外道勇者と魔王な私
初投稿です
不自然な所や誤字脱字などがありましたらご報告下さい
平穏って素晴らしい!!
少なくとも五分前まではそう思っていたんだけどなぁ。
遠い目をして現実逃避をして見たけど、状況は変わらない。
どう見ても日本人には見えない容姿とコスプレのような格好をした人たちに平伏されるなんて、五分前には想像もしていなかった。最も、想像できるはずもないけどね。
折角久々の平穏な日々の有難さを噛み締めていたのに、いきなり足元に複雑な模様が描かれた魔方陣のようなものが現れ、驚く暇もなく強い光に包まれた。
気付いたら見知らぬ場所にいて、見知らぬ人達に囲まれていた。
これってもしかして、噂に聞く異世界トリップってやつでしょうか。
召喚された場合って、勇者として魔王とか邪悪なドラゴンを倒すのがテンプレだよね、確か。
えー、面倒臭い。
そんなの自分達でどうにかしろよ。
ていうか、私の平穏を返せ。
いつも厄介ごとに巻き込む悪魔な幼馴染みが本家に行っていて、ようやく心穏やかに過ごせるって思ってたのに。
くそー。
でも、こういう場合って大抵頼まれたことを遂行しない限り、元の世界に返してもらえないんだよね。
はぁー。
「あのー」
取り敢えず黙っていても状況は変わらないから、一番近くに居た男に声をかけてみる。
途端に男は勢いよく顔をあげた。
うわお。
灰色の髪に紅い瞳だ。
ますます異世界じみてきた。
それに、なかなかの美形だ。
「どうか、我々をお救いください」
やっぱり。
不安と期待の混じった表情で懇願する男に、予想が当たったことで内心頷きーー
「魔王様」
続く言葉に凍り付いた。
え?
今なんて?
脳が言葉の意味を理解することを拒否する。
「・・・・・・ま、おう?」
何かの間違いであって欲しいと聞き返したけど、大きく頷かれた。
マジで!?
それって思いっきり悪役じゃん。
倒す側じゃなくて倒される側だよ。
勇者でなくともいろいろあるでしょ、巫女とか神子とか。
なのに寄りによって魔王っ!
そう言えばよく見ると、跪いている人たちの中に頭に角が生えているのもいれば、耳が尖っているのもいる。
魔族ですかそうですか。
思わず後ずされば、それを見た彼らは焦ったように叫んだ。
「我々を見捨てないでください」
「どうかお助けください」
「お願いします、魔王様っ」
「魔王様!」
「魔王様!!」
「あーもう、うるさいっ」
口々「魔王様」と縋るように呼ばれ、あまりにも鬱陶しいので怒鳴ったら、一斉に口を噤んだ。
まぁ、何だか切羽詰まってるみたいだし。
「取り敢えず、」
話だけでも聞こうか。
結論から言えば、どうやら勇者を倒して欲しいらしい。
魔王と勇者の対決はセオリー通りと言えばそうだけど、何やら勇者に問題があるようだ。
聞いた話を簡単にまとめると、この世界では数年百年前こそ魔族と人間との間は争いが絶えなかったが、今は和解しており交流も盛んだ。
しかし、 人間側の魔術研究をしている人達が召喚魔術にのめり込み、必要もないのに勇者を召喚してしまった。呼んだのはいいものの、返す方法がまだ研究中だそうだ。
それで勝手に呼び出され帰れなくなった勇者は怒り、魔族を狩るようになった。
完全な八つ当たりだが、誰も面と向かって言えない。
なぜならこの勇者、歴代勇者の中でも最強な上に、性格も最凶らしい。
魔族の方達が言うには、
「外道」
「鬼畜」
「鬼」
「悪魔」
「冷血」
「冷酷」
「凶悪」
「ドS」
「無慈悲」
「目付きヤバイ」
「恐い」
「その癖に顔は無駄にいい」
「女にキャーキャー言われてる」
「周りは常にハーレム状態」
「羨ましすぎる」
「俺の彼女(人間)、そいつに夢中」
「俺のも」
「あんな奴のどこがいいんだ、性格最悪なのに」
「所詮は顔か、顔なのか」
「憎い」
「全くだ」
・・・・・・後半私情挟みまくってたけど、魔族にこう言われるなんて一体何やらかしたんだ、勇者。
ていうか、幼馴染みを思い起こさせる言葉の数々に、思わず目が遠くなる。
原因である人間側からは謝罪と死ぬ気で返す方法を見つけるとの知らせが来たが、それまでに魔族が狩り尽くされかねない勢いのため、魔王として私が召喚されたそうだ。
なんて迷惑な話。
自分達でどうにかすればいいのに。
