちなみに、周囲の御庭番はくたびれた顔で、事が終わるのを今か今かと待ちわびている。決して、この魚釣り大会とやらを心待ちにしているわけではない。
「言っておくが、この大会の優勝者には、御庭番の仕事を丸々五日の有給休暇を贈ってやる」
地べたに座布団を敷いて一連の会話を聞いていた陽水が、実に愉快そうに言うと、
「よーっし、みんな。今日は俺たち仲間じゃなくて敵同士だ!!」
「優勝(有給休暇)目指して頑張ろう!!」
「おう!!」
突然、力みだす一同。
これには、ずっと黙っていた佐木桷もさすがに口を開いた。
「ちょっと、俺たちの仕事にそんな余裕ありませんよ! あなたがまったく仕事しないから!!」
「佐木桷、よく聞け。いっつも働いている部下に、たまには休みを与えるのも、上司としての一種の労働だ」
「じゃ〜、先に俺を休ませろ!! あんたさえ仕事すれば、おれもたまにどころか毎日楽できるくらいあるんだよ!!」
「さぁ、始めようじゃないか、魚釣り大会。謙助、実況を」
「おうっ」
佐木桷の言葉をさらりと交わした陽水は、余計愉快そうに謙助に言葉を投げかける。
「じゃー、皆さん。お手元の釣竿を持ってください!!」
辺りを、重い沈黙が包む。
明らかに沸した敵視が感じ取れる。
「よーい、始めっ!!」
「うおぉぉぉー!!!」
江戸の小川に、男たちの咆哮が轟いた。
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