そう思って直接言ったら、無理との返事が帰ってきた。
何やら勇者が強すぎて、全く歯が立たないらしい。
それならただの女子高生である私にどうにかできるとは思えないんだけど。
「それは問題ありません。『勇者に対抗出来る存在』という条件のもと貴女が召喚されたのですから、何とかなるはずです」
何とかって何だよ、ずいぶん曖昧だな。
「どうか、魔王様。我々をお救いください」
最後にそう締めくくり、深々と頭を下げられた。
「あー・・・・・・善処します」
出来ないことはやらないけど、生憎幼馴染みと違って、困ってる人を何もせずに見捨てるほど私は鬼畜ではない。
最も、成し遂げられるかどうか分からないので、やれるだけやって見るにすぎない。どうにもならなかった時は、潔く諦めて貰おう。
召喚から一月が経ったある日、魔王城で待機していた私の元に、勇者が到着したという知らせが入った。
所在地不定の勇者をわざわざ探しに行くのが面倒だったため、魔王の噂を流してあちらから来てもらう事にした。
勇者に関する話を聞いた限り、絶対興味を持つという私の目論見は外れなかったわけだ。
勇者が来るのを待つ間、ドラゴンの骨で作られたという魔王のための玉座の滑らかな肌触りを堪能していたら、ドンッ、と謁見の間の重たそうな扉が勢い良くぶっ飛んだ。
うわー、過激だなぁ。
最早使い物にならなくなった扉の残骸に呆れながらも感心した。
どうやら噂の勇者がやって来たらしい。
「よお、待たせたな」
ゆったりと入って来た勇者らしき人物は不敵に笑う。
美形揃いの魔族に「顔がいい」と言われるだけあって、現れたのは絶世の美形だった。
だが、切れ長の目はは私の姿を認めた瞬間、驚きに見開かれた。
「おいおい、俺のために魔王を呼んだっていうからわざわざ見に来てみれば、お前かよ」
漆黒の質の良さそうな髪を掻き揚げ、彼はニヤリと笑う。
「つーか、久しぶりだな---っと」
ドォォオン
その場から飛び退る勇者。
彼が元いた場所の地面は、大きな破壊音と共に大きく抉られていた。
なぜかって?
それはこの世界に来てから魔法を使えるようになった私が腕に強化魔法を掛けて殴りかかったからだよ。
「ふざけんなよ?一体アンタは何処まで私に迷惑をかければ気が済むの!?」
勇者を殺気を込めて睨み、私は怒鳴る。
「何で世界を跨いでまで私を巻き込むわけ?このバカっ。もう本当、死ねばいいのに」
「随分な言い草だな、久しぶりに会った幼馴染に対してひどくね?」
「うっさい」
威嚇する私を、勇者改め最悪な幼馴染がニヤニヤと楽しそうに眺めた。
そう、幼馴染。
何となく予感はしていたけど、まさか本当に勇者が幼馴染だったなんて。
いや、むしろ納得だわ。魔族達が評していた言葉にぴったり合うし。
こいつさえいなければ、私はもっと穏やかで平和な日々を送れたのに。
だが現実は尽きる事のないトラブルに見舞われ、治安がいいと言われている現代日本で命懸けな日常を余儀無く送らされている。
「マジで消えれば---」
そう言いかけ、私ははっとした。
こいつは今勇者で、私は不本意ながら魔王をやらされている。こいつのせいで!
つまり、消してしまっても何の問題もないわけだ。むしろそれが使命?
「ふふっ、ふふふふふ……」
「碌でもないこと考えてんな」
突然笑い出した私を呆れたように見る幼馴染。
流石だね、私の考えはお見通しってわけだ。
だが今までの鬱憤を晴らす機会を逃す私じゃない。折角授かった力もあることだし。
「何か言い遺す言葉はない?」
「……世界征服してみないか?」
この世界で。
面白がるように笑いかける幼馴染への私の返事は、直径二メートル程の火の球だった。
その日、長い歴史を誇る魔王城は、異界からやって来た勇者と魔王によって崩壊させられた。
結局勇者を始末できたかって?
それは魔族の帰還の魔方陣によって帰って来た私が、相変わらずトラブルに巻き込まれているのが答えだ。
ていうか、そんなものがあるならさっさと使って勇者を送り返せばよかったのに。そしたら私は召喚されず、少ないながらも平穏な日々をもっと堪能できただろう。
思い付かなかった魔族の方々に少し制裁を下した私は悪くないはず。
なんか微妙な感じで終わった気が・・・・